【TarO&JirO】初期のTarO&JirOを締め
括るアルバム

L→R JirO、TarO

攻撃な『Brothers Fight』と深みの『OVNI』というタロジロの両面を見せた2枚のミニアルバムを経て、ついに全方位&NEXTを提示する1stフルアルバム『Piranha』が完成!
取材:石田博嗣

アルバムはロック好きなら思わず口角が上がりそうなフレーズが満載ですね。先に出した2枚のミニアルバムでタロジロの陽と陰、アッパーとディープなところを提示していましたが、今作のビジョンというのは?

JirO

2ndと1stのミニアルバムでやったことの両方プラス、さらにちょっと新しいことですね。ドラムが入ったりとか、2ndに入っていた「Too dark to live」に通じるようなアコースティックなしっとりしたバラードも入っていたりとか。

今までもロックやプログレの要素はあったけど、そこに自分たちのルーツにあるオルタナとかグランジが入ってきて、フレーズのインパクトよりも、楽曲を聴かせるというか、楽曲全体でインパクトを与えている印象がありましたよ。

TarO

そうですね。国内外問わず路上ライヴとか、フェスもそうですけど、一気にガッと人の心を掴まなきゃいけないような環境でやっていたので、目に付きやすいスラップとかを必然的にやってたんですね。でも、メジャーという環境になってそのフィールドを離れたら、ゆっくりしてるけどリフが効いてる…「What A Bird’s Ever Seen」みたいな、ゆっくりしたリフもアリかなと。なので、1曲全部聴いてやっと意味があるような曲を作るようになったというか。でも、意識的にそうしようと決めたわけではなくて…環境によって作曲スタイルが変わっていくんで。あと、俺らとしては今の楽曲、最近できた楽曲を入れたかったんですけど、それをやっちゃうと初期に作ったインディーズの頃の楽曲というのがなかなか陽の目を見ないので、そこは意識的に半分半分にしました。

そんな中には、「What A Bird’s Ever Seen」みたいな8分超えの曲があったり。

TarO

俺らは自分らを芸術家と思っているので、宣伝は任せましたという感じで(笑)。宣伝的に考えたら8分なんて絶対に作らない。

JirO

8分だとラジオでも流れない(笑)。

TarO

でも、そこは意識しちゃダメだなと思っていて。自分らは作りたいものを作って、宣伝は会社側にお願いしようと。

JirO

今はインスタントな音楽が流行ってるじゃないですか。パッとサビがきてキャッチーで、よく聴くような言葉がいっぱい詰め込まれていて…そういう今の風潮に対する俺らのアンチテーゼみたいな意味も込めているというか、8分超えの曲を今やるからこそ面白いかなと思ってて。聴けば聴くほど味が出てくる作品にしているつもりだし、もともとこういう音楽が好きだった人にもぜひ聴いてもらいたいなと思います。

すごく説得力のある8分でしたよ。惹き込まれるし、昔からロックを聴いていた者にとってはツボのフレーズだし。

TarO

僕らも好んで聴いている音楽が最近の音楽ではなく、70〜80年代で…やっぱり自分らが引っかかるのがそっちなので、必然的にそういうものを吸収しているから、その頃のロックが好きな人に共感してもらえる作品にもなっていると思います。

だからって、懐古趣味ではなくて、さっき言ったオルタナやグランジの匂いもあるという。

TarO

グランジに関してはニルヴァーナが代表ですけど、ニルヴァーナは最初、俺的にはポップパンクみたいな感じで、正直あまり好きじゃなかったんですよ。でも、海外で活動をするようになって分かってきたというか。やさぐれているし、すごい反骨精神…パンクなスピリットでやっているんだなって。で、好きになったら、その要素を取り入れたくなるんですよね。1stアルバムの『ブリーチ』が特に好きなんですけど、俺らもすごいスピリットの入っているアルバムを作りたいと思っているので、やっぱりグランジには影響を受けていますね。

そういう気持ちがギターの歪みに出てきますよ(笑)。そんな今作のレコーディングですが、いつもみたいに基本は一発録りで?

TarO

メトロノームやクリックに合わせてひとりずつやっちゃうとなんか違う…それで完成度上がると思わないんですよ。やっぱり俺たちはふたりで“せーの”でやったほうがいい。

JirO

インディーズの時に自主制作で作ったCDがあるんですけど、その時って一発で録れるほどの機材がなくて、メトロノームを聴きながらひとりひとり録ってるんですよ。それを久々に聴いたらカッチリしすぎていて、機械的でなんか変だなって。ふたりでやるなら一発でやらないとグルーブが生まれてこないので、そこは基本的ですね。

TarO

だから、勢いがなかったら録り直すという感じで。

今回はドラムが入った曲もありますが、それも3人で?

TarO

だから、ふたりでやるよりも全然やりやすかった。もちろん、録る前には何回かはセッションしてるんですけど。

確かに、明らかにサウンドの攻撃力が増していますよ。ドラムが屋台骨を支えてくれるから、ふたりは安心して攻撃モードになっているというか。

TarO

まさにそういう感じですね(笑)。

JirO

間違いないですね(笑)。動き的にもそうだもん、動けるもんね(笑)。レコーディングの時ってヘッドフォンを付けてやるじゃないですか。あれが取れちゃうんですよね(笑)。

TarO

うちのディレクターがザ・フーが好きなんですけど、ドラマーのキース・ムーンはすぐに暴れるから、レコーディングの時に頭にヘッドフォンをガムテープでぐるぐる巻くんですって。俺らもそれをしようかって(笑)。

JirO

ガムテープが髪に引っかかるから嫌だって(笑)。

それは剥がす時に大変そう(笑)。あと、前作でもそうでしたが、「The Last Train For Tomorrow」はコーラスワークも聴きどころだし、アコギの音色もきれいで、ロックな面とは違った一面も見せていますよね。

TarO

サビの部分が三声のコーラスできれいになったんですけど、アルバムが全体的にロックな感じだし、最初はきれいすぎないかなって思ったんですよ。でも、そこは割り切ってきれいにしようって。

JirO

そういうこともできるってところを見せたかったんですよ。初のフルアルバムだから激しい面だけじゃなくて、俺らのコーラスワークとかの繊細な部分も聴いてもらいたいと。

歌詞にも注目したいのですが、いわゆるJ-ROCKやJ-POPのものじゃなく、いい意味で洋楽の和訳のようだなと。毒っ気があるというか。

TarO

あー、そうですね。でも、意志的にそういう歌詞を書こうと思ってやってるわけじゃなくて、なぜか牙を剥いているようなものになるんですよね。奈良の田舎に住んでいた頃はさわやかな楽しい歌詞ばかり書いていたのに、いつしか何かに反抗しているような歌詞ばかり書くようになってたんですよ。ふたりでも何でだろうって話してたりするんですけど、きっと住む環境が変わったからかなって。奈良みたいに自然に囲まれてて、誰でも気安く話しかけてくるようなとこから東京に出てきて…作風が変わり出したのも、東京に出てきたあたりからなんですよ。どこか擦れているような都会の環境にギャップを感じて、溜まっていくストレスを吐き出すのが音楽になったのかなって。で、ロンドンに留学してさらに…当時は若さもあったから、エグいぐらいに尖ってたんですけど(笑)、それは俺らが居る環境がそうさせているんだと思います。

JirO

あと、ポップスとかを歌っている日本のミュージシャンって多くの人に共感してもらいたいから分かりやすい…それこそ愛がテーマだったりすると思うんですけど、俺らは自分の視点で日常のことを歌っているだけというか、その曲が持っているフィーリングを大事にしているだけなんですよ。後から“こういうことを歌った曲にしょう”とか“こういう思いを込めよう”っていうことはしたくなくて、曲が持っているフィーリングや自然と出てくる言葉を大事にしたいんで、そういうところが洋楽っぽい歌詞になる所以なのかなって。

そういうところもそうだし、歌詞が醸し出す世界観が洋楽的なんですよね。洋楽を聴いてきたってこともあるんでしょうけど。

TarO

そこが変わってきたのがロンドンに留学にしてからなんですよ。ロンドンに行って、向こうの空気を吸って、その土地に馴染んできているうちに、ふたりが作る曲の作風がすごい変わってきて…まぁ、特に作曲面なんですけど。向こうって食べ物にしても日本みたいな濃い味付けがされていないくて、音楽性もそういう味付けになったというか。“自分の好きなように塩をかけてください”みたいな感じで、素材を活かしたような曲作りになってきて、歌詞も飾らないような歌詞になっていったんで、洋楽を聴いてきたってことプラス、向こうの環境で生活をしたってことが大きいんだと思います。

JirO

あと、媚を売りたくない、ありきたりなことは歌いたくない…そういう気持ちが根底にあるので、それが歌詞にも表れていると思います。

それで《親父の前歯が昨夜とれた》(「落下」)という歌詞が?(笑)

TarO

その歌詞も実話なんですよ(笑)。これはウチの親父に向けたバラードソングで…ほんとにね、親父の前歯が抜けた瞬間を見た俺らはちょっと悲しい気持ちになってしまって。威厳から何まで全てが抜け落ちた感じがして、あれはショックでしたね(笑)。

JirO

その時、ちょうど曲ができていたんですよ。で、その晩ぐらいに親父と話していたら、前歯が抜けて“えっ!”って。前歯のない親父の姿が衝撃的で、10歳ぐらい老けて見えるし、情けない感じだし、見ちゃいけないものを見てしまった感覚に陥ってしまって…。で、次の日にその曲をセッションしていたら、自然とサビで《親父の前歯が昨夜とれた》と歌っていたという(笑)。すげぇタイムリーに歌詞とメロディーが出てきたんだけど、最初はこれを歌うべきか迷って…

TarO

いや、そんなに迷わなかったよ。もうサビはこれだってなって(笑)。で、AメロとBメロでも親父やおふくろについて語ろうと思ったんですけど、そうじゃなくてAメロとBメロは普通に歌っておいて、あえてサビにアレを持ってこようってなったんだよね。

JirO

うんうん。Aメロとかでは英語でさりげなく“明日は何が起こるか分からない”みたいなことを歌っておいて、サビで“えっ!”って思わせるみたいな(笑)。

そうなんですよね。サビは笑えるのですが、歌詞としては哲学的というか、奥深いという。

JirO

真面目にちゃんと歌ってますからね(笑)。

まさにタロジロの全てを詰め込んだ一枚になりましたね。

TarO

初期のTarO&JirOを締め括るにはちょうどいいアルバムですね。今までの王道のタロジロックもありつつ、次も予感させるし。でも、実は出来上がってから、あんまり聴いてないんですよ。いつもなんですけど、出来上がるともう次の作品のことを考えているから、浸る時間がないんだよね。

JirO

俺らとしては、作るまでが楽しみというか。できちゃえば、逆にそこでできなかったことを考えたり、“ここはああすれば良かったかな”とか思ってしまって…それはダメだってことではなくて、“次はこうしよう”ってことばかりに目がいっちゃうんですよ。

TarO

宣伝的には“いいアルバムですよ〜”って言わないといけないんだろうけど(笑)。やっぱりもっともっといいものを作っていきたいんで、“あ〜、ここはこうすれば良かったかも。次はそうしょう!”ってことばかり考えちゃって、聴いてるとノイローゼになりそうになる(笑)。

JirO

ってか、CDになるまでに何十回も聴いて、“ここはこうして〜”みたいなことをやってるんで、CDになったらもう聴かないっていうか。

TarO

でも、多くの人に聴いてほしいですね。いい楽曲がたくさん詰まってるんで。

とはいえ、待望のフルアルバムが完成したわけだし、ライヴも楽しみになりますね。3月には東名阪ツアーも決定しているし。

TarO

そうですね。東名阪ツアーはドラムも入るし、新曲も入ってくるから、今までのタロジロとこれからのタロジロを観せるライヴになると思います。今まで以上にバリエーションも広がるだろうし。それでいてパンクのスピリットが入ったようなステージになると思います。

前回のワンマンでもドラムを入れてましたしね。

TarO

それまでドラムを入れてやったことがなかったから、俺たちもどうなるか分からなかったんですけど、一回やったことで次はどんなふうにしようかって考えられるんで、あれを上回るものが見せれるだろうし、大暴れしようと思ってます。

お客さんもアルバムを聴き込んでくるでしょうしね。

TarO

あー、それは大きいですね。新曲をやると、どうしてもきょとんしてしまうんで。

JirO

みんな、真剣に聴こうとするんでね。でも、ツアーまで3カ月間、聴き込む時間がありますからね。楽しみにしてます!

『Piranha』 2014年12月10日発売
TEICHIKU ENTERTAINMENT

  • 【初回限定盤(DVD付)】
    TECI-1425 3132円

  • 【通常盤】
    TECI-1426 2592円

TarO&JirO

タロー・アンド・ジロー:兄の深江公太朗と弟の深江智二朗からなるロックデュオ。2009年春、兄弟で英国ロンドンに渡り、独創的で血沸き肉踊るギターロックの原型が作られる。切れ味の鋭い演奏、音圧、グルーブ、そしてぴったり息の合った熱いツインヴォーカルで注目を集め、13年12月にミニアルバム『Brothers Fight』でメジャーデビュー。

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