【阿部芙蓉美】
取材:道明利友
誰もが感じる、“ちょっとだけブルーな気持ち”
アルバムタイトルの“ブルーズ”は、どんな由来から付けたものなのですか?
音楽ジャンルの“ブルース”は、特に関係ないんです。デビュー曲のタイトルが『群青』で、2ndシングルにも『青春と路地』と“青”って漢字が入っていたり。それと“ちょっとだけブルーな気持ち”っていうんですかね。そういう、色のイメージや気持ちだったり、あとは…私はまだシングル3枚とアルバム1枚出しただけっていうことで、まだまだ経験も足りない、まだまだ“青い”存在ですっていう。そういう、いろんな意味の“ブルー”を込めて付けました。
“ちょっとだけブルーな気持ち”っていうのは、特に印象的ですね。「さみしいときはどうしている」はタイトルからしてそうですし、どの曲の主人公も切ない気持ちを何かしら必ず抱えている感じがします。
そうですね。寂しい時に何してるのかって、みんな直接は聞けないですよね? 聞くのもちょっと恥ずかしいし、聞かれてもなんて答えていいか分からないし。そういうことを曲にするところに面白味があるのかな、なんて思ったりもして。ちょっと爽やかな、軽やかな曲なんだけど…。“寂しい時って何してる?”って、最後にちょっとつぶやいてる感じで。
そういう寂しさもそうですし、普段は胸にしまっているものというか、心の陰みたいなものを描いている曲が阿部さんの作品にはすごく多いですよね。それでいて、どこか温かい雰囲気があって…両立しているのが興味深いです。そういう物語の源は、ご自身ではどう分析しますか?
マイナスの要素を知らないのに、何かについて手放しで喜んだりうれしがったりするのが、私個人は苦手というか。まずは、マイナスのものを知ってからじゃないと安心できないみたいで。でも根っこはすごくプラス思考だし、前向きだし。だからこそ、マイナスの要素を受け流したりとかするのは嫌なんですよね。前向きであるっていうのを前提に、誰もが持っている寂しい気持ちとか、どういう時に悲しくなるかとか、そういう要素をできるだけ多く持っておいた方がいいような気がするんですよ。でも、別に大げさなことは全然描いてないと思います。言ってしまえば、誰にでもあるような、ありふれていることを描いているっていう意識です。
「ぼくら平凡」っていう10曲目のタイトルじゃないですけどね。みんな同じように普通に、平凡に生きているからこそ、聴き手は共感できるんじゃないかと思いました。
うん、そう。本当に普通に生活していて、身の周りに起こっていることを普通に描いてる意識なんです。で、その辺の捉え方は聴く人に委ねちゃうんですけど。もしかしたら共有してる瞬間が重なるかもしれないね、ぐらいで。“重なる瞬間をまさに共有しましょう!”ではなく、“重なる瞬間があれば素晴らしいんじゃないかな”ぐらいの距離感でいられればいいかなと。あらゆる“ブルー”が私にもあるし、聴き手にもあるだろうしっていう、近すぎず遠からずの感覚が、私は一番いいかな。
うんうん。馴れ合いじゃない関係が聴き手と築けたら素晴らしいですよね。その阿部さんの楽曲と、最近はテレビのCMを通して出会うリスナーも増えていると思うのですが、阿部さん自身はそれを聴いた時どんな感覚でしたか?
“あれっ!?”って感じですよね。最初は、“なんか知ってる曲だな~”みたいな感じで(笑)。でも、自分の曲がテレビから流れるっていうのは、なかなか経験できることじゃないんで、貴重な経験をさせてもらいましたね。
僕は「planetary」にグッときたんですよね。小林 繁さんと江川卓さんの一件は、もちろん知っていたので、あのふたりがCMで一緒にいることもそうですし、その場面と阿部さんの歌声のマッチぶりにも感動して。
あのエピソード自体は私が生まれる前のお話だったんで、CMのお話をいただいてからいきさつをいろいろ調べました。で、ふたりの間に流れた時間や、それにちゃんと向き合って過ごしてきたふたりに対するものとか。この曲は歌詞もないから、場面の彩りのひとつになれればいいなと思って歌ったんです。これも、特別なことを表現したかったわけではなくて。人間であること、時を過ごしていくこと、呼吸してること…流れていく時間の中で、今ここに身体があってっていう。だから、この曲は、私の印象では“鼓動”というか。“鼓動”の温かみを感じるイメージが、個人的にはすごくあって。
歌詞で直接言ってなくても、そういうイメージが伝わるのはすごいなって思います。音とか声から何かを伝えられるっていう、音楽のすごさを感じますね。
“人間味”のある音というか。人間味とか人間くさいとか、そういうものを表現するにはどういう音と声が必要なのかっていうことを常に考えて、曲が作れたらいいなとは思います。形や見栄えではなくて、根底で“におい”を発して、ちょっとかぎたくなるようなものを(笑)。なんでもないものだけどないとやっぱりダメで、そばに置いときたくなるようなね。そういうものについて考えてみることは悪いことじゃない気がします。
アーティスト
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