山崎まさよしの『ROSE PERIOD ~the
BEST 2005-2015~』でアーティスト
としての確かな才能を傾聴する【ハイ
レゾ聴き比べ vol.5】
『ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~』/山崎まさよし
その意味では、過去音源のハイレゾ化は、小津安二郎や黒澤明のフィルムを4Kで保存する行為に近いものとも書いた。とするならば、とあるアーティストのハイレゾ音源を聴くことで、その人の音楽的変遷や本来の指向をよりリアルに捉えることができるのではなかろうか? ベストアルバムのハイレゾ化はその恰好の材料。今回の【ハイレゾ聴き比べ】は、昨年8月にリリースされた山崎まさよしのベスト盤『ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~』を題材にしてみよう。
天賦の才を持つシンガーソングライター
1stアルバム『アレルギーの特効薬』(96年発表)の帯に“天才より凄い奴!デビュー”というコピーが躍っていたそうだが、その卓越したメロディーセンスと、力強いも甘い歌声はまさしく天賦の才と呼びたいほど。デビューから20年、常に一線級で活躍してきた、日本を代表するシンガーソングライターである。
アレンジャー、プロデューサーとしても優秀
デビュー当初の印象が強く残っているためか、ギター弾き語りスタイルが頭に浮かぶが、音楽活動を始めた頃はドラマーであったことや、早くから他者への楽曲提供を行なったり、スタジオミュージシャンとしても活動していたりしていたというから、元来、所謂シンガーソングライターというよりも、マルチプレイヤーでもあるアーティストというのが適当なのだろう。
『ROSE PERIOD』収録曲も弾き語りはM15「One more time, One more chance」程度で、これにしても93年制作のデモ音源である。他の収録曲は全てバンドサウンド。鍵盤はもちろんのこと、ホーンセクション、ストリングス、同期ものも取り入れている。
山崎まさよしの充実期を示すベスト盤
具体的に言うと、楽曲を構成している楽器のアンサンブルが大きく変わらないのである。基本はアコギ+バンドサウンドに上物(ピアノ、オルガン、シンセ、ホーンセクション、ストリングス)で、多少の差異はあれど、ある曲ではエレキギターが前面で、ある曲ではストリングとピアノが前面で…ということがないのだ。
これは『ROSE PERIOD』が彼の20年間の音楽活動のうち、その後半の10年間の作品集であることも大きいと思われる。本人のやりたいこととリスナーの聴きたいものとの隔たりも少ないのだろう。いい意味で音楽性が安定しており、彼の活動が充実期に入っていることの証左とも言えるのではなかろうか。
アコースティックギターがより鮮明に
各音の定位が分かりやすくなることで、“アコギも聴き取りやすい”という言い方が正しいだろうか。M5「真夜中のBoon Boon」やM8「HOBO Walking」が顕著だと思う。いずれもアコギをアコギとして確認できるだけでなく、“ギターは張られた弦を弾いて鳴らす楽器なんだなぁ”と改めて思わせてくれるほどに響きが良くなっていると思う。
また、エレキギターとアコギとの対比も鮮明だ。この辺は、上記2曲以外にも、M1「僕らは静かに消えていく」(04年発表)やM14「21世紀マン」で聴くことができるだろう。
グルーブ感が増すアンサンブルの妙味
『ROSE PERIOD』ハイレゾ版でグルーブが際立っている楽曲としては、M12「星空ギター」を推したい。ロッカバラードで、もともとドラムが若干前のめりなので、グルーブが出やすいと言えばそうなのだが、エレキギター、ピアノ、オルガン等々が派手すぎずに伴奏。輪唱的に入るコーラスも含めて、独立した個々の音が絡み合いながら楽曲に推進力を与えている様子が細部までよく分かる。
ミディアムだがM10「太陽の約束」(12年発表)もいい。音数が多く、展開もドラマチックなので、そもそもグイグイと来るタイプではあるが、明らかに音圧が増して力強く響く。特に後半。Cメロでブレイクしてからのアレンジは、ベタっちゃベタだが、やはり聴いていてアガるし、それは個々の音がクリアーになることでさらなる高揚感を与えてくれていると思う。
楽曲全体がすっきりと整理された印象
また、マイルド感とは少し違うかもしれないが、M6「Heart of Winter」はハイレゾ化で全体がすっきりと整理されたような印象がある。元の音源は音処理が派手な上、高音が割れ気味で、なおかつ全体的に音がこもり気味な感じがしないこともないが、ハイレゾでは電子音は如何ともし難いものの、ゴチャ付き感が薄まっているというか、全体のフォルムがはっきりとした感じがある。もしかすると、これは前述したアコギの音色がクリアーになったことと関係しているのかもしれない。
歌とその世界観を彩る理想的なかたち
また、ここに収録されている楽曲が作られた年には新旧10年間の幅があるのだが(デモ音源である「One more time, One more chance」を除く)、ハイレゾ化で再生音域が広がり音像そのものが鮮明になる事で最古と最新とではそのアレンジにさほど差異がないことも分かる。いや、厳密に言えば、過去音源で若干こもり気味だった音像がハイレゾ化でシャープになることで、差異がないことが分かるのだ。
シンガーソングライターとは字義通りに言うならば、“自ら書いた歌を自ら歌う人”である。しかし、彼の場合はそこにとどまらず、“自ら歌う自ら書いた歌を、最も理想的なかたちで聴いてもらうことに腐心している人”であることが分かる。彼のような真摯な取り組みを多くのリスナーに知らしめる意味でもハイレゾ音源の持つ意味は大きいと思う。
TEXT:帆苅智之
おすすめ記事
-
『OKMusic』サービス終了のお知らせ
2024.02.20 11:30
-
音楽ファンの声、エールを募集! music UP's/OKMusic特別企画 『Power To The Music』 【vol.89】公開
2024.02.20 10:00
-
今年でデビュー50周年の THE ALFEEが開催する、 春の全国ツアー神奈川公演の チケット販売がいよいよ開始!
2024.02.13 18:00
-
音楽ファンの声、エールを募集! music UP's/OKMusic特別企画 『Power To The Music』 【vol.88】公開
2024.01.20 10:00
-
宇多田ヒカル、 初のベストアルバム 『SCIENCE FICTION』発売決定& 全国ツアーの詳細を発表
2024.01.15 11:00
人気
-
【エレファントカシマシ】今しっくりくるものを必死で探してきた
2017.03.20 00:00
-
【連載】 Mrs. GREEN APPLE 大森元貴 『ナニヲなにを。』 - 第1回 『自己紹介を。』 -
2014.12.20 00:00
-
【連載】 Mrs. GREEN APPLE 大森元貴 『ナニヲなにを。』 - 第16回 『巡り合いを。』 -
2016.03.20 00:00
-
COMPLEX、21年前と同じセットリストで東京ドームに帰還
2011.08.01 14:00
-
【連載】 Mrs. GREEN APPLE 大森元貴 『ナニヲなにを。』 - 第3回 『魔法の言葉は在るということ、を。』 -
2015.02.20 00:00