「深くて壮大なテーマのある作品」 
平間壮一に聞くミュージカル『ヴァグ
ラント』の魅力や注目ポイント

ポルノグラフィティのギタリストである新藤晴一がプロデュース・原案・作曲・作詞を手がけるオリジナルミュージカル『ヴァグラント』。1918年の日本を舞台に、“マレビト”と呼ばれる芸能の民と、ある炭鉱で暮らす人々を描く物語だ。主演を務める平間壮一に、本作への意気込みやオリジナル作品ならではの魅力を聞いた。4月某日行われた、ビジュアル撮影の模様とともにお届けする。
■熱い思いを持つカンパニーで挑むオリジナル作品
――稽古はこれからですが、今回楽しみにしていることはなんでしょうか。
日比谷フェスのリハーサルなどで、キャストの何人かと(新藤)晴一さんにお会いして、熱い人が多いなと感じました。まだ深くお話はできていませんが、みんな信念や訴えたいことを持っている人たちだという印象を受けました。この人たちが集まって一つの作品を作ったら何かしら起きる気がしています。特に同じ役の廣野(凌大)くんに関しては、初めて会った気がしないというか、何か似たものを感じました。自分の世界があったり、言葉の受け取り方や物の見方が人とちょっと違ったりするんじゃないかなと感じますし、それがこの作品にいい影響を与えそうだと思います。
――脚本はもう完成しているんでしょうか。
まだ完全ではなく、三稿目くらいです。100年前のお話で、(今の)僕らから見たらもう決まっていることだけど、自分たちが住んでいる土地や新しい法律について、あの時こう変えていたらもっと生きやすい世の中になっていたんじゃないかと考えさせるような部分があったり、未来の自分たちに向けて「幸せの場所は見つけられたかい?」と問うような曲があったり。晴一さんは希望や未来というものをすごく大切にしていると言っていました。人間模様ももちろんありますし、今僕たちが生きている日本をもっと良くできるよねという思いも込められている。古いものが全て悪かったわけでも、新しいものが全ていいわけでもない。すごく深くて壮大なテーマをやろうとしていると思います。でもその中に一人ひとりが持つ悩みなどもあって、いろいろな思いが織り交ざっていますね。
――キャストの皆さんの印象はいかがですか。
平岡(祐太)くんとの共演は本当に楽しみです。先輩ですが、これまで接点があまりなかったので。僕としては、アミューズはあんまり先輩後輩っていうイメージがない事務所だと思っています。もちろん年上の方は尊敬していますが、みんながみんな自立しているというか、平等にいる感じがして。だから稽古場に入った時にどんな空気感になるか楽しみですね。
■オリジナル作品は、無理なく言葉に思いを乗せられる
――オリジナル作品のどんな部分に面白さや魅力を感じますか?
上手く説明できないんですが、オリジナル=それが本物である、というところです。海外の作品ももちろん素敵だし、できるのは嬉しいです。でもやっぱり、オリジナルがあるのが少し悔しい。よく言われるのが「アメリカ人がちょんまげをつけて侍の役をやることはないだろう」と。でも僕らはかつらをつけて髪を染めて、洋服を着てアメリカ人の役をやっている。嫌じゃないけど、日本人(の役)でもいいじゃんという思いもある。だから100%自信を持ってやれることが本当に嬉しいです。
――日比谷フェスティバルでは、ミュージカル曲とロックやポップスの違いという話も出ていました。平間さんが感じる違いや本作の楽曲の魅力はどんなものでしょう。
台本はいただいているものの、まだ完成していないので掴みきれない部分があるんです。そんな中で曲を歌うことで、ビジュアルだけの状態からイメージがどんどん膨らみました。祭り的な要素が入っていたり、訴えかけてくる曲になっていたり。
多くのミュージカルと違うのは、日本語で作られたオリジナルの楽曲で、何一つ無理なく、気持ちよく歌えることです。英語で作られた楽曲を翻訳すると、どうしても無理しながら歌う部分が出てくる。そのストレスがないのが一番の特徴ですね。
――新藤さんが書かれる言葉の魅力を教えてください。
押し付けがましくないというか、とにかく優しくて丸くてスッと入ってくる。違和感なく、言葉として聞こえる印象です。誰が聞いても晴一さんだとわかるものって、多分演劇にした時にくどくなっちゃうと思うんです。でも晴一さんはいろいろな音楽やミュージカルを知っていて、しかも大好きでいてくださるので、バランスも取れていて。本当に優しい方だということが文章に出ていると思います。「演技もミュージカルも大好き!」ってあんなに可愛い顔で言ってくださるとは思っていませんでした(笑)。
――思いの乗せやすさにも違いが出るんでしょうか。
『RENT』に出演した時に、日本語が音に聞こえないというのが一番の課題でした。元が英語だと、日本語にした時にすごく早くなったり無理に文字を埋めたりするからのっぺりしがち。でも今回は無理がないので、自然と言葉になる。お客さんも「何か違う」と思う可能性は大きいです。
■ お芝居の基本に立ち返ってみようと考えているところ
――佐之助は明るいけれど闇があるキャラクターということです。オリジナルということで、平間さんらしさも入れて作っていくことになりそうですね。
そのバランスをどう表現するかも楽しみですし、重いシーンを重くやるだけが正解じゃないと思うんです。
僕は自分なりに噛み砕いて自分の役にしようという思いが強いタイプの役者だと思います。今回は既にあるイメージに完璧に寄せなくていいのが本当に嬉しいです。凌大くんとWキャストで、役の作り方も明るい部分と闇の出し方も2人で違うと思いますが、そこは違ったままでいいと(演出の)板垣さんも言ってくれているので、全然違う印象になると思います。
――芸能の民という設定ですが、ダンスもあるんでしょうか?
どうでしょう。ステージング・振り付けで当銀大輔さんが入ってくれてはいます。作中では、マレビトは祭り以外の時は結構嫌われているというか、水商売的な感じで捉えられているんです。佐之助は、生きにくい世の中で必要な時だけ呼ばれて盛り上げる自分の存在価値を考えるような感じ。普段は芸事が禁じられている世界ですし、これだけキャストがいてマレビトは2人しかいない。みんながどれだけ踊るのかわかりませんが、踊ってほしいですよね。
――役作りについてはどう考えていますか。
今、お芝居を始めた頃にやっていたことを今一度確認しようと思っているタイミングです。例えば、作品に直接は関係ないし、お客さんには伝わらないことなんですけれど、(キャラクターの)利き手はどっちか、お父さんがいたかどうかとか。もちろん今もやっていますが、伝える技量がないし伝わらないだろうと思って少しずつ省いてしまっていたんです。でも、もっと役を生きるためには必要だなと改めて思いました。海外の作品だと、理解しきれない部分がどうしてもあるからそこまで作れなかったというのも正直あります。この作品は日本が舞台で、想像もしやすいのでより深く向き合えるんじゃないかと。
晴一さんが舞台に関わってくれたことで、音楽にしか興味がない方が劇場に足を運んでくれたり、逆に演劇しか見ていなかった人がフェスにいくようになったりするかもしれない。エンタメ全体が盛り上がるきっかけになるかもしれないと思うと、すごく頑張りたいなと思いますね。
■愛のあるクリエイター陣とともに、真剣に向き合いたい
――改めて、今の時点で感じる佐之助というキャラクターの印象を教えてください。
最初と今とで、印象が全然違うんです。最初は、あまり喋らず、風を感じていたり自然を感じていたりする不思議な子のイメージでした。最近の台本では、明るく活動的な少年というイメージ。でもその裏にはトラウマを抱えていて、そこに触れたときにこの子はどうなってしまうんだろうと。弱くて脆くて、空元気で振る舞っている印象ですね。
――佐之助と幼馴染3人の交流が物語の核になるのかなと思います。お芝居において楽しみな部分はありますか?
上口(耕平)くんとは共演していますが、同じシーンに出て言葉を交わしたことがほぼないんです。やり取りしたいねといつも言っているので、今回やっと舞台上で会話劇ができそうなのが楽しみです。小南(満佑子)ちゃんはヒロインやお嬢様のイメージがあるので、今回のような逞しく強いキャラクターがどんな感じになるのか。
あとは台本が完成してからになりますが、佐之助たちマレビトは普通の人と触れ合っちゃいけないらしいんです。でも同じような闇を抱えている人たちに興味を持って輪を広げていく感じになると思うので、みんなとの会話で作っていくことにワクワクします。(水田)航生とも、仲はいいけど一緒に舞台をやるのは久々。お互いにいろいろな作品を経験し、どう変わっているか楽しみですね。
――幼少期からの友情や約束というキーワードが出てきます。平間さんにとって大事な思い出や約束はありますか?
田舎だったから、友達は僕の夢を誰も理解してくれなかったんです。そんな中で家族が応援してくれて、中学2年の時に東京に送り出してくれた。何がなんでも踊りに関わる仕事をして生きていくよっていう約束を果たしたいなと思っています。
――ビジュアル撮影の時のエピソードを教えてください。
撮影の前に衣装合わせがあったんですが、その時点からやったことのない作業でした。まだ縫い合わせていない布をあてがって色やデザインを考えたり、履物は草履にするか裸足にするか話したり。普段は完成したものを着せてもらうので、衣装作りの段階から関われるのが新鮮でした。
一つひとつの衣装の設定を聞いてスチール撮影に挑むとまた違うなと。例えば佐之助の衣装の首元についている毛はシーサーの髭をイメージしているらしくて、美弥さんの衣装にもシーサーの要素がついているんです。それで2人が対みたいな関係だということが見えてきたり、「この羽はどこかで拾ったものという設定にしよう」と言われて、金持ちじゃないことがわかったり。
スチール撮影の時、晴一さんはあんまり喋っていませんでしたが、本当にいろんな現場に来てくれます。普通作曲家の方とこんなにお会いしながらお芝居を作ることはないので、ここまで関わってくれることに驚きました。こんなに愛のあるスタッフさん、裏方さん、クリエイトチームとやれるなら、自分ももっと作品に向き合おうと思いますよね。
――現場では、新藤さんと何かお話はしましたか?
まだそんなに話せていなくて、どんな方か知りたいなと思っています。シャイな方らしいので難しいかもしれませんが、ふとした時の一言が優しかったりするんですよね。「平間くんはどんな役でもできるって信じてる」と言ってくれたり、歌のキーや歌い方についての意見も受け入れると言ってくれていたり。本当に、みんなでミュージカルを作るんだなと実感しています。
――新藤さんはミュージカルをたくさん見ているということですが、平間さんが出演した作品を観に来られたこともあるんでしょうか。
コロナ禍なので楽屋で会うことはできませんが、来てくださっています。僕はどうしても演者目線で「自分ならこう演じる」とか音や照明について考えてしまって、世界に入り込めない。でも晴一さんは「自分を忘れて2、3時間その世界に入り込めるのが幸せ」と笑顔で話してくれて、その表情から本当にミュージカルが大好きだということが伝わってきます。
――観にこようと思っている皆さんへのメッセージをお願いします。
日本ではミュージカルをちょっと特殊に捉えている人も多いと思います。ストレートとミュージカルは何が違うの?と言われることもあるんですが、この作品については絶対にお芝居として作りたいんです。歌唱指導の先生からも「音を綺麗に出すことを考えなくていい。思いを優先していい」と言われていて、土臭く生きていこうというテーマがあります。
演じる僕ら自身、人生においていろいろなことにぶち当たるようなタイミングです。それを作中のキャラクターが背負っている悩みや深い思いと重ね合わせてやっていきます。お客様の中にも1人で悩んでいる人はいると思うんです。解決できるのは自分だけかもしれないけど、同じような悩みを持っている人がたくさんいて、キラキラしているように見える人も一緒。みんなで希望を感じ、夢を見たら何か変わるかもしれないと思えるような舞台にしたいです。セリフを上手く言えたから感動する、歌声が綺麗だから感動するというのとは別のところで勝負していきたい。心がこもっていれば棒読みでも響くものがあるし、そっちの方が素敵。それを目指そうと思っているので、ぜひ観にきてくださると嬉しいです。
取材・文=吉田沙奈 撮影=池上夢貢

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