【インタビュー】東京バレエ団『くる
み割り人形』主演・沖香菜子~成長を
続け、大きく花開いたバレリーナの現

 2023年11月に上演された『眠れる森の美女』(新制作)のオーロラ姫に続いて、12月の『くるみ割り人形』では主役マーシャ役を踊る東京バレエ団のプリンシパル 沖香菜子。
 2016年に発表されたブルメイステル版『白鳥の湖』、2019年に37年ぶりにリニューアルされた『くるみ割り人形』、そして先日の『眠れる森の美女』で、東京バレエ団はチャイコフスキーの3大バレエ作品すべてを新制作で上演したが、沖はそのすべての主役を踊ってきた。2018年にプリンシパルに昇格して以来成長めざましく、繊細な演技と可憐な舞台姿、完璧なテクニックに加えて、内側から放たれる大輪の薔薇のようなオーラが眩しい。
「『眠れる森の美女』の初日は久しぶりに緊張しました。プロローグ付の版だとオーロラ姫の登場まで時間があるので……落ち着くために同じオーロラ姫役の秋山さんと金子さんの顔を見に楽屋へ一回戻ったりしていました。それ以前にはマラーホフ版と子供のための版を踊ったことがありましたが、今回は3時間を超える大きなプロダクションで、この1年間で身体も変化していたこともあり、緊張もひとしおでした」
 『くるみ割り人形』は2019年の初演でも好演。愛らしく優美な演技で観客を魅了したが、この4年の間に可愛らしさだけでない大人の魅力も加わった。
「まだリハーサルも始まっていないので、この1年で自分の『くるみ』の踊りがどう変わっているのか予想がつかないですが、身体は年齢とともに確実に変わってきています。それがどう作用していくのか、楽しみでもあるんですよ。チャイコフスキーの音楽はよく聴いています。「ここはこうやって踊りたいな」「ここはちゃんと直さないといけないな」とか考えながら(笑)。でも、チャイコフスキーのクラシック音楽は本当に素晴らしいし『くるみ割り人形』は大好きな曲です。クリスマスの雰囲気が漂っているし、主役も「出てきました」っていう感じじゃなくて、気づいたらみんなと一緒に踊っていたという感じが好きなんです。ロシアに留学(ボリショイバレエ学校)していたときから、花のワルツなどを踊っていたので、演目自体に色々な思い出があります」
Photo;Kiyonori Hasegawa
 2010年に東京バレエ団に入団。5年前にプリンシパルになり、主役を踊る頻度が高くなったことで精神面でも変化が大きかったという。
「昔はほとんど緊張しなかったんです。プリンシパルになってから、今まで考えなかった責任のようなことを考えたり、舞台でプロとして踊ることの重みを感じるようになりました。それまで責任を感じていなかったわけではないのですが……入団したての頃は怖いもの知らずで、年齢とともに緊張するようになりました。公演の日に至るまで、先生方がみっちり教えてくださって、細かく見てくださって、練習に練習を重ねてやっと本番を迎えるので、昔はとにかくお客様がいる舞台に立つのが楽しみで仕方なかったんです。今はもっと自分のハードルを上げて、いい踊りを踊りたい、もっと綺麗に見せたいという自分に対しての欲が強くなってきていると思います」
Photo;Kiyonori Hasegawa
 プリンシパルになる前のバレリーナは主役と脇役を兼任することがあるが、プリンシパルになるとコールド・バレエとして舞台に立つことはほとんどなくなる。
「毎回出なくてもよくなるので、出る演目が減るし、役は減ってしまうんです。ある意味「舞台慣れ」していない状態でステージに立つことになるので、身体が動きにくくになってしまうのですね」
Photo;Kiyonori Hasegawa
 チャイコフスキーのバレエでは、どの役が一番自分に近いか? と聞くと、特に似ている役はないと語る。舞台では可憐で儚げに見えるが、話し声のトーンも落ち着いていて、とても強い芯を感じる。
「負けず嫌いかと聞かれたら、そうなのかも知れません。とにかく子供の頃から「あなたの脚はバレエに向いていないからやめなさい」と先生から言われ続けてきましたから。バレリーナとして、自分の身体が条件に合っていると思ったことは一度もないんです。今でもすごくコンプレックスを抱えていますし、留学してからもロシア人と並んで、鏡を見て「あーっ」と思っていました。でも、そこで鏡を見るのをやめちゃったら終わってしまう。「じゃあどうしたら近づけるのか」という風に考えるようにしていました」
Photo;Kiyonori Hasegawa
 取材は朝早く行われ、取材のあとすぐに『かぐや姫』の新潟公演のため出発していった。舞台では妖精のようで、つねに完璧を目指して鏡と向き合うバレリーナの、人間としての強い精神力を見た。
取材・文=小田島久恵

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