【カサリンチュ】大切な人が笑ってい
ることの幸せを伝えたい

タツヒロ(ヴォーカル&アコースティックギター&ジャンベ)、コウスケ(ヒューマンビートボックス&ヴォーカル&アコースティックギター)

ココロに温かいメッセージが響くタイトルチューンから、異色のカバー曲まで、自由度の高い“カサリンチュ・スタイル”の音楽性が多角的に表現されたミニアルバム『あなたの笑顔』。“made in 奄美大島”のグッとくる作品集だ。
取材:竹内美保

まずタイトルチューンの「あなたの笑顔」が生まれた背景をうかがいたいのですが。

タツヒロ

カサリンチュは島で生活している中で曲作りをしているので、これまでは島での生活や日常を切り取ったものが曲になっていたんです。でも、この曲はテーマを決めて曲を作ることをやり始めた頃に“笑顔”が浮かんできて、そこから作っていった作品なんです。

この詞の中に“笑えないことばかり”という一節がありますが、昨今、苦笑いばかりというか、笑うことすら忘れて気持ちがすり減っていく感覚が強くて。そう考えると、“笑顔”ってシンプルですけど難しいテーマでもあるような。

タツヒロ

そうですね。だからこそ、“自分の身の周りの人たちが笑っているというのはすごく大事なことなんですよ”ということがこの歌で伝わったらいいなと思っています。忘れてしまいがちなことですし、それは。でも、島ではまだそれが残っていて…ちゃんと笑ってるんですよね、みんなが。

コウスケ

少し前、島が豪雨災害で大変だったんですけれど、ラジオで流れたこの曲を聴いた地元の人が、何かを感じてくれたのか“いいよ!”って言ってくれて。ライヴでもお客さんから返ってくるたくさんの笑顔によって、僕たちもまたもっとヤル気になるというのもありますし。

確かに、奄美のライヴ映像(初回限定盤DVD)を観ても、そこにいるみなさんがホントに楽しそうで、屈託のない笑顔ってこういうものだったなーと思いました。

コウスケ

あの映像はデビュー日のイベントのものなんですけれど、キャンペーンが続いていて、自分たちは正直くったくただったんです。直前まで、全然笑ってなかったし。でも、ああいう良いライヴになって。要は、みんながこういう感じ(←腕組みする)で観とったら、あの雰囲気にはならなかったんですよ。でも、笑って…ま、酒が入ってる人も多かったんですけど(笑)。島の雰囲気がいいからこそ、ですね。

ところで、この曲のアレンジ面では島田昌典さんと初めて組んでますが、おふたりの中で心配りされた点は?

タツヒロ

島田さんとは直接お会いしていないんですよ。僕たちのパートを島で録って、そこからディレクターさんを通じてやりとりしていく中で、アレンジしたものを聴いた時に違和感があれば、それはちゃんと伝えるようにしました。最終的に出来上がったかたちはすごくいいものになったと思います。

コウスケ

ふたりでやるライヴの良さとはまた別で、バンドが入った音源の良さというのもあるので。音源は音源で楽しんでもらえるものになれば一番ですね。

でも、この曲に限らずですけれど、やっぱり歌とアコギの音の良さとヒューマンビートボックスの表現の多彩さ、それが際立って魅力的に感じました。

コウスケ

ビートボックスは、実は音源にするのは難しいんですよね。でも、楽器や打ち込みにはない人間味のあることを目指したいとは思っています。だから、わざと“いるよ!”みたいな大胆なアピールをしてみたり(笑)。

この作品は4曲入りですけれど、前作に続いてインタールード的なものも入っていますよね。

タツヒロ

これは“opening”と言って、カサリンチュのライヴでは5年前から続いている“ふたりの声だけでライヴを始める”という表現を音源にしたものです。“カサリンチュはここから始まったよ”的な意味合いを込めて、必ず音源には入れるようにしているんです。

そして、そこから導かれてくるのが、2曲目の「クスブンブン」。モチーフが“カナブン”でちょっとビックリ。

タツヒロ

クスブ(奄美の方言でカナブンのこと)は、サトウキビの害虫なんですよ。僕はサトウキビ畑で働いていることもあって何千匹と扱うので、その中で何かインスピレーションを受けたんでしょうね。

でも、ここで描かれている思いって、誰にでも共通するところもあるような。生きる環境が違っていても。

タツヒロ

あー、だったらいいですけどね。島での日常を切り取った歌に、都会にいらっしゃる人にも共感できるものがあるというのは素晴らしいことだと思います。

「ようりようり」も島ならではの歌?

コウスケ

これは、小さい頃にじいちゃんのサトウキビ畑を手伝っている時、“ようりようり(ゆっくりゆっくりの意)しなさい”と言われたのが基にあるんです。でも、“ゆっくり”って歌っているくせに、曲にはいろいろガチャガチャ入ってて落ち着きのない歌に…(一同笑)。

ラストの「喝采」のカバーは、ちょっと意外でした。

タツヒロ

好きな歌というのはもちろんなんですけれど、これをカサリンチュ・バージョンでやったらどうなるかなという…単純に面白そうだな、というのもあったので。

では最後に、この作品をきっかけにカサリンチュと出会う人たちへのメッセージをお願いします。

コウスケ

内地でもライヴがあるので、これを聴いて気になったらライヴにも足を運んでもらえればと思います。

タツヒロ

この『あなたの笑顔』から“何か忘れてることあるよね”ということを、改めてちょっとでも感じてもらえたらうれしいですね。

カサリンチュ

カサリンチュ:鹿児島県奄美大島笠利町在住のふたり組ユニット。2010年7月、ミニアルバム『感謝』でメジャーデビュー。“声×ヒューマンビートボックス”という世界的にも希有なスタイルから繰り出される、良質な楽曲を武器に、J-POP界に新風を吹き込んでいる。

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