『Aladdin Sane』/David Bowie

『Aladdin Sane』/David Bowie

異能の才を振りまいた
デヴィッド・ボウイのグラムロック
期の名作『Aladdin Sane』

アルバム『Aladdin Sane』収録曲解説

1.「Watch that man」(あの男を注意しろ)はミック・ロンソンの弾くディストーションを効かせたソリッドなギターが煽る、ノリのいいロックンロールだ。あの男とは誰のことか。自分のことであるような、それともルー・リードか? イギー・ポップか?
2.「Aladdin Sane (1913-1938-197?)」(アラジン・セイン) ではマイク・ガーソンの弾くピアノが効果的に配され、それまでのボウイにはなかった、じっくり聴かせ、なおかつ不安感をつのらせ、どこか心穏やかではいられないような曲想になっている。タイトル曲の副題(1913-1938-197?)は第一次、第二次世界大戦勃発のそれぞれ前年を指し、最後の197?はベトナム戦争から世界は破滅を辿るとの暗示だったという。確かに、このアルバムが出た時はまだベトナム戦争は続行中であった。
3.「Drive in Saturday」(ドライヴ・インの土曜日)はボウイ自身のサックス・ソロもフューチャーしたナンバー。シングルカットされ、後年のライヴでも時折披露されることがあった人気曲だ。ミディアムテンポのこういう曲ではボウイの歌唱のうまさが示されるところだ。
4.「Panic in Detroit」(デトロイトでのパニック)は友人のイギー・ポップが子供の頃に体験したデトロイトでの思い出や目撃した暴動などをモチーフに書かれた曲だとか。いかにもスパイダース・フロム・マースの持ち味を発揮するような眩しいサウンドに彩られ、ボウイは焦燥感を募らせるように気ぜわしく歌う。
5.「Cracked Actor」(気のふれた男優)も実にカッコ良い曲だ。要となるミック・ロンソンのギターリフを中心に重心の低いサウンドに乗り、ボウイはさすが演劇出身らしく、ある意味、芝居がかったというべきか、非常に説得力のある歌唱を披露している。
6.「Time」(時間)はガーソンのピアノをイントロに、「Cracked Actor」同様に演劇的というか、実にドラマチックな構成を持った曲だ。アナログ盤ではこの曲がB面の1曲目だったと記憶しているが、この曲を冒頭に持ってくることで空気感までも一新するほどの印象を与えたものだ。それまで歌唱力を云々されることがなかったボウイだったが、この曲の彼のヴォーカルは起伏に富み、緩急を付けた歌い回しなど、上手い。
7.「The prettiest star」(プリティエスト・スター)は1970年に一度シングル盤としてリリースされたものをリメイクしたバージョンだそうだ(シングルのB面は「Conversation Piece」)。ちょうどその時期に結婚したアンジーに求婚する際に作った曲という逸話もある。ちなみに、最初のシングル盤でリード・ギターを弾いたのは盟友T・レックスのマーク・ボランで、ベースはプロデューサーのトニー・ヴィスコンティ。この曲の享楽的なヴォードヴィル調のテンポに沿うように、フリーキーかつ倦怠感の漂うミック・ロンソンのギターも素晴らしい。
8.「Let's spend the night together」(夜をぶっとばせ)は言わずと知れたザ・ローリング・ストーンズのヒット曲(アルバム『Between the Buttons』('67)収録)。後にはアンジーに横恋慕を仕掛けてくるミック・ジャガーと張り合うボウイだが、実際にはふたりは仲の良いゲイ仲間というか、1985年にデュエット作『Dancing in the Street』(オリジナルはマーサ&ザ・ヴァンデラスの1964年のヒット曲)を残していたりする。ここでの「Let's spend~」は本家以上にハイスピードで飛ばしている。
9.「The Jean Genie」(ジーン・ジニー)はシングルカットされ、ライヴでも披露されることが多い人気曲だ。リリース当時は英国チャートで2位を記録したものの、米国や他国ではさほどふるわなかった、というのが不思議なのだが、グラムロック期のボウイの代表曲のひとつではないかと思う。ビートに呼応するように、ギターのエッジが立ち、ボウイもロックヴォーカリストらしいワイルドさで歌う。
10.「Lady Grinning Soul)」(薄笑いソウルの淑女)はロックらしくない雰囲気の曲だが、アルバムの最後を飾る、何とも渋いメロディーだ。ガーソンのさざなみのようなピアノに導かれるようにボウイがしみじみと歌う。ミック・ロンソンはアコースティックギターを弾き(時折エレキ挿入)、それも味わい深い。

OKMusic編集部

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