『BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be th
ere』 セトリやライブ運びから見えた
バンプの"いま"

BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there 2023.5.28. さいたまスーパーアリーナ
2023年2月11・12日の東京・有明アリーナ2デイズからスタートした、BUMP OF CHICKENのアリーナツアー『BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there』は、5月27・28日の埼玉・さいたまスーパーアリーナ2デイズで、ファイナルを迎えた。
その2デイズのうちの、1日目が終演した直後。この日のライブ本編(=アンコール以外)の、セットリストをプレイリストにして公開したことが、BUMP OF CHICKENの公式ツイッターで告知された。あと1日公演が残っているのに、それが終わるのを待たずに公開したのは、1日目と2日目が、異なるセットリストだったからだ。
という事実が、これまでBUMP OF CHICKEN が行ってきたツアーと、この『BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there』との、大きな違いだった。正確に言うと、このアリーナツアーの直前に回ったライブハウスツアー『BUMP OF CHICKEN TOUR 2022 Silver Jubilee』も、同じくだったので、つまり、今シーズンのBUMP OF CHICKENはそうだった、ということだ。
各地2デイズずつでツアーを回る時、1日目と2日目でセットリストを変えるバンドは、めずらしくない。バンプ以外にもいる。ただし、その場合、(これまで自分が観てきた経験では)セットリストの2ヵ所くらいが、「ここはこの2曲のうちのどっちか」というふうになっている。というように、変えるポイントが絞ってあるものだ。
しかし、バンプのこのツアーは、本編17曲のうち8曲が「この2曲のうちのどっちか」仕様になっていた。その上、アンコールは毎回違う曲である。アンコールでやる曲の候補が8曲くらいあって、その中から2曲、日によっては3曲、選んでいた、と推測される。
さらに。ツアーの途中までは13曲目に演奏されていた「スノースマイル」が、4月1日の長野ビッグハット1日目以降、同日に配信リリースされたばかりの「窓の中から」に変更となった。なお、「スノースマイル」は、5月2日の広島サンプラザホール1日目や、5月27日のさいたまスーパーアリーナ1日目のアンコールでも演奏された。
DIYで街のライブハウスを回っているバンドなら、まだわかる。しかし、バンプのようなツアーの規模がでかいバンドは、普通、こういうことはやらない。なぜ。大変すぎるからだ。PAや照明や映像や特殊効果等の演出における、1曲1曲ごとの「この曲はこうする」という決まりごとを、曲数の候補が増える分、用意しなくてはならなくなるからだ。
そのことに影響を受けるスタッフの数を考えてみると、わかりやすい。たとえば、街のライブハウスを回る規模のバンドなら、ローディーとPAと照明の3人が、それに対応すれば済む。しかし、バンプのこのツアーの場合、その変更に関わる人数は、何十人、いや、何百人……と考えると、その大変さを理解していただけると思う。
本人たちは置いておいても……いや、置いておけないか。大変か、やっぱり。というのはこの日、5曲目の「透明飛行船」を始めたと思ったらすぐ演奏がストップし、藤原基央が「今のは俺! 全然違う曲始まると思ってた」と、謝ったからだ。「どっちか」のもう1曲の方=「才悩人応援歌」が始まると勘違いしていた、ということだろう。
というわけで、本人たちも大変なのに、なんで、そんなことをやったのか。やりたかったからだ。なぜやりたかったのか。『BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there』『BUMP OF CHICKEN TOUR 2022 Silver Jubilee』という2本のツアーが、バンプにとって──○周年とかの区切りではなく──バンドとしての意志や、意識や、活動の仕方において、大きな節目となるツアーだったから、ではないか。だから、今自分たちが聴き手に届けたい曲を、1曲でも多く演奏するために、そうしたのではないか。
ということに、ツアーが終わってから、気がついたのだった。どんな意味で、どのように節目だったのかについてはわからないが、バンプはツアー終了と同時にオフィシャルサイトをリニューアルし、オフィシャルアプリ「be there」をオープンした。ということと、今回、このようなツアーをやったことは、無関係ではないのでは、と思う。
以上、バンプの直近の2本のツアーの、これまでと異なる特色について書きました。では以下、その最終日についてです。
ステージ中央から長く伸びた花道の先に、センターステージを設ける、というのは、これまでのバンプのアリーナツアーでもおなじみだった(花道の先ではなくて、離れ小島的に作られる時もあった)。が、このツアーは、1曲目からいきなり、そのセンターステージでスタートするのだ。
ステージ下手から出て来た4人が、そのまま花道の先まで歩いて行き、持ち場につき、藤原基央がギターを高々と掲げるおなじみのポーズで挨拶し、「アカシア」でライブが始まる。そこから「ダンデライオン」を経て、3曲目の「天体観測」まで、そのままセンターステージで演奏する。「天体観測」は、藤原がギターを弾きながら<「イマ」というほうき星 君と二人追いかけていた>と歌うと、さいたまスーパーアリーナをパンパンに埋めたオーディエンスが<Oh yeah ah>と続く、という始まり方だった。そして、増川弘明の弾くギターリフに、升秀夫のドラムとチャマ(直井由文)のベースがじわじわと寄り添い、全員の音が揃ってイントロに突入した瞬間、パーン! とテープが飛んだ。
この演出にも、意表をつかれた。もうテープ? しかも、小さい方のステージで? そもそも3曲目に「天体観測」を、小さい方のステージで、サラッとやってしまう、ということ自体にも、ツアーの初日でびっくりしたのだが。
あ、その初日のレポはこちらです。https://spice.eplus.jp/articles/314811
その後も、9曲目の「プレゼント」と、10曲目の「新世界」を、センターステージで演奏した。そして、それ以外の時も藤原、増川、チャマは、しょっちゅうセンターステージに出て来た。「この曲では出る」「ここは出ない」という決め事どおりに動いている、というよりも、気がついたら出ていた、気持ちがそう動いてしまった、という感じに見えた。それは、つい長くなってしまうMCからも感じられた。MCにせよ、各メンバーの動きにせよ、最低限でやっていたのであれば、ライブはもっと早く終わっていたと思う。
ということにも、終演してから気がついた。ずっと楽しかったし、何度も感動したし、何度も興奮もしたので、自分の体感時間としてはあっという間だったのだが、4人がステージを去って、客電がついて、時計を見たら20時53分。始まったの、18時8分だった。
え、じゃあ尺、2時間45分? そんなにやったっけ? 曲数は、えーと、アンコールで「embrace」と「ガラスのブルース」をやって、増川、チャマ、升がはけて、藤原がひとりでしばらくしゃべってから、ギター1本で歌い始めて、3人が戻ってきて演奏に加わった「宇宙飛行士への手紙」まで合わせて、20曲か。
20曲にしては時間経ってないか? なんで?……と考えて、メンバーが自由にしゃべったり自由に動いたりしていた、その分、時間がかかったのではないか、という結論になったのだった。
たとえば、10曲目にセンターステージで演奏された「新世界」。中盤のハイライトだったこの曲の最後は、演奏を止めたあとも藤原がオーディエンスと<ベイビーアイラブユーだぜ>を延々と掛け合いながら、メインのステージに戻ってきて、次の「SOUVENIR」に行く、という流れだった。そんなふうに自由に動くのも、MCで長くしゃべるのも、少しでも長くオーディエンスとここにいたい、この時間を一緒に味わい尽くしたい、という気持ちの表れでもあるように、自分には思えた。
「天体観測」を終えたところでのMCで、増川は、(ギターで)今弾いたフレーズは今日はもう弾くことはないんだな、今日みんなと過ごした時間はこの瞬間を越えたらもう帰ってこない、と思うので、大事に楽しんでライブをやっていきたいと思っています」と言った。
それに続いて、チャマは「声出しの練習をしましょう」と、オーディエンスと「イェーイ!」で掛け合いをし、中盤のセンターステージのコーナーでは、オーディエンスに「be there」と「たまアリ」を、声の高い人と低い人に分けてコールしてもらい、そのさまをスマホに収めた。
藤原に「頑なにマイクを使ってしゃべろうとしないんですよ。地声で伝えようとすんの」と紹介された升は、「ツアーファイナル! ツアーファイナル! すごい大事なことなんで二回言わしてもらいました!」「あとちょっとなんで、全力でやろうぜ!」と、この日もオフマイクで、声の限りに叫んだ。
「一緒に歌いたいなあと思ったら、好きなように歌ってね。俺と同じ主メロだってかまわないし、『ハモれるよ、練習してきたよ』っていうツワモノはそれを歌ってみてくれたってかまわねえし、じっくり聴きたいんだって人は聴いてくれたってかまわねえし」という言葉から、「窓の中から」が歌われる。
その後、日替わり曲の「月虹」と「HAPPY」、そして固定で演奏され続けてきた「ray」を経て、日替わり曲の「supernova」で、本編が終わる。
「HAPPY」は、藤原の「会えてうれしいぜ、さいたま、気分はどうだい? 生まれてこなきゃこんな夜、なかったんだぜ?」という言葉で始まり、オーディエンスと藤原による<Happy birthday>のシンガロングで終わった。「ray」では、花道の先まで行ったチャマが、その勢いのままフロアまで下りた。
「supernova」も、「HAPPY」と同じく、「ラララ」の合唱で終わったが、曲が終わってメンバーが去るとすぐ、アンコールを求める声として、またその「ラララ」を、オーディエンスが歌い始める。
そして始まったアンコールは、前述のように「embrace」と「ガラスのブルース」、そして藤原ひとりになる→しばらくしゃべる→ギターを持って弾き始める→増川、チャマ、升が戻って来て曲に入る、という流れで、「宇宙飛行士への手紙」。
オーディエンスの「ありがとう!」の声に、藤原は「ありがとうってこっちのセリフなんよ。終わっちゃうの、さみしいよ」と言ってから、「ガラスのブルース」に入った。
3人がいったん去ったあとの藤原のMCでは、BUMP OF CHICKEN にとってライブってなんですか、と、インタビューで訊かれるたびに困っていた、という話をした。
昔からライブに対しては、ものすごいたくさんの思いが渦巻いていて、なんて説明していいかわからなかった。でも、27年活動してきて、この『be there』というツアーをやって、ようやく一個わかったことがある。僕らにとってライブというのは、僕らの音楽を受け止めてくれた人に、会うための場所です。会うという行動をする、それが俺たちにとってのライブです。シンプルなことだけど、自分にとってすげえ大事なことなんだな、と、このツアーを回って改めて思いました──。
という話から、「僕はきみのことを、勝手に、すごくそばに感じている。曲作りの時は、きみの存在にすごく助けられている」という言葉を経て、オーディエンスに最後に贈られた「宇宙飛行士への手紙」は、出会えたのは一瞬だったとしても、その出会えたことの価値は決して一瞬ではない、ということを歌った曲である。
この日の、このタイミングでのこの曲は、BUMP OF CHICKEN とオーディエンス、両方の気持ちの表れのように、さいたまスーパーアリーナに響いた。

取材・文=兵庫慎司 撮影=太田好治、立脇卓、横山マサト

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