FEATURE | Mom『悲しい出来事 -THE
OVERKILL-』──迷子が迷子のままで
サバイブするためのサウンドトラック
──迷子が迷子のままでサバイブす
るためのサウンドトラック

愚かしくも気高い青臭さ

青。Momの新しいアルバム『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』のアートワークには青い空が映っている。しかし、その青は鮮やかな蒼天というよりは、憂鬱の青(ブルー)という感じもする。アルバムの2曲目、おおよそシングル曲とは思えないタイトルが掲げられているが、シングル曲である「雑稿 Pt.1.」で、Momはこう歌い出す──《無感動な空の青さだ/喉が渇いてしょうがないよ/でも飲みたいものが分かんない/僕の心を何かが塞き止める》。このアートワークは、まるでこの歌詞の瞬間を切り取った写真のようである。

様々なジャンルを飲み込む独創的なサウンド

Momの目に映る世界と、彼の身に刻まれるリアルを捉え、造形するために進化したサウンドは、あまりに固有の肉体性と幻想性を持つに至った。そのサウンドは生々しく、メランコリックで、時折とてつもない覚醒感を放つ、あまりにオリジナルなものだ。ヒップホップもロックもアンビエントもテクノもフォークも、彼の音楽においては極めて個人的な記憶として混ざり合う。しかし、記憶といってもそれは安易なノスタルジーに回収されることはない。それは複雑で違和感に満ちているが、それでいてとても率直なフォルムを持っている。ダイレクトなエレキ・ギターやアコースティック・ギターの音も、浮遊感のあるエレクトロニックな音も、ハッとするほど近くに感じる音響も、すべてが確かな肌触りや体温を伝える。そして、彼は彼の歌を紡ぎ続けている。自らの魂にどこまでも実直に産み落とされる、彼にしか生み出せない抑揚を持った歌だ。
その偉大な独自進化の果てに産み落とされた新作『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』には25曲もの楽曲が収録されている。リリースに際してオフィシャルから発表されたコメントによれば、本作は「“映画のサントラのような作品を作りたい”と周囲に語っていた所から着手されたコンセプト・アルバム」であるという。だからといって、“25曲入りのコンセプト・アルバム”という言葉がもたらす長大なイメージに尻込みをする必要も、身構える必要もない。曲数こそ多いものの、個々の楽曲が抱く“瞬間”をパッケージングしたような生々しさは、本作を、起承転結を仰々しく提示するものというより、短編映画のオムニバスのように、断片的な物語が連なっていくような作品として仕立て上げている。“こう捉えなければいけない”という決まり事やお約束もない。物語の舞台となる“ミッシングストリート”に足を踏み入れれば、あなたの悲しみは、このアルバムの中を生きる誰かの悲しみと、さりげなく、でも確かに、交錯するだろう。

Momのこんがらがった誠実さと野心

消費社会を暗示的なテーマに置きながら、どこまでも深く内省的なトーンを持っていた前作『¥の世界』に比べて、本作『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』が、メロウでありつつも全体的に開かれたトーンを感じさせるのは、“コンセプト・アルバムを作る”という前提を眼差しながら、Mom自身の悲しみと他の誰かの悲しみが重ね合わされるようにして曲が産み落とされていったから、なのかもしれない。そこからは嘘くさいカタルシスを回避し、実存と瞬間の感触を捉えることに注力しながら、それでも“自分とあなた”を繋ぐ物語を紡ぐことに向き合おうとするMomのこんがらがった誠実さと野心もまた垣間見える。
溢れる怒り、零れ落ちる痛み、切なさ、諦念、醒めた現実認識、不安、飽くなき表現への希求、“伝える”ことへの飢餓感、祈り……連なっていく楽曲たちはそれらを私たち聴き手に伝える。相変わらず人生は扱いづらいもので、だからこそ、Momは検閲される前の感情をそのまま言葉にして音楽に落とし込んでいく。どうすれば光は見えるのか、聴き手に語り掛けながら、実験を重ねていく。時折、こんな美しいフレーズが飛び込んでくる──《求めているものが即座に満たされて/一番欲しいものがぼやけちゃう時代だけど/明快な答えより/合理主義者が語る見せかけの非合理より/くたびれた君の声が/大事な回路を繋げてくれるから/It’s alright》(「今日のニュースとこれからの計画」)。

アルバムの大半が凄まじい名曲だ。そして、あからさまな解決はないが、アルバムは後半に行くに従い物語の“終わり”と“その先”の存在を示唆し始める。未知なる“明日”の存在が立ち上がってくる。そう、確かなことなんてなにもない。わかっていることは、私たちは迷い続けるだろう、ということ。それでも、次の街に行く。アルバムの最後のトラックに言葉はない。それは、このアルバムに向き合うことで“孤独”という居場所を取り戻した私たちのために用意された時間、と言えるのかもしれない。

《つまんない! つまんない! つまんない!》──アルバムのうち2曲(「雑稿 Pt.1」、「雑稿 Pt.2」)で、Momは繰り返しそう歌う。本当に歌われるべき心は、言葉にすればこんなにもあっけらかんとしているのか、と驚く。どんな取り繕ったチャラい希望の歌よりも、私にとってはこの《つまんない!》の方が、よっぽど希望の歌に聴こえる。
【リリース情報】

Mom 『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』

Release Date:2023.11.08 (Wed.)
Label:ClubDetox
Tracklist:
01. ごめんね
02. 雑稿 pt.1
03. ミッシングストリート
04. 涙 (cut back)
05. 僕はもうあなたにはなれないだろう
06. 生活のレトリック
07. オーバーキル!!
08. 猫が飼いたい
09. 実験
10. ロストチャイルド
11. 鏡の街、直線の虹
12. YOUNG LUST / ARCHIVES
13. かつての鳥たち
14. マクドナルドのコーヒー
15. 透明になるまで
16. 回転するイノセンス
17. 雑稿 pt.2
18. バッドデイズ・オンファイヤー
19. ラストシーン
20. この時間における殺人者
21. 悲しい出来事
22. さようなら、サイエンスフィクション
23. 今日のニュースとこれからの計画
24. 物質404
25. OFFLINE

■ 配信リンク(https://linkco.re/qabfzhsq)

■ CD/USB購入リンク(https://clubdetox.stores.jp/)


【イベント情報】

『Mom and The Interviewers GIG #1 YOUNG LUST』

日程:2023年12月14日(木)
会場:東京・渋谷Spotify O-nest

※チケット・ソールドアウト

■ Mom オフィシャル・サイト(https://www.mom-official.jp)
Text by Fumiaki Amano(https://twitter.com/fumiaki_amano)

愚かしくも気高い青臭さ

青。Momの新しいアルバム『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』のアートワークには青い空が映っている。しかし、その青は鮮やかな蒼天というよりは、憂鬱の青(ブルー)という感じもする。アルバムの2曲目、おおよそシングル曲とは思えないタイトルが掲げられているが、シングル曲である「雑稿 Pt.1.」で、Momはこう歌い出す──《無感動な空の青さだ/喉が渇いてしょうがないよ/でも飲みたいものが分かんない/僕の心を何かが塞き止める》。このアートワークは、まるでこの歌詞の瞬間を切り取った写真のようである。

様々なジャンルを飲み込む独創的なサウンド

Momの目に映る世界と、彼の身に刻まれるリアルを捉え、造形するために進化したサウンドは、あまりに固有の肉体性と幻想性を持つに至った。そのサウンドは生々しく、メランコリックで、時折とてつもない覚醒感を放つ、あまりにオリジナルなものだ。ヒップホップもロックもアンビエントもテクノもフォークも、彼の音楽においては極めて個人的な記憶として混ざり合う。しかし、記憶といってもそれは安易なノスタルジーに回収されることはない。それは複雑で違和感に満ちているが、それでいてとても率直なフォルムを持っている。ダイレクトなエレキ・ギターやアコースティック・ギターの音も、浮遊感のあるエレクトロニックな音も、ハッとするほど近くに感じる音響も、すべてが確かな肌触りや体温を伝える。そして、彼は彼の歌を紡ぎ続けている。自らの魂にどこまでも実直に産み落とされる、彼にしか生み出せない抑揚を持った歌だ。
その偉大な独自進化の果てに産み落とされた新作『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』には25曲もの楽曲が収録されている。リリースに際してオフィシャルから発表されたコメントによれば、本作は「“映画のサントラのような作品を作りたい”と周囲に語っていた所から着手されたコンセプト・アルバム」であるという。だからといって、“25曲入りのコンセプト・アルバム”という言葉がもたらす長大なイメージに尻込みをする必要も、身構える必要もない。曲数こそ多いものの、個々の楽曲が抱く“瞬間”をパッケージングしたような生々しさは、本作を、起承転結を仰々しく提示するものというより、短編映画のオムニバスのように、断片的な物語が連なっていくような作品として仕立て上げている。“こう捉えなければいけない”という決まり事やお約束もない。物語の舞台となる“ミッシングストリート”に足を踏み入れれば、あなたの悲しみは、このアルバムの中を生きる誰かの悲しみと、さりげなく、でも確かに、交錯するだろう。

Momのこんがらがった誠実さと野心

消費社会を暗示的なテーマに置きながら、どこまでも深く内省的なトーンを持っていた前作『¥の世界』に比べて、本作『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』が、メロウでありつつも全体的に開かれたトーンを感じさせるのは、“コンセプト・アルバムを作る”という前提を眼差しながら、Mom自身の悲しみと他の誰かの悲しみが重ね合わされるようにして曲が産み落とされていったから、なのかもしれない。そこからは嘘くさいカタルシスを回避し、実存と瞬間の感触を捉えることに注力しながら、それでも“自分とあなた”を繋ぐ物語を紡ぐことに向き合おうとするMomのこんがらがった誠実さと野心もまた垣間見える。
溢れる怒り、零れ落ちる痛み、切なさ、諦念、醒めた現実認識、不安、飽くなき表現への希求、“伝える”ことへの飢餓感、祈り……連なっていく楽曲たちはそれらを私たち聴き手に伝える。相変わらず人生は扱いづらいもので、だからこそ、Momは検閲される前の感情をそのまま言葉にして音楽に落とし込んでいく。どうすれば光は見えるのか、聴き手に語り掛けながら、実験を重ねていく。時折、こんな美しいフレーズが飛び込んでくる──《求めているものが即座に満たされて/一番欲しいものがぼやけちゃう時代だけど/明快な答えより/合理主義者が語る見せかけの非合理より/くたびれた君の声が/大事な回路を繋げてくれるから/It’s alright》(「今日のニュースとこれからの計画」)。

アルバムの大半が凄まじい名曲だ。そして、あからさまな解決はないが、アルバムは後半に行くに従い物語の“終わり”と“その先”の存在を示唆し始める。未知なる“明日”の存在が立ち上がってくる。そう、確かなことなんてなにもない。わかっていることは、私たちは迷い続けるだろう、ということ。それでも、次の街に行く。アルバムの最後のトラックに言葉はない。それは、このアルバムに向き合うことで“孤独”という居場所を取り戻した私たちのために用意された時間、と言えるのかもしれない。

《つまんない! つまんない! つまんない!》──アルバムのうち2曲(「雑稿 Pt.1」、「雑稿 Pt.2」)で、Momは繰り返しそう歌う。本当に歌われるべき心は、言葉にすればこんなにもあっけらかんとしているのか、と驚く。どんな取り繕ったチャラい希望の歌よりも、私にとってはこの《つまんない!》の方が、よっぽど希望の歌に聴こえる。
【リリース情報】

Mom 『悲しい出来事 -THE OVERKILL-』

Release Date:2023.11.08 (Wed.)
Label:ClubDetox
Tracklist:
01. ごめんね
02. 雑稿 pt.1
03. ミッシングストリート
04. 涙 (cut back)
05. 僕はもうあなたにはなれないだろう
06. 生活のレトリック
07. オーバーキル!!
08. 猫が飼いたい
09. 実験
10. ロストチャイルド
11. 鏡の街、直線の虹
12. YOUNG LUST / ARCHIVES
13. かつての鳥たち
14. マクドナルドのコーヒー
15. 透明になるまで
16. 回転するイノセンス
17. 雑稿 pt.2
18. バッドデイズ・オンファイヤー
19. ラストシーン
20. この時間における殺人者
21. 悲しい出来事
22. さようなら、サイエンスフィクション
23. 今日のニュースとこれからの計画
24. 物質404
25. OFFLINE

■ 配信リンク(https://linkco.re/qabfzhsq)

■ CD/USB購入リンク(https://clubdetox.stores.jp/)


【イベント情報】

『Mom and The Interviewers GIG #1 YOUNG LUST』

日程:2023年12月14日(木)
会場:東京・渋谷Spotify O-nest

※チケット・ソールドアウト

■ Mom オフィシャル・サイト(https://www.mom-official.jp)

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Spincoaster

『心が震える音楽との出逢いを』独自に厳選した国内外の新鋭MUSICを紹介。音楽ニュース、ここでしか読めないミュージシャンの音楽的ルーツやインタビュー、イベントのレポートも掲載。

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