【たむらぱん】存在として風景が見え
る作品にしたかった
アコースティックを基調とするシンプルなサウンドに乗せられた、繰り返される自問自答。浮かび上がる心象風景とそこにある物語から感じるのは、人間の危うさとしなやかな強さ。カラフルではないが、ニューアルバム『love and pain』は“色”の明確な作品集だ。
取材:竹内美保
聴き込むごとにいろいろなことを考えさせられるアルバムですね。音がシンプルになって、言葉の立ち方に少し変化を感じますし。
自分の中での“音楽”で言うと、音というよりはどちらかと言えば歌詞のほうが好きで、重要で。歌詞が音になることが好きなんだなっていうことが、なんとなく分かってきて。そうした時に、音っていう部分を削ぎ落としていったような作品を作っていけたらな、という思いがあったんです。だから、自分の中では必要最小限の音だけで作り上げることを意識したアルバムですね。決してサウンド寄りの作品ではないかもしれないけど、歌にちなんだアレンジとしてはすごく面白い仕上がりになっていると思いますし、そこのバランスが一番とれた一枚だと思います。で、だからこそ…今回のアルバムは“人。人間”をテーマに作ったんですけど、その物語、テーマはすごくくっきりしているような感じはあります。
しかし、一番難しいところをテーマに選びましたね、“人。人間”という。
そう(笑)。でも、さっき“考える”とおっしゃっていただいたみたいに、常に考えている人が存在しているようなアルバムで。禅問答じゃないですけど、そんなようなところがありつつも、だんだんそれが面白くなればいいなって思っていたんです。“なんで人ってこんなに考えるんだろうね、もう!”みたいな、そういう面白さが出てくれれば、それはそれですごくいいなと思って。私自身は“考えて何か結論を出さなきゃいけないんじゃないか”というところを意識しているつもりはなくて、考えている状況とか人の性質みたいなもの、人間という存在自体がすごく興味深いから、そういうのをアイテムとして楽しんでもらえるといいなと思ってます。
面白さのひとつとして、聴いて考えているうちに“なんて人間って面倒臭いんだ!”って思うという(笑)。“これ、着地点ないじゃん!”とか。
そうそう。だから、“着地点がないなら繰り返すしかない”…そういう感じでもある。で、掘り下げていって、何かを探すように読んでほしいなって。読みものとしてのひとつの音楽っていう、そういう状態もいいなと思っているので。そして、そういうかたちでみんながこの作品に触れて、それこそ絶対的な共有っていうのはなかなかできないし、それは難しいと思っているけど、そこでつながる可能性も…すごく広い話になりますけど、国とか関係なく、概念として通じるところがあれば大丈夫なんじゃないか、って感じたというのはありました。どこかでなんとなく、“みんな同じだ”というイメージを抱いて作っていましたから。でも、ピッタリを求めるともっと苦しくなるし、その近いところだったりを探すような感じで…そういうかたちで存在しているのがすごくいいのかなと思うし、それが普遍性につながるのかなとも思うし。なので、今回の作品は自分の生き様じゃないですけど、そういうことについて話したくなるような作品です(笑)。もちろん音楽が付いたらこういう内容が成り立っているというのはすごく大きいんですけど、そういうところが見えないくらい考え事ができてしまうようなところは大いにあるかなと思うし、そういうのもいいなと思うし。ひとつの音楽として。
でも、先ほどおっしゃった“歌にちなんだアレンジ”というのもすごく大事な部分ですよね。考え事のもとにある言葉を立たせる意味では、特にリズム、面白かったです。
うんうん、そうですね。音が少なくなってくるとそれぞれの役割はやっぱり大きくなってくるので、各パートに担ってもらう要素っていうのはすごく大きかったですね。リズム隊に関しては、このアルバムの景色で言ったら“地面”なので、その動きは大事だったし。あと、リズムは鼓動をイメージしたりとか、生きていく感じとか、そういうところも大事にして。やっぱり音楽がなかったら言葉も歌詞も表現できなかったわけですから、自分にとっての音楽を再確認した一枚でもありますね。
最後の「やってくる」とか、トラッドっぽくてちょっとプリミティブな匂いも漂いますね。
はい。こういう感じのお祭りって外国にあるじゃないですか。何かに対して願いをかけたりして、みんなで音を合わせているような。それで最後に本当に何かに到達できることを叶えるようなイメージで、バーッと書きました。だから、レコーディングの時からメンバーに“これは神話だから”って話して(笑)、どんどんみんなの声が重なって最後に到達できる場所があるみたいなイメージで音も重ねて、重ね方もすごくこだわって。で…最後のこの曲が神話で、一番最初に入れたタイトル曲の中に出てくる“十階” という表現も私の中ではモーゼの“十戒”のイメージなんです。
…あー!
それで、生きる者の戒めみたいなものとか、自分がちょっと戒めを感じるようなところで、“生きる”ということに対しての痛みと愛を知っていくみたいな始まり方の考察が自分の中でなんとなくあって。だから、今回の作品は具体的に“これをこうしたらこうなりました”というよりも、自分のイメージのほうがただただ強くて説明が難しいんですけど。でも、もうそれしかない感じなんですよ。
でも、どの曲の主人公もずっと悩んで生き続けていきそうですね。聴いた自分もそうですけど。
そう。でも、決して悪いほうには思えないというか、やっぱりいい感じになるために、っていうのを考えていると思うし。それは必然的な…いいことを求めるっていうのは本当に人っぽいのかな、っていう気がするし。そういうのを、このアルバムを聴いて話し合ってもらえればと思います。
アーティスト
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