【加藤ミリヤ】ひとりの人間としての
感情を
思いきりぶつけたかった
音楽からファッションまで、圧倒的な存在感で若い女性のアイコンとして注目を集める加藤ミリヤ。より研ぎ澄まされ、鋭さを増したミリヤサウンドを感じることのできるアルバム『HEAVEN』を紐解こう。
取材:蒼樹みつる
今回の制作では、どんなアルバムを目指しましたか?
去年のアルバム『Ring』はたくさんの方に聴いていただくことができたので、自分のやりたいことを自由にやらせてもらって、それが結果評価されたことが良かったなって思えたんです。その結果があったからこそ、今回自分の感性を信じることができたんですよ。その自信を基に、自由な表現を手にすることができたので“HEAVEN”というタイトルにしました。自由に表現できる場所があるってこと、そしてそこにいること自体が自分にとっての“HEAVEN”。『Ring』はたくさんの人に聴いてもらおうという明確なビジョンがある中で、より分かりやすい方向を選んだり、どうしたらもっとファンのみんなが歌いやすいかってことを考えながら作ったんですけど、今作は自分の言葉を表現するためにどういうトラックやメロディーが必要なのか、そういう部分を優先して作っていて。
幅広いサウンドが印象的でしたが、どういう部分を軸に作り始めたのですか?
最初はちょっと原点回帰みたいな気分だったので、『HEAVEN』とか『FREE』みたいなヒップホップ/R&B色の強いものから作り始めて。そうしたら、次は4つ打ちを取り込みたいとか、やりたいことがどんどんあふれてきたんです。そこからロックやエレクトロなど、ちょうど良いバランスでいろんなジャンルの要素を取り込むことができましたね。おかげで、それぞれの楽曲がサウンド的にもすごく面白いものになったと思います。
いつになく前のめりなアルバムになりましたよね。
サウンド面でも“攻めてる”って思わせたかった…こういう世の中なので、音楽も売れることばかりを考えて守りに入っちゃうのは自然なことだと思うし、シングルでそういう作りかたをするのも正しいことだと思っているんですけど、アルバム一枚で自分の世界を表現させなきゃいけないって考えた時に、そこばかりに恐れていたら前には行けないなと。“自分がカッコ良いと思える音楽なのか?”“自分のメッセージはあるのか?”とか、そういう部分で自分自身が信じられる作品にすることのほうが、今の私には重要だったんです。
「X.O.X.O.」では久々のサンプリングも聴けますね。
制作の最後のほうで、久々にサンプリングをやってみたいなと思ったんです。以前からソングライターとしても素晴らしい曲だと思っていたSpitzの『ロビンソン』を使わせていただいたんですが、日本人だったら誰もが感じてしまう懐かしさみたいなものが『ロビンソン』にはあるんですよね。私の曲ではUSっぽさやトレンドを取り入れている中で、コード進行だったり、メロディーラインで日本人に刺さるものを組み込むことが重要だと思っていたので、あの曲のギターリフを使ったらきっと良い曲が作れるという確信があったんです。あの曲の持つ夢の国にいるようなイメージも面白いと思ってて、歌詞でも、愛の国に迷い込んでしまった女の子の話を書いてみました。
言葉のチョイスひとつとっても、今までの作品にはない新しい感覚が盛り込まれていますよね。
十代の頃はもっとストレートだったというか、痛かったら“痛い”、嫌いなものは“嫌い”…そうやって、直接的な言葉で表現してきたものが、今回強く感じたのは、自分の書いた詞をもっと深く読んでほしいという想い。自分が苦しくて悲しかったことをただ“苦しい”と言いたくなくて、いかにその怒りや苦しみを違う言葉で表現できるかに気を使いました。より文学的な表現が増えたことと、それが嘘臭くない…自然に自分の中から出てきたってことが、新しい加藤ミリヤなんじゃないかな。例えば『B.F.F.』では、“怒り”や“有り得ないこと”などを含んだいろんな感情を“地球が赤く光る”っていうひと言で表現することができて。そういう表現を効果的に取り入れられることが、ソングライターとして今の私に絶対に必要なテクニックだったんです。
そういう側面がありながらも、どの曲もどこか悲しみや葛藤が垣間見えるあたりにミリヤらしさを感じました。
『終わりなき哀しみ』で書いたように、このアルバムでは“どんなに幸せな時でも私たちは常に悲しみを抱えて生きている”っていうことが言いたくて。だから、歌詞を書く時に幸せな曲でも、どこか切なさみたいなものを意識して入れていった部分はすごくあるんですよね。
本作は新たな加藤ミリヤの扉を開く上ですごく大事な一枚になると思うのですが、これまでとの意識の違いは?
特に十代の頃は、年齢をクローズアップされて、自分でも年齢にこだわって、その歳でしかできないことをすごく意味のあることとして表現してきたんです。でも、今はそういうものよりもまずひとりの女の子として、自分の感じたことをどれだけ言葉にすることができるのか、自分が何歳かってことなんか何も考えずに、ひとりの人間として、自分の感情を思いきりぶつけてみたかったんですよ。今までは“女の子に聴いてもらいたい”って思って書いてたものが、今回は“人に聴いてもらいたい”って想いで曲作りをしましたし。
そういう意味では、今までの“一緒に前に進もう”っていうリスナーとの関係から、徐々にそれぞれが独り立ちしていくような感覚がありました。
加藤ミリヤはいつでも同世代の女性のアイコンでありたいから、“みんなで一緒に頑張って行こうよ”って思ってたんだけど、今は“行く先でどんなところで何が待ち構えてるか分からないけど、私は行く。私に着いて来ても絶対損はしないから”っていうニュアンスに近いのかもしれない。もちろん、一緒に歩いてきたファンへの愛があるからこその言葉なんですけどね。
アーティスト
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