【lynch.】暗黒にして邪悪。確かなる
進化の足跡。
L→R 悠介(Gu)、明徳(Ba)、葉月(Vo)、晁直(Dr)、玲央(Gu)
アグレッシブにもメランコリックにも振り幅を持つ独自の音楽観を提示してきたlynch.が、新たな理想型たるアルバム『D.A.R.K. -In the name of evil-』をリリースした。彼らが突き詰めた自画像は、大いなる新天地を呼び込むはずだ。
取材:土屋京輔
前作『GALLOWS』(2014年4月発売)は結成から10年間のlynch.を集約した、あの時点での最高到達点を示した強力なアルバムだったと思うんです。だからこそ、新作に向けては、いつも以上に考えるところはあったのかなと推測するのですが。
葉月
『GALLOWS』は納得もいってたし、手応えもあったんですけど、意外と僕は反省点がすぐに出てきたんですよ。というのは、『EXODUS-EP』(2013年8月発売)の時から、“dark”というのはテーマに掲げていて、それを徐々に突き詰めていって、あそこで一種の到達点までいけた。でも、もうちょっと“dark”であり…今回だと“evil”という言葉になりますけど、邪悪な部分をもっと突き詰めてもよかったんじゃないかなって。例えば、歌詞の表現であるとか、ギターとかベースで言えば、あえて取り入れたりしてた不協和音のフレーズを、もっと多くすればよかったなとか。だから、より分かりやすく、lynch.って“dark”で邪悪な感じのするバンドだよねって言われるようなアルバムを作ろうと。そのコンセプトがそのままタイトルになりましたね。
バンド内でのミーティングもしたんでしょう?
葉月
多少はあったかもしれないけど、そんなに仰々しいミーティングはなかったですね。
とすると、“dark”であり、“evil”であるというキーワードをみんなが認識したのはいつ頃なのですか?
明徳
確か曲が出てくる頃にはメールでもらった気がするんですよ。その時に“evil”という単語は出てきてましたね。
玲央
テーマとして、“In the name of evil”というところまで出揃っていて、葉月が言ってた『EXODUS-EP』からの流れを踏まえて、そういうことなんだなってすぐに分かったんですよね。『GALLOWS』を自己分析してみると、僕はわりと設計図通りの優等生のイメージがあったんですよ。その意味では、遊びというか、もっと奔放なところがあってもよかったのかなと。それが今回の各曲の個性につながるんですけどね。“dark”と言っても、単に暗く重い音楽というわけじゃなくて、さらに濃くした上で、今までやってきたように、僕らなりにキャッチーさとどう共存させるのかっていうことなんですよね。そういう理想的な完成形を思い描きながら、それがひとつかたちにできたような気がしてるんですよ。
悠介
自然と向かう方向は決まってたのかなというのはありますね。ただ、そこを意識するんじゃなくて、自然とそういう感じが出せるようにというのは思っていたところかもしれない。最初からしっかりしたキーワードがあったので、やりやすかったですね。“evil”であることにしても、“正義”を出すよりは、うちらは“悪”を出すほうが得意なのかなと思いますし、それが必然なのかなと思うんですよ。
晁直
僕の場合、例えばの話、“dark”というテーマをドラムで表現するとなっても難しいじゃないですか。そこで何ができるのか…今まではアレンジに対して、気張って盛り込みすぎというパターンが多かったから、今回は詰め込んだものと、シンプルなセクションを並べて、明暗を出すという方向に行き着いたっていう面はありましたね。
確かにそういう起伏の付け方のドラムは目立ちますし、だからこそ、すごく叩き込んでいる印象もありますよ。
晁直
激しさは今まで通りあるんですけど、シンプルなところは抜いて、抜いて、ですからね。
ええ。『D.A.R.K. -In the name of evil-』の収録曲で言えば、まず「EVOKE」がシングルとしてリリースされましたよね。その時点でアルバム用の曲はかなり出来上がっていたということなのですか?
葉月
うーん、半分ぐらいはあったんじゃないですかね。シングルカットってわけでもないし、次の「ETERNITY」にしても、あまりアルバムへの導入感はないんですよ。それぞれが独立したシングルであってね。
では、完成してみて、lynch.にとってどんなアルバムになったのか、改めて思うところもあるのでしょうね。
葉月
『GALLOWS』で感じた反省点は僕の中で全部埋められました。それに完成した感というのが、僕は今までで一番強いかもしれない。それはこの作品単体ではなくて、それこそ『EXODUS-EP』の時から掲げてきたテーマが、これをもってできました!っていう。表題にまでなったことも含めてね。その達成感みたいなものはすごいんですけど、次はどうしようかなという感覚も久しぶりにすごいですね(笑)。
ここまでやり切ったという思いですよね。
葉月
反省点がなくはないですけど、何か今までとちょっと違う。どうするのが一番lynch.にとって、カッコ良く打ち出せるのか、まだ模索している最中ですけどね。
悠介
わりと最後まで完成形が分からなかった曲もあったんですね。例えば、デモの段階では、「D.A.R.K.」もピアノが入ってなかったんですよ。だから、最終形態というのが分からなかったりしたんですけど、仕上がりを聴いて、これはきたな!という感覚があって。こういう曲でアルバムが始まることで、すごいことになるんだろうなって期待感しか出てこない。“ヤベェもんを作っちゃったな”という自信はありますね。『GALLOWS』を超えるというのは当たり前だったんですけど、また別の場所に行けたんじゃないのかなって。今回はライヴを想定して作っているものなんですね。ただ、ツアーを回ってみてアルバムが完成するというのが今までのパターンでしたけど、それももう完結しちゃってるというか。だから次がもう心配なんですよ(笑)。
それだけ楽しみとも言えるわけですけどね(笑)。
玲央
単純に通して聴いた時に、“このバンド、カッコ良いな”と自分で思える作品が出来上がったのが、一番嬉しかったりもしますし、10年かけてやってきたかたちがこれでよかったなとも思えるアルバムですね。だからこそ、次が楽しみになりますし。制作に取り掛かる前は、『GALLOWS』を超えなきゃってライバル意識はあったんですけど、そういう次元じゃないところでの勝負だった。悠介も言ったように、別のステージに行けた感じはやっぱりあるので。
紛れもなくlynch.のアルバムなんですが、今まで聴いてきたいずれの作品とも違うのは明らかですよね。ただ、意識が変わる上では何かきっかけもあったのですか?
玲央
各々あると思うんですけど、僕は去年経験したホールツアーですね。今までよりも天井が高く、収容人数も多い会場で、スケールが大きなことをするのって楽しいなって漠然と思ったんですよ。実際に自分がその景色を観たことで確信に変わり…スケールの大きいバンドになりたいなって。狭いライヴハウスでもみくちゃになるのもすごく楽しいんですけど、もっともっと遠くに届かせるにはどうすればいいんだろう?って。やっぱりワンマンで、自分たちだけでその空間を支配する時の感覚…だから、もっと大きいところでやりたいなって欲が出てきたのもありますし、そういうところで映えるアルバムを作りたいなぁって。今回のアルバムを聴いて、“スケールが大きくなったね”と言われると、嬉しいかもしれない(笑)。
晁直
ドラムからレコーディングをすることもありますけど、僕はミックスが上がった時、客観的に“こうなったんだ!”っていう感覚が強くて。でも、メンバーみんなが作品に対して喝采しているという現状はすごいし、いいことだと思うんですよ。『GALLOWS』を軸にして、同じことをやっていたら、また同じようなところでリスナーとかともシェアするだけだから。前回の雰囲気も含みつつ、また別次元のプラス要素もある作品ができたのは、単純にすごいなと思いますね。
明徳
玲央さんの言ったスケール感の話にも通じるんですけど、今までのアルバムは怒涛のように攻めるイメージでしたけど、今回はどっしり構えていて、見せつけるイメージがあるというか。いろいろ遊び要素が入っていたりして、余裕感があったり。それが第一印象でしたね。曲自体にも大きなノリが生まれていると思うし、デカい会場が似合う曲も多いし。いろいろと幅を広げられたところはありますね。
瞬発力と奥深さが絶妙なバランスで共存していますよね。例えば、人気を得るために、簡単にいうとポップな曲を書こうとか、何らかの意図が働いて、失敗することってあるじゃないですか。その点で言えば、今回は正統な進み方をしているのではないかと。実験的と言うのが正しいかどうかわかりませんが。
葉月
でも、ポップな曲を書いて広げようとするのは、一回僕らもやってるんですよね。とはいえ、「LIGHTNING」や「BALLAD」が悪いというわけじゃなくて、いいと思うからこそ今でもやってるんですけど、今の自分たちが進むべきはこうじゃないなというところで『EXODUS-EP』『GALLOWS』があって、そこからのこれですから。まぁ、時期というのはあると思いますし、いずれそういう曲を作って勝負に出ようということも必要なのかもしれない。でも、今はやっぱこっちのほうが、僕は外にアピールできると思うんですね。他にないもの…lynch.じゃないとダメなものをまず提示しないと何も始まらないなって。だから、ビジュアル面でも合点がいかないとイヤだったんですよ。みんな当たり前のように黒い衣装を着たり、黒いメイクをしたりしてますけど、それはなぜなのかと問われて答えられるバンドって、そんなにいないと思うんですよ。
“カッコ良いから”という程度かもしれませんね。
葉月
『GALLOWS』までは、僕らもそうだったと思うんですよ。こっちのほうが似合う、カッコ良いと。でも、今回は“dark”であり、“evil”であることを突き詰めた上で、ルックス的にもリンクさせることができた。だから、“何でこの人たちはこんな恰好をしているんだ?”って思った人がいても、音を聴いて、歌詞を見て、“あぁ、なるほど!”って納得してもらえるだろうなと。そこはこだわりたいポイントでしたね。
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