【特撮】10年振りの新車購入が導いた
(!?)新機軸
L→R ARIMATSU(Dr)、大槻ケンヂ(Vo)、NARASAKI(Gu)、三柴 理(Pf)
約3年振りの新作『ウインカー』は意表を突くAOR調ナンバーをはじめ、大槻ケンヂ(Vo)&NARASAKI(Gu)がアニメ『監獄学園-プリズンスクール-』に提供した「愛のプリズン」セルフカバーなどバンドの洗練と新章を告げる快作。その理由を大槻に訊く。
取材:石角友香
全編聴いていると壮大な物語なんじゃないか?という仕上がりですが。
まぁ、どうしてもピンク・フロイドとかが好きなので(笑)、歌詞で最終的な統一感を作ってテーマ性を作り上げたいってところはあるんです。で、今回は「愛のプリズン」を中心に作っていこうかと思ったんだけど、ちょうどその頃、約10年振りに車を買いまして。いろんなところを運転してるとラジオでドライビングミュージックが流れるじゃないですか。それに最初の楽曲出しの時に結構ね…結果的には各曲ハードロックになってると思うんだけど、デモだと何曲かはAOR調にも聴こえたんですよ。それでちょっとそういう視点も入れてみようかなと。そして、ウインカーというのは指1本か2本で進行方向が変わる、ちょっとしたさじ加減で大きく人生が変わっていく、そういった…ロジャー・ウォータースっぽい(笑)、感じにしてみようかなぁと思ったんですよね。
1曲目の「荒井田メルの上昇」はシティポップ調ですしね。
そうそう。いわゆるハードロックではない。“ラップ調”なんて言うといかにも音楽を知らない感じが出てしまうんですけど(苦笑)、年齢とともに行きたい方向ってあるじゃないですか。どうも僕はね、ずっとシャウトしてきたけど、今はあまり叫びたくないみたい。で、あえて叫ぶことのない「荒井田メルの上昇」っていう不思議なサウンドを1曲目に持ってきたっていうのはあると思いますね。
メンバーから出てきた曲にも変化があったのですか?
うん。それにそもそも特撮って大人なサウンドクリエーターなんだよね。恐らく今後は“行けー! やれー!”って煽らずともオーディエンスが自然にノって、グルーブが発生するようなライヴ、オーディエンスの成熟を待ってるところがあるかもしれない。
その上で視点がフレッシュで。2曲目の「音の中へ」はライヴキッズに対するやさしい眼差しがあって、音もモダンなミクスチャーだと感じました。
これは去年、高橋幸宏さんのフェス『WORLD HAPPINESS』に出演したことにもつながるんだけど、YMOの「以心伝心」みたいな曲をやってみたいなぁって。それこそ昔で言うと糸井重里さん司会の『YOU』、今なら荻上チキさんが司会しそうな番組のオープニングに使ってくれるようなのがやってみたかったんですよ。まぁ、僕自身は券を買ってワクワクしてライヴに行く経験は…やる側だったのであんまりないんだけど、それにちょっと憧れてるとこがあるかもしれない。
そして最初、軸にしようとされていた「愛のプリズン」はセルフカバーで。
そうです。これは『監獄学園-プリズンスクール-』というアニメの主題歌で、神谷浩史さんはじめ、主演を務めた男性声優のグループが歌った曲なんですけど、現段階で僕の作詞の頂点だと思ってます。ナンセンスの部分と、そこに含まれるもしかしたら深いのかも分からない裏の意味、でも本当はただふざけてるのかもしれないはぐらかし。そういうもの全てが集約されたエポックメイキングな歌詞ですね。で、最初から「愛のプリズン」があったから、曲調的にはさらに超えた変な方向に行こうかなと思ってできたのが「荒井田メルの上昇」とか、「旅の理由」「アリス」とかかな。
「アリス」はルイス・キャロルだし、劇中劇みたいです。
「アリス」と「中古車ディーラー」の2曲はARIMATSUの作曲なんですけど、ドラマーらしいリズム主体の曲というか。でね、「アリス」のほうは、お分かりいただけるでしょうか…これはルイス・キャロルのアリスと、谷村新司さんのアリスがクロスオーバーしてるんです。
すごい仕掛けが施されていたと(笑)。そして、再び後半の「人間蒸発」で荒井田メルちゃんが登場するという構成で。
これはね、ナッキー(NARASAKIの愛称)がモーターヘッドみたいな曲をやるって言って。昔、「人間以外の俺になれ」って曲も、最初ブギー調で始まってブラックサバス展開になるんだけど、彼はそういうの好きみたい。
1曲目とは全然違う曲調なので、またさらに映画的な世界が広がっていくんですよね。メルちゃんの正体も不明だし。
うん。結局、腑に落ちないままアルバムは終わるんですね。新井田メルというのは何者かも、彼女が作ったカルトも、セミナーもどうなったのかも分からない。回答を与えてしまうとリスナーも納得しちゃうでしょ? “あれは何でああなんだろう?”って表現のほうが僕は好きですね。今回は特に“ウインカーひとつ、右にするか左にするかで世界が大きく変わってしまう”、日常の中にちょっとした変化が起こり、それが異世界へとつながってそれに巻き込まれてしまうっていう、いわゆるSFの1ジャンルをやろうとしたんですね。僕、40歳過ぎてからほとんど小説書いてないんですよ。その理由のひとつが“作詞でできる”っていう自信が付いてきたことで。
それは素晴らしい。
もちろん、ほんとは別物なんだけど、小説はコストパフォーマンスがあまりいいとは言えない。2年かかった長編を読むのが遅い人だったら1週間とかかかるじゃないですか。でも、楽曲だったら作詞は1日以内、整えて2日。そして、聴くほうは短い曲なら3分以内。“小説ほど練り込めないじゃないか?”という人もいるけれども、作詞においては他の演奏者がサウンドで練り込んでくれるから、“あれ? 俺、小説書く必要なくね?”と思っちゃったんですよ。ほんとは別物だけど、今はこれでいいんじゃないかと。
そして、掲載号が出る時には終わっていますが、大槻さんの誕生日の翌日には“生誕祭”と題したライヴも。
お誕生日ライヴだから好きなようにやろうと思って。“お誕生日記念演奏”とかもやってもらおうかな。に、しても50歳ってすごいよねぇ(笑)。シャーロック・ホームズですら49歳で引退してるのに、それ越えちゃったっていうのはねぇ…。
アーティスト
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