【鈴木マツヲ インタビュー】
『ONE HIT WONDER』は
もう一回聴きたくなる気持ちが
特に強い
「何マイルも離れて」は
サウンドから歌詞ができた
海賊っぽさを纏った「赤いヨット、黒いヨット」や温かみと陰りを絶妙にミックスした「何マイルも離れて」なども聴き逃せません。
鈴木
「赤いヨット、黒いヨット」は完全に子供の時の歌だね。私が子供の頃に遊びに行っていた三浦海岸の先にスイカ畑があったし、高校生の頃は隠れて酒を呑んだりした…というようなことを思い出して作った曲。
子供時代のことを描かれた曲ですが、“今いるところに満足できないなら、新しい場所を目指せ”というメッセージだと受け取ることもできます。
鈴木
“生まれた場所では死にたかないよ”ということだよね。どこか違う場所に出ていくことで見つけられるものがあるから、行ってみたほうがいいんじゃないかと。身近なところでは隣の入り江という感じだよね。隣の入り江も、実はすぐ近くなんだけど(笑)。子供の頃の世界というのはすごく小さくて、それを表現できるといいなと思って書いたところはある。学校も小さいところで、そこに集団でいるから人とのつき合いもどうでもよくなってきたりとか。だけど、そういう中で生きていかなきゃいけなくて、外に出たくても子供だからせいぜい隣の入り江だなと(笑)。そういう小さい世界を描いた曲です。
松尾
僕はこの曲も大好きなんですよ。特にヴォーカルとブラスのかけ合いみたいなところが絶妙というか。そういうのはあまりないじゃないですか。聴いた時に“こういうのは自分は思いつかないな”と思った。
鈴木
なんで思いついたのか自分でも分からないんだけど(笑)。面白い感じになったと思うし、松尾くんが気に入ってくれたなら良かった。
松尾
慶一さんはすごいなと、改めて思いましたよ。「何マイルも離れて」は最初は歌詞がちょっと違っていたんです。この曲はイントロで慶一さんのギターがThe Byrds的な感じで入ってくるんですよね。それを聴いてThe Byrdsの「霧の8マイル」(1966年)好きだったなと思って、“マイル”という言葉を使った歌詞に書き直しました。
鈴木
この曲は最初はキーボードサウンドだったけど、私がエレキの12弦ギターでコードをバーン!と弾いたら、松尾くんがThe Byrdsみたいでカッコ良いと言って、“歌詞を書き直します!”と(笑)。
松尾
そう(笑)。この曲は慶一さんと一緒に歌詞を書いたんですけど、サウンドから歌詞ができたんです。
“マイル”という言葉にはロマンがありますし、距離の遠さをより感じさせますよね。続いて、今作のヴォーカル面についても話していただけますか。
松尾
歌に関しては、僕らはふたりともリードヴォーカルというのがいい方向に出たと思いますね。ふたりは声も歌い方も違っているから、ふたりで歌うことで曲を聴いた時の印象の幅が広がるじゃないですか。
鈴木
そう。それに、松尾くんは声質がロマンチックだよね。そこがいい。
松尾
慶一さんはクールですよね。本当に個性が違うのに、いい化学反応が起きたと思う。
鈴木
それぞれがひとりで歌う場所は好きなように歌いつつ、ふたりでハモる場所は節回しやリズムをぴったり合わせるようにしました。松尾くんの節回しに合わせるのは結構大変だけど、私は幸宏と一緒にやっていた時も、そういうことばかりしていたというのがあって。今回はそういう経験が活きたと思いますね。
節回しを合わせるのが大変だから、それぞれが自分でハモろうということにはしなかったんですね。
鈴木
ひとりでハモってもいいんだけど、そうすると松尾くんのソロになってしまうから、“節回しが合うまで何度でも歌おう”というのはあったね。松尾くんの節回しは私にない節回しで、それを私が歌うことでユニット感が強まるから。
松尾
慶一さんが合わせてくれたことで、面白いものになりましたね。“新たな気持ちで歌おう”みたいなものが伝わってくるし、ふたりの声の倍音が重なることで不思議な空間が生まれているし。
異なったふたつの個性が光を発しつつ、重なる時はピタッとひとつになる感覚は本当に魅力的です。さて、アルバムを完成させて、今はどんなことを思われていますか?
松尾
今回すごく楽しんで作れたというのが、まずあって。それに、『ONE HIT WONDER』はまた聴きたくなるんですよ。今まで作ってきたものが聴きたくないということではないし、何度も聴いているけど、『ONE HIT WONDER』はもう一回聴きたくなる気持ちが特に強い。そういうところはありますね。
鈴木
私もそう。ポストプロダクションとして歌詞カードのチェックとかをするために聴くじゃない? で、修正されたものが上がってきたら、また確認するために聴く。そんなふうに何度も聴いているんだけど、なんかもう一回聴きたい気持ちになる。それはあまり経験したことがないね。例えばmoonridersは作っている時にいっぱい聴くので、出来上がったら確認のために一回聴いて終わりという感じなんだ。だけど、『ONE HIT WONDER』は違う。もう一回頭から聴きたくなるんだよね。理由はよく分からないけど、そういうものを作れて良かったと思う。素早くかつ飛び飛びに録音したせいかな?
繰り返し聴きたくなるというのは、そのとおりです。もうひとつ、“ONE HIT WONDER”という名前のアルバムを作ったということは、鈴木マツヲは今作限りで終了なのでしょうか?
鈴木
いや、まだ10曲余っているし(笑)。
松尾
もう一枚作れるという(笑)。
鈴木
鈴木マツヲはすごく楽しいし、まだまだやりたいことはたくさんあるから今回限りということはないと思う。それに、ライヴも予定しているので、ライヴが決まったら鈴木マツヲの面白さを、ぜひ生で味わいに来ていただきたいです。
取材:村上孝之
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