【バンドハラスメント
インタビュー】
僕もこの曲を聴いて響いた
あなたと一緒なんだよ

L→R 斉本佳朗(Dr)、はっこー(Ba)、 井深(Vo)、ワタさん(Gu)

名古屋発のエモーショナルギターバンド、バンドハラスメントが1stEP『鯉、鳴く』をドロップ。サウンドと歌詞で進化と深化を見せる一方、メロディーとアンサンブルではバンドの真価を感じさせる意欲作に仕上がっている。

1stEP『鯉、鳴く』。タイトルチューンで聴かせるキャッチーなメロディー、各パートがアグレッシブにぶつかり合うアンサンブルは、このバンドらしいものになりましたね。メンバーそれぞれ、演奏する上で注力したところを教えてください。

はっこー

サウンド面ではバンドハラスメントらしさも意識しつつ、アンサンブルの中でも埋もれないようなベースを意識してフレーズを考えました。前作のシングル「解剖傑作」と同じく、打ち込みで基本のフレーズを考えてからベースを持って、スライドなど打ち込みでは再現しづらい部分を足して完成させていきました。

ワタさん

ごちゃごちゃするのを防ぐために構成から考えて、シンプルなコード進行を目指しました。ギターサウンドに関して言うと、前作までのレコーディング、ライヴはほぼ全てフィンガーピッキングだったのですが、今作ではフレーズの約40パーセントがピック弾きになっています。全体の目指すサウンドを考えた結果、こうなりました。

斉本

最近はバンドの枠にはとらわれないようにしています。例えば、楽器の数ですね。ライヴを意識した楽曲であっても、それを再現できるかできないかは僕ら次第なので。よりクリエイティブに考えています。今回はバンドの幅を広げつつ、バンドハラスメントらしさを残すことを意識しましたね。

井深

「鯉、鳴く」は今までにないダークな部分に触れた曲ではあるんですけど、ただ暗く歌うのは何か違うと思ってて。“僕”の悲痛な叫び、幼いながらの悩み、社会の中で自分というものが何なのかという葛藤…そういうものをこの声で表現したかったんです。“僕”というものに深く潜り込むことで、声質、言葉の余韻、感情の露出にこれまで以上にこだわって歌った作品になりました。

サウンド面でバンドハラスメントらしさを感じる一方、「鯉、鳴く」の歌詞には大きな変化を感じるところです。制作背景を教えてもらってもいいでしょうか。

斉本

僕が中学生の頃、地元の高校生が自殺したんです。その子とは会ったことも話したこともないし、顔も知らないんですけど、中学生の僕にとっては衝撃的な出来事で。実は原因も詳しく知らないんですが、ただ変な奴だったとだけ噂で聞いていて。それが妙に印象に残っているんです。“変”な奴はいなくならなくちゃいけないんだって。

タイトルである“鯉、鳴く”からして、誰もがストレートに意味が分かるものではないと思いますが、これにはどういう想いが込められているのですか?

斉本

タイトルに関しては、フィクションであり比喩表現だと思っていただければ嬉しいです。主人公である“僕”は発言権のない人間です。そこがどんな大きさのコミュニティーの中でなのか…学校内、家庭内、この社会なのかは聴く人の想像にお任せしますが、そんな人間でも考えていることはたくさんあります。それが鯉のように見えました。鳴くことはないけれど、鳴こうとするように口をパクパクさせているからです。そして、聴き手側に考えてほしいことがいくつかあり、引っかかるようなタイトルにしました。鳴かないはずの鯉が鳴くとどうするか? 自分より下だと思っていた生物が喋り出すと自分はどうするか? 人間は得体の知れない何かが嫌いで、それをスルーすることはあり得ないんです。すぐに名前を付けて、理解できるものにして安心したがるでしょ?

冒頭の《彼女は「あの子さえ」と/産まれたゴミを恨むよ/他と違うは才能と/僕が違うは病気だと/社会は僕に名を付ける/ヒソヒソと名を付ける》というショッキングな歌詞は同調圧力やイジメ、差別を想起させる内容ですが、歌詞はそういったものに対する問題提起と考えてもいいのでしょうか?

斉本

実際、僕も学生の頃にイジメを受けていたことがあり、今でも“病気なんじゃないか?”なんてよく言われます。聴いた人にどう考えてもらうかも大切なので、確かに問題提起の意識はあったと思いますが、やはり一番に思うことは“僕もこの曲を聴いて響いたあなたと一緒なんだよ”ってことですね。ただ、他と大きく違うことをあえて挙げるならば“生きろ”とは言っていません。

以前、斉本さんは“自分と同じ脳みそのかたち、皺の数、色の人間とひとつになりたい。慰め合いたい、笑い合いたい、一緒に生きたい”とおっしゃっていて、楽曲はそういった人間をあぶり出すために必要なものとも聞きました。「鯉、鳴く」もその一環と考えていいでしょうか?

斉本

もちろんです。それは絶対的で、僕のモチベーションはそこにしかありません。

分かりました。続く「Sally」ではAメロでクラップ、サビでシンセが重ねられていたり、「モノ」では鍵盤が楽曲全体を引っ張るループミュージック的なアレンジを施していたり、新たなアプローチを聴くことができますね。

はっこー

先に表題曲である「鯉、鳴く」が完成して、そこから「Sally」のアレンジを詰めていったんですが、「鯉、鳴く」とは違う良さを出したくて。シンプルで聴きやすいけど密度は決して薄くない曲を目指しましたね。

ワタさん

「Sally」は今までとは少し空気感の違うコードが付いているので、アレンジでバンドハラスメントらしさを出しました。シンセのサウンドはサビの広がりが出つつ、邪魔にならないサウンドを目指しました。このサビのリードギターもシンセとの兼ね合いでピック弾きにしています。

井深

この曲は冬の寒空の中にも愛というものの透明さ、温かさが存在すると思ってて。冬の煌びやかさや、暖かな愛というものをいかに伝えるかという部分にスポットを当てて歌はアプローチしました。愛の力強さ、儚さ、やさしさ、愛あるゆえの苦しさをこの声で表現できた作品になってると思いますし、聴いていただければ細かい部分を感じとっていただけると思います。

斉本

「モノ」は前々作の1st ミニアルバム『エンドロール』の歌詞カード裏に歌詞だけを入れていて、もともと歌詞があった上で楽曲制作を行なったため、このようなサウンドになったんだと思います。

ワタさん

この鍵盤の音はエレピの音を加工したサウンドです。歌詞がすでに完成した状態でしたし、曲自体が長くなることが分かっていたので、シンセ、ストリングス、ベース、ギターが増えていって、楽器のフレーズが歌を邪魔しないように飽きることなく歌詞を最後まで聴けるようにしました。

はっこー

ずっと楽器がループしている曲を作りたかったんです。今回、それがやっと実現できましたね。

対して、「サヨナラをした僕等は2度と逢えないから」はライヴバージョンを収録。4曲ながらバラエティー豊かなEPに仕上がりましたよね。

はっこー

僕たちって毎週のようにライヴをして、2017年も2回ツアーをしたんですけど、あまりそういうバンドだと思われてない気がして(苦笑)。僕たちのライヴへの想いを知ってほしくて今回はライヴバージョンを収録することにしました。

井深

やはりバンドの今を伝えるものはライヴだと思ってます。一発勝負の空間、その時にしかない雰囲気、それをまだライヴに来てない人に感じてほしいと。ライヴで聴くとその曲はどんな化け方をするのか、その楽しさや高鳴りを少しでも感じてほしいと思って入れることにしました。この曲をきっかけにライヴにパクパク遊びに来ていただきたいですね。

取材:帆苅智之

EP『鯉、鳴く』 2018年2月7日発売
SANTA IS PAPA

  • SANPA-0003
    ¥1,400(税抜)

バンドハラスメント

バンドハラスメント:2015年10月、名古屋にて結成。その後、わずか1年足らずで大型フェスへの出演を果たすなど業界大注目の4ピースバンド。18年10月31日に初のフルアルバム『HEISEI』を発表した。

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