【moke(s) インタビュー】
自分が自分のプロになっていく

L→R 小寺良太(Dr)、町田直隆(Vo&Gu)、海北大輔(Ba)

町田直隆(ex. BUNGEE JUMP FESTIVAL)、海北大輔(LOST IN TIME)、小寺良太(ex. 椿屋四重奏)という最強の3人がタッグを組んだmoke(s)。前作ミニアルバム『BUILD THE LIGHT』から約半年を経てリリースされる2ndミニアルバム『GIVE MORE GEAR』も強力な仕上がりとなった。

7月にリリースした前作のミニアルバム『BUILD THE LIGHT』と同時期に今回の曲も録っていたようですね。

町田

そうなんです。あの時に10曲くらい録ってたんですよ。前作と今作とで前編と後編みたいな感じになっています。

海北

前作を作っていた時点では、フルアルバムをイメージしながら曲を書き溜めつつ録音していたんです。最終的に“最初の一枚はミニアルバムにしよう”とまとまって。そして、録った中から選んだ7曲が前作になったんですけど、残りの曲も組み立て方次第で面白い作品になりそうだねってところから、今回の作品へとつながりました。

今作を聴いて改めて思ったんですけど、moke(s)のサウンドは90年代のグランジ、オルタナティブロックの香りがすごくありますよね。

町田

そうですね。今回のほうが王道の90年代的なサウンドなのかもしれないです。前作はわりとアップテンポで、分かりやすくロックなテイストが強かったんですけど。

海北

僕の個人的な見解としては、外に向いた枝葉のようなタイプの曲が多かったのが前作。そして今回の曲たちはmoke(s)の幹や骨格、内側のインナーな部分なイメージですね。

町田

今回は歌詞に関しても内面に向かっている感じがあるかもしれないです。

リスナーの観点から言うと、今作は前作以上に肌で音圧を感じられる曲がたくさんあるという印象も強いです。

町田

サウンドの制作チームは前作と同じなんですけど、より“moke(s)の音はこうだよね”というのを共有しあえるようになってきて。それも大きいですね。

小寺

ミッドローとかローのガツン!とくる感じがあると思います。この3人が出す音は前作と変わっていないんですけど、ミックスの段階で今回はそこにフォーカスが当てられたんでしょうね。

今作での小寺さんのドラムは、こん棒でぶん殴る野蛮人的な感じが一層強まっている感じがします。

小寺

『モンスターハンター』で例えると双剣じゃなくてハンマーっていう感じでしょうか(笑)。

(笑)。90年代のグランジとかの音って双剣というよりハンマーでしたよね。

町田

そうですね。あの頃の音は自分にとっての“カッコ良い”の基準になっているんですよ。その“カッコ良い”を追求していくと、あの時代の音になるというか。

海北

自分のバンド(LOST IN TIME)も並行してやっている僕としては、moke(s)をやっているからこそ“LOST IN TIMEは正しい足跡を辿ってきたのかな”ってことを感じられるのも嬉しいんですよ。

町田

その感覚は僕もありますね。moke(s)が楽しいことによって、自分の過去に自信を持つこともできています。

小寺

ライヴを観てもらえば、そういう感じもすごく伝わるバンドですね。だって、この3人、ニヤニヤしていますから(笑)。

海北

基本的にmoke(s)のライヴはムービー撮影がオーケーなので、SNSとかにどんどん上げてもらって。それを観てもらえれば、楽しんでやっていることが伝わると思います。

充実した活動ができているということですね。

海北

はい。最近、またさらに面白い曲が出てきているんですよ。僕もソングライターですから、町田くんにはいつも嫉妬しています。

町田

ありがたい!

小寺

今年も町田くんは俺らを楽しませてくれることでしょう(笑)。

(笑)。今作の話に戻りましょう。「デスバイサウンド」はライヴで盛り上がるタイプの曲ですね。

町田

まさにそういう曲です。

海北

これは歌い出しのリリックの勝利の曲でもありますよ。《ねぇスティーヴン・ホーキング 教えておくれ》というのを、この譜割りとメロディーで歌うってものセンスというか。

町田

僕がmoke(s)の曲を作る時って完全にメロディー先行なんです。メロディーに合わせた言葉をチョイスしていくと、自分でも思わぬ言葉が自分の引き出しから出てくるんですよね。

海北

こういう歌詞って意味がどんどん味わい深くなっていくんだよね。moke(s)をやりながらそういうことも勉強してるというか。

町田

意味は聴いた人それぞれで見つけるもので、最初から100パーセント意味を置いちゃうと言葉を楽しむ余裕がどんどんなくなっちゃうのかなと。もちろん意味を明確に置く歌詞の曲の良さもあるんですけど、moke(s)ではこういう書き方をしています。音だけじゃなくて言葉でも楽しんでもらえるようにしたいので。

海北

1曲目の「リグレット」と2曲目の「デスバイサウンド」のギャップもすごくいいなと思っていて。これだけヘヴィでゴリゴリに寄せている作品の1曲目が一番スウィートでメロウというミスマッチぶりも含めて楽しいですよ。

町田

このミニアルバム、曲順もすごく考えました。最初が「リグレット」で最後の曲が「ステイシー」であることによって、ひとつの物語が完結するようなイメージのものになったと僕は感じています。

「ステイシー」はシンセが良い味を出していますね。

町田

こういうアナログシンセの音って90年代の感じなんですよね。入れてみたら“やっぱ、俺たちの頭の中で鳴ってた音はこれだよね”ということを思いました。

Weezerとかのあの感じですね。moke(s)の音楽は洋楽の香りをたくさん味わえるのも魅力的なところです。ディスクユニオンに通って洋楽とたくさん出会った90年代のことを、僕は聴きながら思い出したりしています。

町田

僕もユニオンに通っていましたよ。あの店にどれだけ金を落としたか(笑)。あと、吉祥寺にワルシャワっていうレコードショップがあったんですけど、あそこがなければ今の僕はありません。

小寺

みんなにそういう店ってあるよね?

海北

ある。僕のそういう店は国分寺の珍屋とか新宿のオールマンかな。ハードコアから昭和歌謡まで、いろいろ買ったなぁ。

小寺

俺はお店の名前は忘れちゃったんですけど、高校の頃にバスを使って1時間くらいかけて行っていた岡山のレコード屋がありました。商店街の中で唯一洋楽が置いてある店だったんです。そこでGuns N' Rosesのアルバム『ユーズ・ユア・イリュージョン』を買ったり。あと、Pink Floydの「エコーズ」のVHSを買ってはみたものの、高校2年生にはさすがによく分からず、押し入れにしまったり(笑)。

海北

音楽はミョウガとかわさびみたいに、ある程度の年齢になってから分かるようになることがあるよね。

小寺

うん。NIRVANAのアルバム『ネヴァーマインド』は最初からすぐにガツン!とくるものがあったけど。

町田

『ネヴァーマインド』は池袋のWAVEでかかっているのを中1の時に聴いて、“めちゃくちゃカッコ良い!”って思って、“これ、何ですか?”って店員さんに訊いたんです。でも、その店員さんもよく分かっていなくて、“多分これだと思います”って言って持ってきたのが、METALLICAのアルバム『ブラック・アルバム』。

小寺

全然違う(笑)。

町田

僕はそれを買って帰ったんです。聴いてみて“違う!”と(笑)。そこからNIRVANAに辿り着くまでに半年くらいかかりました。

今回の作品はそういうみなさんの背景が素直に表れていますね。

町田

ジャケットもそういうものになっています。FLIPPERっていう海外のバンドのジャケットのオマージュなんですよ。

改めて訊くのも変ですけど、みなさんはロックが大好きですよね?

町田

大好きです。ロックが僕に教えてくれたことのひとつが“お前、別に無理して群れなくていいぞ。ひとりでいいじゃんかよ”っていうことなんです。

海北

僕と町田くんはグランジ、オルタナティブの前の下地としてパンクロックも通っているんですけど、パンクロックって基本的に逆張りで、メインストリームにいない人たちのための音楽じゃないですか。町田くんには永遠にそういうロック少年な側面があって、僕はそこにシンパシーを覚えています。

町田

うん。パンクのメッセージが僕の根底にあるのかもしれないですね。ジョニー・サンダースの「ボーン・トゥ・ルーズ」とか卑屈極まりない曲に影響を受けましたし。

小寺

このふたりは移動中に初期パンクをずっと聴いているんですよ。俺はパンクは通っていなくてRAMONESくらいしか知らない感じだったんですけど、このふたりの話を聴いているといろいろ新鮮で面白いです。

ロックから刺激を続けている人たちの集まりが、このバンドですよね?

小寺

はい。俺も“音楽が好きなんだからしょうがねぇ”って諦めがついているところがあります(笑)。レコーディングの時も重箱の隅をつつくような細かいことは考えなくなりました。そういうのは不毛だと分かるようになったから。

町田

ロックは“カッコ良い”が正解なんです。演奏で間違っていようが結果的に出来上がったものがカッコ良ければ、それでいいんですよ。

小寺

昔は上手ければいいと思ってたけどね。

町田

うん。音の厚みや迫力はパソコンで作る音楽には勝てないんですけど、ロックは計算されていないものだからこそのカッコ良さがあって、それが一番の武器なんですよね。

海北

ギターのディストーションとかの“歪み”って“歪”(いびつ)っていうことだけど、“正しくない”っていう意味の字なんだよね(笑)。そういうことなんだと思う。

町田

“不正”であることがロックの良さなんですよ。そこがこの先もロックバンドが残っていく上での大切なキーワードでもあると思います。

海北

この3人はそういうことを受け止めてきた人たちで、そういうことを誰かに伝えるのに20年ちょっとかかって、今こうしてmoke(s)になったんでしょうね。まぁ、20代のうちにこういう音を鳴らせるようになっているのが理想でしたが(笑)。でも、音楽は長く付き合えば付き合うほど、やるのも聴くのも楽しくなるんですよ。

町田

大人になるほど楽しいって思える人生を歩めているのは、改めて考えるとすごくラッキーです。

大人になると子供の頃に楽しいと思っていたものをより自由に楽しめるようになったりもしますよね?

町田

はい。“プロ子供”ということですね(笑)。

海北

僕らはプロ子供かつ素人おじさんなバンドです(笑)。まぁ、いろんなことに対する心配はなくならないんですけど、そことの付き合い方も上手くなりましたね。

小寺

無駄な心配は不毛ですからね。

町田

おじさんになればなるほど、笑顔のほうがカッコ良いっていうことも感じます。しかめっ面のおじさんはダサい。笑顔でいることの難しさを知っている分、そういうことを思うようになりました。

大人になると自分の乗りこなし方が分かってくるから、変に悩みすぎて肩肘張りすぎなくなる面もあるのかもしれないですよ。

町田

そうですね。“自分が自分のプロになっていく”みたいなことなんでしょうか。

海北

“自分自身のプロフェッショナルになっていく”ってすごくいい言葉だね。ほんと、そういうことなんだと思う。

取材:田中 大

アルバム『GIVE MORE GEAR』 2019年2月13日発売
Low-Fi Records

  • LFRR-0011
    ¥1,620(税込)



『moke(s) 2nd Mini ALBUM「GIVE MORE GEAR」発売記念ONEMAN LIVE「もっと武器をくれ」』

2/24(日) 東京・吉祥寺PLANET K

moke(s)

モークス:町田直隆(ex.BUNGEE JUMP FESTIVAL/WORLD JUNK)の呼びかけによりスタートした3ピースバンド。2014年より始動開始。15年11月に岡山健二(Dr)の離脱により新たに小寺良太(ex. 椿屋四重奏)を迎え、現在の体制になる。18年7月にミニアルバム『BUILD THE LIGHT』をリリース。

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