【筋肉少女帯 インタビュー】
過去は過ぎ去り、もう未来しか
ない。指を立てて叫べよ、Future!
L→R 本城聡章(Gu)、大槻ケンヂ(Vo)、内田雄一郎(Ba)、橘高文彦(Gu)
来年デビュー30周年を迎える筋肉少女帯が、20年振りにカバー曲ゼロのフルアルバムをリリース! 今の彼らが持つ音楽バラエティーを全開にしながらも、ある種の“欠落”を惜しみなく晒し、真の意味で“Future=未来”を見据えた本作について大槻ケンヂ(Vo)が語る。
ノスタルジックな印象の強かった前作『おまけのいちにち』とは打って変わり、今作『Future!』はタイトルからして未来を見据えた前向きなアルバムで驚きました。
ノスタルジーは前作で完結。もう、懐かしんでいても何も始まりませんからね。むしろ、1歩でも2歩でも前に出て行かないといかん!という気持ちです。タイトルはね、先日、とある作家さんとトークイベントをした時も、どうしても過去を回想してしまうことがありますよね…っていう話になって、“いやいや、過去は過ぎ去り、今はない。もう未来しかないんだ。そういう時は1本指を立ててこう叫べばいいんだ、Future!”って言ったんですよ。元プロレスラーの木村健悟さんに人差し指を1本立てて“イナヅマ!”って叫ぶ技があったんで、そのイメージなんですけど。それが気に入っちゃってタイトルにも使ったんです。
1曲目の「オーケントレイン」から未来に向かう列車の歌ですもんね。ただ、その未来が来世にもなりかねない…というところが、大槻さんらしいというか。
僕の歌詞は昔から非常にメメントモリ感が強いんですよね。どうしても死を思わせる感じが出てしまう。「三歳の花嫁」も余命宣告された男の歌ですし。もともとは小説にしようと温めていた話で、映画化まで考えてたんですよ。だけど、その世界を歌詞で書けてしまったので、もう小説化はないかなぁ。
いや、この曲めちゃめちゃ泣けましたよ。
でしょ? 人情喜劇でもあり、難病ものでもあり、泣かすヤツですよ。だから、誰か映画化してください(笑)。ほんとはね、死と言えば、この年齢になると直面する介護の問題とかも歌詞にしたかったんです。でも、生活感が出すぎてしまうとか、シリアスすぎて聴いていて辛くなるだろうとかで、なかなか難しくて…。みんなが歌わないことを歌ってきたバンドなので、そういう前人未踏の禁断のテーマにもチャレンジしていくべきだなぁという想いは常にあります。
「サイコキラーズ・ラブ」も、その一例ですよね。人を殺さずにはいられない者同士の愛を歌っていますから。
これは良い曲ですね。完成度が高い。デモ自体は以前からあって…ただ、こんな美しいメロに美しい歌詞を乗せて歌うのは、ちょっと筋肉少女帯じゃないなぁと、一度ボツにしたんです。それが今になって“待てよ、逆にこれに普通じゃない歌詞を乗せるという方法論があるぞ!”とアイデアが沸いたんで復活したという珍しい例ですね。僕はラジオリスナーでもあるので、よくJ-POPも耳にするんですけど、素朴な疑問として“なぜみなさん、こんなに美しく正直で真っ当な理想論ばかり歌っておられるのだろうか?”と。君だけを愛して、お父さんお母さんに感謝して、生まれたことに感謝して…みたいな歌が、どうして書けるんだろうと不思議で。まぁ、僕のほうが変なんでしょうね(笑)。
だから、そうではない曲を書いてしまうと。でも、大槻さん自身にそういった気持ちがないわけじゃないですよね?
あら、俺、少ないのかもしれない。思いやりとか、他人の身になって考えるとか、そういう人としてのやさしい部分がちょっと欠落してるな~俺…っていうのは子供の頃から感じてたんです。ただ、たぶん根はやさしいんですけど(笑)。やさしいけど人の気持ちがちょっと分からない部分があるから、でもその矛盾こそが泣かす曲を書かせてるんだろうなぁ。それで自分の中でバランスをとってるんでしょう、きっと。いや、「サイコキラーズ・ラブ」とか「告白」が、今回そのことを世に告白する歌詞なんだけど、“いやもう前から知ってたよ”って言われるかもね(笑)。
その特異性がいつの時代も人の心を打つんでしょうね。
うん。いつの時代でも薔薇の棘は人の肌に突き刺さるみたいなことで。どれだけ時代が変わっても筋肉少女帯の音楽っていうのは、ある一定の層には突き刺さる薔薇の棘みたいな毒々しい美しさがあるんだろうとは思いますね。いつの時代も咲いている、それこそジャケットにもある変な食虫植物みたいなもので、おまけにみんな演奏が上手い。ただ、僕はサウンド面のことはよく分からないので、こういった場で音のことは語れないんですよ。「告白」とか80年代ジャパニーズニューウェイブの方法論で作ってる面白い曲だし、「エニグマ」もデモ段階ではキング・クリムゾンで言うところのヌーヴォメタルみたいにになるかと思いきや、意外にディープ・パープルになったとか。そのへんも楽器演奏者なら面白おかしく語ってくれるだろうに上手く解説できなくて申し訳ないです。
いえいえ。歌謡曲、フォーク、プログレ、メタル、そしてオーケン節満載の語りまで、これまでの筋肉少女帯の道をなぞるような内容で、非常に楽しめました。
いろんな音楽要素が入っていて、前衛的な部分とエンターテインメント的な部分の両方を兼ね備えているバンドであるのは、筋肉少女帯の武器だと思います。コアなリスナー以外の前に立つと、ちゃんとエンターテインメントができて、今年出演させていただいた『OTODAMA』とかの野外フェスでも、まぁ、お陰様で盛り上がりましたね!
つまり、筋肉少女帯のFutureはまだまだ明るいぞと。
先日、大先輩である遠藤賢司さんのライヴにも出させていただいたんですけど、これがすごくて! 70歳になられるのにリハから全力で、もう神様みたいでしたよ。だから、自分らも頑張んなきゃいけないし、今回のアルバムを聴いてひとつもピンとこない人もいるかもしれないけど、そういう作品って意外と後々効いてきたりするんですよ。それこそ来るべきFutureにもう一度聴き直すと、ガッとはまったりするかもしれない。逆も然りで、本とか映画でもあるじゃないですか。若い時はガツンときたのに今はよく分からないっていう。
環境や心の在りようによって、受け取り方も変わりますからね。言わば自分の変化や成長を計る物差しにもなると。
うん、そこがいいんだと思う。それこそ僕の言ってるFutureは来世も含めての未来だからね。もし、来世がなくて、僕らが宇宙の塵になった未来においてもデータは宇宙内に残るから、このアルバムがその時のFutureにも拡散してくれれば嬉しいです。
取材:清水素子
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