【連載コラム】ミムラの映画日和「ギフト」(第5回) STARDUST PROMOTION, INC.

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【連載コラム】ミムラの映画日和(第
5回)ホラーには美しい主演女優と名
優が欠かせない(個人的持論)『ギフ
ト』

 夫の部屋にはじめて遊びに行った時、壁一面どころでない膨大な量のDVDがあって驚いたのだが、それ以上にそこに居並ぶパッケージがほぼ黒ベースに白や赤の文字であったことに私はニヤリと喜んだ。夫もホラーが大好きだったのである。
 映像と全く関係のない仕事だったにも関わらず、多忙な合間にかなりの映画を観てきた夫(映画館には出かけられないので100%DVDで)。私の知らない佳作もたくさん知っていて、随分と教えてもらった。その恩恵をありがたく受け取って仕事に活かしつつ、映像業界に居るのにこれでは形無しとさらに作品鑑賞と勉強に励むようになった経緯がある。
 大好きなジャンルであるホラー。苦手とする人が多ければ多い程、どんなに面白いか熱弁してオススメしたくなるホラー。それでも苦手な人は苦手なままのことが多いホラー……。今回の『ギフト』はサスペンス(music.jpではここにカテゴライズ)やミステリー、はたまたヒューマンドラマのジャンルに置かれることもあるが、私としてはホラーとして取り上げたい。良きホラー作品には欠かせない“美しい主演女優”と“名優”が揃っているからだ。

 本作の魅力を語る前提として、なぜホラーを苦手な人が多いのか推察してみたい。誤解を恐れず言ってしまえば、駄作B級と良作A級の差が激しいからではないだろうか。
 制作側の“つもり”と、観客が受け取る“感覚”に差が大きいと、それはホラーの時に特に悲劇だ。ヒューマンドラマで「悲しい気持ちになって欲しいのに悲しくない」、コメディで「笑って欲しいのに笑えない」くらいなら、まぁなんとかその瞬間しらけながらも凌げると思う。観客の心の琴線を弾こうとして何回かミスをしても、観続けてくれると思う。
 しかしホラーでは「怖がらせようとして怖くない」「驚かそうとして驚かない」ということになる。そうするとどうしても、恐怖や緊張の対岸にあるはずの笑いがこみ上げてしまう。そうなったらもう続行不可能、半笑いで観続けられることになる。「では制作側の意図がうまく運んで、ミスをしなければいいのでしょう?」という声が聞こえるが、そうすると今度は何が起きるか。「ひぇ〜怖過ぎる!」ということになり、恐怖に堪え兼ねて離脱者が出てくるのだ。たった一作でトラウマ的に恐怖が染み付き、ホラー自体を全力で避けるようになってしまう場合すらある。海外では観客卒倒の訴訟すら起きている。
 ホラーはこの二つの間をうまく縫わなければ多くの人に最後迄観てもらえない、難儀なジャンルなのだと思う。苦手な人達にも大きく分けて「非現実的だから観ていられない派」と「怖過ぎて無理派」の二種類が存在。理由についてそれぞれにインタビューすると、前者は酷い駄作に当たり、後者は素晴らしい良作に当たってしまったということらしい。
 ではホラーを好きになって頂くにはどうしたらよいか? まずは良作を観て、途中で停止・撤退してもいいから“本物の怖い種”を一粒、胸に植える。その後に安心した状態で駄作を何本か観るのはどうだろう。真っ赤過ぎる血のりや、キューが早過ぎて怖い事が起きるのバレバレの「ジャーン!」の効果音、新人さん達のフレッシュな演技(自身にも『着信アリ2』出演の件があるので、こればかりはちょっぴり耳が痛い。でもご覧あれ。)を半笑いで鑑賞。そして再び良作に戻れば、その上手さや工夫の痕跡がわかるようになり、ドキドキしながらも楽しめるようになるのではないだろうか。

 と、誰に頼まれてもいないのに多くの人にホラーを楽しんでもらう方法を考え続けているくらい、私はホラーが好きなのだ。しかしそんな狙いをもってしても苦手な人に観てもらうのは難しく、オススメするのは品のいいホラーでないといけない。そこにきてこの『ギフト』はぴったりだ。
 “美しい主演女優”が必要なのは大凡の作品に当てはまる条件だが、ことホラーに関しては、大きな音や動きを伴った恐怖表現の対局として無言・静寂が多く、ビジュアル面の重要性が高い。また不安定な感じを出すためにわざと正攻法ではないアングルから撮る事が多いので、そうなると正対した時に可愛い、綺麗な顔というだけでは物足りず、造形としての美しさが欲しい。その点ケイト・ブランシェットは完璧! 死者の声が聞こえるというホラー設定を、立ち姿と愛情深そうなアンニュイな表情でぴたりと現実世界に思わせる。もちろん、お芝居が素晴らしいからそれが可能なのだ。彼女の死者へのいたわりと、現世と繋がれない人達の切なさが、CGを抜きにするとほぼ一人芝居で成り立っているわけで、その観点でみていくととても面白い。
 そう、もう一つの持論、“名優”が(他のジャンル以上に)ホラーに必要なのは、リアリティだけでは不可能な表現を可能とするには、緻密な計算と高い表現力が欠かせないからだ。ジャパニーズホラーがもて囃された1990年代後半から2000年代前半の作品を見ても、どれだけ演技力を重視したキャスティングかよくわかる。本作でも、おやこんなところにこんな人が、という出演者が多数居るので注目して欲しい。(しかし現在の日本のホラー映画が若手女優の登竜門となっているのも、意味はわかる。お芝居を勉強する上であらゆるジャンルから一本だけ選び、その主演をこなすことで成長具合を確かめるなら、きっとホラー映画が一番効果が高いと思う。台本の理解、人間の心理を考察する力、想像力、表情・声・動きでの表現など、多くの獲得が必要で鍛えられるはずだ。実際名優のデビュー作がB級C級のホラー作品、ということはよくありますよね。観客もホラーやアクション、SFなら何度と見直す人も多いでしょう。顔を覚えてもらえるメリットも若手にはある。)
 ちなみに“名優”と括って性別無差別なのに、なぜ“美しい主演女優”と女性に拘るかといえば、多分私はやや昭和な感覚の人間だからと思う。男性が怖がっても「しっかりしてください」と思ってしまいどうにも夢中になれず、ドキドキが足りない。美しい女性が震える所を見た方が、「頑張れ〜、生き残るんだ〜!」と応援したくなるはずと考えている。グロテスクとセット扱いの多いエロチシズムは同性なので不要に感じることも多いが、性を抜きにすると面白くなくなるのもホラーの特徴と思うので、ある程度はOK。(この作品は品のいいデザインだが)エッチっぽいパッケージに騙されてでもいいから、一人でも多くホラー好きになってくれたら……、と思う。
 そう考えると男性向けのトラップはお色気で仕掛け済みだが、女性の方へのアピールがどうも弱いのかもしれない。制作者の皆様、出演者全員イケメンばっかりを起用してのホラーに特化した作品とか、実験的にいかがでしょうか?

★以下重要なネタバレあり。★
 ところで、“名優”としてもう一つ。自分の経験に近いことや、人の体験を見聞きしていればお芝居はし易い。しかし現実にそれが絶対に不可能なこと、例えば“もう生きていない感”を出すのはどうすればいいのか。ジョヴァンニ・リビシが見事に表現していて、私はいつも泣いてしまう。
 執着や恐怖心が抜け落ちて、穏やかに透き通って見えつつ、やるせない悲しみが覆っている様は、ああ、この人本当に死んじゃったのだと納得させるに十分だ。
 しかしお手本を見たからといってすぐに真似出来るものでもなさそう。言い換えたら「欲」が全くない様子なのだが、無欲ほど醸し出すのが難しい雰囲気もない気がする。だって演じているからには、台本に合った表現を忠実に、上手くやりたい、こんな風に見て欲しい、と、欲が常に根っこにあるのだ。それを観客に悟られないように十分に見せるのは、本当に困難だと思う。
 さらに考えを一歩進めれば、生物が生き延びていくこと自体が欲によって突き動かされ継続可能となるわけだから、無理もない。それを可能にしてしまう技術が眩しい。『TED』で子供の為にクマのぬいぐるみをさらって監禁、その合間にドリンク片手にヘンテコくねくねダンスをしている気持ち悪い人(ここだけ巻き戻して何回も観てしまった)と同じとは到底思えないではないか。
 それともこれはまだ私が未熟だからで、実力に満ちた先輩方は悩みもしないのだろうか。いつかくるかもしれない死んでしまっている役の為に、修練を怠らないようにしよう。

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■ミムラPROFILE

ミムラ 女優。1984生まれ。
2003年デビュー以来、ドラマ・映画・舞台・CM・執筆等多方面で活躍中。
放送を終えたばかりの連続ドラマW「5人のジュンコ」(WOWOW)をはじめ、来年も1月2日放送の「富士ファミリー」(NHK)や1月12日スタートの「ダメな私に恋してください」(TBS)、1月15日スタートのBS時代劇「大岡越前3」(NHK)など出演作が続く。
文筆家としても知られ、著書に『ミムラの絵本日和』『ミムラの絵本散歩』(共に白泉社)。近著に初エッセイ『文集』(SDP)がある。
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