【PIGGY BANKS】PIGGY BANKSにしか出
せないものがようやく見えた

L→R akko(Ba)、yoko(Vo)、keme(Gu)

ロック愛、遊び心、メンバーそれぞれの立ったキャラ…が滲み出ている1st『タイムスリラー』。そんな作品を完成させた3人だが、その意識はすでに“次へ”と向かっていた。
取材:石田博嗣

まずはPIGGY BANKSの結成のいきさつを教えてください。

yoko

2年ちょっと前に遡るんですけど、もともと私も他のふたりもいろんなところで音楽活動をやっていて、私は矢沢洋子&THE PLASMARSというバンドをやっていたんですけど、メンバーがスタジオミュージシャンだったんですね。なので、私の中で純粋なバンドを組みたいっていう感情が出てきて。そんな時にkemeちゃんが…その時は“一緒にバンドをやろう!”っていうんじゃなくて、“なんかあったら、ギター弾くよ”って言ってくれてたんです。で、akkoちゃんがkemeちゃんとやっているバンドのライヴを観に行った時、数ヶ月後にライヴの予定があったんで、それにガールズバンドで出てみたいと思って、akkoちゃんに“ベースを弾いてもらえませんか?”って声をかけたのが始まりですね。

keme

THE PLASMARSと共演したことがあって、すごくカッコ良いんだけど、客観的にはバンドに見えなかったんですね。yokoちゃんとはよく飲みに行ってたし、一緒に何かできればと思って“ギター弾こうか?”って声をかけたところから始まって、このようなかたちになりました(笑)。

yoko

最初は一夜限りのつもりでライヴをしたんですけど、それが自分的にすごく楽しくて。2回目、3回目とやって、その3回目くらいの時に“ちゃんとオリジナルの音源を作りたいね”って話になり、去年はライヴ活動と並行して、その制作をやっていました。

ということは、パーマネントのバンドをやろうと思って組んだバンドではなかったのですね。それだけ最初のライヴに手応えがあったと?

yoko

最初のライヴはバタバタでした(笑)。だから、クオリティーがどうのっていうんじゃなくて、純粋に“楽しい! またやりたい!”っていう感じでしたね。

akko

最初のライヴはバタバタだったね(笑)。初めてだし、私も久しぶりに激しめのライヴだったし。でも、すごく楽しかったです!

その頃のライヴはカバーがメイン?

yoko

私のオリジナルをやったり、カバーをやったり…そもそも“PIGGY BANKS”という名前も付いてなくて、“矢沢洋子&THE PLASMARS ガールズバージョン”みたいな感じでした。

あー! やってましたね。

yoko

それです。一昨年の4月に渋谷のCLUB QUATTRO(『ROXYPARTY vol.2』)でやったんですけど。それから2年が経って、アルバムが出せるようになったと。

それはすぐに音源を出すよりも、まずはバンドを固めようと?

yoko

もちろんすぐにでもパッと出したかったんですけど、ライヴでやった時にどういう感じになるか試すとかを考えると、思い描いたような時期にはとても出せないってなって。でも、ライヴでやってきたからこそ生まれた新しいアレンジであったり、そういうものがしっかりできた状態でレコーディングができたのは良かったですね。PIGGY BANKSを始めた頃って、“PIGGY BANKSって何だろう?”って模索していたんですけど、レコーディングのギリギリにできた曲は“これ、PIGGY BANKSっぽい!”って思えたので、そういうものがアルバムを作ることで見えたって感じでしたね。サウンドプロデューサーにヤマサキテツヤさんが入ってくれたのも大きかったし…私の歌に関してもうまく手引きをしてくれて、いろいろ広げてもらえました。

話しは戻るのですが、PIGGY BANKにドラマーを入れようとは思わなかったのですか?

yoko

もちろん思ってました。女性ドラマーで。なので、結構いろんな人にライヴで叩いてもらったり、スタジオで合わせたりしたんですけど、お互いのスケジュール的な問題もあって、なかなかいい人がいなくて。で、サポートで高橋浩司(PEALOUT〜REVERSLOW〜HARISS/The Everything Breaks/THe COMMONS)さんに叩いてもらうようになったんです。

なるほど。では、いよいよアルバム制作ということで、どんな作品にしたいと思っていました?

akko

あー、特に何か明確なものはなかったですね。

yoko

カッコ良いアルバムを作りたい!って必死でしたね。まだPIGGY BANKSらしさを模索している状態からの制作だったんで。

akko

うんうん。この3人にしかできない、PIGGY BANKSの芯みたいなものを掴みたいってのは思ってましたけど、アルバムのテーマとかは考えてなかったです。

バンドの芯を掴むためにも、サウンドプロデューサーとしてヤマサキテツヤさんに入ってもらった?

yoko

そうですね。最初は初めての作品だし、特にプロデューサーとかは必要ないかなって思ってたんですけど、結果的に入ってもらって良かったですね。

曲作りから入ってもらって?

akko

すでに出来上がっていたオリジナル曲をブラッシュアップしたものもあるし、一緒に作ったものもありますね。

MO'SOME TONEBENDERの百々和宏さんなど、外部の人が書いてくれている曲に関しては?

yoko

百々さんは3人とも知り合いだし、百々さんだったらガールズバンドの曲がはまるんじゃないかっていうakkoちゃんのアイデアもあってお願いしました。古城康行さんはもともと私の曲を作ってくれていたという経緯もあって…っていう感じですね。古城さんとは相性がいいというか、書いてくださる曲が単純に好きなんですよ。歌詞を書く時にもイメージが広がりやすいし。なので、お願いしました。

アルバムのレコーディングだったり、プリプロはどんな感じでしたか? 音を聴くだけでも、楽しかったんだろうなって思えるのですが。

yoko

そうですね(笑)。音を出す前にネタ集めみたいな感じで、最初はスタジオとかで延々とYouTubeを観てました。海外、国内、年代とかも関係なしにいろいろ。そこからkemeちゃんがギターを弾いて、akkoちゃんがベースを入れた曲というのもあったし。で、終盤にできたのが「CORONA」でしたね。

「CORONA」って終盤だったんですか!?  PIGGY BANKSを象徴するような楽曲だから、むしろ一番最初にできたのかなと思っていました。

keme

一番最後でした。レコーディングの前日ぐらいに私がネタを出して(笑)。

yoko

そうそう。“こんな感じにしたい”っていうものはあったんですけど、一番大事な基盤ができていなかったんです。で、前日にkemeちゃんが持ってきて、当日に“こうしよう!”って録ったみたいな(笑)。

では、実際の制作作業はどうでしたか?

keme

楽しかったです。テツヤさんが持っているギターやエフェクターをいっぱい出してくれて、自分が持ってないギターだったり、出したことのない音がたくさんあったんで、それをいろいろ使わせてもらいました。やっぱり自然とプレイも変わるし…フレーズも。だから、一枚のアルバムなんだけど、ひとりのギタリストが弾いているようには感じない。私、ギブソン系とか絶対に弾かなかったんですけど…

yoko

最初は“うわ〜”って言ってたんですけど(笑)、単純に似合ってたし、すごくカッコ良かった。

keme

だから、プレイの幅が広がりましたね。

akko

楽曲制作も最初は手探りだったし、全然進まなかったんで、とりあえず頑張って曲を作ってましたね。ボツになったものもあるんですけど、とにかく進めないと!って感じでした。最初は作った曲に対して、kemeのギターの良さとかを出せなくて、思い切りできていないって感じていたし、3人それぞれの良さが出せる楽曲を増やしていきたいと思ったので、それでプロデューサーさんに入ってもらったんですけど、やっと制作の最後のほうでかたちになったという感じでした。自分たちで試行錯誤した時間があって良かったと思うし、やっぱりプロデューサーさんに入ってもらって良かったと思うし…それぞれの良さが出て、PIGGY BANKSにしか出せないものがようやく見えたってのはありましたね。

yoko

“PIGGY BANKSらしさって何だろう?”って3人で話していた時に言っていたのは、新しいものにもオープンマインドでトライするのは大事だけど、もともと持っているものは活かしつつで。だから、最初の頃にできた曲というのは、kemeちゃんで言うと、それこそあんまり弾いたことのないようなスタイルだったり、ジャンルだったと思うんですけど、後半にできたものは“あ、これ、kemeギターだ!”ってすぐに分かるというか。ベースにしても“このベースはakkoだよね”っていう色が出てきましたね。みんなそれぞれに色があるんだけど、きっと最初の頃は“みんなに合わせないといけないかな?”って思っていた…ほんとは真っ赤なのに、朱色ぐらいに抑えていたんだけど、最後のほうになると“ほんとは赤なんです!”ってパキって出してきたみたいな(笑)。

keme

やっぱり過度に歩み寄ろうとしていたのはありましたね。でも、そうじゃなくていいんだなって思えた。

yoko

我がままでもいいんだなって(笑)。2年ぐらいかかって、ようやくそう思えるようになったので、次の作品は我がまま放題になっていると思います(笑)。

keme

そういうことが、このアルバム制作で分かりましたね。

そんなアルバムの中で印象的な曲を挙げるとしたら、どの曲になりますか?

yoko

全ての曲に想いは詰まってるんですけど、やっぱり「Funky Monkey Ladies」かな。自分にとって新しい発見が多かった曲だったりするので。今までずっと歌ってきた中でできてしまっていた、“こうでなければいけない!”みたいなヴォーカリスト像をぶち壊せたというか。こういうトーン、声色の歌い方はしてこなかったし、全編英語というのもやったことがなかったから、最初は“大丈夫かな? 私に合うかな?”と思っていたんですけど、プリプロの時に…それこそまだ歌詞も付いてない段階で歌った時にすごく新鮮で、“あ、こんな感じでいいのかも!?”って自由になれた感じがあったんで、自分の中では大事な核となる曲ですね。

この曲はラナウェイズやスージー・クアトロを彷彿させるのですが、YouTubeから影響を受けてできた曲だったりするのですか?

yoko

いや、この曲はYouTubeでネタ探しする前からありましたね。akkoちゃんがベースを弾いていたところに、kemeちゃんがギターを乗せて…って感じでできていきましたね。

akko

最初に“yokoちゃんが低いトーンで歌う曲を作ろう!”というテーマがあって作ったんだよね。

yoko

あ、そうだった。今までAメロ、Bメロ、サビってちゃんとないと不安だったというか、なんでそこまでこだわっていたのか自分でも分からないんですけど、曲によってはそうじゃなくてもいいんだなって。喋ってるように歌ってもいいんだって思えた…そういうところが、THE PLASMARSと違うんですよ。PIGGY BANKSはバンドだから、自分があえて力を抜いてもふたりが前にバッーと出てくれる。そういう意味では、自分の中で歌の押し引きみたいなものができるようになったのかなって。

kemeさんの印象的な曲は?

keme

私は「タイムスリラー」かな。ああいうギターは弾いたことがないんですけど、勝手に弾いていたんだよね。

yoko

そう! イントロとかのグワングワン鳴っているギターって、確かに今までのkemeちゃんっぽくないんだけど、“あっ、kemeギターだ!”ってちゃんと分かるし…ブッダじゃないけど、目覚めた!って感じがする(笑)。

keme

こういうフレーズって弾いたことないんだけど、その場で思い付いたものを弾いたらこうなっていた(笑)。どんなバンドの時もそうなんですけど、いつも何も用意しないでレコーディングに臨むんですよ。その場で感じたものを弾くから失敗もよくするんですけど(笑)、この曲はすごくしっくりきましたね。

この曲は、さっきも言われてましたけど、まさに百々さんらしいガールズバンドの曲という感じですよね。

keme

うんうん。すごくいい曲だよね。最後のほうとかザ・フーの香りもするし。

yoko

私的にはT-レックスなんだけどね(笑)。日本のガールズバンドっぽくない曲だし、歌っててもすごく面白い! 後半に向かって徐々に持っていくが感じが歌ってて単純に気持ちいいんですよ。PIGGY BANKSならではのコーラスもしっかりとあって、ヴォーカルとコーラスの塩梅もしっくりときているし。

歌詞の内容も秀逸です!

yoko

宇宙感というか、近未来的な感じにしたかったんですよ。歌詞を書く時って最初にテーマを作ることが多いんですけど…私、もともとドイツ文学科だったんですけど(笑)、ミヒャエル・エンデの作品で時間泥棒のお話があって、それをヒントに“何者か分からないものが地球に攻めてきたら”って考えていきました。ちなみに、その本のタイトルは“モモ”です。

百々さんの曲だし?(笑)

akko

うまい!(笑) この曲は得意なタイプだし、私自身も大好きな曲なんで、弾いていても楽しい。ライヴの3曲目や4曲目に持ってきたりすると、いい感じにスイッチが入る。

akkoさんの印象的な曲は?

akko

yokoちゃんと被るんですけど、私も「Funky Monkey Ladies」ですね。私、歌入りの簡単なデモを録った時にいなかったんですけど、そのデモを聴いた時に“うわっ、きたー!”と思った…それこそさっき言ってた、この3人にしかできない、このバンドの核となるものが見えたんですよ。そういう衝撃がありましたね。

akkoさんはバラードの「Oct.」で歌詞を書かれていますが、それはどうでした?

akko

yokoちゃんがこういうタイプのバラードを歌ったことがないって言っていたから、じゃあ私が歌詞を書くからやってみようよって。yokoちゃんもやってみたいって言ってくれたんで、歌詞を書いたんですど…聴かれてどうでしたか?

keme

お、逆インタビュー!(笑)

新鮮でした。yokoさんが書かない言葉使いだったし。

akko

新鮮ですよね。もちろん、yokoちゃんが歌うっていうのもあって、最初はyokoちゃんをカッコ良く見せるにはどうすればいいのか?って考えていたところがあったんですけど…さっきの話じゃないですけど、ライヴや制作をやったりしていく中で“このバンドでは自分は自分でいていいんだ”って気付けたので、そんなにyokoちゃんのことは意識しなかったですね。たとえ、yokoちゃんが置いてけぼりになっても、それがバンドだし(笑)。

yoko

おーい!(笑) でも、この曲はほんとにakkoちゃんの歌詞で良かったなって。こういう壮大なテーマの歌詞は、どうにもこうにも苦手で…今後の課題でもあるんですけど。歌に関しても今回のレコーディングで一番難しい曲だったんじゃないかな。でも、PIGGY BANKSの最初のバラードということでは、すごくいいものになったと思います。アルバムの最後の曲でもあるので、1曲目からこの曲まで、なんかストーリーがあるような感じに仕上がったのも良かったなって。

そんなアルバムの手応えというのは?

yoko

サンプルをいろんな人に手渡しで配ったり、お世話になっているお店に自分でポスターを持って行って“貼ってください!”ってお願いしたりしていて…それぐらい胸を張れる、お気に入りのアルバムになっています。ジャケも“タイムスリラー”の世界観まんまだし…デザイナーさんってすごいなって思いました(笑)。4月からリリースツアーが始まるんですけど、PIGGY BANKSでは行ったことのない場所がいっぱいあるので、気合いを入れて臨みたいと思ってます。

keme

みんなの可能性が広がったというか、もともと持っていたんだけど、引き出せなかった部分が出せているので、これを活かして新しい曲を作って…なので、早く2枚目を作りたいです。次はもっとまとまりのあるものができそうだし、今度は3人で作れそうだなって。

akko

2年ぐらいライヴをしてきて、やっとお客さんに渡せる音源ができたなってのが、まずあって。で、これでやっとライヴに来たことがない人にも届けられるアイテムができたことが嬉しいなって。初期衝動がすごくいっぱい詰まっているし、いっぱい実験もできたし、いっぱい自分たちの良いところも発見できたんですけど、やっとバンドの軸が見えた段階ですからね。次はさらに一歩進んだ、アルバム全体に芯が通った作品が作れると思うんで、早く次の作品を作りたいですね。

yoko

みんな、生き急いでるな(笑)。

このインタビューをしている段階では、まだ世に出ていないですからね(笑)。

yoko

そうですよ(笑)。まずはこのアルバムで名前と音を頑張って広めていって、いろんなところでライヴもやって、もっともっと大きくなっていきたいですね。

『タイムスリラー』

  • 『タイムスリラー』
    GRRC-70001
    2016.04.06
    2700円

PIGGY BANKS

ピギー・バンクス:2014年にyoko(Vo)、keme(Gu)、akko(Ba/ex.GO!GO!7188)の3人で結成。さまざまなライヴやイベントへ神出鬼没に出演し、15年に本格的にライヴ活動を開始。大型フェスにも出演を果たし、3人のキャリアに裏付けされるライブパフォーマンスの高さが各地で評判を呼んだ。16年4月、初音源となる1stアルバム『タイムスリラー』をリリース。その後秋より新規制作に突入し、17 年6月には2ndアルバム『ドゥ シュビドゥバイン』を発表。

矢沢洋子

ヤザワヨウコ:東京出身。12歳の時に家族とともにL.A.に移住。高校卒業後、日本に帰国し、2008年にユニットでデビュー。10年2月から、本名でのアーティスト活動を開始し、同年8月に1stアルバム『YOKO YAZAWA』を発表。12年10月には“矢沢洋子&THE PLASMARS”名義でミニアルバム『ROUTE 405』を、翌年11月には再びソロ名義で、矢沢永吉プロデュースによる『Bad Cat』をリリースした。

GO!GO!7188

中島優美(g&vo)、浜田亜紀子(b&vo)、ターキー(dr)から成るGO!GO!7188(ごーごーなないちはちはち)。もっとも原始的な3ピースという編成で、サーフ・ロック風のギター・リフとGS〜歌謡曲を通過したようなメロディを装填した、パンク・マシンガンをブッ放す。ストレートでありながらシュール、シュールでありながら懐かしい歌詞も、オール世代のハートを焦がしてやまない。00年6月、シングル「太陽」でデビュー。以降ハイペースに作品を輩出し続けている。威風堂々とした重量感、パンキッシュな威勢のよさ、艶っぽいメロディ、実に今時なあっけらかんとした歌いっぷり——古今東西のロックのシビレ要素が縦横無尽にミックスされているGO!GO!節は、益々もって快調だ。

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