【たむらぱん】自分の音楽の源にある
“言葉”の力を大切にした
目を見張るような展開に驚愕する組曲風の「おしごと」から、これまでになかった香りの声色を聴かせる「でもない feat. Shing02」まで、多彩かつ豊潤な楽曲ぞろいの5thアルバム。さらに研ぎ澄まされた“言葉”の求心力にも圧倒される、恐るべき作品集だ。
取材:竹内美保
ご自身の可能性を信じられるようになったという前アルバム『mitaina』、それを踏まえての先行シングル「new world」を経てのニューアルバムですが、前作からの制作で得た確信は大きく反映されていますか?
音楽に何を求めているのかって言ったら、私はやっぱり音ではなくて“言葉”だったんだな、と。それを前作と今回のアルバムをほぼ並行して作っていく中ですごく感じたんです。ですから、その自分の根本的な部分がより見えるものが作れたらいいなという思いがありました。もちろん、音の部分もかなり強調されているし、音は音楽として楽しんで…でも、それの源になっている部分っていうのは言葉にあるんだなと思ったので、歌詞にはかなり執着しました。
言葉ということでは、「でんわ」で“コミュニケーション”という表現も出てきますけれど。“コミュニケーション”は、今作のメッセージでかなり大きな要素でしょうか?
うーん、そうですね。今回のアルバムはこれまでの作品と比べてパーソナルな部分、“みんなで”という括りよりも“対人”、近い関係が強調されているなっていうのは、自分でも思います。広い世界に対しても、近い世界に対しても、自分が一番根本的に求めている部分はそういうところなんですよね。だから、すごく大きいキーワードになっていると思います、その言葉は。でも私の場合は、その一番近い人とのコミュニケーションは究極だと思っているし、とても勇気がいることだなってイメージがあって。“みんな”って言ったほうが全然楽だし、他人に責任を転換しやすいと思うので。だからこそ、今回のアルバムは近い人やいい意味で狭い世界が詰まっている分、力は強いような気がしているんです。そして、そういう言葉の力を改めて大事にしたいなっていう思いも込めて、タイトルを“wordwide”にしました。
言葉の力を信じるというのは、どこかで疑った上で、“でも、それでも”というのもありますよね。
そうですね。だから、例えば“正しい/正しくない”とかはもうその人の見方や捉え方次第になっていくし、言おうと思えばどんなことだっていくらでも言える。並べれば言葉はいくらでも文章になる。そういう意味では、曖昧な世界でもあるんですけど。でも、音楽で使う言葉というのはそういうところから抜け出すための言葉なんだろうなっていうイメージがあって。だから、歌詞で使われる言葉だったり、音に乗るからこそ力を発揮できる言葉、そういうのを純粋に感じられたらいいなと思います。
話は前後しますが、コミュニケーションというところでは、“対、人”だけではなく、自分自身にも向けられているような。
自分が存在するにあたっての関係性だったりというのは、ひとつの大きなテーマになっていると思います。それを一番ストレートに表している曲が『ぼくの』なんですけど。何事も自分がいなければ始まらないというところの良さというか、すごさみたいなものを再確認できるといいなと思っていますし、“代わりはいくらでも”っていう感覚はやっぱり悲しいというのもあるし、大げさな表現かもしれないですけど、“いる”ということの意味っていうのをいろんなバリエーションで楽しんでもらえたらいいな、という思いはありますね。今回の作品の中では。
でも、自分の存在意義を強烈に高らかに謳うという感じではないですよね。
はい。だから、自分がいるだけでこういうことが起きていくとか、自分は何もしていないようで何かの、全てのきっかけになっているとか、ですね。目に見えないかもしれないけど、突き詰めていけば“世界のきっかけ”につながるかもしれない、ということもあるかもしれない、とか。自分が存在していることで何かが起きるっていうのは、すごく面白いことだと思うんです。何かしなきゃいけないっていうのは気持ち的にあるかもしれないけど、“何もしないということをしている”…そういう部分も含めて、自分以外の存在との関わり方だったりがどんどん大事になっていくといいなとは思いますよね。そして、改めて自分の存在意義を再確認できるのも、またひとつの楽しみ方ではあるのかなと思います。今回のアルバムはそういうところの表現が多いなと感じています、私自身は。
「知らない」の《繰り返さざる者は新たにも届くことはない》というフレーズも新鮮でした。
この曲はまさに今の話につながるんですけど。結局、どんどん変化していかないと何も成されていないというか、いるもいないも同じというか…そういうふうに見られるかもしれない。でも、ずっと同じことをやっていて変わっていかない、そういうすごさもあるんだぞ、という。だから、人の表現にはいろいろあるんだよ、ということですね。で、ここには音楽のジャンルを入れているんですけど、その例に限らず、自分がやっていることがどこかに当てはまらなきゃいけないとか、決まっている表現の言葉が世の中にはたくさんあることの不自由さとか…これは『でもない feat. Shing02』にも通じるんですけど、“これってこういう感情だよね”とか世の中に存在する表現に、その気持ちを当てはめて説明することが普通になっていますけど、それはそこに括られちゃうだけで、本当はもっと相応しい表現や説明があるんだろうなとすごく思うんです。
そういう意味では、このアルバムは本当にカテゴライズできないですし、だからこそ長く聴き続けたい作品なんだと思います。
流れちゃわないというのは一番の理想ですし、私にとって。だからこそ、どういう時代になっても通ずるものを思い描いていますし、特に人の感情や思いは大切にして作品作りには取り組んでいます。
アーティスト
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