大鶴義丹 ケイダッシュ

大鶴義丹 ケイダッシュ

【連載コラム】大鶴義丹、男女の脳の
違いについて考察する。(第4回)

本の目利き屋、大鶴義丹でございます。第4回目に紹介する本は、黒川伊保子「キレる女 懲りない男 ──男と女の脳科学」です。

「マシンとしての男女」

著者の言葉を初めて聞いたのはラジオ番組だった。スピーカーから聞こえてきた話に飛び上がるくらいに驚いた記憶がある。
「男と女の脳というのはそれぞれ全く違う特性を持った機械のようなモノで、見えている色や、空間認識を司る右脳と、言語やコミュニケーションを司る左脳を連携する脳梁という神経の太さも20パーセントくらい違う。だから視界に真っ先に入るものも違うし、右脳左脳の神経連携率が異なるので、脳の演算が得意な分野も違う」
これ程までに、男女の永遠なるすれ違いの根幹を具体的に表現した言葉に出会ったことはなかった。
機械をつなぐ電線の種類が違うのだから仕方がないということだ。なるほど、自分が男女間に対して抱いていた疑問の大半はこの話をベースに解決できると思った。
ちなみにマシンとしての特性の差は類人猿から始まった何百万年の集団生活の中で生まれ遺伝子に組み込まれたモノであり、文明化されたのはわずかここ数千年なので、その前段階の本能的特性を未だに強く引きずっているからだと言う。
ようするに設計段階からマシンとして全く違うのだから、リズムが合うはずがないし、そこから導き出される答えが同じな訳がない。

「なんで女って奴は…?、なんで男って
奴は…?」

私たちの中でそういう気持ちは幼稚園頃から生まれ、会社に勤めてからも消えることなく、年老いても続いている。とにかく私たちは物心ついてから死ぬまで異性の心がよく分からない。
その不可思議から恋が生まれ、その不可思議に深く傷つくこともあるが、結局のところ占いなどで誤魔化しているのが現状だろう。
著者は人工知能エンジニアとしての研究から、脳の回路特性を分析していると言う。男女の心理を調べた結果ではなく、人工知能の研究や脳生理学から逆算して導き出した結果だと言う。
私は既存の心理学的な考え方ではなく、脳の構造的特性としての男女の違いを研究しているというスタンスに興味を持った。
男女の違いを調べた心理学の本なら何冊か読んだことがある。しかし私は男女というものにおいて、ありがちな心理学をあまり信用していない。
その主な理由は、導き出された結果が都合の良いストーリーに思える時があるからだ。特に深層心理というやつが厄介で、それをちゃんと科学的に分析することは今の科学では出来ないと言う。
こんなことを無意識の中で思っているはずだから、こんな行動にとって代わるのだろうといった、推察レベルの話に聞こえることが多々ある。素人でも想像できるストーリーのレベルのことがほとんどだ。だから推奨データからの推察が多すぎる心理学というものは、定義としては科学の範疇ではないと主張する専門家もいるという。極端に言うと、統計的な占いだと。
しかし著者の言うところの、男女の脳を異なったマシンの性能差として分析する話には、心理学には決してない説得力があった。
男女の間にある深い溝の奥底は幾つになっても見えない。霧が立ち込める巨大渓谷の底を覗き込むようなもので、その底にどんな光景が広がっているかを想像するのも難しい。
私などは、あと数年で50歳という大台に乗るというのに、やはり女性の考えていることは未だに二割くらいしか理解できないし、反対に分かろうとする努力もやめかけている。
結婚というシステムも二回経験しているが、そのシステムを円滑に機能させる高機能アプリも持ち合わせていない。元の子もないことをいうと、そんなアプリ自体が存在しているかも疑問だ。とりあえず余計なことをしないと言う安全運転だけで切り抜けているというのが現状で、本当に自分の能力やテクニックで状況をコントロールしているとは思えない。
50歳手前の大人がそんな程度なのだから、男と女は私たちが思っている、または本能的に感じている以上に生物として異なった特質を持っているのだろう。また同時に、男女ともに、己の特性自体を分かっていないということもあるだろう。
例えるなら、自分の乗っている車が雨が得意なのか、急カーブが得意なのか、最高速が速いのかも分からずに、その場しのぎで全開レースをしているようなものだろう。レースの世界でいうとそんなレーサーは絶対にダメで、プロレーサーというものは、自分が乗っている車の運動特性を熟知していて、その良いところ悪いところを状況に応じて使い分けている。また競争相手の車の特性も熟知しているので、その特性差異を利用して相手を抜き去り順位を上げていく。
その理屈で考えると、現代の私たちは男性としての特性も分かっていないし、対峙する女性の特性についてはさらに無理解だろう。
それは女性側からしても同じことで、私たちの状況というのは、素人レーサーがごまんと集まっては、ぶつけあいのチキンレースを混沌と続けているようなものなのだろう。そんなものが危険なのは当然で、実際に世の中クラッシュだらけである。
原始時代の人間などはその男女差異を別機能として有効利用していたのだろうが、本能の代わりに知恵というものを身に付けてしまった私たちにとっては、知恵と本能の折り合いが悪いのかもしれない。人間の知性がもっと進化していった果てにはそれらも解決されるのかもしれないが、今はまだ脳の中で原始時代からの本能が無駄に機能していている過渡期と言うことなのだろう。

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