頭脳警察の『頭脳警察3』

頭脳警察の『頭脳警察3』

不穏な時代の雲間から頭脳警察の
サウンドが轟く『頭脳警察3』

頭脳警察は懐の深い音楽性を持った
バンドだった

 さて、本稿用に彼らのアルバムとして選んだのが3作目『頭脳警察3』だった。デビュー作、2ndとアルバムの発売が禁止処分になり、本作になって彼らのアルバムはようやく店頭に並び、人々の耳にその音楽が届き始めたわけだ。バンドは初期の攻撃性を通過し、第二段階に入ったというべきか、サウンドは大きく変化している。曲や歌詞、主張する内容の鋭さは相変わらず、そこに曲作りの上手さや巧みなアレンジが加わっている。そして、発売はされなかったが、1枚目、2枚目はパンタのギターとトシのパーカッション(コンガ)を中心とした極めてシンプルな構造であった(それでも音は重厚であったが)のに対し、本作からはストリングスを入れたり、ゲストとして招いたフラワー・トラベリング・バンドの石間秀樹(ギター)を加えるなど、サウンドに幅、奥行きが生まれている。

 それにしても冒頭1曲目の「ふざけるんじゃねえよ」、「嵐が待っている」と続く反逆精神に満ちた格好良さはどうだろう。発禁騒ぎを知るファンにとっても念願のリリースで、しかもこの一撃。これぞ頭脳警察と歓喜したに違いない。アルバムは3曲目「時々吠えることがある」から一転して静かなアコースティックギターとキーボードの伴奏を付けただけの弾き語りへとスタイルを変える。この、噛みしめて歌うようなパンタの声には説得力がある。4曲目「滅び得た者の伝説」は再び激しく燃えさかるような歌だ。6曲目「前衛劇団モーター・プール」は混沌としたアバンギャルドな展開が異色だ。他にもそれまでの頭脳警察にはなかったポップな調子の「パラシュート革命」、美しいメロディーを伴った名曲「光輝く少女よ」と、静かに、ぐっと聴かせる粒ぞろいの楽曲が詰まっている。この作品はしかし、保守的な頭脳警察のファンからは早くもそっぽを向かれる結果となった。今聴くとそれほどでもないと思うのだが、ストレートなロックンロールからブルースロック、内省的な歌詞を伴ったフォーク、パンタのもう一つの側面とも言えるロマンチックなラブソングまで、彼のその後のソロ活動を暗示させるような、多彩な音楽性が示されているとも言えるのだが、それがポップだと揶揄され、硬派な路線から安易な商業主義へと転向したかのように批判を受けたのだ。
 それでも結成当時からの頭脳警察らしさとロックバンドとしての新しさが同居する本作を彼らの最高傑作とするファンも少なくない。これから頭脳警察を聴いてみようという方にも、まず本作をとっかかりにして、彼らの強烈な個性に触れ、真摯に音楽に向き合う姿を知ればいいかと思う。伝説を辿るのはそれからだ。あとは現在の頭脳警察にぶつかるもよし、パンタという生真面目を地でいく、心底信じられるロッカーを好きになるのもよし。
 頭脳警察はひるむことなく、翌年には『誕生』('73)、さらに『仮面劇のヒーローを告訴しろ』('73)と凄まじい勢いでアルバムを制作していくのだが、「頭警は上手い音楽でなくていい」と主張するトシはどちらのアルバムのレコーディングにも参加せず、この2作はゲストミュージシャンを迎えて制作された。トシは脱退したわけではなく、通算6作目となる『悪たれ小僧』('74)で復帰するのだが、その翌年、“第一次”頭脳警察は解散を決めるのだ。

 以降、パンタはソロ活動へと歩みをすすめ、ライヴ活動、ソロアルバムの制作をへて、1977年にはバンド、HALを結成し、このバンドからは名作『マラッカ』が生まれている。相棒のトシも多くのアーティストのライヴやアルバムに客演し、音楽活動を止めることはなかった。再結成を望むファンの後押しもあったろうが、頭脳警察は1990年に期間限定で再結成し、ライヴ作、スタジオ録音のアルバムも制作された。そして、2000年に入ると頭脳警察は“第三次”ともいうべき再結成がされ、マキシシングル「時代はサーカスの象にのって」('08)をはじめ、『俺たちに明日はない』('10)、『狂った1頁』('12)と立て続けにアルバムが出され、そして最新作として、結成45周年、没後30年(2013年時)を迎えた寺山修司に捧ぐアルバムとして、『暗転』('13)がリリースされている。

 それ以外にもベスト盤、コンピレーション、ライヴDVD、旧作のリイシュー、最初のほうで紹介した『幻野祭』CD2枚+DVD1枚のBOXセット、『ドキュメンタリー 頭脳警察』、CD+DVD, SHM-CD(全7枚)からなる『無冠の帝王-結成40周年記念BOX』、発掘ライブ音源のリリースなど、彼らの活動を追うアイテムはひきもきらず、その姿を求める声は途切れない。決してメジャーレーベルに属して活動しているわけでもないのにである。
 ドキュメンタリー映画の中でパンタは「止まっているということと、変わらないということは、違うんだよ」と印象的な言葉を残している。パンタは頭脳警察で(それ以前はグループ・サウンズでの活動が知られている)表舞台に登場してから、一度も自分がこれと信じた姿勢を曲げたこともなければ、歩みを止めたこともない。『時代はサーカスの象にのって』('08)では、《~戦争と戦争のあいだに俺たちはいる~それを忘れることはない》と歌われる。毒気を抜かれたような音楽ばかりが巷に流れ、権力に押し潰されることに対してもの申すアーティストが少ない中、時代の節目節目にパンタと頭脳警察は拳を突き上げてくれる。一方で、それをヒーローと奉り上げるだけで、結局のところ自分からは何も動こうとしない奴が、一番腐った人間なのだということも、頭脳警察は教えてくれたのだ。“ロックなんてとうの昔に死んでいる”などと分かったような口を利く輩もいるけれど、そういう人は座り心地のいいソファに腰を下ろしてご託を並べるだけで、現在進行形の頭脳警察を知らないのではないかと。そう思えてならないのである。

著者:片山明

OKMusic編集部

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