【やなぎなぎ】アーティスト同士の世
界を重ね合わせた楽曲
TVアニメ『凪のあすから』のエンディングテーマ「アクアテラリウム」。数々のヒット作を歌うアーティストの石川智晶が作曲し、やなぎなぎが作詞を手がけた今作品。瑞々しいふたりの感性が共鳴し合い、幻想の世界へと誘う。
取材:桂泉晴名
新曲「アクアテラリウム」はタイトルもユニークですし、歌詞にある“デトリタス”といった言葉も目を引きますね。
『凪のあすから』が海と陸の話だったので、それをひとつに閉じ込めるものとして、ひとつの水槽の中に水中と陸地が混在する“アクアテラリウム”という言葉が一番しっくりくるんじゃないかと思ったんです。水中にいる微生物の遺体を意味する“デトリタス”という言葉は前々から知ってはいたんですけれども、作中でも“ぬくみ雪”というのが出てきて、きっとマリンスノーのことなんだなと思って。こういったアニメをリンクさせる言葉は、詞の中でちょいちょい入れています。
詞の世界は、どのように確立していったのでしょうか?
私は昔から読んだ本の物語の続きを妄想するのが好きだったので、いつも作品に対するスピンオフみたいな気持ちで詞を書いています。「アクアテラリウム」はアニメのエンディングで流れるんですけれど、“第一話ではこういう印象だったけれど、最後まで観たらこういうことだったのかな?”とストーリーを重ねると変化して聴こえるように作っていますので、そういったところも楽しんでいただければと思います。
作曲はアーティストの石川智晶さんが担当されていますが、石川さんにお願いしようとしたきっかけは?
まず『凪のあすから』のシナリオを読んだ時、学園ものでファンタジーだけれど、その背景に退廃的なセンチメンタリズムがあるという印象を受けました。それをうまく曲に乗せられる人は誰だろう?と考え、石川さんだったら一番魅力的なんじゃないかと。アニメの世界もありつつ、石川智晶という世界観もしっかり曲に入っている…そのふたつの魅力をちゃんと楽曲に出せる人は実はすごく少ないんじゃないかと思って、それで石川さんにお願いしました。
最初に詞のワンフレーズだけ渡したそうですね。
はい。いつもは私から大まかに“こういう曲をお願いしたいんです”とイメージをお伝えしたり、先に詞を全部書いたりするので、こういったかたちは初めてでした。今回はサビの4行だけを書いて、石川さんはそこからイメージを広げて曲を作ってくださったんです。だから、私もどういうメロディーが返ってくるか全然分からなくて。さらにメロディーが付くことにより、詞がこの後どう展開していくのか自分自身でも予想ができなかったので、すごく面白かったです。
“ヒ”という言葉のコーラスに衝撃を受けました。
やはりこの曲はコーラスが肝ですね。“ヒ”のコーラスは初めてですけれど、不思議と水の中にいるような響きがあって。同じ“ヒ”という言葉でも少しウィスパー気味にとか、サビ前はちょっと柔らかくとか。質感はその箇所ごとに変えているので、いろいろな“ヒ”があるんですよ(笑)。
石川さんと一緒に制作してどんなことを感じましたか?
石川さんはアーティストなので、石川さんが持っている世界と、私がやりたい世界をどのように合わせていくかを考えるのがすごく楽しかったです。いつも“私がやっているものを全力で出す”と思っていますけれど、今回は“石川さんの世界を出したい!”という気持ちの方が強くて。“こうしたほうが、石川さんの曲の魅力が伝わるんじゃないか?”という歌い方にもなっているので、それは普段と大きく違いますね。
ジャケットも美しい青に彩られていますね。
PVがプロジェクターで私をいろいろなところへ投影するというスタイルなんですけれど、ジャケットは逆に私に向かって絵を当てていて。初回盤のほうは丸で区切られていているのですが、広い世界なのかと思っていたら、実は丸で区切られた小さい世界でみんな生きていたという、ちょっとミニマルな世界を出しています。
2曲目「mnemonic」は「アクアテラリウム」と対になっているそうで。
最初は対にしようとは思っていなかったんですけれど、石川さんから「アクアテラリウム」が戻ってきて、“すごい! こんなふうになるんだ!”と受けた衝撃をそのまま曲にしたくて。「アクアテラリウム」は海の中から見上げている感じだったので、「mnemonic」は砂浜から海を見つめている情景にしてみようと思って書いた曲です。
やさしいメロディーと対象的に、無常な感じの詞が鮮烈で。
タイトルの“mnemonic”というのは“記憶を手助けする”“これを観たらこれを思い出す”みたいな意味があるんですけれども、詞で一番書きたかったのは、“記憶はどんどん曖昧になっていく”というところで。忘れていく悲しさ…でも、諦められずに、“昔はこうだったんじゃないか?”と一生懸命思い出しながら、ちょっとずつ進んでいく。私も“昔、こうだったな”というのが、結構作品に反映されているんですけれど、まったく同じ気持ちになるのは難しくて。自分にも子供時代があったのに、振り返ってみると同じ気持ちになれなかったり。それが悲しく切ない、というのがテーマです。
そして、3曲目「You can count on me」はガラリと違うアップテンポな曲がきましたね。
最後はみんな元気になって終わろう、というのが今回のシングルのコンセプトなんです。この曲はライヴありきというか、ライヴでやったら絶対楽しいだろうという曲ですね。私は人前に立つのが得意ではないので、最初は正直ライヴが怖かったんです。でも、たくさんライヴをやらせていただくようになって、最近は“こうやったら、みんな一緒にこうやってくれるんだ”ということが分かってきたから、1曲みんなで同じ目的や意識を持ってやれる曲が欲しくて、作曲を作・編曲家の流歌さんにお願いしました。
詞も“笑い続けよう”という明るいメッセージですね。
最初は“私がみんなをリードするから、ついてきて。最後はそのバトンを渡すので、みんなが他の誰かをリードしてあげてね”という気持ちで詞を書いたんです。来年またワンマンライヴツアーがあるので、歌うのが楽しみです。
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