PERSONZ、
“39周年”を締め括った年末公演の
オフィシャルレポートが到着
12月30日(土)@大手町三井ホール photo by アンザイミキ
会場は日本屈指のオフィス街の一角にある大手町三井ホール。ステージは全方位から客席に囲まれる、舞台・演劇用語で言うところの“出臍”(でべそ)という形。本来のステージから伸びた花道の先端にある張り出し舞台で今宵限りのショーが始まるとおぼしい(余談だが、この花道を有する舞台を見るとすぐに『ロックンロールオリンピック』を連想してしまうのはやはり世代だろうか)。
【第1部】
「こんばんは。今日はお客様の見え方が全然違いますね。後ろの夜景を見てください」
JILLがわれわれの視線をステージ背後へ注がせる。曠然たるガラス壁の向こうに広がる黄昏の都市景観。角度によっては東京タワーの見える客席もあっただろう。都会の喧騒が夕闇に溶けつつあるアーバンな雰囲気の中で最初に奏でられたのは、「TRUE LOVE」(1991年)。三味線2本と篠笛、四絃琴(ベース)の生音にシーケンスの旋律が加わり、天井高7メートルという開放的なホールの中でJILLの声が伸びやかに艶やかに響き渡る。三味線JILL屋が奏でる花鳥風月を慈しむ雅な世界が、都会の無機質な空間に温かい彩りを与えているようだ。
「2017年夏に浅草のお座敷で初舞台を踏んでから早6年、三味線JILL屋はこれからもっとライブをやっていきたいです」
最後にJILLが意気込みを語り、お囃子衆の3人に拍手を捧げながら送り出す。気づけばステージ背後の陽はすっかり暮れている。JILLと渡邉はそのまま残り、藤田勉と本田毅が花道を渡って現れる。万雷の拍手喝采。ステージ上の4人の間隔も、ステージと客席の距離感も思いのほか近く感じる。本田がエレアコ仕様、藤田がハンドソニック(藤田いわく“音の出るサイドテーブル”。デジタル・ハンド・パーカッションのこと)を携えていることから、ここからアコースティック・セクションが始まるのが分かる。4人の距離の近さはこのアンプラグド編成あってのことだろう。このセクションでは特別ゲストが登場することもJILLから発表され、いやがうえにも期待が高まる。
1曲目は「TRIUMPH OF LOVE」(2015年)。言うまでもなく24年振りとなる日本武道館公演を目指して生み出されたアンセムであり困難なときでも希望を見失わず、自分自身を信じ続けることの大切さを唄う歌のテーマは、世界的なパンデミック、紛争の勃発、気候変動など目まぐるしく変転し続ける予測不能な時代にこそ響く。JILLは1番を唄い終えると観客に手拍子を促し、会場が一体感に包まれる。本田は時折、後方へ向いてプレイ。藤田はまるでキーボーディストのような風情で卓を叩きまくっているのが面白い。渡邉は黙々と重低音を奏でてアンサンブルの屋台骨を支えることに徹しているが、会場全体を見渡しながら時折微笑んでいるのが分かる。従来のバンド合奏と比べて音がよりシンプルとなり、アンプの増幅などごまかしも一切効かないアコースティック編成でここまで重厚なアンサンブルを聴かせるのだから、積み上げてきた39年のキャリアは伊達じゃない。ナチュラルなアコースティカル・サウンドでも不屈のロック・スピリットがにじみ出てしまうのは、PERSONZがPERSONZたる所以だろう。
また、JILLが「アコースティック・セットのアレンジをどうするかが今回のライブのキモで、だいぶ時間をかけて臨みました」と話していた通り、原曲の良さを損なわぬアレンジがどれも秀逸だったことを明記しておきたい。それは、本田と渡邉のコーラスが美しい「PRECIOUS LOVE」(1990年)も同様だった。今なお止むことのないウクライナとガザの戦乱、それを伝える凄惨なニュースを見ると毎日胸が痛むというJILLのMCから曲に入り、この混沌の時代に置き換えても何ら変わらない、この世における本当に尊いものとは何なのか? という歌の真髄が伝わる。それは端的に言えば「世界に平和を」というメッセージなのだが、バブル景気全盛の時代に書かれた「PRECIOUS LOVE」の歌詞が30数年後により現実味を増すとは、何とも皮肉で悲しい。だからこそこれからもずっと唄い継いでほしい一曲だと言える。
同じく5thアルバム『PRECIOUS?』収録の「PRIVATE REVOLUTION」(1990年)も今の時代に呼応する曲なのか、“ベルリンの壁”というワードは出てくるものの、古めかしさは感じない。2020年、コロナ禍になったときにこの曲をスロー・テンポでやってみようと考えられたアコースティック・アレンジは、いつかこの形式でレコーディングして残してほしいと思うほどの逸品。本田の切ないギター・ソロも短いながら気高く美しい。終盤、JILLは椅子から立ち上がり、花道で熱唱。格段にスケールアップしたその歌唱力を聴くにつけ、PERSONZが常に最善の更新をし続けるバンドであることを実感する。
続いて「クリスマスは終わってしまったけれど、インスタライブでちょっと唄ってみたらやっぱりいい曲だなと思って…やってみようと」と、PERSONZ初のクリスマス・ソング「BECAUSE THE HOLY NIGHT」(2011年)が夜景の映える場内で披露される。イントロから鳴り響く手拍子、ハンドウェーブする観客も見受けられる。
そんな贅沢すぎる余興を経て、肝心のコラボレーションは「DEAR FRIENDS」(1989年)。それもラテンボッサ風とでも呼べば良いのか、千秋をイメージしたという可愛らしいアレンジが施されたレア・バージョンだ。「そばにいて いつも待っててくれる」と唄う場面ではJILLと千秋が肩を組む姿も。最後に2人は抱擁、「夢を叶えるためにYouTubeやブランド運営など全力で行動するのは凄い!」とJILLは千秋の実践力の高さを称賛する。篠笛の玉置ひかりも、當間ローズも、そして千秋も、みな縁が繋がって同じステージに立てていることをJILLは力説。数えきれない無数の事象が関係し合い、成り立つ出会い。もし無数の事象が一つでも欠ければまた違う出会いになったかもしれないし、そもそもその出会い自体すら存在しなかったのかもしれない。巡り会えた出会いは決して当たり前のことではないし、私たちがこうして日々生活できていること自体、幾重の生起が重なった結果であり、これもまた決して当たり前のことではない。だからこそ尊い。当たり前のように感じる日常も、繰り返しのように思える人生も、実に尊い。そんなつい忘れがちな大切なことを、PERSONZの歌はいつも教えてくれる。
以上全7曲、約1時間に及ぶ熱演。本来ならこの第1部だけでも充分に素晴らしいエンターテイメント・ショーなのだが、2023年最後、究極の“Rock Party”はまだまだ続く。
【第2部】
バンド・セットの序章を飾る「DRAGON LILY」(2006年、今回は“大感謝祭ver.”)の合奏が本格的に始まると、「ヘイ! もっともっともっと! カモン!」とJILLが観客を挑発する。2024年は辰年、ドラゴンイヤー。結成40周年へ向けたキックオフ・ライブのイントロダクションとしてこれほど相応しい曲はないだろう。
「さあ、ここからは“イェイ! イェイ!”セクション、“イェイ! イェイ!”ライブです!」
JILLが改めて盛大なパーティーの開催を宣言し、おおくぼけいを紹介する。「次は彼のキーボードが引き立つ曲を…」と、切なく疾走するメロディアスな曲調の「JUSTIFY」(2002年)が披露される。ビリー・プレストンが加わることでピリッと引き締まるビートルズのアンサンブルに似た相乗効果、それに近いものがこの日のPERSONZ+おおくぼけいには感じられた。ただし、戸川純や頭脳警察、大槻ケンヂなど数々の大御所ミュージシャンとの共演を果たしてきたおおくぼの自己定位は、主役の特性を最大限引き出すことに徹し、自身は終始引き立て役を貫く在り方だ。もちろん代替不可の個性は発揮するものの、必要以上に自分色に染め上げない。そのバランスと距離感が絶妙だからこそ、おおくぼにはサポート依頼のオファーが後を絶たない。
ここでJILLが一旦、舞台袖に捌ける。暗転の中でレジスターと硬貨の効果音が鳴り響き、ピンク・フロイドの「MONEY」を喚起する気怠いムードのインストゥルメンタルが奏でられる。華美なハットにサングラス、JILL自作のMoney帽子とストール、ゴールドのマネーガンを持って、「FUNNY MONEY」(1988年)のイントロが。なるほど、そう来たか。JILLが持参したトランクをバーンと開け、そこに入っていた紙幣の束を勢いに任せて客席へ向けて撒き散らす演出にも納得する(ちなみにその紙幣は、各メンバーの肖像画があしらわれた100ドル紙幣だったようだ)。年末を騒がせた、政治家の政治資金パーティーをめぐる一連の問題を念頭に置いたのか、「世の中、カネ、カネ、カネ…と言ってますけど、私たちは清く正しいロック・バンドです!」とJILLが高らかに宣言。今年ようやく実現できたツアーを誰一人倒れることなく完走できたことをオーデェインスに感謝し、労をねぎらう。
「6月からのツアー、今まで眠らせていた曲をどんどんやります! 春のアコースティック・ツアーはノリの良い曲もやります! 『I AM THE BEST TOUR』に来てくれてどうもありがとう!」
JILLが改めて観客に礼を述べ、ガムランの音色に導かれて「DREAMERS ONLY」(2015年)が始まる。不安な夜を塗り替えて、砕けない夢を夢見て、傷つき倒れそうでも立ち上がり挑んでいく。「自分を信じる心 抱きしめて」。そう唄われる「DREAMERS ONLY」は癒し系ならぬ肥やし系、心の糧となる歌だ。そう考えるとPERSONZの歌はどれも唄うお守りなのかもしれない。老いも若きもOiコールで拳を突き上げ、興奮冷めやらぬなか、“B, B, E-S-T, B-E-S-T, Go!”という今やすっかりお馴染みとなったリフレインが聞こえてくる。70年代の洋楽を熱心に聴いていた世代はニヤリとするチャントだ。本編最後は本ツアーを象徴する一曲、「I AM THE BEST」(2020年)。比較対象はどこかの誰かではなく、常に自分自身。別に大きな夢じゃなくたっていい。どんな些細なことでもいい。
昨日より今日。今日より明日。ほんの少しの伸びしろでも自己ベスト記録を自分らしく更新できればそれで充分。そんな願いにも似た思いをJILLは“I AM THE BEST!”のリリックに込めて唄う。鳴り止まぬ“B, B, E-S-T”の手拍子。バンドは最後の力を振り絞って渾身のプレイを聴かせ、JILLは張り出しの舞台まで詰めかけて最後の最後までオーディエンスを煽り、終幕と相成った。忌々しいコロナ禍を経て3年越しのツアー開催という悲願のリベンジを果たしたことの喜び、達成感をバンドと観客が共に分かち合えた瞬間だった。
「これからもバンドを続けて花を咲かせたい。ずっと音楽を続けていたらみなさんという花が咲いてくれました。みなさんがPERSONZの曲を育ててくれた。愛を持って育ててくれた」
そう語るJILLは、この「FLOWER OF LOVE」を1月25日にデジタル・リリースし、
それ以降、毎月新曲を届けようと考えていること、それが溜まれば1枚のアルバムにしたいと考えていることを告げた。そうして披露された「FLOWER OF LOVE」は、如何にもPERSONZらしく実にポジティブな、聴き手を鼓舞するように快活なナンバー。「自信を持って良い曲だと思います。レコーディングのときに思わず感極まった」とJILL自身が語るように、PERSONZの新たなクラシックとなる風格をすでに兼ね備えた一曲と言えるだろう。花が咲くまでには時間も手間もかかる。種子を蒔き、地に根を張り、芽が出て、空へ向かって茎を伸ばし、花が咲く。その長い過程では水や栄養を絶えず与えることも大事なら、育て続ける思いや根気もまた大事だ。骨の折れる作業には違いないが、だからこそ咲き誇る花は美しい。ただし花の命は短く儚い。それは儚さゆえの美しさとも言える。しかも同じ品種の花でも花びらと葉の位置はどれも異なり、1本たりとも同じ花は存在しない。1本1本違う花。でもどれも美しく咲き誇る花。開花するまでに七転八倒する労苦と長さに比べて咲き乱れる時間がとても短い花。なんだかわれわれ人間の営みみたいではないか。
「正直、自分たちだっていつまでこのバンドを続けられるかわかりません。でも、もし私がどこかで倒れて二度とバンドをやれなくなったとしても、そこで悔いがないと言い切れるバンド活動を普段からしていたい。だから来年もまた…私たちに会いに来てください!」
大歓声で応えるオーディエンス。そのリアクションを受けてJILLは続ける。「言霊ってありますからね。ここで言っておきます。私は100歳まで唄い続けます!」。そう高らかに宣言し、披露されたのは「THE SHOW MUST GO ON」(1993年)。ご承知の通り、本田の脱退後に布袋寅泰や服部隆之の助力を得て制作された7thアルバムのタイトルトラックだ。この曲を今日この場でプレイすることこそ数多くの仲間たちを見送ってきた彼らならではの大いなる決意表明であり、志半ばで倒れた仲間たちへのレクイエムであり、この日のライブにおけるハイライト、一番の見せ所に思えた。JILLもそれに相応しい声の張り上げを聴かせ、尋常ならざる歌唱力の高さに圧倒される。唄い終えたJILLは、こう語った。
「その時代によって歌の解釈は変わるものですね。1993年に『THE SHOW MUST GO ON』を書いたときはこの先どうなるんだろう? という不安で一杯だったけど、今日はどこまでも行くぞ! バンドはまだまだ続くぞ! という思いです」
バンドが本格始動する前から切磋琢磨してきたかけがえのない仲間が違う道を歩むことになり、失意のどん底に叩きつけられ、それでもショーは続けなければならない、一度始めてしまったら何があっても中止できないと何とか軌道修正していたあの頃とは違う。辛酸を舐めた過去も、辛抱強く友を待ち続けて再び合流し、“RELOAD PROJECT”の一環として24年後に4人で『THE SHOW MUST GO ON』を再構築するという明るい未来に塗り替えられた。それもPERSONZという屋号を決して下ろさなかったがゆえだ。まさに継続は力であり、バンドの歩みを止めなかったからこそ夢の断片を形にできた。耐えて咲かせる花もあることを、自称・大器晩成型のPERSONZは身に沁みて理解している。
終盤の“Wow, wow, wow, my best friends”の大合唱では、JILL、千秋、當間の3人が張り出しへ出向いてフロアとの境界線をなくす。全席から届く“Wow, wow, wow”、圧倒的一体感。「2024年もまた一緒に唄おうね!」というJILLの掛け声と共にアウトロへ加速、大団円を迎えた。最後は張り出しステージで記念撮影。「良いお年をお迎えください! 来年また会いましょう!」とJILLが挨拶し、PERSONZが親愛なるオーディエンスへ贈る2023年最大の祝典は幕を閉じた。
“THE SHOW MUST GO ON”、人生もショーも悔いの残らぬように最後まで最善を尽くして全うしたい。結成40周年の節目に向けてそう宣告し、表現者としての覚悟を明示したPERSONZの2024年は、いつか大輪の花を咲かせる日を夢見て絶えず疾走を続けるのだろう。寒苦に耐えて咲く梅や椿のような美しさ、可憐さ、揺るぎない強さを身に纏い、PERSONZの自己ベスト記録更新は続く。
photo by アンザイミキ
text by 椎名宗之
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