THE NOVEMBERS『At The Beginning』
。混迷の時代に響くはじまりの歌

 では、終わったものとは何か? それはたとえば、強烈なインスダストリアル・サウンドを突きつける「理解者」の、<何だって知ってるし分かってる/俺のことを/俺よりも>、<あんたが噛んでたものばっか食ってたら/歯が抜けた>という歌。あるいは冷たいビートで反復を繰り返す、「New York」の<過去はくれてやる>、<賞味期限切れのファンタジー>というリリックから想像できるかもしれない。小林祐介(G&Vo)は本作について、「コロナ禍で浮き彫りになったいくつもの問題への眼差し、そこからの再解釈、新しい始まりの意を込めた」と表明している通り、未来を歌う本作には必然的に古くなった価値観への離別が存在する。強烈なノイズには否定の力があり、我々を縛りつけてきた悪しき風潮を退けようという意志を感じるのだ。
 実際、THE NOVEMBERSの音は変わった(進化、ないしは飛躍したと言うべきだろうか)。リリース前にアナウンスされていた通り、「Rainbow」と「楽園」を除いた7曲で、
がシーケンス・サウンド・デザインと、プログラミングで参加。ギターの音は後退し、流麗なエレクトロ・サウンドへとモデルチェンジ。yukihiroがデザインする音は極めて端正で、THE NOVEMBERSの美意識を強調しながら、彼らを新境地へ導いたと言えるだろう。これまでの作品でも、エレクトロニクスと生音の融合は行われてきたが、ここまで作品の中核を担うことは初めてのはずだ。
 さて、個人的に最も惹かれるのは、「消失点」や「楽園」のトライバルなリズム、オリエンタルなムードである。今ほど音楽で踊ることを期待していることはない。「今作は2020年以降のサウンドトラックになると私たちは考えています」とは小林の言だが、なるほど、この能動性こそ失われてしまったもの。希求すべき未来そのものだろう。果たしてそれはどんな形で取り戻せるのか。新しい関係、新しいシステム、新しい価値観、そして新しい笑い方ーー本当の共生へと踏み出せるのか試されている、そんな時代を生きているのだ。
 彼らは歌う、<本当の世界が見えるかい>と。未来とはすなわち変化である。


THE NOVEMBERS『At The Beginning』



2020年5月発売
¥3,080(tax in)
MERZ-0209

1, Rainbow
2, 薔薇と子供
3, 理解者
4, Dead Heaven
5, 消失点
6, 楽園
7, New York
8, Hamletmachine
9, 開け放たれた窓



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