サンボマスターが11,581人のオーディ
エンスと作り上げた、全24曲3時間15
分に及んだ『全員優勝フェスティバル
』を振り返る

サンボマスター『全員優勝フェスティバル~ゴールデンLIVE’ it~』

2023.11.19(SUN)横浜アリーナ
サンボマスターのワンマンライブ「サンボマスター『全員優勝フェスティバル~ゴールデンLIVE’ it~』」が、2023年11月19日(日)、横浜アリーナにて開催された。
チケットは完売で、追加指定席や注釈付き指定席も追加販売になったが、それも完売。
オフィシャルサイトの先行販売でチケットを買った人には、「メンバー直筆購入者名前入り表彰状型チケット」が、後日配送された。そして、当日の会場には、通常の物販の他に、コーヒーやカレーの出典DJブース、出張図書館や写真展も設けられた。
いずれも、単なる「大会場ワンマン」ではなく「フェスティバル」であるからこその施策だろうが、横浜アリーナ場外の入口左に、綿菓子の屋台が出ていたのには、笑った。「フェス」というより「お祭り」な感じで。サンボらしい。
なお、この日のステージは、U-NEXTで生中継された。
2023年はデビュー20周年であることを記念して行ってきた『サンボマスターデビュー20周年全員優勝計画』──「第1弾」から「第5弾」まであるのだが──の、ひとつであること。2021年1月9日に行うはずだったが、コロナ禍により無観客生配信に切り替えて決行した、初の横浜アリーナのリベンジ公演であること。そのふたつが、この横浜アリーナの開催の意味合いである。
よって、開演予定時刻を10分ほど過ぎたあたりで客電が落ち、60から始まったカウンドダウン映像が0になると、「あなたは0ときいて何を思いますか?」という問いかけの文字が、画面に現れる。
「2021年1月9日横浜アリーナ、0人」で、その日の無観客ライブの模様が映し出され、「みんながいなくたってライブはできる。けどやっぱり、きみはいたほうがいいよ」と、画面のメッセージが、最新シングル「Future is Yours」の歌詞につながる。
「そして今日、11,581人。さあ全ては揃った。ここからは君の番だ」という言葉に続いて、いつものSE「モンキー・マジック」(ゴダイゴ)が大音量で響き、ステージ前方でドライアイスの柱が何本も吹き上がり、山口隆、近藤洋一、木内泰史の3人が登場する──。
という、バンドの音が出る前の時点で「もう優勝!」と言いたくなる演出で、本編22曲・アンコール2曲の全24曲、3時間15分のライブは、スタートした。
ちなみに、予定では、2時間半で終わるはずだったそうである。アンコールで山口、会場の延長料金を気にしていた。
セットも何もなく、いつものようにアンプや機材が真っ平らに置かれたステージの左右に3人の姿を映すビジョン。ステージ後方の壁は、全面が巨大なLEDになっていて、1曲ごとに青、オレンジ、赤、緑、といった具合に色を変え、時には光を消して黒一面になったりもしながら、照明と共にステージを彩っていく。
その前で、ライブ前半は、「ミラクルをきみとおこしたいんです」「はじまっていく たかまっていく」「夜汽車でやってきたアイツ」「美しき人間の日々」「ヒューマニティ!」「青春狂騒曲」と、古くからのおなじみの曲と、4日前に出たばかりのニューアルバム『ラブ&ピース! マスターピース!』からの曲を織り交ぜて演奏していく3人。
「世界をかえさせておくれよ」の間奏では、山口が「俺が夢見たワンマンライブて、こんな静かじゃなかったんですけど!」などと、いつもの調子でオーディエンスをアオる。
TBS系の朝の帯番組『ラヴィット!』のオープニング曲として書いた「ヒューマニティ!」は、「毎朝流れるこの曲で、踊りまくっていただきましょう!」と山口が叫ぶと、画面上の時報が8:00を指し、「時刻は8時になりました! おはようございます、せーの、ラヴィット!!」というご唱和から始まった。「青春狂騒曲」は、山口の「全員優勝!」✕4回で締められる。
ここで挟まれた最初のMCで、近藤が、オーディエンスにお願いをする。このあと、どこかのタイミングで、自分がこのポーズをしたら、入場時に全員に配られたもの (花)を、アレしてほしい──と、大きく両腕を広げたあとに、片膝を付いて両手を前に出すポーズをとってみせた。
結成20周年の横浜アリーナはコロナ禍で観客0人だった──と、木内。バンド結成直後、2000年6月の渋谷ギグアンティックのライブが、観客0人だった。結成1年目が0人で、20年経って2021年の横浜アリーナが0人。また0からスタートしろよということなのかな、僕ららしくていいかな、と思った。それから3年経って、みんなよく来てくれた、今日ここに集まった11,581人、全員優勝おめでとうございます!──と、感謝をこめて絶叫する。
「可能性」「光のロック」で、再度オーディエンスを沸騰させてから、「ビューティフル」へ。次の曲は、ずっと歌いてえなと思っていて、コンちゃんと木内もこの曲やった方がいいって言ってくれた。自分の思いが、自分たちの音楽が届くように、歌わしてもらいます──と、山口、曲に入る前に前置きする。この曲で、この日初めて、画面に歌詞が出た。
次の「戦争と僕」は、《明日僕は名も知らぬ街で名も知らぬ人を銃で撃つのさ》で始まる曲である。山口の歌と口笛に、オーディエンスはじっと耳を傾け、大きな拍手を贈った。
続いての、山口隆の長尺MCから歌われた「ラブソング」では、ステージ後方の画面が星空の画像になり、客席もスマホのライトで埋め尽くされた。画面には、時折、流れ星が走る。
曲が終わり、拍手が収まって静寂が戻ったところで、オーディエンスのひとりが「歌ってくれてありがとう!」と叫び、横浜アリーナは、また拍手に包まれた。
ニューアルバム収録の「ボクだけのもの」(のんが脚本・監督・主演の映画『Ribbon』の主題歌として書いた曲)を経て、1stアルバム収録曲であり、サンボマスターが最初に注目を集めた曲である「そのぬくもりに用がある」が始まる。「踊りまくれ、かかって来い!」「おい横浜アリーナこんなもんか? 即完でこんなもんか、違うよなあ! 俺たちもっとできますよねえ! 行きますよおお!」などと、アオりまくる山口。
次の「君を守って君を愛して」では、山口、オーディエンスのシンガロングに「横アリ最高っす!」とリアクション。「全員優勝!」「愛と平和!」コールから始まった「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」では、この日最大ボリュームのシンガロングが、フルコーラスにわたって響いた。「孤独とランデブー」では、オーディエンス全員の腕が、曲に合わせて左右に大きく振られる。
この横浜アリーナのチケットは即完だったが、ホテルはいつものシングルの部屋だった。この間、若手バンドのツアーに呼ばれ、「すみません、ホテルのグレードが普段より下がっちゃうかもしれないんですが」と言われたが、着いたら、いつもと一緒のホテルだった。ある地方では、キャパはデビュー前より5倍6倍になっているが、ホテルは20年前と同じ。でもいちばん腹立つのは、俺、そこがいちばん居心地がいいんだ──。
というMCで笑わせてから、この日二度目の、説法のごとき長尺の語りに入る山口。それを「きみはいたほうがいいよ」という言葉で締めくくり、最新シングル「Future is Yours」から、本編最後のブロックが始まる。
「おめえが輝いてるってことを証明させろ!」「笑ってっかみんな!」「伝説のライブにできる人!」「消え去りてえとか言わせねえかんなこの野郎!」「笑ってくんねえか!」「ひとりぼっちじゃない!」などなどのアジテーションをちりばめながら演奏された、「輝きだして走ってく」と「笑っておくれ」に続いての「できっこないをやらなくちゃ」が、本編におけるピークだったかもしれない。
この曲でのオーディエンスのシンガロングは、「世界はそれを~」を上回る、すさまじいボリュームだったので、オーディエンスの歌声を際立たせるために、バンド側がボーカルをオフにしたり、ギターを止めてリズムだけになったりすることがあるが、バンドの音も山口隆の歌も全開のままでもはっきりと耳に届くシンガロングが、終始横アリに響いた。
そして、近藤がさっきのポーズを繰り出したのをきっかけに、オーディエンス全員が花を掲げ、本編ラストの「花束」へ。山口、「なんとみなさん、横浜アリーナ、花束になっておりますよ! なんて美しい景色なんだ!!」。
間奏で近藤、ベースを置き、花束を持ってオーディエンスをバックに記念撮影しながら、客席スタンド前の通路を、ぐるっと一周回る。木内のドラムと山口のしゃべり&雄叫びが、4分以上に及んだその時間をつないだ。
アンコールでは、山口、「3時間近くやってて思ったのは、やっぱ主役はみなさんだってね。ほんとに思ったのよ俺。みなさんが主人公。歌、作りますか?」と、即興で「主人公」という曲を歌い始める。途中でコード進行を指示し、近藤と木内も演奏に加わった。
そして、2024年2月から始まる次の全国ツアーに関して、「みなさん、ひとり5ヵ所来てください」。それから、表彰状を4000枚ぐらい書いたという話をしたり、オーディエンスにその表彰状を掲げさせたりしてから、「ツアーに来てください」と再度アピールする。「ひとり8ヵ所です、みなさん」。さっきより3ヵ所増えている。
すると近藤が「僕、もう1ポーズ持って来てるんです。やっていいですか?」と、鶴のポーズを繰り出す。山口隆が「『ベスト・キッド』じゃねえか」とつっこんだ瞬間、暗転。
8月25日福島会津風雅堂、9月16日大阪城ホール、10月25日日本武道館の3本を、ツアーのファイナルシリーズとして行うことが、画面で発表になった。「さっきの8ヵ所に3を足して、みなさんは11ヵ所ノルマということで」と、山口。
「花束」でみんなを見て思った、みんなライブを観に来てくれたというよりは、一緒にライブを作ってくれた、みんなでライブをやったんだ、本当にありがとうございました──という木内のお礼の言葉のあとに、アンコールの2曲が演奏される。「月に咲く花のようになるの」と「ロックンロールイズノットデッド」。
全国から来てくれて、花になってくれた。次は俺たちの番だ、あんたの街に行くんだ、おめえに会いに行くんだ。俺、絶対、あんたらとなんか作りてえと思ってんだ。俺がやりてえのはそういうことよ。売れるとかすげえすばらしいと思うけど、でも俺たちは、折れ線グラフで音楽をやってるわけじゃねえ。10年経って、あんたが思い出してくれた時、本当の花になるでしょう。愛してる、また会おう──。
という言葉を、「月に咲く~」を歌い終えた山口は、オーディエンスに贈った。そして、ステージからの銀テープの発射と共に、「ロックンロールイズノットデッド」が始まった。
この20年、楽しかったことも楽しくなかったこともある。楽しかったことは、コンちゃんと木内と過ごした時間の全部。楽しくなかったことは、なんにもできなかったこと。とってもとっても悲しい出来事に、なんにもできなかったこと。
今から12年前に、俺の故郷がとんでもねえことになって、死ぬ気で歌ったけど、やっぱり無力感を感じることが多くて。数えていくと涙が出てくるぐらい、たくさんの命とさよならしなくちゃいけなくて。
すげえ歌ってっけど無力だった。なんの力もねえなって思い知らされた、いなくなっちまった魂、旅立っていった魂。だけど、なんにもできねえ俺たちだけど、きみと一緒に歌うことはできる。祈ることはできる。一緒の時代に生きてくれてありがとうって、その魂に言うことはできる。それしかできねえけど、俺はきみと一緒に歌える。その歌を、ありがとうって祈れる歌を、「ラブソング」って呼びます──。
この日一度目の、この長尺の語りに続いて歌われた「ラブソング」は、東日本大震災の1年前のアルバム、『きみのためにつよくなりたい』の収録曲である。
聴けば明らかなとおり、亡くなった人に捧げられた曲であり、音数の少ないスローなバラードなので、フェスなどの持ち時間が限られるステージには不向きだと思うが、それでも、けっこう高い頻度で、サンボはこの曲をやる。
フェスでわざわざこの曲をやるところも、サンボマスターを信用できるところのひとつだなあ、と、そのたびに思ってきたが、この日の「ラブソング」は、とりわけ格別なものとして、こちらに届いたような気がした。
何もできないという無力感と、それでも歌うことはできる、祈ることはできるという希望と、でもそれしかできないという無力感と──その思いを原動力に、明日からも、サンボマスターは続いていく。
取材・文=兵庫慎司 撮影=浜野カズシ

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