【THE BACK HORN】今のTHE BACK HOR
Nのロック感が
敷き詰められている
L→R 岡峰光舟(Ba)、菅波栄純(Gu)、山田将司(Vo)、松田晋二(Dr)
楽曲の振り幅が広く、斬新なアプローチや新たなテイストが詰まった、ニューアルバム『アサイラム』。“拠り所”という意味の言葉をタイトルに込めた本作は、新しい一面を見せつつも実にTHE BACK HORNらしいアルバムに仕上がっている。
取材:石田博嗣
アルバム『アサイラム』を聴かせていただいて、振り幅の広さに驚いたのと、ヒリヒリとする感覚が残りました。やはり、「戦う君よ」や「閉ざされた世界」というシングルを作っていく中で、アルバムへのベクトルが定まっていったという感じですか?
菅波
「閉ざされた世界」を作ったのはすごく後のほうだったし…アルバムのイメージがはっきりしたのも最後のほうだよね。
松田
うん、具体的に曲順とか決めたのは最近だし。「戦う君よ」を出した時も、後先を考えないで今出せる良い曲を4曲出してしまおうって。久しぶりのシングルってこともあってボリュームを出したかったんですよ。“4曲を出してしまってアルバムがダメになるかな”っていうんじゃなくて、むしろ“またいい曲を作ればいいや”っていう気持ちがあったし、楽曲的にも豊作な時期だったし。今回は時間があって、ひとりひとりのネタの新鮮さもあったから、最終的に収まる箱の大きさはギリギリまで想像しなかった。
でも、これだけ曲がバラエティーに富んでいると、それをどうまとめるかを考えたりしなかったのですか?
松田
統一感は曲順で作れましたね。物語があるっていうか、一本の線でつながった。逆に言えば、曲順を一歩間違えれば、とっ散らかる危険性がありましたね。それぐらい1曲1曲がゴツゴツしているというか、主張が激しいんですよ。あと、音作りの面でもエンジニアが新しい人になったんですけど、1曲ごとの音作りを追求したっていうよりかは、大枠の箱の中での音作りを意識していて、その中で「羽衣」はこういうアプローチがいいとか、「海岸線」はこの位置がいいとか話し合いながらやった結果、それがうまくいったんだと思います。
岡峰
曲順を決めるまでは、漠然と不安はあったよね。“曲はいいんだけど、これまとまるのかな?”って(笑)。でも、まとまったよね。
統一感という部分では、歌詞でも出ていると思うのですが。最後のほうにできたということだったのですが、『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer』の主題歌ということで「閉ざされた世界」は“人類の傲慢さに対する警鐘”というオーダーが水島精二監督あったそうで、そこで言っている内容はカップリング曲にも派生していたし、このアルバムで言ってることにもリンクしていると思いました。“解放”や“生きる”みたいなところが。
菅波
それはTHE BACK HORNの根底にあるテーマとつながっているからだと思いますね。感情の解放っていうのは、THE BACK HORNの音楽自体にあると思うし。でも、確かに歌詞の世界観はつながってるんだよな。
THE BACK HORNの曲は内側にある葛藤や憤り、不安や怒りなどが曲となって吐き出されている印象があったのが、今作では外的刺激というか、ネガティブな状況の中での自分を解放させようとするパワーを感じたんですよ。その外部的なものを乗り越えるようにメッセージしているというか。
松田
なるほど。その外部的なものの感じかた次第っていうところだと思うんですよ。受け取りかた次第というか。
そうなんですよね。だからこそ、“収容所”や“一時的な避難場所”という意味を持つ“アサイラム”というタイトルが、すごくこのアルバムに合っていると思いました。
松田
タイトルに関しては、最終的に出来上がったものを聴いて、無意識のうちに曲から出ているものを信じているので、それを読み取ってどういう言葉で名付けるかっていう作業なんですね。光舟のアイデアだったんですけど、“アサイラム”って名付けられた時に、“あっ、この曲たちはこの場所に来たかったんだな”って思えたし、このアルバムが言いたいことが見つかったという感じでしたね。
岡峰
漠然と不安があったのが、このタイトルに決まって全部がつながった感がありますね(笑)。でも、タイトルに込めた想いもそういうところで、もう一歩先に進むための一時的な拠り所っていうか、それがこのアルバムの曲たちであってもいいし、俺らであってもいい。自分らにとっても、THE BACK HORNってそういうものだから。“アサイラム”ってタイトルについてみんなで考えた時にも、いろんなことに当てはまるなって思ったし、人それぞれがいろんなふうに解釈できる単語でもあるんで、すごくグッときたんですよね。
松田
さっき言われた“外的刺激からの不安”っていうのが一番合っていると思いますね。今まで“俺たちにも不安な気持ちが分かるよ”って部分でつながってこれたと思うけど、それが“その不安は外部的なもので、自分の感じかた次第だよ”っていうものに変わって、そういう気持ちでできた音楽を“アサイラム”と名付けた。“頑張れ”って言うのは簡単だけど、その“頑張れ”に結び付く前のものに、このアルバムがなってくれればいいと思ったんですよ。そこでまたいい関係が生まれるというか。
曲順が絶妙なので、曲に対しても“アサイラム”だと言われて納得しました。1曲目の「雷電」からインパクトが絶大でした。民族音楽のようなパートがあって、歌もお経のようで、のっけから驚かされましたよ。
山田
キャラが濃いですよね(笑)。“?”から始まるアルバムになったというか。
松田
この曲、ライヴでやったことがあるんですよ。千葉で怒髪天と対バンだったんですけど、リハーサルでこの曲をやってたら、怒髪天の4人が楽屋から慌てて出てきて“なんだ、この曲!”って(笑)。
菅波
非常事態という感じがあるよね(笑)。
松田
基本的に栄純が大まかなビジョンを持っていて…メロディーとか展開がちょこっと変わったぐらいなんで、栄純の中でほぼ固まってたんですよ。
岡峰
デモのクオリティーもすごかった。シンプルなんだけど、すごい情報量が詰まっている感じがあって…もうノイズに近かくてギャ~ってなってた(笑)。
菅波
聴き取れなかった(笑)。
松田
最初に聴いた時は、すごく想像力を働かせれば分かる気もするんだけど、変なギターリフに変なメロディーが乗っているって思いましたね(笑)。
このメロディーを歌うことに抵抗はなかったですか?
山田
いや、俺、最初に聴いた時にシビレましたもん。ロックバンドっぽい…インダストリアルなバンドみたいで、“ちよー、カッケぇな”って盛り上がったし。
菅波
歌いかたもすげぇ研究してたしな。お経の音源を聴いてきたって言ってて、そういうヴォーカルはいねぇだろうって(笑)。
山田
実際にお経を歌ったりして…お経ってメロディーがあるんですよ。半音だけ下がったりして。だから、そういう半音を下げる歌いかたをしたり、とことんお経っぽく歌いましたね。
菅波
それだけ突き詰めてやってましたね。そういう意味では、メロディーというものの幅が広がったのかもしれない。まぁ、面白いと思ってやってるだけなんで、結果的なものですけど。
山田
このアルバムって歌のリズムが面白い。速いリズムだと歌い回しの言葉のリズムとの引っかかりとか気にして、歌いこなしにもすごく影響してますね。「太陽の仕業」とかのラップっぽい感じとか。
「海岸線」の軽やかに歌う感じも意外でしたよ。THE BACK HORNがキャッチーな曲をやっている意外性もありましたけど(笑)。
菅沼
逆に、それはどういうことですか!(笑)
山田
力を抜いているだけなんですけどね。
松田
でも、力を抜いてること自体が珍しいかも。いつも力を入れてやってしまうというか、ファイティングポーズを崩さないところがあるから。
今までの楽曲だと軽快な感じでもサビでガツンとくる印象があったんですけど、「海岸線」は浮上感のあるサウンドに乗ってサビも上昇していく感じですよね。
松田
サビでガッツリやってしまうと破綻してしまうっていうか、“これは違うな”って思ったんですよね。あと、思い出したんですけど、ライヴで…例えば、「キズナソング」とか「美しい名前」みたいにメロディーが引っ張って行って会場を包み込むような空気感を持っている曲と、ノリのいい激しい曲との間の曲が欲しいっていう話をしていたんですよ。それが「海岸線」になるとは思ってはなかったんですけど、そこから派生したとは思いますね。
菅波
ああ、そういうイメージはあったな。ノリのいい柔らかい曲っていうか。まぁ、いろんな音楽が好きなんで、出てくる時はこういう曲も出てくるっていう感じですね。そう考えてみると、確かに振り幅があるアルバムになったな。
そして、最後を締めるのが「パレード」。これは曲調や歌詞の内容からして、最後を意識して?
山田
歌詞は最後のほうに書いたんですけど、曲ができた段階から“これ、最後っぽいな”っていう話はみんなとしてましたね。
菅波
クライマックス感が漂っていたんだよね。
光が見える曲ですよね。
山田
ですよね。アルバムの後味につながるというか。
菅波
歌を録ってる時も、そういうイメージはあった? まだ曲順は決まってなかったけどさ、“これが最後だな”みたいな。
山田
曲が向かっている方向で歌詞も書いたし、自分の気持ちをすり合わせて書いたところがあったから、みんなの“これが最後だな”って思う気持ちとリンクしていたと思う。
あと、全体的な印象として最初に“ヒリヒリとした感覚が残った”と言いましたが、繊細な部分よりもダイナミックな部分をすごく感じたんですよね。
松田
そこはバランスだと思うんですよ。アレンジに関してはかなり繊細なところまで詰めていったと思うんですけど…例えば「海岸線」はもっとアンビエントでカラッとした感じにできたと思うし、「羽衣」ももっと打ち込み風にできたと思うんですね。でも、どこかバンドサウンドのヒリヒリとした感じを残しつつ、ワイルドでザックリとしたものにしていったところがあるんです。きっと、そこもアルバムの統一感になっていると思うんですけど。もちろん、それはエンジニアさんの影響力もデカいだろうし、その中で“いや、この音はちょっと”っていうやり取りもあって…初めての人だったからどうしてもそういう部分があったんですけど、逆にそこで自分たちの意見が言えたことも良かったのかなって。その結果、こいういうサウンドになったというか。
では、このアルバムを作り終えた、今の実感はどんなものがありますか?
松田
THE BACK HORNなりのロック感というものがあるとするならば、今のTHE BACK HORNの最大のロック感が敷き詰められていると思いますね。今までは“ロック”とは違う言葉で言ってきたんですけど、このダイナミックさとエネルギッシュさ、解放感っていうのは、今まで言ってこなかったからこそ“THE BACK HORNなりのロックアルバム”と言ってもいいぐらいのアルバムです。
山田
大きなアルバムができたなって。密度も濃いし。5年ぐらい前かな、光舟と一緒に桜島に行ったことがあるんですよ。鹿児島のテレビ番組の取材で桜島に行った時に、“今後のTHE BACK HORNはどんなバンドになりたいですか?”って訊かれて“桜島みたいなバンドです”って言ったことがあったんですね。桜島って遠くから見るときれいなんですけど、実はすごいゴツゴツとしてるんですよ。THE BACK HORNはひとりひとりがゴツゴツしているんで、それがバンドとしてまとまった時の美しさって絶対にあると思ったんです。それと一緒で、最初にマツ(松田晋二の愛称)が言ってたみたいに1曲1曲はゴツゴツした感じがあるんだけど、まさにそういうアルバムができたなって思います。
岡峰
俺も一緒かな。頼もしい一枚ができたって。桜島みたいな(笑)。まだちょっと気が早いんですけど、すごくライヴが楽しみになるアルバムですね。よりライヴがパワフルになる気がする。
菅波
俺、“アサイラム”っていうタイトルがすごく好きで…“聖域”っていうのも語源にあるんですよ。そこだけは他の者に踏み込ませたくない、自分の心の中の大事な部分みたいな意味で、このアルバムを聴いてほしいですね。アサイラムっていう場所は外側から見ると、ある種異物だったりすると思うんです。世の中と切り離された異物な場所っていうか。マツが言ってたロックって、そういうものだと思うし。聴いてくれる人にとって、特別なものであってほしいですね。
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