【GOING UNDER GROUND】バンドを始め
た当時の自分に“どうだ!”って言え
るアルバム
L→R 石原 聡(Ba)、松本素生(Vo&Gu)、中澤寛規(Gu)
3人となった新生GOING UNDER GROUNDが完成させたアルバム『Out Of Blue』。そのタイトルが示す、“青春の果て”に彼らが見たものは? 一時は解散も考えたというメンバーにアルバムであり、その背景にあったことを語ってもらった。
取材:石田博嗣
3人で再スタート切った新生GOING UNDER GROUNDのアルバム『Out Of Blue』が完成しましたが、4人での再スタートだったアルバム『稲川くん』の時とは制作に入る際の気持ちは違いました?
松本
あの時はまだ地続きだったから意味合いが違いますね。3人になってバンドを続けようか続けまいかというところで、“辞めよう”という選択肢を出したんですけど、“いや、やっぱりやりたいよね”ってことになって、事務所も離れて、本当の意味でゼロになったところからのスタートだったから、まるで状況が違うんですよ。
解散を決意したところから、“やっぱりやりたいよね”と思わせたものというのは何だったのですか?
松本
奥さんから“まだバンドやるつもりなの? 何でそこまでバンドにこだわっているの?”って言われたことがあって、その言葉を通して“あ、みんなは俺たちに対してそう思ってるんだな”って透けて見えたんですよ。その時に“確かにな”と思ったし、それと同時に“お前の音楽の捉え方と、俺たちの捉え方を一緒にしないでほしい”と思ったんですよね。みんなそういうふうに思ってるんだったら、ただバンドを続けてるだけじゃなくて、やっぱり作品を作らないといけない…そうじゃないと自分たちが前に進まないって思ったんですよ。だから、そういう作品を作るために日々生きていたって感じですね。
中澤
丈さん(15年に脱退した河野丈洋の愛称)が抜けるってなって、バンドも終わらせるっていう選択肢が生まれたのは、その時のバンドを取り巻く環境だったり、バンド自体の状態も停滞していたというか、いろんな意味で不健康だったことに原因があったんですよ。それを一旦終わらせる理由みたいな感じで、丈さんは辞めるという選択肢を突き付けてきたので、俺たちもバンドを終わらせるのならこのタイミングかなって空気になったんです。俺と素生に限ってはですけど。その不健康な状態のままズルズル続いていくってのは、すごくストレスでもあったし、だからと言って状況を打破できるアイデアもなかったので、もうここで終わりかなって。でも、メンバー3人で話し合って、バンドを続けようってことになった時、どうせやるなら事務所も離れて完全に3人だけで始めようってことになったんですね。俺自身は自分たち3人だけでGOING UNDER GROUNDを動かせるってところに期待が持てたんですよ。いろんな人が関わってくれたことで良かった時期もあったんですけど、うまく回らなくなった時期もあったから、それだったらまたゴーイングで面白いことや新しいことができるんじゃないかな、まだ自分がやったことのないことに、このタイミングだったらチャレンジできるんじゃないかな…逆に言えば、このタイミングしかできないと思ったんで、“やろう!”と前向きに思えたんですよね。もちろん、俺はバンドが好きなんで、続けられるなら続けたかったんですけど、先の見えない状況が続いていたんで…。
でも、石原くんには最初から解散という選択肢がなかったわけですよね。
石原
はい。こうやって何回か取材を受けているんですけど、何でだったんだろうな?って(笑)。まだ答えが出てないです。
松本
何も考えてなかったんだよ(笑)。
石原
バンドを続けることが必然だったというか、当たり前のことだったんですよ。だから、ふたりが解散を口にした時、逆に“えっ、続けないの!?”ってびっくりしたし。
松本
でも、それは正しい意見かもしれないね。バンドを続ける続けないって、別に誰かに頼まれてやっていることじゃないし、俺ら以外にはどうでもいいことだったりするから。俺やナカザ(中澤の愛称)が解散って言ってたのは、今の状況をまっさらにするための手段だったというか。だから、いっさん(石原の愛称)の場合は、ゴーイングしか選択肢がないんだと思うんですよ。俺らがゴーイングをクビにしたら、もうバンドやんないでしょ?
石原
やんない。
松本
この違いだと思いますね。
では、再びゴーイングを始めようってなった時、どういうふうにやっていこうと思いました?
松本
楽しく! CDを出して、それで稼いで食っていくっていうミュージックビジネスの良いところも悪いところも見てきたつもりではいるんですよ。そういう意味でも、やりたいことをやるだけっていうか。さっきも言いましたけど、誰かに頼まれてやってることではないし、何を表現するとかってもうどうでもいいっていうか…中学校の時に“バンドをやろうぜ!”って始めた頃に近いかもしれないですね。完全にゼロになっちゃったから、生活するためには働かないとダメだし。俺もナカザも家族がいるから…いっさんはいないけど、日々の暮らしを支えることから考えないといけないんですよ。となると、音楽の時間ってどんどん減っていくわけだから、その中でどうクリエイティブな方向を向いてやっていくかってことを考えた時に…なんかね、ちゃんちゃらおかしく思えたんですよね(笑)。“次のアルバムでどう打って出るか?”とか、“自分たちをどう見せるか?”とかって、ものすごく小さいことに思えちゃったんです。バンドをやろうぜ!ってなって、時間がないながらもリハーサルだったり、ライヴがあったりすると、楽しくてソワソワするんですよ。そんな気持ち、俺、なったことがなかったなって。ゴーイングって恵まれてたんですよ、デビューした時って。下積みもあったけど、下積みを下積みだと思わない年齢だったし。そんな中でメンバーがひとり抜け、ふたり抜け、事務所も辞めて、今、初めて世の中とコミットしながら音楽をやり始めた段階だと思うんですよね。そこで音楽をやる意味とまではいかないけど、バンドでギターをジャーンって鳴らした時に何もかも全てがどうでもよくなる感覚って、中学や高校とか以来だなって。単純にそれ以外のことはやりたくないんですよ。“俺たちのことをこういうふうに思ってくれ!”ってところまでいってない。この衝動というか、この部分だけを音にしたいと思ってますね。
中澤
ライヴであったり、リハでもなんですけど、自分たちがバンドで音を鳴らしている時間というのが、いい意味で今まで以上に自分にとって非日常の空間になっていったんですよ。そこで爆発するために日常を過ごせるようになったというか。今までは音楽をやっている時間が日常だったけど、いろんなことがあってそれがどんどん逆転していって、この2年くらいで完全に逆転したんですね。で、全部リセットして、3人でもう1回やろうってなった時、自然とポジティブにとらえられたんですよ。“バンドで音を鳴らしている時間って最高だな”って。そこのスイッチが確実にできたというか。
石原
仕事なんですけど、仕事に思えないのがいいですね。俺、前はマネージャーもやってたじゃないですか。いろいろ回さないといけなかったし…やらされていたわけじゃないんですけど、レコーディングもそうだし、ライヴもそうだし、“やんなきゃいけない”って感じだったんですよ。でも、今はまったくそういうのがないし、それがライヴとかにも表れてるのかなって。今ってライヴのリハひとつとっても楽しいですからね。前は“曲を覚えなくちゃ”って、“やらなくちゃいけない”ってなってた。
マネージャーとなるとお金のことも考えないといけないですしね。
石原
ライヴにしても赤字ならないように考えないといけないですからね。まぁ、今でもそういうのは考えてますけど、やらされている感がないというか。
純粋な気持ちで再スタートしたっていう感じですね。
松本
そうじゃないとやる意味がないと思ってましたからね。そこまで戻れないんだったら、本当に終わりだなって。
今回のアルバムの先行シングルでもあった「the band」は、まさにそういう音ですね。
松本
そうですね。そういう意味では、今回のアルバムは大成功だと思ってます。
アルバムも全体的にシンプルというよりも、鳴らしたい音だけを鳴らしている感じがありました。
松本
これしかないだろうって感じですね。これ以上でも、これ以下でもない。“この曲をライヴやっている時、俺、すげぇいい気分なんだよね”ってなる…結局、それだけだと思うんですよ。あとは余儀でしかない。ほんと、中学生の時にバンドを始めた頃の感覚なんですよ。それって何度も辿り着こうとしたけど、まったく辿り着けなかったんです。デビューして15年ぐらいやってきたけど、初期衝動の塊みたいな『かよわきエナジー』(メジャー1stアルバム)を出して、バンドが一丸となって作った『ハートビート』(メジャー3rdアルバム)もあったんですけど、だんだんそこから離れていった…それは成長ってことなんでしょうけど、そこに戻ろうとしても全然戻れなくて。で、メンバーがひとり抜け、ふたり抜け、いろんなことを経て、今、やっと戻れたなって。これはもう喜びでしかないですね。
中澤
自分らが中学校の時にバンドを始めて、その頃に思い描いていたロックバンドのレコーディングみたいなものをようやく体現できたというかね。どの曲も瞬発力を信じて作った…その瞬発力を信じてやるには、これだけの時間が必要だったってことなんでしょうね。スキルなり、武器を手に入れないとできないから。だから、ようやくそれができたし、やっていい状況にバンドがなったんだなって。いろんなものがリセットされて3人だけになったことで、“やるなら今かもしれない!”みたいな。バンドを始めた当時の自分に“どうだ!”って言えるくらいの作品が作れたし、そういうバンドマンになったっていう自負じゃないけど、満足感があるんですよ。
石原
あと、パソコンを使ってやる作業が圧倒的に減ったのも良かったんじゃないかなって。みんなの顔を見ながら、スタジオで音を鳴らして作ったことが大きいというか。Pro Tools(音楽編集ソフト)を使わなくてもできるんですよ。
松本
逆に俺らはそういうものを習ってきてないんですよね。パソコンでデモを作るのって合理的でしかないんですよ。一番面倒臭いのが、スタジオに入って“この曲のあそこの部分からやってみよう”とか“あのパターンでやってみよう”ってやることなんで、それを避けたいからパソコンを使うようになったんだろうけど、そうなるとバンドの一番良いところが剥がれ落ちるんですよ。それはね、他人のバンドとかでも聴いていて分かる。それだけはやりたくなかったんです。
では、3人で再スタートとなるアルバムはどんなものにしたいと思っていました? やはり楽しいもの?
松本
楽しい…そこがどういうふうに伝わるかなんですけど、俺たちは楽しくなければバンドをやる意味がないと思っているから、楽しい方向に持っていくけど、その“楽しさ”を伝えたいっていうわけではないんです。もうね、何かを伝えたいっていう気持ちはゼロなんですよ。とはいえ、“これを歌いたい”っていうものはたくさんあるんで、それを集めたアルバムにすればいいのかなって感じでしたね。そういう曲をどんどん作っていって、そろそろ曲が溜まったからアルバムにするかって。メッセージも何もないし、ただ自分たちが歌いたいことを思い切りやっただけですね。それがアルバムを聴いた人にどう作用するかはこれからの話なんで、その人たちの感想を聞いた時に“その意見、ちょー嬉しいわ”ってなるみたいな(笑)。だから、テーマもなかったし、自分たちがやりたいことを100パーセントやった曲だけを集めた…それだけですね。
アルバムタイトルの“Out Of Blue”はテーマとして掲げたものではなく、完成したものに対して付けたものになるのですか?
松本
俺の中で「the band」という曲がすごく大きくて、この曲ができた時に、やっと次のフェーズに入ったって自覚できたんですよ。それで今の3人のモチーベーションだったら、3人のゴーイングのアルバムとして胸を張って聴かせられるものになるって確信が持てたというか。これまでずっと青春性で語れてきたバンドだったけど、やっとその次を見せれると思ったんですね。言葉ではなくて、音楽で。青い時代がやっと終わってくれたっていう気持ちから、“Out Of Blue”というタイトルにしたいってメンバーに言ったんですよ。
2曲目の「天使たち」の中に《青春の果て》ってフレーズもありますけど、“End Of Blue”ではないわけですよね。
松本
それも考えたんですよ。“End Of Blue”だと自分本位すぎるというか…“勝手に終わらすんじゃねぇよ”みたいな(笑)。やっぱり前向きな感じが欲しかったんですよね。メンバーとも共有していたのが、全肯定する歌詞だったりとか…へこたれたい状況でも全てを受け入れて、肯定してやっていかないと、物事は進まないってのは、俺たちもたくさん味わっているから(笑)。なので、そのマインドだと思います。生きているとそういうことばっかりだし、それを肯定して受け入れている姿も美しいなって思えたし、やっとそういうところに目線が行ったことにも自分で気付いたし。そういう意味も含めて、“Out Of Blue”というタイトルにしたいってメンバーに話したんです。
その肯定するというところだと思うのですが、「Teenage Last」の過去を否定するのではなく、受け入れるというか、《帰る場所が欲しい時は愛せばいいだけさ 選んで来た日々を》というフレーズが印象的でしたよ。
松本
いいこと言ってるな〜、俺(笑)。へこたれそうなことがあったりして、自分で自分を励ましている部分もありますけどね。それは存分にありますよ、今回のアルバムは。
でも、それって誰もが想うことですからね。「Anti Hero」の《さすらった人は皆 泣かないぜ!》という言葉は響きましたよ。
松本
そうなんですよ。だから、そこで俺が何かメッセージを伝えるっていうようなおこがましいことはやりたくないっていうか。共有できるところはしてくれればいいなって思ってますね。
あと、サウンドの振り幅というか、自由度も感じました。
松本
今の事務所の社長ってもともと友達だったんですね。1年365日だとすれば、360日一緒にいたぐらいな(笑)。ずっとお互いの背中を見てきて、このタイミングで一緒にやろうってことになって…彼が“まだまだゴーイングでやろうよ!”って言ってくれたってのは、俺にとってすごく大きくて。ふたりとも音楽も好きだし、俺の知らない音楽も知ってるから、重要なブレインになってくれていて…側から見ているとふざけているようにしか見えないと思うけど(笑)、結構大事なことは頭を付き合わせて話すし、その基準は厳しいし、それがいい作用になっていると思いますね。メンバー3人でガチッて固まって、さらにブレインがひとりいるっていう。だからこそ、今の事務所に入ったとも言えますね。すでにノウハウはあるから、別に3人だけでもやれるので。
そんなバンドを楽しんでいるテンションが音に出てますよね。「天国の口、終わりの楽園」はシンガロングできるカントリーというか、バンドを純粋に楽しんでいるのが分かりますよ。たぶん周りのスタッフなんでしょうけど、ガヤも入ってるし。
中澤
だから、今まではユーモアが足りなかったんでしょうね。もともと持っていたんだけど、ある時期から真面目になりすぎた。
「ショート バケイション」(『かよわきエナジー』収録曲)みたいな曲は、以降ないですものね。
松本
あれ、悪ふざけ以外の何でもないからな〜(笑)。
中澤
そういう意味では『かよわきエナジー』を作っていた時のテンションに近いのかもしれない。みんなで大笑いながら「ショート バケイション」みたいな曲を作って…あのアルバムもテーマとかなかったしね。そういう意味では、再デビューですよ。よろしくお願いします!
松本
うん、二度目の1stアルバムになったよね。ほんと、『かよわきエナジー』に近い。その時に考えていることが全て詰まっているし。だから、“これが今のゴーイングの全部です”って言える。
確かに、そういうアルバムですね。
松本
そういうふうに作ってる本人たちが思えることって、経験上なかなかなくて…っていうか、『かよわきエナジー』からの最初の3枚にしか、そういう感じってないんですよ。それが3人になって…しかも、38歳になりますけど、このタイミングでできた俺たちはすごいなって実は思ってます。
中澤
前後がないんですよ。これだけ長くやっていると、前作がどうだからってあるじゃないですか。最初に話に出た『稲川くん』を作った時っていうのは地続きだったけど、今回はそういうのはもうなくて、GOING UNDER GROUNDっていう名前の新しいバンドって言っちゃってもいいかなって。
石原
自分たちが“いいな”って思うロックバンドのアルバムができたなって思いますね。“ロックバンドってこういうもんじゃねぇの?”って。今までは頭を使ってやりすぎてた…それが悪いとは言わないですけど、今の自分たちがやりたいのはこれなんですよ。
アーティスト
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