【中村舞子】一番表現したかったのは
“等身大の自分”
1月にリリースしたアルバム『HEART』では配信シングル全曲がレコチョクトップ10に入るなど、ますます勢いづく注目のシンガー、中村舞子。そんな彼女が次に放つこの夏の新作は、“7月から9月までのひと夏の恋”をテーマにしたコンセプトアルバム。一枚を通して聴くと、恋の始まりから終わりまでを描いた壮大なストーリーが浮かび上がる、映画のように楽しめる作品だ。
取材:田中隆信
今回の『7→9』は初のコンセプトアルバムとのことですが、いつこういう作品を作ろうと思われたのか、きっかけを教えてください。
1月に『HEART』をリリースした後、休暇をとって私のもうひとつの故郷であるフィリピンに帰る旅をしたことがきっかけです。日本は真冬ですけど、やっぱりフィリピンは夏みたいに暑くて(笑)、その時に感じた熱帯の空気とか、明るくてまっすぐな人たちとか…自分の中にも、確かにそういう要素がルーツとして存在していると実感するところがあって。次は夏をテーマにした作品を作ってみたいと思ったんです。
休暇でリフレッシュして、良いアイデアが生まれたんですね。
そうですね。私は3歳までしかフィリピンにいなかったので、実は当時の記憶はほとんどないんですけど。今回の旅で自分のルーツに触れて感じた“自分の中にあるポジティブなもの”を作品に落とし込めないかなと思った時に、“夏にコンセプトアルバムを作ろう!”って思って。このアルバムで一番表現したいと思ったのは、そんな自分のルーツや、21歳の“大人子ども”で背伸びしている部分も含めた“等身大の自分”なんです。
『HEART』ではいろいろな楽曲があって、舞子さんの音楽性の広さを改めて感じましたが、今回はテーマをひとつに絞ってあるので、また違った楽しみ方ができる作品のように感じました。
今回は曲単位だけじゃなくて、アルバムとしてもっと楽しんでもらえるものにしたいって思ったんです。一曲では完結しないこともアルバム全体にストーリー性を持たせて、一枚を通して大きなメッセージが伝わるような作品にしたら、ダウンロード世代と言われている若い世代の人にも“CDを買ってみたい”という気持ちになってくれるんじゃないかなって。
まさに、一枚を通してひとつの大きなストーリーが見えてくる作品になりましたね。収録曲のことも順番に聞かせてください。「Naked Touch」は恋の始まりを感じさせる曲ですが。
自分がもともと映画好きということもあって、このアルバムはひとつの映画を撮るように作りたいと思ったんです。この曲はその中でも大事なオープニングシーン。出会った瞬間に何かが始まる…恋愛してる人には分かってもらえるシチュエーションを、キャッチーに表現してみたつもりです。サウンドは90'sを基本にして現代にアップデートした感じです。私は91年生まれなので、90'sの音楽はほぼリアルタイムで聴いてきていないので、今聴くとすごく新鮮なんですよ! メロディアスなR&Bも一番元気な時代だったと思いますし、その時代の音楽へのリスペクトも込めたつもりです。
歌詞の内容をサウンドがいい感じに盛り上げてますね。
このアルバムで意識したのは、ふたりの恋の状況や主人公の感情を、いろんなジャンルのテイストを盛り込んで、サウンドを変化させて表現するということです。ポップスを軸に、R&B、ヒップホップ、エレクトリック、ハウス…曲ごとにその道の一番得意なクリエイターさんに作曲を依頼しました。
そして、2曲目の「Under Lover」。
“恋人未満”っていう意味です。一番楽しい時期ですよね(笑)。今の時代って、草の味を覚えた男性を横目に見ながら、女性がどんどん肉食になっている気がするんですけど、サビの《あなたの言葉で始めよう》ってあるように、もちろんそんな肉食女子にもほんとは男性からリードされたい、告白されたいと思っているフェミニンな部分がやっぱりあって。そんな現代女子の切なる願いを歌にしてみました。
確かに、今の時代が反映されている感じですね。そして、インタールードを挟んで「身も焦がれるほど」へとつながっていきますが、この曲の歌詞だけ舞子さんではないんですね。
そうなんです。作詞に苦労した時期、アーティストの仲間に相談したら“アーティストは総合力! 全部自分がやったと言いたいがために無理して書かなくてもいいんじゃない?”ってアドバイスをもらったんです。なので、この曲は英語の作詞部分も信頼できる Kathy Tennisさんにお願いすることにしました。“ヤケドするくらい激しい恋”をクールで熱いエレクトロサウンドに乗せて歌っているのですが、“例え悲しい結果になっても、一生懸命に誰かを愛した気持ちは必ず今後の糧になるはずだから、ひるまずに飛び込んでいってほしい”というメッセージを込めました!
そして、配信シングルでアルバムのリード曲でもある「まだ、そばにいたい」。全体のストーリーの中ですごく重要なパーツを占める曲ですが、この曲にはどんな想いが?
全体の恋のストーリーの中では、ここで初めてふたりの関係に翳りが見えてくる重要なシーンになっています。配信シングルにするということもあって、制作をお願いしたSHIKATAさんには、とにかく分かりやすくて伝わりやすい“名曲”を書いてほしいと、自分で電話をしてお願いさせてもらったんですよ(笑)
再びインタールードを挟んで、ラストの「End Roll」へ。
この曲の歌詞は、実はわざと一度聴いただけでは分からないように作ったところがあるんです。でも、アルバム全体でラストのこの場所に収まると、ちゃんとテーマが見えてくる。なかなか歌詞が書けなかった時、レコーディング当日の朝にようやく完成したという、思い入れのある曲です。歌の世界観は、一番今の自分に近い内容になっているかもしれませんね。
前作の『HEART』とは違った魅力のある作品になりましたね。
ありがとうございます。『HEART』が普通にミシンで作ったものだとしたら、今回はオートクチュールを作る感覚で、一針一針“手縫い”で作った感じかも(笑)。夏らしい趣向もたっぷりと感じてもらえると思いますし、ぜひ楽しんで聴いてもらいたいですね。毎年夏が来る度に聴いてもらえるような作品になるとうれしいな。
アーティスト
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