【THE PINBALLS インタビュー】
ロックンロールのひと言では
片付けられない
L→R 森下拓貴(Ba)、古川貴之(Vo)、中屋智裕(Gu)、石原 天(Dr)
人気上昇中のロックンロールバンド、THE PINBALLSがメジャー1stフルアルバム『時の肋骨』を完成させた。死と再生をテーマに想像力豊かに時空を超える歌詞とタイトな演奏に込めた想いを古川貴之(Vo)が語る。
バンドの状況がどんどん良くなっている中で、今回のアルバムを作るにあたっては、どんなところから取り組んでいったんでしょうか?
もちろん一曲一曲はカッコ良いんですけど、2014年にリリースしたフルアルバム『THE PINBALLS』のようにコンセプチュアルなものを作りたいと思ってました。『THE PINBALLS』のコンセプトは1曲を1カ月として1年でしたけど、今回は1曲に2時間ずつ役割を持たせて、12曲で夜に始まり夜に終わる、1日の24時間の流れを作りたいと。
そこには一貫したストーリーがあるわけですか?
聴く人に先入観を持ってほしくないので、あまり言いすぎても何なんですが…死と再生をイメージしてました。11曲目の「COME ON」に出てくる蝶は生まれ変わりの象徴なんです。だから、歌詞カードも蝶を象って左右対称にしている。死や別れ、終わりをテーマにした曲もあるんですけど、死んでも生まれ変わるというイメージで作りました。ただ、それは自分の中の裏テーマであって、聴きながらどんなふうに受け取ってもらってもいいと思ってます。
1曲目の「アダムの肋骨」は聴きながら、何の象徴なのだろうといろいろ想像しました。旧約聖書ではアダムの肋骨から作られたイヴは産みの苦しみを与えられる。つまり、「アダムの肋骨」は古川さんの産みの苦しみなのかなと。
あぁ、なるほど。僕は単純に女の人だと思ってました。“アダムの肋骨”ってタイトルがカッコ良いと思っただけで、そんなに深くは考えてなかったですけど、夜中から始まる歌なのでセクシーなイメージがあったんですよ。こういう時代だからこその女性賛歌です。でも、“産みの苦しみ”っていう解釈もカッコ良いかもしれませんね。何がどうしたっていうところをはっきりと語らない歌詞の強みですね。意図していないことも意図していたように振る舞える。そういうのが楽しいんですよ。だから、次のインタビューでは“俺の産みの苦しみです”って言うかもしれない(笑)。
THE PINBALLSの作品って毎回そういう含蓄があるから、聴きながらいろいろ想像が膨らむんですよ。例えば7曲目の「ヤンシュヴァイクマイエルの午後」はチェコの映像作家のヤン・シュヴァンクマイエルのことだと思うんですけど、彼の奥さんってエヴァ(イヴ)じゃないですか。
それは知らなかった。ちなみに“ヤン・シュヴァンクマイエル”を“ヤンシュヴァイクマイエル”にしたのは、自分の過去の誤解からの着想です。昔、彼をほのぼのとしたクレイアニメを作るヤンシュヴァイクマイエルという人だと誤解していた。なので、名前も違う架空の人としてそのままタイトルにしました。間違っていたけど、頭の中の誤解が面白くて、間違った世界の可能性みたいなものや“気楽にいこう”っていう意味を曲に込めたんです。
イマジネーション豊かに時空を超える歌詞にはいろいろ仕掛けがあって、5曲目の「BEAUTIFUL DAY」の歌詞に8曲目の「風見鶏の首飾り」の風見鶏を意味する“weather vane”という単語を見つけて、思わずニヤリとしました。
実は12曲がそれぞれ対になってるんです。1曲目の「アダムの肋骨」に対しては12曲目の「銀河の風」。3曲目の「DAWN」と10曲目の「DUSK」はタイトルからして分かりやすいんですけど、左右対称になってる歌詞カードを実際に手に取ってもらうともっと分かると思います。だから、「BEAUTIFUL DAY」に対応しているのが「風見鶏の髪飾り」なんですけど、前者が女の子、後者が風見鶏の気持ちなんです。左右両側に12本ずつある人間の肋骨のように左右対称にしたかったんですよ。
12曲あるといろいろな曲を入れることができますね。
でも、幅を見せたいと思いながら作ってはないんです。それよりも、自分はいろいろな音楽が好きなんだなって思えました。激しい曲も大好きだし、J-POPも好きだし、“The Beatlesっぽい全然リバーブ感がないスネアが超近くに感じるミックスにしてもらおう”とかも考えてて。それは「BEAUTIFUL DAY」なんですけど、“いろいろな曲が作れるぞ”って狙ったわけではなくて、気付いたらバラエティーに富んだ曲ができてましたね。
「ヤンシュヴァイクマイエルの午後」ではアコースティックギターとハーモニカが鳴っていますね。
僕らの曲では初めてですね。「風見鶏の髪飾り」ではマンドリンが微かに鳴ってます。多少、曲が並んだ時のバラエティーのことも考えました。
だからって変に賑やかにせずに、むしろクールに、芯の部分でバンドのスケールアップを印象付けているところがどっしりと地に足が着いているように感じられます。
音数も少ないんですよ。あえて抜いたと言うよりは、迷いなく“これでいこう!”って作っていったんで、最低限の音数になっていると思います。自分でもかなりタイトだと思いますけど、それをメンバー全員がプライドを持って演奏できるのが僕らの長所なんだと改めて思いました。
そして、古川さんの歌声は自信に漲っていて。
自分でも聴き惚れていて(笑)。声を聴いてほしい。慢心してるわけではなくて、自分が良いと思っているものをみんなに聴いてもらえることが嬉しい。めっちゃ幸せです(笑)。ツアーのさなかにレコーディングしたのが良かったのかな。そんなに回数も歌ってないんですよね。
リリース後はTHE PINBALLSにとって最大キャパシティーとなる恵比寿LIQUIDROOM公演を含むワンマンツアーが待っていますね。その意気込みを最後に聞かせてください。
メンバー、スタッフの力ですごくいいアルバムになったので、新しい楽曲をライヴでやるのが今から楽しみなんです。間違いなく、その日日本で一番カッコ良い歌詞と声、そして演奏を聴けるので、絶対来てください。“お前ら来いよベイビー!”って、そんなキャラじゃないですけど…それぐらい強気で頑張っていこうと思ってます。
取材:山口智男
「アダムの肋骨」MV
「CRACK」MV
アルバム『時の肋骨』トレーラー
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