ギターを弾くために生まれてきた、
ジェフ・ベックの傑作
『PERFORMING THIS WEEK:
LIVE AT RONNIE SCOTT'S JAZZ』
来日間近! 今回は永遠のギター・ヒーロー、ジェフ・ベックの数あるアルバムの中から、ライヴの予習復習にぴったりな傑作『PERFORMING THIS WEEK: LIVE AT RONNIE SCOTT'S JAZZ』('08)を紹介します。旧作からの代表曲もバランス良く配したこのライヴ・アルバムを聴けば、ジェフのギターの凄さがたちどころに分かる。
自分に対抗してくる存在、例えばヤードバーズ時代にはあとから参加してきたジミー・ペイジが目立つギターを弾いたものなら、別の日に用心棒を雇って殴らせたとか、先のジェフ・ベック・グループでは本当はサイドギターのはずだったロン・ウッド(現ローリング・ストーンズ)に、ギターは自分ひとりで充分だからとベースギターに転向させたり、看板ヴォーカリストのロッド・スチュワートが人気を得ると、せっかくの逸材であるにもかかわらずクビにした。第二期ジェフ・ベック・グループでヴォーカルを務めたボブ・テンチに対しては、“前のヴォーカルはもっと歌えたぞ”と言って過剰なプレッシャーを与えてシゴいた上、やっぱりアルバム2枚であっさりクビ、とか。そのうちの、幾つかは事実だったのかもしれないが、どれも噂のひとり歩きというやつだった。それにあのルックスである。やせっぽちで黒髪、少しエキゾチックな顔でレスポールを、ストラトキャスターを構えた姿はいかにも孤高のギタリストのイメージそのものだった。
最新の音楽探究に実は貪欲
もっとも、その流れで考えると不思議でならないのがBB&A(ベック・ボガート&アピス)で、現在ではこのトリオは第一期ジェフ・ベック・グループ解散後に、より強力なハードロック路線を実現するために結成されるはずだったのだが、ジェフの交通事故によって一度は流れてしまったプロジェクトだった。それが第二期ジェフ・ベック・グループ解体後に再燃するかたちで組まれたのには、どうやら契約の問題があったかららしい。きっと、その頃すでにジェフの頭には数年後に実現するギター・インストゥルメンタル構想があったに違いない。
そういうわけで、周囲からは惜しまれつつBB&Aを解散させると、翌年、1974年にはジェフは次のプロジェクトを実現すべくスタジオ入りする。本当にやりたかったそのアルバム制作のレコーディングは、所属レーベルからの要請があって動き出したのではなく、自ら共演者を選び、自費でスタジオの予約を入れるほど、気合いの入ったものだったという。
念願のギター・インストゥルメンタルの世界へ
永遠に色褪せない名盤『BLOW BY BLOW』、『WIRED』
ところが、『BLOW BY BLOW』と『WIRED』においては、オリジナルに加え、ビートルズの「SHE'S A WOMAN」を取り上げるなど、カバー曲にもチャレンジしているのだが、全編ギターを弾きまくっているものの、トリッキーなプレイは抑えられ、徹頭徹尾、要所を締めた腰の据わった演奏が見事に決まっているのだ。このあたり、楽曲、ギターパートのアレンジといった部分まで、ジョージ・マーティンのアドバイスがあったのだろう。演奏もさることながら、アルバムのバランスというか、クオリティーが他の作品と比べて並外れて優れているのだ。ついつい弾いてしまうジェフも、さすがにジョージ・マーティンの指示には従ったのだろうか。ギター・インストゥルメンタル・アルバム2作を制作するにあたって、ジェフが下敷きにしたのがジョン・マクローリン(JOHN McLAUGHLIN=一般にはこれまで“マクラフリン”表記が一般的だが、これには違和感を感じる)率いるマハヴィシュヌ・オーケストラで、彼らの『APOCALYPSE』('74)をジョージ・マーティンがプロデュースしていたことから、白羽の矢を立てたのだろう。
『BLOW BY BLOW』に収められた「SCATTERBRAIN」、『WIRED』の「LED BOOTS」などは現在でもライヴの重要なレパートリーになっているが、天空を駆け上っていくようなスリリングな速弾きとハードなアタック、息もつかせぬインタープレイはまさにジェフの真骨頂といったところだろうか。前者ではリチャード・ベイリー、後者ではナラダ・マイケルウォルデンと、当時は新進気鋭のドラマーの起用も大正解だった。それにしても『BLOW BY BLOW』の発売時の邦題は“ギター殺人者の凱旋”となっていた。これを付けた担当者のセンスには未だに首をかしげずにはいられないけれど、40年近くたった今でも覚えているという…インパクトだけは強烈だった。
傑作ライヴで知る、今なお進化し続けるジェフのギター
肝心の演奏はタル・ウィルケンフェルド(bass)、ヴィニー・カリウタ(drums)、ジェイソン・リベロ(keyboard)という布陣で、卓越した演奏力に支えられ、ジェフは縦横無尽に、圧倒的なギタープレイを披露している。特に、ジェフとの共演によりその才能を世間が知るところとなった若き女性ベーシスト、タル・ウィルケンフェルドとの掛け合いなどは、なかなか聴き応えがある。ウィルケンフェルドはこの時、若干21歳、後に一躍トップベーシストのひとりとして衆目の認めるところとなり、ハービー・ハンコックをはじめ著名なアーティストのセッションにも引っ張りだこの人気プレイヤーとして活躍している。そう言えば、ジェフはことベースプレイヤーとの出会いには恵まれているらしく、過去にスタンリー・クラークとは彼のソロ作『JOURNEY TO LOVE』('75)や『MODERN MAN』('78)等で共演し、壮絶なバトルを披露している。
著者:片山明
アーティスト
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