【0.8秒と衝撃。】『氷の世界』のよ
うな世界観を目指した
L→R J.M.(唄とモデル)、塔山忠臣(歌とソングライター)
0.8秒と衝撃。が約2年振りにフルアルバム『破壊POP』をリリースする。独創的なケミカルサウンドはそのままに、よりメロディックに、より叙情的に深化した本作の世界観の背景を塔山忠臣(唄とソングライター)、J.M.(歌とモデル)のふたりに訊いた。
取材:帆苅智之
ニューアルバム『破壊POP』は0.8秒と衝撃。の過去作と比較して歌メロが強調されている印象があります。しかも、そのメロディーは結構日本的ですね?
塔山
今回は井上陽水さんの『氷の世界』のような世界観をメロディーで出したいと思ったんですよ。以前、J.M.から“面白いドキュメンタリー番組がある”って『氷の世界』の制作ドキュメンタリーを紹介されていたんです。ただ、その時は興味がなかったから“別に見たくねぇよ”って思っていたんですけど、自宅の近くの古本屋に飾ってあった『氷の世界』のジャケットを見て“これはカッコ良いなぁ”と思って、特別版(=40th Anniversary Special Edition)を買ったんですね。(アルバムも)素晴らしいんですが、その付属DVDに収録されている制作ドキュメンタリーもすごく内容が濃くて、見終わった後ですぐに彼女に謝罪しました(苦笑)。『氷の世界』ってまず飛び込んでくるのがヴォーカルの艶じゃないですか? だから、(『破壊POP』も)ヴォーカルラインがメロディックになったと思うんです。テーマは“メランコリー” …キュンとくる感じ。そして、そこはかとないダークですね。
J.M.さんはそうしたコンセプトを聞いてどう思いましたか?
J.M.
諸手を挙げて賛成しました(笑)。過去にはふたりが全然真逆な方向を向いていたこともあったんですけど、4thアルバム『NEW GERMAN WAVE 4』くらいから同じ方向を見始めたところはあって。今回はさらにお互いが深く関わることができたと思います。
ヴォーカルに関しては、今までが“掛け合い”だったとすると、今回は“デュエット”に近いスタイルなのかなと思います。
塔山
そうですね。今まではリズムで聴かせていたと思うんです。掛け合いの抜き差しで、優しく入る時もあれば、シャープに入るときもあって、ドラムに対してポンと跳ね上がるように声を入れるからポップに聴こえていたというか。でも、今回はアコギ一本でも成立するようなメロディーでの掛け合いをしたかったところはありますね。
曲の構成もA~B~サビといったスタンダードなものがほとんどですね?
塔山
そうした王道感というものは今回のような世界観を表すにはいい要素になると思ったんです。今回は“感情を入れたい”という思いで作ってますから。それは言葉にしてもそうで、楽に英語で逃げないようにもしました。(そういう意味では)自分のなかではフォークミュージックですよね。
“アコギ一本でも成立するようなメロディー”というのはとても納得できるところではあるのですが、サビでそれを強調するかのようにビートが4つ打ちになったり、楽曲によっては70年代テクノポップやサイケデリックなサウンドを取り入れたものがあったりと、実はこのアルバム、サウンドも多彩なんですよね? そこも聴き逃せないところではあります。
塔山
僕、テクノが好きなので、“ダンスミュージックの要素は入れたいな”とは思ってました。僕が好きな2大要素であるダンスミュージックとフォークを入れたいなというのはもともとあったんですよね。あと、ライヴになった時、みんなでキュンとなる部分を共有したいところはありまして、弾き語りだけではなく、そこにウチらしいパワフルな部分をビート感で表したかったんです。
J.M.
“MORE”という感じはいつもありますよね。もっと自分たちらしく…もっといろんな音楽を取り込んで、(それを)自分たちの解釈で…という。例えば、7曲目「Fuck&Loud」とか、塔山が作ってきた時点ですでにテクノっぽさはあったんですけど、私はMGMTみたいな方向──彼らほど音数は多くなく、もっとタイトにして、ノイジーなベースにかわいらしいシーケンスの音がある感じにしたくて、それが合わさっていると思いますし。
塔山さんが曲作りをする段階である程度の完成形を想像しているとは思うんですが、ふたりでやりとりする中で想像を超えるものになることもあるんですか?
J.M.
そうですね。目指していたところと全然違うところへ行くこともあります。
塔山
4曲目「白昼夢」なんかは僕が作り始めた時は全然今のかたちとは違っていて、最初はキックにずっとディレイがかかっていて、スペイシーで、すごく悲しい感じだったんですけど、それがいつの間にか結構アイリッシュ感じになりましたから(笑)。でも、それはそれで面白いなと思いながらやってましたね。
自由奔放に音楽制作をしていて、出来上がったものがよければOK…というところは、0.8秒と衝撃。の基本的なスタンスなんでしょうか?
J.M.
いろんな人の要素が入るのも嫌じゃないんです。自分たち以外…例えば、エンジニアさんか“ここはこうしたらいいんじゃない?”と提案されるも全然嫌じゃないですし。(塔山とは)たまに衝突することもあるんですけど…
塔山
でも、時に衝突することも大事ですからね。そこで化学反応が起こるのであれば。
分かりました。さて、収録曲の歌詞について…ですが、明確にその意味やストーリーを掴めるものはほとんどないような気がします。
塔山
聴いてはっきりとわかるというものよりはイメージ的なものが多いですね。絵で言ったら、ちゃんと完成された絵というよりデッサン的な方が俺は好きなので、飛び交っているデッサンの言葉の渦みたいなイメージで書いてあるところはありますね。
シチュエーションを限定するというよりは、断片的にシーンを切り取っているような?
塔山
“カット&コラージュ”じゃないけど、そういった手法が好きなんですね。
“今回は『氷の世界』のような世界観をメロディーで出したい”と言ってましたが、そう言われてみれば、井上陽水さんの歌詞もそんな感じですしね(笑)。
塔山
「あかずの踏切り」とか「小春おばさん」とか、意味分かんないですからね(笑)? でも、その節にちゃんとカッコ良く言葉が乗っているじゃないですか?
J.M.
今回の歌詞もそんな感じですよね。
最後に、そんなアルバムに“破壊POP”というタイトルを付けた意図を教えてください。
塔山
サウンドのガシガシした感じというよりも、自己を見つめるというか、自分が考える弱い部分を破壊して、そこに向き合ってやっていけるという意味で“破壊”という言葉を使いたかったんですね。あと、このアルバムには自分たちが思うポップネスもあるので、そことの合わせ言葉です。深い部分での“破壊”と、俺たちが考える“POP”…今自分たちがかたち作りたい世界観を考えた時、このタイトルが浮かんだんですね。
アーティスト
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