OLDCODEXインタビュー「Heading to
Over」は競技者として前に進みたいと
いう強い気持ち、仲間との絆を大事に
しながら、骨太い曲にしたいと思った

7月から放送されているTVアニメ『Free!-Dive to the Future-』の主題歌「Heading to Over」を担当するOLDCODEX。『Free!』シリーズの主題歌を1作目から担当してきた彼らは、声優としての顔も持つTa_2とペインターのYORKE.の2人組という、異色の組み合わせのロックユニット。そのヘヴィなロックサウンドがどのような想いで作られたのか、そして8月27日から始まる全国ツアーOLDCODEX Tour“GROWTH TO BE ONE”について訊いた。
『Free!』テレビシリーズの主題歌に関しては、すべて同じBPMで統一されている
――Ta_2さん作曲、YORKE.さん作詞による「Heading to Over」、ありきたりな言葉になってしまいますが、とてもエモーショナルでかっこいい曲だなと。
Ta_2:そういう素直に感じたままの言葉を言ってもらうのは、すごくうれしいことだし励みになりますよ。ありがとうございます!
――OLDCODEXはこれまでテレビアニメ・劇場版含め『Free!』シリーズの主題歌を3度担当し、Ta_2さんは橘真琴を演じてもいるわけですが、『Free!-Dive to the Future-』のオープニング主題歌でもある「Heading to Over」は、どういう想いで曲作りに臨んだのでしょうか。
Ta_2:『Free!』シリーズの主題歌を担当させてもらうのは、映画も含めると4回目。そうやって俺たちに声をかけてもらえることへの感謝が、まずあって。自分たちにできることをより大事に、色濃くして曲を作りたいなというところで、第1期『Free!』の主題歌「Rage on」、第2期『Free!-Eternal Summer-』の主題歌「Dried Up Youthful Fame」に引き続き、第3期『Free!-Dive to the Future-』の主題歌となる「Heading to Over」もBPM=220にしたんですよ。『映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-』の主題歌「Aching Horns」だけ、ハーフサイズのBGM=110なんですけど……。
――『Free!』テレビシリーズの主題歌に関しては、すべて同じBPMで統一されているわけですね。
Ta_2:そうです。主題歌というのは作品の顔にもなりますからね。曲によって色模様は違っても、根底に流れるものは同じだという見せ方をしたかったし、それは連続で主題歌を担当させてもらえる者の強みなので。楽曲制作においては意識をせばめる要素にはなってしまうんですけど、そこはプライドとして守り通したかったんです。その上で、『Free!-Dive to the Future-』の河浪栄作監督と話をして、競技者として前に進みたいという強い気持ち、仲間との絆を大事にしながら、骨太い曲にしたいと思ったんですよ。
――通りで、ガツンとした骨っぽさがあるわけです。
Ta_2:これまではドロップDチューニングだったんですけど、一音下げてドロップCチューニングにして。すると、自分の声にもしっくりはまって、意志の強さ、男としての意地みたいなものも、より明確に表現できるんじゃないかなと。
――加えて、ドラマティックな展開にも胸が熱くなります。
Ta_2:4人で想いをつなぎながらリレーをしていく様(さま)を、曲としても表現していきたくて。
――光があれば影もある、それを感じさせてくれるところもリアルだなと思いますし。
Ta_2:自分たち自身、たくさんのライヴを重ねてきた中で、悔しい想いもしてきましたからね。己自身を奮い立たせるためにも、光だけではなく影にも正面から向き合って、応援歌ではなく鼓舞する曲にしたかったんです。歌詞を書くYORKE.には、そういった自分の想いプラス、「いつも以上にストレートな言葉を投げかけてほしい」ということを伝えて。
YORKE.:なので、大前提としてストレートな表現をしようと心がけつつ……スポーツっていうのは、勝つ人のほうが圧倒的に少なくて、大多数の負ける人の上に勝者が立っているわけじゃないですか。自分自身、高校まではバスケットボールに熱中して過ごしたけど、僕もまた勝てなかったから今ここにいるわけだし。『Free!』で光を浴びているキャラクターたちにしても、努力しても勝利をつかめなかった人たちの上に立っているんだということを忘れてはいけないなと思いながら書いた歌詞ではあります。
――だから、“勝者”“敗者”という言葉があるのですね。ただ、どういう結果になろうとも、“出会えた馬鹿な夢 好きなだけ信じて行くのさ”という言葉には、力をもらえます。
YORKE.:『Free!』は勝ち負けだけじゃなくて人間のドラマも描いているから、これくらいストレートに伝えてもいいのかなって。自分自身、精神年齢的にはまだまだガキで、なんだかんだまだそうだと信じているし、信じたいんですよね。どれだけ頑張っても努力が報われないことはあるけど、ひとりではできないことも、仲間と一緒ならできるかもしれないし。
――“この絆や想いで 共に行くのさ”という一節の通りに。
YORKE.:そう。もし夢がない、自分はひとりだっていう孤独感を抱えているなら、OLDCODEXのライヴに来てくれれば、俺たちがひとりにしておかないし、友だちも絶対にできるし。音楽にはそういう救いもあるんだっていう提示も、あらためてしたかったのかもしれないです。
Ta_2:「Heading to Over」を聴いて奮い立ってくれる人がいるなら、その瞬間、そこには俺たち2人とバンドメンバーもいるんだぜ、っていう気持ちで曲を作っているしね。作品に対してのメッセージと自分たち自身のメッセージ、同じ熱量で込められたと思います。
――そんな「Heading to Over」のMVは、衝動的なパフォーマンスが目に鮮やかないっぽう、YORKE.さんがダイナミックにペイントをしていく過程を確認できたりもして、何度でも観たくなります。
Ta_2:ロケ場所は、なかなかの下町だったんですけどね。
YORKE.:そうそう。あんなかっこいい切り取られ方をしているけど、実はザ・ジャパンっていう感じの、今にも金八先生が登場しそうな河川敷だったもんね(笑)。
Ta_2:撮影中、ジャージ姿のおじちゃんとかおばちゃんがちらほら現れて、写メ撮ったりしてね。絶対俺たちが誰か知らないのに(笑)。
YORKE.:そういう雑音もありつつ……陽が落ちたら撮影できないぞっていう緊張感、スピード感がよくて。いつもだいたい僕は居残りで撮影して、Ta_2が先に酒飲んでるっていう感じなのに、今回はみんなとほぼ同じタイミングで撮影終了できましたよ。一瞬、ドッキリかと思った(笑)。
Ta_2:「ホントに終わった?」ってずっと聞いていたもんね(笑)。っていう今回のMVでは、“自分たちをシンプルに見せよう”というコンセプトで、まさにYORKE.が絵を描いていく過程をちゃんと見せたかったんですよ。ライヴと違って、ペイントしているYORKE.に近寄って、ペンキがどう散っているのかも撮れるというのが映像作品の強みですからね。そこを大事にしつつ、バンドをどうブレンドするか考えながら、ちゃんと自分たちをプロモーションできる作品にもしたいぞっていう。
Ta_2は歩くWikipedia
YORKE.:Ta_2はね、最近立派なディレクターですよ。ここ3、4本のMVは、15秒とかのCMサイズに出し惜しみせずオチも全部入れ込んでいたりして。そういう発想いいな、って思っていますよ。
Ta_2:監督と絵コンテを見ながら話していても、「あの映画のあのシーンよかったですよね」とか、「あのMVのああいう見せ方いいですよね」とか……。
――アイデアが次から次へと湧いてくるわけですね。
YORKE.:もうね、話し出したら全然止まらない。俺は、そういうTa_2と監督のやりとりを「なるほど」って言いながら見ているだけ(笑)。
――そうした表現欲は、レコーディングの現場でも発揮されるわけですか。
Ta_2:そうなんですよ。音作りに関しても、いろいろ浮かんできちゃって。
――忙しい日々の中で、いったいどうやってインプットしているのでしょう。
YORKE.:それがね、本当に謎。たとえばネットショッピングだったら、僕は買ったつもりでいつまでもカゴに入れたまま、まだ荷物がこないなぁと思っている詰めが甘いタイプだけど(笑)、Ta_2は……。
――随時状況をチェックして、もし荷物がこないなら追跡もしたりとか。
Ta_2:そう、めっちゃ追跡します(笑)。
YORKE.:今回の衣装にしても、Ta_2はこういう服が着たい!という意志が明確だけど、僕はスタイリストさんが持ってきてくれたものに袖を通しただけで、それを自分なりに塗っちゃうっていう。
――表現の仕方も違うと。そういう2人だと、お互いにいつでも刺激的ですよね。
YORKE.:そうかもね。確かに、俺から見て、Ta_2の考え方はすごくおもしろかったりするし。
Ta_2:ま、俺は思いつくままにこういうことをしたい!っていうアイデアを投げちゃうから、YORKE.だけが大変なんじゃないかっていう気はするけど(笑)。
YORKE.:そもそもは俺が先に出会っていた物事なのに、いつの間にかTa_2のほうが100倍くらい熟知しているっていうこともあるしね(笑)。
――どれかひとつではなく、いろいろなことに対して探求心がとても強いのでしょうね。
YORKE.:ホント、たいがいのことは知っていて。最近、俺はTa_2のことを歩くWikipediaだと思っているからね(笑)。マイクとか機材に関しても、エンジニア並みの知識があるし。
Ta_2:アイデアが止まっちゃうのがイヤだし、いろんなことを覚えて考えるのが好きなんだろうね。
YORKE.:映画とかゲームに関しても詳しくて、それはいいんだけど……こっちが観たりやったりする前に全部結末を話してくるから、そこは厄介(笑)。
Ta_2:それは……ついつい、申し訳ない(笑)。
――でも、そうした知識の積み重ねやそこからの閃き、発想はバンドの可能性そのものですもんね。
Ta_2:そう、YORKE.はいい意味での主観、感性がすごく強くて、俺はそれが大好きなわけだけど、じゃあ自分がバンドのフロントマンとしてなにができるのかと考えたときに、やっぱり広い視野でいろんなことを吸収していくっていうのが大事だと思っていて。
YORKE.:Ta_2は役者の仕事をしているから、瞬間的にいろんな顔になれるしね。レコーディングをしているときにも、この人多重人格だな!って思うもん。
「Clean out」作曲の岡本武士はクリエイターとしてイノセントな部分がある
――今回のカップリング曲にしても、ダンスロックな「Bang」、グルーヴィーな「another point」、メロウな「Clean out」(アニメ盤のみ収録)と、3曲それぞれでガラっと異なる表情を見せていて。
YORKE.:そう、キャラクターがまったく違うでしょ? 感情どうこうっていうより、もう自分の喉を楽器のように操って歌い方を使い分ける能力、本当にすごいなって感心してる。
Ta_2:自分の一番の武器って、そこだと思うから。あと、「Bang」「another point」「Clean out」の3曲をレコーディングする前、クラシック畑の人から発声練習を教えてもらったことも大きい。これまでは母音が強かったのかなとか、子音の残りが甘かったのかということに気づいて歌録りに生かせたし、身体を鳴らして歌うことの楽しさを再確認できたからね。
YORKE.:Ta_2は自分で声にエフェクトをかけちゃったりもするし、ダブルで歌を重ねて録るときも1本目とドンピシャで当ててくるから、エンジニアさんがびっくりするしね。よく俺がやべぇやつみたいに言われたりするけど、本当にやべぇのはこっち(Ta_2)だから(笑)。
――「Bang」は大胆で不敵、「another point」では高揚感をまとったり、さらには「Clean out」の浄化力高い歌声で聴き手の心を動かしたり、本当に変幻自在ですもんね。
Ta_2:お、それはうれしい言葉。ちなみに、テーマ性を持たせたアルバムだとどうしても選択肢が限られるけど、シングルのカップリングは自由度が高いし、新しい風を入れてもらいたいなと思って、今回のカップリングは作曲者を隠してのコンペにしたんですよ。結果、初めて曲提供してくれることになった岡本武士くんの「Clean out」は、新鮮でありながらも自分たちの世界観とリンクしている部分も多々あったし、彼自身、バンドのアレンジをするのは初のことながら、変に背伸びすることなくレコーディングに臨んでくれてね。
YORKE.:「Clean out」はもう、岡本さん大絶賛! メロディにしてもアレンジにしても、クリエイターとしてのイノセントな部分をすごく感じて。これからめちゃめちゃ活躍してほしいし、するだろうなっていう人と一緒に仕事ができて、すごく刺激を受けましたよ。歌詞を書くにあたっては、カップリング3曲どれも作曲者が違っていて世界観もそれぞれなわけで、OLDCODEXに寄せるしかないなと思いつつ、曲に呼んでもらう言葉もあったりしつつ。
――「Bang」の“鍵は捨てろ もう後戻りするなよ”とか、「Clean out」の“笑われたっていいから 行けるところまで行くのさ”とか、YORKE.さんの至言が響きます。
YORKE.:受け取り方は聴く人それぞれに委ねるけど、そうやって好きな言葉を見つけてもらえたなら、それはそれでうれしいな。
“GROWTH TO BE ONE”というタイトル通り、まだまだ成長過程
――さて、“LUNATIC FEST. 2018”に続き、この夏は“Rockin'on ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018”や“Animelo Summer Live 2018 “OK!””などのフェスに出演し、8月27日からはライブハウスメインの全国ツアーOLDCODEX Tour “GROWTH TO BE ONE”が始まりますが、どんな想いで臨みますか?
Ta_2:ワンマンはもちろん、さまざまな場所でライヴができるっていうことも大事にしたいし、フェスやイベントの場合はいろいろな制約があるものの、諦めたくない、妥協したくないという想いは強くあって。
YORKE.:本当は「Heading to Over」のMVみたいな世界観をバンって投げつけられたら一番いいんだけど、フェスではどうしても転換時間を考慮しなきゃいけないし、物理的にもやれることが限られているけど、そこでどう爪痕を残すかっていうね。でも、熱意があればなにかは伝わるだろうとは思うので。
Ta_2:うんうん。初めてOLDCODEXのステージを観る人にも届きやすい演出やパフォーマンスを、ギリギリまで模索したいね。
YORKE.:その上で、ワンマンツアーは自分たちのやりたいことをとことん見せられる場所。
Ta_2:全国のライヴハウスをまわるワンマンツアーは久しぶりでもあるので、オーディエンスとの近い距離感を大切にしながら、15th シングル「Growth Arrow」、デジタルシングル「One Side」、今回の「Heading to Over」といった新曲、そしてそういう新たな表現があるからこそ輝くこれまでの曲たちを引き連れて、自分たちも予期していない楽曲の育ち方を見てみたいですね。
YORKE.:“GROWTH TO BE ONE”というタイトル通り、まだまだ成長過程だしね。毎公演同じクオリティは目指しつつも、自分たち自身、ツアーを通してどれだけ成長できるか楽しみにしています。

取材・分:杉江優花

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