【明田川進の「音物語」】第26回 「
AKIRA」金田役の岩田光央さんと鉄雄
役の佐々木望さん

 今回のコラムは、「AKIRA」公開日(1988年7月16日)にあわせて掲載されるそうです。前回 に続いて、「AKIRA」のキャスティング関係の話をしましょう。
 「AKIRA」は、大友克洋さんからの従来の声優さんではないところでできないだろうかとの要望をうけて広くオーディションを行い、金田役に岩田光央さん、鉄雄役に佐々木望さんが抜てきされました。
 当時の岩田さんは俳優の仕事が多くて、「AKIRA」では「自分なりのリアルな芝居をしてほしい」と話した記憶があります。彼は独特のいい声をもっていて芝居心もありますから、金田役にどんどんはまっていきました。その後、何度もご一緒させてもらっていますが、彼は心意気がいいんですよね。若い人たちに対して「もっとこういうやり方をしたほうがいいのでは」と直に言うことができて、彼がいるだけでスタジオの雰囲気が締まるんです。スタジオのマナーなどもそうですが、僕たちが言うより岩田さんのような立場の人が言ってくれたほうがありがたくて毎回助かっています。
 佐々木さんも、鉄雄の役づくりに相当入れ込んでいました。彼は原作や台本を深く読み込んで役に臨むタイプで、「AKIRA」に参加したことによって自分の役づくりが一段上がった実感があったそうです。その後、「AKIRA」と同じ年にはじまったOVA「銀河英雄伝説」のユリアン役で長く付き合うことになります。
 「AKIRA」はプレスコで収録していて、役者は自分なりの芝居の間合いをとることができました。録ったセリフをスポッティングして作画の人に渡しているため、あの感じがでているのだと思います。大友さんは「AKIRA」専用の口パクのパターンをつくり、従来のアニメよりも滑らかに動いてみえるようにしていました。収録は絵コンテを撮影したものをもとに行っていますが、絵コンテがなかなかあがらなかったため間をあけて何度かに分けて行っています。映像が完成したあとに声とあわせたあと、「ここはもっとこうしたい」と録り直したところも何箇所があったはずです。
 マジックカプセルの入り口には、今のビルに引っ越してきてから「AKIRA」のポスターをずっと飾っています。かつてこういう音づくりをしたよという思い出のようなものですが、ポスターを見た人が「お、『AKIRA』だ」と興味を惹かれてそこから話が広がることもあります。それぐらい僕にとって思い入れのある作品です。

アーティスト