10月22日@大阪・フェニーチェ堺 photo by 原田捺未

10月22日@大阪・フェニーチェ堺 photo by  原田捺未

坂本真綾、
『記憶の図書館』振替公演の
オフィシャルレポートが到着

坂本真綾が10月22日、全国ツアー『坂本真綾LIVE TOUR 2023 「記憶の図書館」』の大阪・フェニーチェ堺公演を開催した。この日は6月18日に行われる予定だったが本人の喉の不調により延期となった大阪2日目の振替公演。5月31日にリリースされたニューアルバム『記憶の図書館』をひっさげてスタートした全国ツアーが約4ヶ月ぶりに再スタートを切った。

オープニングでは、紗幕の向こうにバンドのメンバーがスタンバイすると、ステージ中央の北川勝利(Band master&Guitar)の指揮により1人ずつ音が奏でられていく。その音が少しずつ重なっていくと、まるでひとつの穏やかな風のようなセッションになった。アルバム『記憶の図書館』は「記憶」にまつわるオリジナルストーリーを自身が書き下ろし、それを多彩なクリエイターたちと共有しながら1曲1曲作っていったコンセプチュアルな内容なだけに、こうしたオープニングや映像でも観ている側の記憶を紐解いていくような演出が見どころである。北川がギターを構えてスタンバイし、坂本真綾がステージに登場すると、温かくて大きな拍手が会場から沸き起こった。1曲目は最新アルバムと同じく「ないものねだり」で、記憶の海を泳ぐようなアーティスティックな演出の中で歌う。

続く「言葉にできない」では坂本の柔らかな声にふんわりとしたコーラスが加わって心地良さを感じさせる冒頭から一転、ビートが強まって躍動感が生まれる。生で聴くからこそ曲の立体感がより鮮やかに伝わる、ライブの醍醐味を感じられる瞬間だ。「ようこそ、坂本真綾です!」という挨拶から始まった最初のMCでは「皆さん、たくさんのご心配とご迷惑をおかけしてしまいましたが、私はとっても元気です!こうしてツアーを無事に再開することができて、来てくださった方にも集まってくれたバンドのメンバーにも感謝です。全方向の皆さんに感謝の気持ちを込めて今日のライブをお送りしたいと思いますので楽しんでいってください」と笑顔で伝えた。

序盤からダンサブルな曲調が新鮮な「discord」や、歪んだギターの音色がシリアスな世界観を生み出す「タイムトラベラー」といった最新アルバムの収録曲を披露し、その度にさまざまな「記憶」に揺さぶられるような感覚になる。彼女自身も最新曲から懐かしい曲までラインナップした今回のセットリストをライブで歌うと、作詞やレコーディングをしたときのことが蘇るのだと語っていた。忘れたくない感情を音楽にして、歌うことで記憶を呼び覚ます。音楽のそんな特別な魔法を体感できるライブはやはりかけがえのないもの。アコースティックコーナーではステージの縁に腰掛けて「ニコラ」と「空中庭園」を披露し、リラックスしたムードの中で伸びやかな歌声を聴かせてくれた。

中盤では「宇宙の記憶」をバンドのメンバーがインストで演奏し、観客も手拍子で応えて盛り上がる。その間、坂本はデニムのビスチェ+黒いパンツスタイルから、ボーダー柄がキュートなドレスへと衣装チェンジ。再びステージに戻ると、最新アルバム『記憶の図書館』からコーラスワークも美しい爽やかなアップナンバー「Anything you wanna be」を演奏して、このツアーならではのハイライトを彩る。キュートな曲調ながら、過ぎ去った日々の切なさを感じさせるような彼女の歌声が魅力的だ。

そして今回のツアーでは坂本が他のアーティストに歌詞を提供した曲のセルフカバーも聴きどころ。日替わりで数パターンが用意されており、この日は宮野真守に提供した「透明」が披露された。制作時はコロナ禍だったため、エンタメ業界がライブやイベントの中止などを余儀なくされる中で「彼がまたいつか満席の会場で歌う日をイメージして」書いたという。他のアーティストに提供した曲とはいえ、やはり彼女の中から生み出された言葉たちだけに、歌っていても見事なフィット感があった。〈懐かしい声だった 私の名を呼んでくれた/包まれて 満たされて 余韻の中そっと目を閉じる〉という歌詞に、坂本真綾自身の歌うことへの渇望が込められているように感じて、まさにツアー再開のこのステージにもふさわしい1曲だった。そこからライブ終盤に突入すると「トロイメライ」などアップナンバーを立て続けに披露し、会場の熱気もどんどん上がっていった。特に「Private Sky」では「みんなの声が聴きたいよー、一緒に歌って!」と客席に呼びかけると、サビのフレーズをお客さんが楽しそうに歌い、奥田健介(Guitar)によるギターソロが華を添えて最高潮の盛り上がりとなった。続く「マジックナンバー」でも彼女がキュートに飛び跳ねながら嬉しそうに歌う姿に、客席から歓声が上がる、何とも幸せな時間だった。

「楽しいです。こんな日が来て本当に嬉しいです。思えば4か月前、大阪の初日にくるりの岸田繁さんがライブを観に来てくださっていたんです。良いとこ見せないとな〜と思っていたら、そんな日に限って声が出なくなってしまって……。だけど終演後に岸田さんから『お客さんたちの歌声に胸を打たれた』と言ってもらいました。私自身、みなさんに支えていただいて幸せを感じました。1日目が終わって2日目中止のお知らせをさせていただいたときも、温かい言葉をたくさんいただいて。みなさんの愛情にふさわしい人間にならなきゃいけないと思いましたし、本当に感謝しています」

そんな心のこもったMCのあと「あの日の自分を取り戻すのではなく、前に進んでいる自分を試したい。今日1日を無事に終えられそうなことに感謝してこの曲を歌います」と岸田繁が作曲を手掛けた「菫」を歌った。ひとつひとつのフレーズを丁寧に歌う姿がとても感動的で、聴く側にも重ねた日々の数だけいろんな響きをもたらしてくれる曲だなとしみじみ思った。そんな「菫」を歌いきり、ほっとしたような笑顔を見せたのがとても印象的だった。ときどき客席に手を振りながらみんなで一緒に歌ったラストの「ポケットを空にして」まで温かな時間が流れ、素晴らしいツアーのリスタートとなった。

バンドのメンバーと共に最後の挨拶をしてステージを去ったのも束の間、坂本は扇谷研人(Keyboards)と再び戻ってきた。「予定していた全てのセットリストを演奏したんですけど、振替公演になって申し訳なかったのと、ありがとうの気持ちを込めてもう1曲」と鍵盤のみの演奏で披露されたのは「プラチナ」だった。この思いがけないギフトもまた、私たちの特別な記憶として心に刻まれた。絶好調の歌声で復活を遂げ、無事に再開した今回のツアー。また年明けの東京公演でどんな完結を見せてくれるのか、前に進み続ける坂本真綾を追いたいと思う。

photo by 原田捺未
text by 上野三樹

【振替公演】

『坂本真綾LIVE TOUR 2023 「記憶の図書館」』
[2024年]
1月02日(火) 東京ガーデンシアター(東京都)
OPEN/START 17:00/18:00
1月03日(水) 東京ガーデンシアター(東京都)
OPEN/START 15:00/16:00
出演:
坂本真綾
北川勝利(Band master & Guitar)
奥田健介(Guitar)
千ヶ崎 学(Bass)
髭白 健(Drums)
扇谷研人(Keyboards)
毛利泰士(Percussion & Manipulation)
高橋あず美(Chorus)
Kayo(Chorus)
<チケット>
全席指定 前売 7,700円(消費税込) ※未就学児童のご入場は出来ません。
【ローソンチケット】 https://l-tike.com/maaya-2023/
【イープラス】 https://eplus.jp/maaya-2023/
【チケットぴあ】 https://w.pia.jp/t/maaya-2023/
10月22日@大阪・フェニーチェ堺 photo by  原田捺未
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