【泉 沙世子】歌やから吐き出せる、
人に言える、自分の心境
本命、そして真髄。いよいよ泉 沙世子の現時点での代表曲であろうナンバーが、世に向けて送り出される。彼女のブルース、真正面なソウル。不器用さがたまらなく愛おしく感じられる、名曲…それは“カス”という名を持つ。
取材:竹内美保
まず、“カス”という言葉が泉さんや関西圏の人にとって、どういう意味合いを持つのかをうかがいたいのですが。楽曲のタイトルとしてこの言葉を耳にした時、かなりのインパクトがあってびっくりしました。
悪口って言ったら悪口になるのかもしれないですけど、私の中では“救いようがある、愛すべきどうしようもないヤツ”のイメージですね。悪気があると“クズ”になる。どうしようもないけど、それでも頑張っている姿の象徴としてしっくりくる言葉が“カス”なんです。
Dream Vocal Audition』のファイナルという華やかなステージで、勝負曲がこの曲だったというのはある意味事件でした(笑)。一発で惚れましたけれど。
もうちょっとカッコ良いタイトル…“新しい自分”的な(笑)ものもあったんですけど、それはやっぱりニュアンスが違って。でも、“すごいタイトルだね”って言われるまで、自分ではそんなすごいという感覚はなかったんです。ただ、それまで何十回とオーディションを受けた中で、その場の力ラーに寄せていったことが何度もあって…自分の気持ちよりも合格点を目指すための優等生的な在り方というか。それを切り替えて、めっちゃ嫌われてもいいから、0点か150点を目指そうと。もう計算は通じへんし、そんなことしててもしょうもないし、後悔すると思ったんです。それで、この曲を選びました。素っ裸を見せた上で、“これで良いか悪いか判断してください”っていう方法しか私にはとれないなって。
でも、“これ以上でもこれ以下でもない”っていうことを見せるのは、むしろ自分の存在意義がはっきり分かりますよね。
あー。“これ以上でもこれ以下でもない”って、すごくしっくりきました。いろんな時にそれは感じますね。自分が考えているベストとか、自分が描いているものに向かって進んでいる時にとか。でも、手抜きをしているわけではなくて、ほんとにずっとそうしかできないんですよね。
これだけ素直な心情吐露を世に向かって提示するのは、ちょっと勇気がいることかなとも思ったりしますが。
言え”って言われるとすごく怖いですね。でも、歌は私にとって武器みたいなところがあって、歌を通してやったら言えるとか、歌っている時は人の目を真っ直ぐに見られるとか。だから、歌やから吐き出せる、人に言える、自分の心境ですね。頑張ったらできるけど、どうしてもそれを優先できない自分の不真面目さとかがちょっと自分で嫌になる気持ちとか、そこはすごくリアルなんですけど…言いにくいですよね、普通に喋っている時には。
そういうところにその人の価値基準って表れますよね。
一番今思うのは、今すぐじゃなくて…10年後なのか、20年後なのか分からないですけど、その時の自分に今の自分を責められたくないし、やっぱりその時に“あの時にああやっとったからここに来れた”と思いたいし。後ろめたさを残しながらいくのもなんかなぁ、と。私が持っている先のイメージとか夢とか存在は、少しでもシャキッと立とうとする力になっていますね。
それでも表現としては、《やってみても ええかな》で。
やっぱり“やるぞ!”とは言わない人間なんかなって。どこか斜に構えやすいところはあるし、“願い続ければ夢は叶う”とか言われたくないし、人には向き不向きがある!(笑) 環境もある!と思いながら…そのへんをぼやかしていくのが嫌なんですよ。強く自分の中で目指す気持ちも大切やし、でも時には客観的に“可能か不可能か”“向いてるか向いてないか”“自分ってどういう存在なのか”を考える時もすごくあるし。でも、それを踏まえた上で“いけると思ったんやったらいけよ!”と自分に対して思うし。いけると思えるからやったろかな、というそんな気持ち…結果、このテンション(笑)。
最後のフェイクには未来へと向かっていく意思表明もすごく感じられましたが。
最初はなかったんですよ、あのフェイクは。でも、今のこの瞬間では独り言で終わっている歌かもしれないけど、その先の未来に向かってどんどん上がっていきたいし、広げていきたい。なので、そういう意味も込めてウワーッ!と飛び出すイメージをかたちにしたくて、最後に作りました。
本編というか、言葉を歌っているところは、ちょっと泣き笑いみたいにホロッとくる歌唱ですけれど。
この歌のイメージって、声は聴こえていたとしても“私はこれでこうなんです”(ボソボソと呟くような声で)って言ってるのが、たまたま耳に入ってきたという感じなんです。だから、いい意味で誰かとつながりがないというか、ポロポロって落ちたものを“あっ”ってシュッと拾ってもらう感じですね。
なんか、聴き込むごとにそれが心に降り積もっていって、だんだん私にとっての“自分の歌”になっていきました。
あぁ…それは嬉しいです。
そして、カップリング「グレーゾーン」もまた意味深で。
これはテレビで耳にした“グレーゾーン金利”という言葉が頭にあって、その“グレーゾーン”という表現に人間関係や恋愛関係を重ねてずっと考えていたら、すごく人同士の関係って曖昧やし、性別とかも曖昧やし…と思って。そういうところから結果、こういう歌になりました。言いたいこと、ストーリーは明確なんですけど、言葉の印象の面白さを感じていただければと思います
2曲一枚のパッケージとして、泉さんの一番面白いところ、クセ者感が表れた作品ではないか、と。
あ、嬉しいです。これをきっかけにそういう底の部分をどんどん出していけたらいいなと思いますし、「カス」は本当に大切な一曲なので、ぜひ聴いていただきたいですね。
アーティスト
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