【0.8秒と衝撃。】ポジティブな意味
で“自分をぶっ壊したい”と強く思っ
た
0.8秒と衝撃。から挑戦的で攻撃的な新作『つぁら﹆とぅ﹆すとら』が届いた。ミニアルバムながら、サウンド、メロディー、リリックのいずれからも、彼らの意気込みがズシリと感じられる傑作の制作背景を、塔山忠臣(パンク作曲家)に訊いた。
取材:帆苅智之
5曲入りのミニアルバムながら、冒頭からM1「ブレイクビーツは女神のために」、M2「狂音ミク」、M3「レボリュ。」と続いて、聴く人をグイグイと引っ張る、とても攻撃的な作品になりましたね。
内容には満足しています。レコーディングの行程もスムーズに進行できたし、各楽曲の世界観も崩さずに、僕が自宅で作るデモから良い部分を殺すことなく、上手く表現できたと思いますね。
1曲目「ブレイクビーツは女神のために」がアルバムのリード曲であるところに0.8秒と衝撃。の意気込みを感じたところで。メロディーやリリックではなく、ビートにフォーカスを当てた楽曲というのは所謂J-POP、J-ROCK界隈では珍しいと思います。
日本で音楽をやることに諦めがあるのかもしれませんね。まぁ、だからと言って簡単に“じゃあ、海外でやります”とかいう安い思考のバンドとも違っていて…これは、あくまでも僕個人の感覚なんですが、ある種の孤立感は常に感じていまして。僕が作る音楽について、“一般には難解”であったりとか“変態性”やら“カオス”やらっていう説明をされることがあるんですけど、それが僕にはまったく意味がなく感じられて。感性を説明する言葉として、あまりにも幼稚というか…。
私は「ブレイクビーツは女神のために」は難解ではないと思います。ビートにフォーカスを当てながら、聴き応えは十分にポップ。不思議でもありますが、そこが素敵ですよ。
クラブミュージック的なスタンスで作曲したんですよ。新しい価値観のダンストラックとして仕上げたいという気持ちもありました。女性ヴォーカルも生っぽい質感を排して、サンプラーで切り刻んだような感じで陶酔感もある。アンダーワールドがバンド形態からDJに変革する時期に口にしていた“アンチ、スタンダード。ファンタスティックビート”を目指しましたね。
2曲目「狂音ミク」も興味深いです。文字通り、ボーカロイドが、ノイジーかつラウドで、不協和音気味なサウンドを纏ったようなナンバーで、サビの後半は人間の生理から生まれる抑揚ではない印象がありますが…
僕は女性ヴォーカルを想像して作曲するのが好きで。リスナーとして洋楽漬けだった時は男性ヴォーカルに少しでも女性コーラスとかが混ざってると嫌だったんですけどね(苦笑)。「狂音ミク」は“俺が初音ミクの曲を書いたらどんな感じになるんだろう?”と興味が沸いたのがきっかけです。それをJ.M.の声でやってみたいと。僕、世界で一番のJ.M.の声のファンですから。良い仕上がりになったと思います。
「狂音ミク」に《四人囃子じゃ救えない 今の君と、言葉。》という歌詞がありますが、これはアルバム『一触即発』で知られるバンド、四人囃子のことですか?
あ、僕、四人囃子好きなんですけど、これは佐久間正英さんの四人囃子ではないです(苦笑)。この歌詞は今の日本のシーンに流れる、ある種の“バンド倦怠感”を表しています。誰かを具体的に責めようとは思いませんが、ひとつ言えるのは“テンプレ化したギターバンドだけでは救えないものがあるよ”という話です。
3曲目「レボリュ。」にも《いつの日にも、生き続けた 君鳴らす8ビートだけ 全てのこと、飽きが来てた 自分にも飽きが来てる、、、》というフレーズがあって、ここでも既存のロックなるものからの決別といったところが感じられますね。
上手く言えてるかどうか分かりませんが、僕的にはフェスとかにバンバン出てた時代の自分らにも飽きていたし、売れない自分たちにも飽きていて。だからと言って、気に入ってもらえるために努力して、みんなに支持されるミッキーマウスみたいな存在を目指すのかと言えば、僕が音楽をやることによって欲しいのはそんなことじゃない。ポジティブな意味で“自分をぶっ壊したい”と強く思ったんです。
そうですか。続く4曲目「饅頭こわい」はエスニックなメロディー、5曲目「痛みの犬」はフォーキーなメロディーと、いずれも歌が強調されている印象があります。ビートもの、サウンドものから始まり、メロディーもので終わるというアルバムの構成は意図的なものですか? だとすると、そこにはどんな意識があったのでしょう?
僕はアルバムをひとつの絵画や交響曲だと考えていて、昔はキャッチーなリード曲のみを集め聴きしたり、TVタイアップ曲などを簡単に聴いていたりもしたことがあったんですけど、今はアルバム単位でしか聴けなかったりするんです。それが心地良い。“もっとこんな曲を…”とか種類を気にするほど商売に興味はないし、自分たちの快楽思考に従った結果って感じです。
では、「饅頭こわい」の歌詞について訊かせてください。《ダレノ教えにも、ミミハ貸さない、 ボクハ病気さ、タマシイまで。 トドク涙は、濡らすコドウよ、 オドリ続けろ、 僕にツゲル。》。個人的にこの部分は、《私には愛する歌があるから 信じたこの道を私は行くだけ すべては心の決めたままに》(「マイウェイ」)と同じベクトルかなと勝手に解釈しましたが、実際にはどうなんでしょう?
解釈は決め打ちしたくないんです。聴いてくれた人が感じればいい。僕は一生懸命作るのみで、完成したらその曲は僕のものですらないんで。ただ、もし「マイウェイ」なら、シド・ヴィシャスのバージョンの「マイウェイ」でお願いします(笑)。
分かりました(笑)。ただ、今作に関しては、この歌詞もそうですし、オフィシャルサイトにある“塔山忠臣から一言”やTwitterでのつぶやきを含めて、今まで以上に0.8秒と衝撃。の力強い決意が感じられます。そこに至るまでに何か心境の変化があったのかなと。
もし自分たちに残された時間が少なかったとしても、僕は何も恐れないし、音楽を愛する気持ちはまったく変わらないということです。だからこそ、今自分が一番だと思う作品と、そこからのライヴでの一戦一戦で、“芸術”を表現していこうと…それが全てですね。
最後にアルバムタイトル『つぁら﹆とぅ﹆すとら』についてうかがいます。これは19世紀のドイツの哲学者、フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェの著作『ツァラトゥストラはかく語りき』からの引用ですね?
ニーチェが『Zarathustra』を出版した頃、彼の作品はまったく正当な評価をされず、何部作か書いた『Zarathustra』も、最後には身近な人に数冊配っただけと聞きました。その姿が今の自分たちと同じだなとシンパシーを覚えて、タイトルに使わせていただきました。文字の間にある“﹆”は表記できない媒体も多く、それが聴く人によって奇形していく“作品”という命のさだめを表しています。そういう意味でもぜひ、聴いていただきたい新作ですね。
アーティスト
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