【真空ホロウ】熱くほとばしるエモー
ションの妖艶な結晶
L→R 大貫朋也(Dr)、松本明人(Vo&Gu)、村田智史(Ba)
メジャーデビューから約2年半の軌跡が刻まれた1stフルアルバム『真空ホロウ』。新曲はもちろん、代表曲の数々も収録した、心の中に渦巻くさまざまな闇を鮮やかに描く全12曲。本作について松本明人(Vo & Gu)が語る。
取材:田中 大
新曲が強力ですね。「開戦前夜」、ワクワクしました。
ありがとうございます。これは僕が真空ホロウを始めようとしていた時の想いが、いっぱい詰まっています。
真空ホロウを始める前って、松本さんは弾き語りで活動していたんですよね?
そうです。エフェクターをたくさんつないで、“友だちがいなくてバンドができない人”みたいな感じで、いろんな操作を自分でしながらやっていました。
客席に突っ込んだり、破天荒なステージをやっていたんですっけ? “ちゃんと歌えるんだから歌えばいいのに”って言われたというエピソードをお聞きしたことがあります。
ベースの(村田)智史さんに言われて、今みたいな感じで歌うようになりました(笑)。僕、真空ホロウを始めるまではバンドをやる上での交友関係のトラウマがあったんです。だから、「開戦前夜」みたいなことを描いたんでしょうね。
この曲、コードの響きがとても心地良いです。
ただのメジャーみたいなコードの響きが好きじゃないんです。僕、クラシックギターは習ったことがあるんですけど、コードをあまり習ったことがなくて。弦の押さえ方がちょっと変だったりするんですよ。“この響きがいいから、こう押さえてみる”みたいなことをやっています。
真空ホロウの音楽に漂う独特な空気感は、絶妙なコード感がかなり鍵を握っているんだと思います。オシャレですよ。
オシャレですか? 本当はライヴでドレスコードを設けたいとか思ったりもしていますからね。でも、お客さんの層を狭める要因にもなるのでやめています。まぁ、僕らの中だけでドレスコードを決めている時はあるんですけど。“今日は紅白歌合戦だ!”とか(笑)。
(笑)。他の曲の話に移りましょう。4つ打ちダンスロックの「MAGIC」は新鮮でした。
かなり挑戦的な曲です。“振り切ってみよう”と思ってアレンジをしました。一時はアイドルソングみたいなものになったのを、“ライヴでやるには?”と考えて少し戻しました(笑)。これはアルバムの最後にできたんです。一番未来が見えるものになった感じがします。「回想列車」の続きみたいな感覚で作ったんですけど、いい意味で攻めたものをやりたくて。ライヴにいろんな刺激物を入れていきたいと思っているので。
「回想列車」は渋谷駅がモチーフみたいですけど、あの周辺の風景は今までも度々描いてきましたよね。
はい。例えば僕が駅でギターを背負っていたら、周りからは“バンドマン”とカテゴライズされて終わりじゃないですか。でも、本人にはそのカテゴライズに止まらない自分のストーリーがあるわけで。人がたくさんいるのに、そういう孤独さがあるのが渋谷駅みたいな場所なんですよ。でも、ああいう場所でそういうふうにならないとみんな生きられないし、それがゆえに生きていく価値を見出すこともできる…っていう想いが僕の中にずっとあって。だから、渋谷はすごく嫌いだけど好きなんです。僕もひとりとして生きていて…でも、みんなとともに歩きたくもあるし、日常から逃げたい気持ちもあるんですよね。そういうことを上手く血が通った状態で、物語の中の人物ではなく、“田舎生まれの青年、松本明人くん”として表現できたのが「回想列車」なのかもしれません。
孤独であることによって自分を保ちたいという気持ちと、他人と交わりたい気持ち。相反する感覚の間で行き来するさまは、真空ホロウの音楽の核にあるものじゃないですか?
かなりそうですね。その時の問いと答えみたいなことを曲同士で成り立たせることも好きなんだと思います。
曲はその時の想いだから、別の曲との矛盾も出るんでしょうけど、それも自然なものとして受け止められます。
矛盾していないと成り立たないことのほうが多いんだと思います。“矛盾”っていうのは、ずっとテーマになっていますね。インディーズの1stミニアルバムのタイトルで“contradiction=矛盾”っていう単語を使ったくらいですから。今回入っている「こどものくに」も仮タイトルが“contradiction”だったし。最初英詞だったんですけど、伝えたいことが日本語よりも伝わらない矛盾に腹が立って日本語の歌詞にしました(笑)。
(笑)。「回想列車」や「Tokyo Blue bug」もそうですけど、歌謡曲的な叙情的メロディーも持ち味になっていますね。
歌謡曲、好きなんです。この前は(中森)明菜ちゃんを聴いて、光GENJIも聴いて、タモリさんの『タモリ』というアルバムも聴きました。LP盤が主流だった時代の音とか映像が好きですね。真空ホロウは、あのふたり(村田と大貫)も含めて“音楽が好き”というのが素直に出せているからこういうサウンドになっているのかも。だから、いい意味でカテゴライズできないものに落とし込めるのかもしれないです。
今回収録されたお馴染みの曲に関しては、「被害妄想と自己暗示による不快感」の新録が要注目です。
これは真空ホロウにとって始まりの曲なんです。インディーズでもリリースしたことがありますけど、当時はドラムの大貫朋也くんが入る前でして。だから、今の編成で録りたくて。すごく重厚感のあるパワフルなものになりました。
さて。アルバムについて語っていただきましたが、振り返ってみてどんなことを感じています?
ほんと、この2年半をかけて作ったアルバムっていうことですね。これは今出さないといけなかったんだと思います。僕らはもう次に進んじゃっているから、この中には“真空ホロウの未来”みたいなものはないのかもしれないですけど。でも、真空ホロウがちゃんとそこにあるアルバムになりました。真空ホロウとしての1枚の絵がやっと完成したような感覚があります。壁にかける1枚目の絵…みたいなものなのかもしれないです。
アーティスト
長谷川圭佑 / 「写真家、長谷川圭佑が会いに行く」
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