池井戸潤『株価暴落』アベノミクスで
株価も上昇中だけど、大丈夫？

アベノミクスと日銀の金融緩和で日経平均株価は上昇中！でも、なぜか不安で日々株価を気にしてしまう今日この頃。皆さん、毎日疲弊してませんか？

池井戸潤と言えば半沢直樹シリーズなど多数の作品がドラマ化され人気となっていますが、この「株価暴落」もその一つ。経営状況に問題のある巨大スーパーを襲った突然の企業テロ。客足は遠のき売上は激減、株価は暴落。巨額の支援要請を巡って銀行内部も揺れる。テロ犯を追う刑事、逃げる容疑者、周囲に蠢く様々な策謀。池井戸作品の王道とも言うべき傑作金融エンタテイメント！

とまぁ、気取った説明はこのくらいにして、この作品は楽しめます。極上のエンタテイメント小説であり、元銀行マンならではの知識あふれる池井戸潤作品の典型に漏れず、銀行内部の人間関係の描き方もさることながら、爆弾テロの犯人を追う刑事のストーリー、テロ容疑者とそれを取り巻く人間たちのストーリーが絡み合いながらクライマックスへ向かっていく流れは流石としか言いようがない！

今回主人公となる銀行マン、いわゆるバンカーの坂東の所属は審査部。審査部ってどんな部署？って思ったら、銀行内部では“病院”って呼ばれていて、赤字や債務超過で業績が悪化した上場企業と系列会社を専門に担当する部署で、その企業への融資の判断をする、言ってみれば企業の生殺与奪権を持っている銀行でもトップクラスのバンカーが担当する部署なんですと。そのトップクラスのバンカーが周囲の反対派に負けず、バンカーとしての正しい在り方とプライドもって対抗して行く姿がとにかくカッコいい！がしかし、どんどん状況は不利になって行っちゃうんですよねぇ。そのくらい銀行の内部って、派閥とか思惑が交錯する場所かと思うとそれだけでドラマティックなんですが、さらにこの作品には、刑事と容疑者っていわゆるミステリーやサスペンスでは当然中心になるサブ主役たちも登場。そちらの物語も面白い！ページを読み進むごとに、「この先どうなっちゃうの？」っていう気持ちに加えて、「今あっちはどうなってるの？」って気持ちも湧いてきて、とにかく先を読みたくなる感じ。この辺り、「さすが池井戸潤！」と言いたくなっちゃいます！

個人的には容疑者の恋人由希が可哀想で、可哀想で切ないのです。ただでさえ犯人の恋人ってだけでいろいろあるのに、クライマックスの幕開けになる部分なんかは読んでて「そっちはダメダメ！！」って思わず声に出して言っちゃいそうになるくらい。もうドキドキが止まらない！

またサスペンス面だけではなくて、銀行や金融の知識が豊富なところもこの池井戸作品の面白いところ。誰もが銀行にはお世話になっていると思うけど、自分たちの知らない銀行の姿がこの作品の中にはあるんですねぇ。今回の物語の中心にある一風堂という巨大流通企業ってモデルは過去に破綻したあのスーパーですよね？もしかしたら破綻直前にはこの作品に出てくるようなやり取りが企業と銀行の間にあったのかなって想像もしてしまって、自分の知らなかった世界を見てきたかのような感覚になる。これって、やっぱり小説ならではの楽しいところですね。ネタバレになっちゃうのであまり詳しく言えませんが、最後犯人の動機を推察するところも株取引の知識なんかが絡んできて、「え？そんな事も出来るの？」って思っちゃう人も少なからずいるのでは？あ、ちなみにこの作品に出てくる“一風堂”って架空の巨大スーパー企業で、ラーメン屋さんじゃないですからね。池井戸さん、ここはちょっとネーミング間違っちゃったんじゃないですかねぇ（笑）もちろん私も豚骨ラーメン好きですよ。替え玉もして最後に紅ショウガ入れる派なので……おっと、脱線しちゃイカンイカン。

この「株価暴落」も他の池井戸作品同様ドラマ化されていて、主演はあの織田裕二でWOWOWの連続ドラマとして放送されたそうでDVDも最近発売されたそうです。でも金融や銀行の知識がふんだんに盛り込まれたこの作品なら、まず小説を読んでみて欲しい。いや、読んでみるべき！

「なにがアベノミクスだ！」「なにがトリクルダウンだ！」と憂鬱な事を思う通勤時間に、この「株価暴落」おすすめです！周囲のプレッシャーを受けながらも立ち向かう主人公坂東の意思と決断。あっと思わせるクライマックス。退屈な時間なんて、吹き飛ばしちゃいましょう！