tofubeatsはなぜこれほど愛される?
 若手からベテランまで引きつける理

 この日の出演者は先日メジャーデビューも発表されたアイドルグループ・Especia(同日時点では未発表)や、“アナスタシア成美”こと福岡アイドル・LinQの由地成美、さらに「ディスコの神様 feat.藤井隆」にコーラスとして参加した池田智子(Shiggy Jr.)やラブリーサマーちゃんなどの女性陣が参加。さらに、okadadaやPa's Lam System'sといった盟友や、m.c.A・TSmall Boyz(西寺郷太・藤井隆・堂島孝平)やの子&mono(神聖かまってちゃん)という彼を可愛がる先輩たちに囲まれるなど、tofubeatsの“愛され”っぷりが目立った一夜だったといえるのかもしれない。

・これからのJ-POPを担う女性シンガーとの相性の良さ
 
 池田智子やラブリーサマーちゃんは、tofubeatsがこの日「オファーしたときと違ってみんな売れてしまって(笑)。揃うまでに時間が掛かりました」とMCで冗談交じりに悪態をついてみせるほど、この1年間で飛躍を遂げた存在だ。池田はShiggy Jr.のボーカルとして、バンドシーンで徐々に支持層を拡大していたなか、『ディスコの神様 feat.藤井隆』のコーラスとして抜擢され、新たなファンを獲得。この日のライブでは、持ち前の柔和なキャラクターとキッチュなボーカルで観客を和ませていた。

 ラブリーサマーちゃんは、自身のルーツとして公言している神聖かまってちゃんのライブでtofubeatsを見て彼の存在を知り、自身のSound Cloudで「水星」をカバーしたという経緯を持つ宅録アーティスト。そして彼女自身がマルチネレコーズ界隈のトラックメイカーによってプロデュースされたり、オリジナル曲が評価されはじめていた中で『ディスコの神様 feat.藤井隆』のレコーディングに参加。この日のライブでは、「おしえて検索」と「SO WHAT!?」のボサノヴァカバーや、自身の曲で最も人気の高い「あなたは煙草 私はシャボン」を、ナチュラルにリバーブのかかったウィスパーボイスとギターの温かいメロディーでしっとりと弾き語っていた。

・の子、okadada、Pa's Lam Systemなど先輩・盟友たちとの交流

 共に関西に身を置いて活躍を続けている盟友・okadada。彼は今回“okadada feat.上鈴木兄弟(P.O.P)”としての出演やdancinthruthenightsとしてtofubeatsと共演するなど、多大なる活躍を見せたが、この日最大の見せ場は明け方に披露された「local distance」だろう。2011年に田中仮雄とD.K.X.Oが宇多田ヒカルをサンプリングして作った楽曲をokadadaとともにカバー・ラップしたものだ。tofubeatsが「そこそこ思い入れのある曲」と照れ臭そうに前置きしてプレイした同曲には<インターネットが縮めた距離を インターネットが開いてく>(tofubeats)や<こんな時代に Localだなんだってあるわけないねん>(okadada)など、“誰でもトラックが作れるインターネット時代”黎明期からシーンにコミットしていた2人だからこそ発信できる、エモーショナルなメッセージがそこにあった。

 狒々の面を被った謎の3人組トラックメイカー・Pa's Lam Systemは、今年のマルチネレコーズ主催イベント『東京』前後でドロップした一大アンセム「I'm Coming」をプレイし、観客を大いに盛り上げた。同曲はAvec Avec、PARKGOLF、AZUpubschool、Miii、in the blue shirtなどのプロデューサー・トラックメイカーがリミックスを手掛けるなどし、同イベントの共通言語といっても過言ではないほど、界隈のリスナーやクリエイターに衝撃を与えた楽曲だ。その後も一切手を緩めることなくアッパーな楽曲を投下し続け、最後はtofubeatsの「CAND¥¥¥LAND feat.LIZ」をトラップ風にアレンジし、会場を驚かせた。

 この2組と毛色は違うが、神聖かまってちゃんはtofubeatsのレーベルメイトかつ先輩である。フロントマンの子はtofubeatsに対して「メロディー以外はパソコンで作ってる時点で影響を受けてます。僕がtofubeatsくんを知ったのも、初期のBandcampなんですよ。彼に会った後に100曲か200曲もらったりして、影響は大きい」と話すなど、強く意識をしている。(参考:神聖かまってちゃん・の子が音楽を作り続ける理由「すごく負けず嫌いで、飢餓感もかなりある」)さらに、tofubeatsも「僕もDTMを選択しなければ、の子さんのようになっていたかも」と明かしており、活動形態や出自は違えど、互いにリスペクトし合う仲であることが伺い知れる。ライブではの子とmonoを迎えた「ロボットの夜」と「おしえて検索」を披露し、tofubeatsはフロントで暴走する2人をさらに勢いづかせるハードなトラックをプレイした。

・西寺郷太や藤井隆、m.c.A・Tなど、ポップスフリークに学ぶ

 ライブ中盤でSmall Boysとしてステージに登場したのは、西寺郷太、堂島孝平、藤井隆の3人。男性アイドルに楽曲提供をするために制作し、ボツになったものを歌うために結成された同ユニットは、当初の西寺・堂島のほかに藤井隆も加入した。彼らは時折チャーミングなMCも挟みつつ、「兄弟湾」や「Selfish Girl feat. 藤井隆」など、J-POPとして良質な楽曲群を次々と披露した。

 そして、この日のシークレット・ゲストとして会場に現れたのは、心斎橋でのイベントでtofubeatsと共演し、相性が良かったというm.c.A・T。J-POPトラックメイカーの大先輩である彼は、DA PUMPの「if …」を自身のラップでセルフカバーし、キレのあるパフォーマンスで衰えを感じさせないかと思いきや、酔っぱらってtofubeatsと藤井隆に絡み、観客からは笑みがこぼれた。

 彼らJ-POPクリエイターの先輩たちに囲まれ、次世代を担うトラックメイカーとして可愛がられているのは、この日のライブを見れば何より明白だった。イベントをブッキングしたミッシェル・ソーリーもその一人であるし、J-POPで実績を積み、その酸いも甘いも知っている人間たちがtofubeatsの周りにはいる。だからこそ彼はここまで伸び伸びとやれているのだろうし、先達たちが味わったCD市場の激変期とは違ったアピローチで、シーンを渡っていけるのかもしれない。

 そしてtofubeats本人はこの日のパーティーで、金髪ヅラの“バッキー河合”として、島谷ひとみ「ペルセウス」や90年代のユーロビートでパラパラを踊り、賑やかしに徹した。自身のDJセットでは「Her Favorite feat.okadada」、「synthesizer」、「Dont' Stop The Music feat.森高千里」など新旧織り交ぜたパフォーマンスを見せたり、EWIを吹き倒してゲスト陣とともに「ディスコの神様」を熱演。終盤ではdj newtownの「high-school girl(thamesbeat remix)」から「水星 feat.オノマトペ大臣」「20140803」など熱を帯びたパフォーマンスを披露し、朝を迎えたUNITでのひと時を締めくくった。

・ディーヴァとの邂逅と、今後への期待

 12月10日にリリースされた『宇多田ヒカルのうた』では、宇多田のデビュー曲ともいえる「time will tell」をBONNIE PINKとともにカバー。エッジの効いたビートに、BONNIEの憂いを帯びたボーカルが乗り、同作品の中でも出色のエディットを見せていた。彼は先述のインタビューで「『FKA Twigsになりたいです!』って女の子が現れないのは、時代として問題があると思うわけです(笑)」と語っているが、実際、近年のメジャーシーンでは“艶やかで憂いのある声を持つ新ディーヴァ”の登場が待たれていると言える。「time will tell」で目覚ましい成果を上げた彼が、新たなディーヴァの登場に一役買う日も近いかもしれない。(中村拓海)

リアルサウンド

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