『応仁の乱』よんでみた:ロマン優光
連載78
連載第78回 『応仁の乱』よんでみた
まず、全体的な感想を言いますと、非常に面白い本です。跡目争い、政治的な対立、隣接する領地のトラブルなど、目的が違うもの同士が当面の敵が一致してるという一点でのみ両軍に集まってきた武将たちが、それぞれの理由で私闘を繰り広げているだけだから、それぞれ落としどころが違うため、全員一致での停戦ができず、延々と続いた応仁の乱。「あいつがあっちについたから、俺はこっちにつこう」ぐらいの理由で陣営が分かれてるだけだから結束も弱く、寝返りとか日常茶飯事。一族が東西に分かれて戦ってるのも当たり前だし、そもそも大将の山名宗全と細川勝元が姻戚なわけで、人間関係が非常にこんがらがっている。本気でわかりにくい応仁の乱、その成り立ちをわかりやすく解説してくれている時点で凄いですし、まあそれだけでもう面白いです。通常、応仁の乱を扱う場合、畿内の状況を中心に考えられることが多いのですが、大和の国の興福寺周辺の状況から紐解いていくのが斬新だと思いました。室町時代というか、鎌倉時代以降武家政治の時代の興福寺の活動とか全然知らなかったので非常に面白かったです。
また、応仁の乱は『下克上』という観点から考察されがちなので、古くからの支配層にあたる旧仏教の位の高い僧侶などは「時代についていけず嘆いてるばかりの無能」みたいな扱いを受けがちなのですが、この本を読むと、色々と権謀術数を使って武将と渡り合って上手く立ち回っていたり、武将化するものもいたりして、意外とそうでもないのがわかります。政治に興味がないイメージの8代将軍・義政が応仁の乱解決に向けて活発に活動してたり、御神輿に過ぎないイメージの義政の弟の義視が義教譲りの苛烈な一面を持っていて戦争に積極的だったりするのもイメージとは違いますね。義政の頑張ってるけど全く役に立たない感じは15代・義昭を思わせ、血筋を感じさせますな。
戦国時代にある程度知識のある人は、戦国時代後期ではボンクラなイメージのある朝倉家や大内家が、この時代ではかなりイケイケで有能だったりするのも新鮮だと思います。一般的には全く無名の畠山義就という武将が、幕府の言うことを全く聞かずに逆らい戦い続け河内を独立国状態にしてしまい、言うなれば最初の戦国大名の一人だったという評価も興味深かったです。家がちゃんと継続しないと、やっぱり忘れられてしまうもんなんですな。あと筒井家が弱くて昔から筒井家はあんな感じなんだなと感心しました。
やっぱり室町時代って変な時代なんですよね。ずっとどこかしらで戦争していて全然安定感ないんですよ。南朝の忠臣である北畠氏が大名化して本来幕府の敵対勢力であるに関わらず、事実上の守護として普通に扱われていて織田信雄に乗っ取られるまで存続してるのも変。征夷大将軍というのは朝廷からもらう役職なわけで一人しかいないわけなんですが、武家が自分の都合で勝手に将軍をもう一人作って二人の将軍が存在してしまう。非常に雑なんですよね。そこが面白いとこで個人的には室町時代は大好きなんですが。
素朴な疑問なんですが、全く予備知識のない人がこの本を読んでも面白いんでしょうか? わかりやすいとは言っても、読者にそれなりに歴史的知識があるのが前提で書かれている本なので、バックボーンとか人格の詳しい説明なしに色んな人が登場してきます。その人を知らないとわかりにくいところは沢山出てくると思うのですが。しかし、本の売れ行きやレビューを見てみると、ほとんど歴史的知識のない人も読んでいるようです。そういう人が「わかりやすい」と言ってる場合、ちょっと間違った理解の仕方をしているのではないかという気もしないではありません。
何はともあれ、ある程度室町時代に関する歴史的知識があれば、間違いなく面白い本。また、呉座勇一さんに明応の政変以降の流れを考察した本を書いてほしいと思いました。もし、それが実現してレビューを書かなければならなくなった時は、とりあえず「木沢長政は悪! マジで悪!」と書くと思います…。
(隔週金曜連載)
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