【ヒヨリノアメ インタビュー】
生きるために
一緒にバンドをやっている

L→R ウツイリント(Dr)、AKI(Vo&Gu)、萩谷尚也(Ba)

2015年に茨城県にて結成されたヒヨリノアメ。19年7月に初の全国流通ミニアルバム『記憶の片隅に』をリリースしたが、その後はコロナ禍やメンバーチェンジが重なり、20年からの2年間は楽曲制作やレコーディングを中心に活動していた。そんな中、一度脱退した萩谷尚也(Ba)が再加入したことで、AKI(Vo)、ウツイリント(Dr)の3人体制でライヴ活動を再開。しかし、昨年9月にAKIが縦隔気腫発症と皮下気腫を併発、10月には萩谷の難病が見つかる。萩谷は闘病を続けながら、現在は6月7日(水)リリースのミニアルバム『また君に会えるように』を製作中とのことで、今回の取材では約8年間止まらずに活動をし続けるヒヨリノアメの真髄に迫った。

今好きな音楽やメンバーのことを
嫌いになるタイミングが
来るんじゃないか

まず、OKMusicで取材をするのがミニアルバム『記憶の片隅に』以来なので、ウツイさんが加入した2019年後半のヒヨリノアメのことからおうかがいしたいと思います。ウツイさんはどんなきっかけで入ることになったのでしょうか?

ウツイ

当時ヒヨリノアメをプロデュースしていた、それでも世界が続くならのしのさん(篠塚将行)にヒヨリノアメのYouTube動画を教えてもらったんですけど、すごくカッコ良いなと思って、そこで加入したいと思いました。しのさんも一緒にヒヨリのメンバーと会って、初めて会ったその日にスタジオに入ったんですよ。そうしたらすごく音が合致している感じがあって、一緒にやっていこうという流れになりました。

萩谷

りんちゃん(ウツイの愛称)スタジオに入る前に吉祥寺の喫茶店でご飯を食べたんですけど、全然初めて会った感じがしなかったんですよ。人としての波長が合うというか。

AKI

人間性は重要視していたので、初対面の時から“合いそうだな”って思ったのはすごくデカかったですね。

萩谷

スタジオで音を出した時も、ドラムの音が身体まで響いてきて。ヒヨリノアメってフリーテンポの曲が多くて、その時々のAKIの歌に合わせて演奏をしているんですけど、りんちゃんはそこもうまくできていて、本当にいい人を紹介してもらったって思いましたね。

いいメンバーに巡り会えたわけですが、その後2020年7月に萩谷さんが脱退されて。その時はどんなお気持ちでしたか?

萩谷

『記憶の片隅に』を全国流通でリリースをしたことがバンドにとって大きい出来事だったんですけど、自分の感覚ではもっと評価されていいはずのにされないっていう想いがずっとあって。今思うと未熟だと思うんですけどね。音楽をするために上京したので大変なのは覚悟していて、音楽スタジオで働いて練習できる時間を増やしたり、自分ではできる限りのことを精いっぱいやっていたから、思うように結果がついてこないしんどさと、もっと頑張りたい気持ちのふたつを抱えて生きていくのに限界を迎えちゃったんです。それがりんちゃんが入って2カ月後くらいのことで、コロナの感染拡大も始まってきた時期でした。

ヒヨリノアメへの自信があったからこそ、立ちはだかってしまった壁ですね。

萩谷

音楽的な部分ではすごくパワーアップしている感覚があったんですよ。AKIにも気持ちの変化があったのを隣で見ていて分かったし、メンバーとのかかわり方がいい方向に変わっているのも感じていて、“このまま続けていったらバンドはいい方向にいくな”とは分かっていました。でも、このまま続けても生活はもっと大変になるだろうし、今抱えているしんどいことも続いていくのかと思ったら、今好きな音楽やメンバーのことをいつか嫌いになるタイミングが来るんじゃないかと考えてしまって。そうなる前にちょっと離れて休む時間が欲しいと思ったんです。メンバーに伝えたら戸惑ってはいたけど、“おはぎさんが幸せになることを考えてほしいから”と受け入れてくれました。

AKI

おはぎさん(萩谷の愛称)が音楽を辞めることは想像がつかなかったので、余程なんだと思いました。希望としては戻って来てほしいという気持ちもあったけど、まずは休んでほしいなと。休んだらまたベース弾くようになるっていうのは頭の中にありました。

ウツイ

あと、ヒヨリのメンバーはバンドを辞めても普通に会ったり仲良くするんですよ。それが他のバンドと違うところだと思っていて、そんなバンドだからおはぎくんが辞めてもまた会えると思っていました。

萩谷さんが脱退してからはDTMや打ち込みを使った制作が中心になったそうですね。

AKI

完全にパソコンで音楽を作るというよりは、今までにバンドでやっていた曲をレコーディングしたいと思って。おはぎさんが卒業してからは音源を出していなかったし、コロナ禍でライヴ活動を休止していたこともあって、このままだとバンドが止まっちゃうと思ったんです。でも、がっつりとレコーディングをするのは厳しそうなので、前にしのさんがデモを撮ってくれた時みたいにできないかと考えて、急きょ機材を買って、家にヴォーカルブースを作って、これまでにライヴでやっていた曲を中心に配信でリリースしました。

それが『君の過去も愛せてたら』(2020年10月発表の配信アルバム)と『栞の花』(2021年6月発表の配信EP)なんですね。

AKI

はい。曲作りはあまりできていなかったんですけど、メンバーも結構元気で、活動としてはその時間があったから止まらずにできていたと思います。

ウツイ

みんなで集まっていた時間が大事でしたね。

AKI

うん。ヒヨリはそうなんですよね。ゆったりとした活動ではあったけど、週一くらいのペースで昼過ぎから集まって、ツイキャスでラジオ配信をやったりしてね。

『記憶の片隅に』の時はバンドサウンドで一発録りをした作品でしたから、『君の過去も愛せてたら』を聴いてバンドの変化はかなり感じました。洗練された印象もあって、サウンドが明るくなったような。

AKI

今聴くと、この2作は結構変化の時期だったとは思っています。

ウツイ

自分が入って最初の作品でもあったので、リリースができること自体に嬉しさもありましたけど、コロナ禍でもあったので、“この状況の中で何ができるか?”ということを自分たちなりすごく考えて作ったものでもあって、この制作期間は新鮮でした。

アーティスト