現代に通ずる社会問題を鮮烈に描く、
ミュージカル『FACTORY GIRLS〜私が
描く物語〜』囲み取材&ゲネプロレポ
ート

2023年6月5日(月)、ミュージカル『FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜』が東京国際フォーラム ホールCにて初日を迎えた。
2019年に世界初演された本作は、日米合作という異例の形で生まれた日本発のオリジナルミュージカル。ブロードウェイの新進気鋭の作曲家コンビのクレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニーが作詞・作曲、“社会派エンターテイメント”という新たなジャンルの確立を目指しながら活動する板垣恭一が脚本・歌詞・演出を務めた。初演が上演されるやいなや大きな反響を呼び、2019年読売演劇大賞優秀作品賞も受賞した実力派の作品だ。
待望の再演となる2023年公演では、主演の柚希礼音ソニン実咲凜音、清水くるみ、原田優一、戸井勝海ら続投キャストに、平野綾、水田航生、寺西拓人、春風ひとみら新キャストが加わった。
6月5日(月)、初日公演の前に行われた囲み取材とゲネプロの模様をレポートする。囲み取材の場には、柚希礼音、ソニン、実咲凜音、清水くるみ、平野綾、水田航生、板垣恭一ら7名が姿を見せた。一部抜粋して紹介する。
――初日に向けた意気込みと作品の見どころをお願いします。
柚希:初演から3年半が経ちまして、こうして再演できることを心から嬉しく思っております。初演メンバーも再演からの新メンバーも、それぞれの3年半がすごく詰まっているなと思うくらい、さらに深い作品になっております。私自身がこの作品からパワーをもらったり、励まされたり、背中を押してもらったりしながら稽古してきました。きっとそのパワーがお客様にも届くと思いますので、多くの方に観ていただきたいです。
ソニン:今、柚希さんのコメントを聞きながら3年半のことを思い出してちょっと泣けてきちゃいました。初演したあとにコロナ禍が始まり、我々は今回の稽古中にマスクが外れ、この再演までの間にいろんなことを乗り越えてこの初日を迎えんだなと思うと、ちょっと感慨深くなっちゃって。
初演と変わらず、誰も前進することを止めずに毎日毎分ずっと前に進み続け、切磋琢磨して試行錯誤しながら再演バージョンを新しく作り上げてきました。『FACTORY GIRLS』という作品は紡績工場の話なんですけれども、みんなの太い太い糸が重なり合って、お客様を交えて布になっていくんだろうなと。それを今日迎えられるんだなと思うとすごく嬉しくて! 初演からさらにパワーアップしてみなさんにお届けできることを、私はなぜか勝手に確信しています(笑)。多くの方々にその景色を観ていただきたいなと思っております。
柚希さんの言葉に思わず涙ぐむソニンさん
実咲:お稽古場から今日まで本当にあっという間の時間でした。お稽古場のときから、ちえさん(柚希礼音)はいつも誰よりも早く来て発声をされており、誰よりも早く自分のお稽古をされている印象です。ソニンさんも誰よりも役のことを考えていて、毎回お稽古場で挑戦される背中を見てきて、本当にいいチームワークで今日を迎えられたなと感じています。初演から時間も経って2度目の挑戦の役になりますけれども、アビゲイルという役は私自身すごく共感できる部分が多く、さらに大好きになっているなと今実感しています。たくさんの方に観ていただきたいなと思うので、初日に向けて意気込んでいます!
清水:もうニンニン先輩(ソニン)が素晴らしいことを言ってくださったので、少しだけ。私は再演の作品に出るのが初めてなので、そういう意味でも思い入れもありますし、お客様の反応がどうなるのかすごくワクワクしています。キャストも一新して・・・・・・あ、一新ではないか(笑)。新しい作品になっていると思うので、ぜひ観に来てほしいです!
平野:私は再演からの参加になるんですけれども、本当に稽古場の熱量が毎日ものすごくて。カンパニーって作品が終わると「じゃあ次の現場でまた会えたら〜」みたいな感じで、一気に解散しちゃうんです。でも本当に解散したくないなって、始まる前から思ってしまうようなカンパニー。今までみんなでものすごい時間を一緒に過ごして、家族のような感覚で取り組んできた気持ちにさせられる作品って、すごく素敵だなと。そう思いながら毎日稽古をさせていただいたので、本当に早くたくさんの方に観ていただきたいです。
水田:見どころはですね、全てファクトリーガールズだと僕は思っております。やっぱり“生きる力”みたいなものをとっても感じますし、そういうパワーは観ているお客様にも絶対に伝わると思います。一人ひとりがそれぞれの道を必死に生き抜こうとしているので、その生きる力をぜひとも劇場で観て感じていただければ嬉しいです。
「真面目なことも喋るんだなあ」というソニンさんのコメントに「いつもふざけてるみたいじゃないですか(笑)」と弁明しようとする水田さん。
――演出を務める板垣さんとして、作品の見どころと初演を経て感じるキャスト陣の変化を教えてください。
板垣:まず、このミュージカルは“オリジナルミュージカル”です。楽曲はクレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニーというアメリカ人の方が作っておりますが、脚本は僕が書いておりまして、まだ他のどの国でも上演されておりません。その上で見どころが2つあります。ひとつは人間ドラマを書いたということ。女性が主人公ですが、現代に生きる我々にも関係のある労働問題、差別の問題、貧困の問題などを書きました。もうひとつの見どころは、再演かつオリジナルなので好き勝手にブラッシュアップができたということ。レプリカミュージカルではないので、何の制限もなく、セリフを変えてみたところもありますし、振付は全部作り替えました。舞台美術も違うので人の動きも違います。新しいメンバーも入ったので、全く新しいものを改めて作りました。
俳優についてですが、3年以上の時を経て人としての重さというものが明らかに増していて、それが反映されやすい舞台なんだなということを今すごく噛み締めています。ドラマに深みが増したんじゃないかなあと。新しいメンバーも、例えば(平野)綾ちゃんはたくさんのアイディアと技術を持って新しい風を吹かせてくれて、すごく頼りにしています。(水田)航生くんは、こんなに綺麗にプリンスをやるやつがいるのか、という素晴らしい演技ぶりで。ソニンさんと2人のシーンでは、僕が航生くんに見惚れてソニンさんに怒られるという自体が起きています(笑)。
あと、この場にはいないんですけれど寺西(拓人)くんという俳優さんがいまして、彼も再演から参加しています。移民の役なのでいろいろとダークサイドも含めて背負わなきゃいけない役。だけど稽古の初期段階でですね、彼が持っているあの爽やかさがとても爽やかなシェイマスというキャラクターを作り上げているのを見て「爽やか過ぎるなあ」と思いまして。悩んだ私は寺西くんに「屈折してみようか」と言ったんです。すると翌日からちゃんと“屈折キャラ”を作ってきてくれて「この人すごいできる!」と。そんな新しい発見がある稽古場でした。
――最後に、お客様に向けてメッセージをお願いします。
ソニン:この作品はローウェルの工場で働くガールズが書いた寄稿集がどんどん有名になっていったという実話を元にしています。当時の女性は発言する権利すら持っていませんでした。今やSNSで誰もが発言する権利を持っていて、でも作品の時代では自分が書いた文章を世界中の人に読んでもらえることが本当に興奮であり、同時に責任やリスクというものが生じ、そのことも物語の中で描かれています。今、客席にいる多くの方がSNSなどで発言されることがあると思うので、共感や身につまされる思いをするようなストーリーが待っていると思います。現代に通ずるメッセージがたくさん詰まっておりますので、お客様にたくさんのものが伝わったら嬉しいです。
柚希:ポスターなどを見ると女性が強そうなので「女性がメインの話なんでしょ」とよく言われるんです。けれど決して女性が男性を責めている話ではなくて、女性が人間としての権利を手に入れるために闘っていくお話なんです。19世紀のアメリカの話ですけれども、現在の皆様にもいろいろ刺さるところがあると思っております。私も稽古しながら煮えくり返ったりいろんな感情で毎日を過ごしております。すごくハッピーエンドで終わるわけではないかもしれませんが「また明日から頑張ろう」と思える作品になっていると思います。ぜひ多くの方に観ていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。
>(NEXT)ゲネプロレポート
2019年の初演を経て4年ぶりの再演となった本公演。女性の地位向上のために闘った人々の姿を描いた物語である一方、決してそこに留まらず、“人間讃歌”という大きなメッセージも色濃く感じられる作品へと深化していた。
物語の舞台は急速に産業革命が進んでいった19世紀半ばのアメリカ。それは女性が仕事に就くことがまだ珍しかった時代でもある。工業都市として栄えた街ローウェルには、夢を抱いて紡績工場で働くたくさんのファクトリーガールズがいた。主人公サラもそのひとりだ。彼女は貧しい家庭を支えるために、大きなバッグを抱え単身でローウェルにやってきた。新しい街に着いたばかりで希望に満ち溢れたサラの笑顔は、工場の実態を前に消え去ることになる。
サラが目にしたのは、まともな休憩時間もなく朝から晩まで機械のように働くファクトリーガールズ。お給料をもらうため、解雇されないため、無理をしてでもしたたかに働く彼女たちにサラは衝撃を受ける。ハリエットの存在も彼女に大きな影響を与えた。ガールズの寄稿集「ローウェル・オウファリング」の編集者であるハリエットとの出会いをきっかけに、サラは文章を書く楽しさを知り、ライターとしての才能を開花させていく。
強い友情で結ばれたファクトリーガールズは、時に衝突し、時に励まし合いながら、それぞれの夢を胸に未来へ想いを馳せて働き続けた。ところが工場の労働環境は悪くなるばかり。労働者への不当な扱いに対して声を上げ、真正面から権力に立ち向かおうとするサラ。必死に築き上げてきた場所を守りながら、争いではない方法での解決を望むハリエット。“女性の地位向上”という同じ目的を持つ2人の運命は、残酷にもすれ違っていく――
幕開けの瞬間から重厚なギターサウンドが響き渡り、本作が闘いの物語であることを予感させる。実話を元に生み出されたこの物語は、全26曲のエネルギッシュなロックサウンドに乗って紡がれていく。「機械のように」や「ストライキ」の場面など、ファクトリーガールズがスカートを翻しながら激しく体を揺らしてグルーヴ感満載で歌い上げる様は、観る者の気持ちを高揚させる。本作のテーマと音楽は密接に結びついており、それ故に作品全体に説得力が生まれているように感じた。
物語の主軸となるのは、サラ・バグリーとハリエット・ファーリーという、実在の人物をモデルとした2人の登場人物だ。
柚希礼音は、持ち前の素直さと明るさでファクトリーガールズから信頼を得て、ゆくゆくは労働争議のリーダーとなってペンを手に闘うサラを力強く演じた。ローウェルに来たばかりの頃は世間知らずだったサラだが、工場で身をもって現実を知り、疑問を呈して果敢に権力に挑む姿は実に頼もしい。かと思えば、突然踊り出してしまうような天真爛漫さを持つ愛らしい人物でもある。柚希のまっすぐな芝居とサラのひたむきさとが舞台上でピッタリと重なり合う瞬間が幾度もあり、その度に心が震えた。
サラと親友になるが、彼女とは異なる方法でファクトリーガールズを守ろうと奮闘する孤高の女性、ハリエット・ファーリーを演じたのはソニンだ。知的で常に冷静で、決して感情には走らない。ファクトリーガールズや女性の権利を守りたいと願うものの、工場の裏に潜む政治に巻き込まれ身動きができず葛藤する。そうして押さえ続けてきた感情が爆発する瞬間の迫真の演技は鬼気迫るものがある。ソニンは、初演時よりもさらに人間味を増した新しいハリエットの人物像を見事に作り上げていた。
工場で働くファクトリーガールズも、一人ひとりが個性的な魅力を放っている。
実咲凜音が演じるアビゲイルは、常に優しい眼差しでみんなを見守る縁の下の力持ち。いざというときの頼もしい言葉が、彼女の持つ芯の強さを感じさせる。いつも空気を和ませてくれるかわいらしい少女ルーシー・ラーコムを演じたのは、清水くるみ。何をするにも一生懸命で、クルクルと変わる表情からは目が離せない。本作初参加の平野綾は、玉の輿を狙うおしゃれ好きなマーシャを活き活きと演じていた。「オシャレをしたい」のナンバーで見せる、かわいらしさと腹黒さのコントラストが秀逸だ。

他にもヘプサべス(松原凜子)、グレイディーズ(谷口ゆうな)、フローリア(能條愛未)など、ファクトリーガールズは誰しもが悩みを抱えながら、けれど希望を捨てず懸命に闘った。たとえ同じ作業服を着ていても、スカートの柄、ブラウスのデザイン、髪型など衣装やヘアメイクの細部が異なっており、それらからも各々のキャラクターを感じ取ることができる。ぜひチェックしてみてほしい。
工場を取り仕切るオーナーのアボット・ローレンスを演じたのは、原田優一。一癖も二癖もあるアクの強い立ち居振る舞いで鮮烈な印象を残していった。アボットと共に表と裏の顔を巧みに使い分ける州議会議員のウィリアム・スクーラーを演じたのは、戸井勝海。権力の象徴でもあるヒール役として存在し、渋みのある芝居で作品に重みを与えていた。
スクーラーの甥で政治家を目指す若き青年ベンジャミン・カーティスを演じた水田航生は、舞台上に爽やかな風を吹かせる。ハリエットに自身の夢を語る場面では、まるで少年のように純粋な瞳を輝かせていた。労働新聞の編集長で移民でもあるシェイマスを演じたのは寺西拓人。本作では持ち前の爽やかさを封印し、複雑な背景を持ちながら権力と闘う勇ましい青年として、芯のある芝居で魅せてくれた。
工場の寮母でルーシーの母でもあるラーコム夫人と、本作のストーリーテラーとして40年後のオールド・ルーシーという2役を華麗に行き来していたのは、春風ひとみだ。ラーコム夫人では女手一つで娘を育て上げた包容力のある母を演じ、オールド・ルーシーでは若かりし頃のルーシーを彷彿とさせる茶目っ気を垣間見せながら、舞台と客席とを繋ぐ大役をさらりとこなしていた。
ペンを手に権力に立ち向かったファクトリーガールズの物語は、決して過去のものではない。彼女たちの行動は現在へと繋がり、闘いは今もなお続いている。ファクトリーガールズが望んでいたのは、人が人として生きる権利なのだ。
本作ではペンは武器として描かれているが、ペンは人と人との理解を深めるための道具にもなり得る。立場の異なる者同士が、文章を通して互いのことを知り歩み寄ることができれば、いつか闘いを終えることができるのかもしれない。
上演時間は1幕85分、休憩20分、2幕75分の約3時間。東京公演は6月13日(火)まで東京国際フォーラム ホールCにて、その後は福岡公演、大阪公演へと続き、7月2日(日)に大千秋楽を迎える予定だ。
取材・文・撮影 = 松村 蘭(らんねえ)

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