不穏な時代の雲間から頭脳警察の
サウンドが轟く『頭脳警察3』
頭脳警察の『頭脳警察3』
頭脳警察を初めて聴いた時の衝撃は忘れられない。中学生の時のことで、ラジオで当時、アルバムを丸ごとオンエアしてくれる番組があり、そこで彼らの実際には通算5作目となった『仮面劇のヒーローを告訴しろ』('73)がかけられたのだ。主に洋楽の新譜が取り上げられるその番組に邦楽の、しかも頭脳警察がかかったことが未だに信じられないのだが、記憶に間違いがなければ、とにかくラジオで頭脳警察をいきなり聴いてしまったのだ。最初期のアルバムにある過激さを通過し、音楽的な面のスケールを広げていった時期の作品だから幾分聴きやすくなっていたとは思うのだが、それでも呑気に日々を過ごしていたガキにさえ、その石のつぶてが飛んでくるような言葉や拳骨でぶん殴られるような衝撃は伝わってきた。「ヤベエな、これ。だけどスゲエぞ」と。そう感じなかったとしたら、ロックを聴く資格などないに等しい。曲がりなりにも、聴こえてきた叫びにすごさを感じ、頭脳警察、パンタという名前をその時に脳みそに刻み込むことができたから、私はロックを信じて聴き続けているとも言えるのだ。
日本のロック史上、最も過激で、
ロックらしさを貫いたバンド
アルバムはなかなか制作されなかった。さもありなん、と言うべきか。彼らの歌うレパートリーの歌詞の過激な内容に、メジャーレーベルは難色を示し、契約に至らなかったのだ。特に先に記した“革命三部作”などとも呼ばれる「世界革命戦争宣言」「銃をとれ」「赤軍兵士の詩」といった政治色の強い作品は、現在でもよほど気骨のあるインディーズでもなければリリースを尻込みするだろう。
暴動に発展しかねない挑発的なステージ、パンタの在籍していた大学が赤軍派の拠点だったこと、新左翼系集会などでの演奏等、次第にそっち方面のヤバいバンドという評判がついて回るのようになるのだが、そのイメージが決定的になるのが、1971年の8月14日~16日に行われた成田空港建設反対に端を発する三里塚闘争の青年行動隊が主催する『幻野祭』に出演したことだった。
頭脳警察はすでに肝の据わった演奏を披露しているのだが、彼らはこの時まだわずか19歳でしかなかったというのだから驚きだ。ちなみに、頭脳警察の演奏は2010年に発売された彼らのドキュメンタリー映画『ドキュメンタリー 頭脳警察 / 瀬々敬久監督』でも見ることができる。結成当時の姿から、再結成を繰り返し、老いても枯れることない近年の姿までとらえ、本人たちや関係者たちの証言も聞くことができる点で、頭脳警察とは何か、を知りたい向きにはこちらの作品がおすすめだろう。
再び、彼らのアルバムを初めて聴いた中学生の頃の自分に立ち返ってみる。ヤバそうな内容を感じつつも、右も左も分からない呑気なガキには、政治的なことやイデオロギーなどまるで考えられるわけもなく、ラジオから流れてきた、レッド・ツェッペリンさえ蹴っ飛ばしそうなラウドなサウンド、強烈にハートをえぐってくるパンタのヴォーカルにロックを感じ、素直に「なんてカッコ良いんだろう」と思っていたのだ。今となっては、そんな聴き方でも良かったのだと思いたい。
『仮面劇のヒーローを告訴しろ』がリリースされた1973年は、まだベトナム戦争は終わる気配がなかったし、オイルショックで老人や主婦がトイレットペーパーの買い占めに奔走したり、日本赤軍の日航機ドバイ・ハイジャック事件などもあったのだ。音楽の世界に目を向ければアイドル全盛期の幕開けで、新御三家(郷ひろみ、西城秀樹、野口五郎)や花の中三トリオ(山口百恵、桜田淳子、森昌子)やフィンガー5、アグネス・チャン…とかがテレビの歌謡番組を賑わわせていた。他愛ない歌謡曲の世界はどうでもいいが、洋楽方面では1970年にドノバンが来日したのを皮切りに、外国アーティストの来日ラッシュが始まっている。前年にはレッド・ツェッペリンが2度目の来日公演を行なったりもしている。サンタナやシカゴ、ニッティ・グリティ・ダート・バンド、イエスにEL&P、ピンク・フロイド、ジェームス・テイラー、マーク・ボラン率いるT・レックス、そしてデビッド・ボウイもこの年の4月に初来日するなど、アメリカンロック、ルーツロック、プログレッシブロック、シンガーソングライター、グラムロックと、百花繚乱、よりどりみどり、ありとあらゆる音楽のスタイルが一気呵成になだれ込んできた頃だと言える。とりわけ音楽で飯を食うという立場であるミュージシャンにとっては、実に刺激的な時代であったに違いなく、その影響を受けて自分の音楽性の幅を拡大していきたいという思いにとらわれるのは極めて自然なことだ。同時代の日本のロックバンドを代表する「はっぴいえんど」や「フラワー・トラベリング・バンド」にしてもそうだし、村八分や頭脳警察もその例外ではない。
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頭脳警察は懐の深い音楽性を持った バンドだったアーティスト
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