心はヴェネツィアへ 小泉今日子・峯
村リエ、舞台『ピエタ』への想い

プロデューサーを務める小泉今日子が、大島真寿美の原作小説に惚れ込み、実現に奔走した舞台『ピエタ』が、7月27日(木)より東京・本多劇場より上演される。演出・脚本はペヤンヌマキ、出演は小泉今日子、石田ひかり、峯村リエら。本作のメインキャストである小泉今日子、峯村リエに、作品への思い入れや、演劇ならではの表現に挑戦する心境を聞いた。
〈あらすじ〉
18世紀に活躍した作曲家ヴィヴァルディ。彼は孤児たちを養育するピエタ慈善院で〈合奏・合唱の娘たち〉を指導していた。彼の訃報を知ったかつての教え子や周囲の女性たちが邂逅し、身分や立場を越えて自身の運命に向き合っていく。

『ピエタ』の物語をもっとたくさんの人に知って欲しかった(小泉)
小泉今日子
――『ピエタ』は小泉さんがプロデューサーを務められていますが、今のお気持ちをお聞かせください。
小泉:大島真寿美さんが書かれた原作小説『ピエタ』に出会ったのは2011年です。読み始めたら止まらなくて、物語の力を感じました。読みながら、こういう話をもっとたくさんの人に知って欲しいと思いました。そしてそれを立体的に伝えられるのは演劇なんじゃないかと。どんな人間にもなれるし、過去や未来にも宇宙にもいける。いつか演劇で表現できたらいいなとずっと思っていました。
――本来ならば2020年に上演される予定だったんですよね?
小泉:会社(株式会社明後日)を作った2015年くらいから準備して、いろいろあったなかでようやく2020年に着地しそうだったんですけど、発表直前にコロナ禍になってしまって……。
峯村:そうでしたね。
小泉:そこで峯村さんはじめ、出演してくださるキャストやスタッフの皆さんに中止ではなく、延期にさせてくださいとお願いしました。でも、2023年の夏に『ピエタ』を上演するのは、作品自体がこの時期を選んだんじゃないかと思うくらい、よい時期に上演できるなと今は思っています。
――コロナ禍を経たことで、物語の背景とリンクするような部分を感じます。
小泉:2020年に上演したら読み取れなかったであろうヴェネツィアという街の腐敗みたいなことが今だったら台本に反映させられるんですよね。なので、あれを入れよう、これを入れようと演出のペヤンヌマキさんと話し合っています。
――『ピエタ』のどこに魅力を感じられましたか?
峯村:海外のお話で、たくさんの女性が出てくるじゃないですか? 同じ慈善院に暮らしてきた方たちや、貴族の方たち。似たような環境で育ってきているけれども、彼女たちが生きてきた40年ってみんな違う。だからいろいろなカラーが物語のなかに詰まっていて、同じ女性として「そうそう」って頷きながら、もう、読み始めてすぐに私の心はヴェネツィアにいってました。
小泉:うん。そう。そのとおり。
峯村:そうよね。水の都の景色が見えた。クラウディアさんの部屋の情景も見えたし、温度とかも感じることができた。
小泉:わかる。私が最初に読んだのは登場人物たちと同じ40代なかばくらい。自分も運命のようなものに流されながら仕事をしてきて、ここまで辿り着いてきているけれど、あのときこうすれば良かったなとか、あのころ実は傷ついていたんだよなとか、心に棘が刺さったままどんどん先に進むしかなかった時期で。
峯村:うん。
小泉:登場人物のひとりであるヴェロニカが幼い頃に楽譜の裏に詩を書いたというエピソードがあって、それを読んだときにぱーって涙が流れて……確かに私にも少女の記憶がある! その時に見た綺麗なものとか、影響を受けた音楽だとか、人に言われて嬉しかった言葉とか。あのとき、そういうものが積み重なって立っていられたんだなって自分自身の記憶が蘇ったんです。『ピエタ』を読んだことで“私もそうだった!”ってちゃんと自覚できたんです。
――ピエタ慈善院に暮らしていた登場人物たちとご自身を重ねることができた。
小泉:それってきっと私だけじゃなくて、男女関係なく、いろんな人が感じることだと思ったんです。なので、この物語をたくさんの人に知って欲しいと思ったんです。
役者としてはすべての役をやってみたい(峯村)
峯村リエ
――キャストも豪華です。峯村さんがご出演を決められた理由は?
峯村:誘っていただいたっていうのがまず嬉しかったですね。でも、お話をいただいたときはどの役をやるかはまだ決まっていなくて……それで小説を読んだらもうすっごい面白くて、これはぜひやらせていただきたいと思ったんですけど、すべてやりたい役で困りました(笑)。
小泉:そうだよねえフフ。やってみたいですよねえ。ひとまわり。
峯村:そう。やってみたい(笑)。
――2020年に予定されていた公演がコロナ禍で上演できなくなったとき、企画を変更して小泉今日子さん、石田ひかりさん、峯村リエさん、向島ゆり子さん(音楽・演奏)の4名でリーディング公演をされましたが、そのときの手応えは?
小泉:ペヤンヌマキさんが書いてくれた脚本を3人で読んだんですけど、向島ゆり子さんが音楽をつけてくださって、「涙が出ました」という感想をたくさん頂きました。なので、物語の持っている力はすでにあるから、じゃあここから(本公演では)どう演劇っぽく作っていくか、行き先がはっきりしたねって話をペヤンヌさんとはしました。
――本番でおふたりが楽しみにしているシーンなどは?
峯村:どんなシチュエーションかは言えませんど、キャスト全員が揃うところは楽しみですね。
小泉:重要なのが生演奏だと思っていて、“音楽”が18世紀のヴェネツィアと私たちが立っている舞台をふわっと繋げてくれたらいいなと思っています。
峯村:しかも生演奏ですからね。リーディング公演のときも向島ゆり子さんがヴァイオリンを弾いてくださって素晴らしかった。
小泉:あと美術に関しては、リアリティのあるヴェネツィアの街を作ろうと思ってもできるわけもなく、できたとしても薄っぺらな世界観になってしまう気がするので、美術や衣装は抽象的に描こうと思っています。だから役者たちは精神だけを纏って舞台に立ちます。
峯村:リーディングのときは椅子と照明のみ。そこに役者が吐くセリフと音楽があるのみ。でもそれだけですっごい世界観ができていましたよね。今回は、キャストも増えるのでリーディング公演とはまた違うカラーが入って別のものが生まれるんだろうなって気がしています。
小泉:ヴェネツィアの水路だったり、カーニバルをどういうかたちで見せるか? 舞台にしかできないやり方をふんだんに取り入れようと思っています。
音楽を奏でるものは楽器だけとは限らない(小泉)
――演奏曲はヴィヴァルディですか?
小泉:もちろん。音楽監督でもある向島ゆり子さんが、いろいろなことを面白がってくれて、まだ稽古には入っていないのですが、すでに音楽プランがバッーって来ています。実際にどこまでできるかペヤンヌさんと今、話していますね。
――オリジナル曲もあるんですね。
小泉:リーディングのときから何曲もオリジナル曲を作って演奏してくださっています。アイデアが凄い豊富な方なので、例えば音楽を奏でることに楽器だけとは限らないというような……。
峯村:面白いことを考えられますね。
小泉:SEも作りたいとか言ってくださっているくらい。
――いわゆる劇伴だけでなく、水の音や鳥のさえずりのようなことも音なんですね。
小泉:そうです。役者さんたちの声も音になるので、みなさんの声が聴けるのが楽しみです。早く稽古がはじまったらいいなと今は思っています。
――読者にメッセージをお願いします。
小泉:今だからこそ心に届く物語だと思うので是非、見に来てください。
峯村:見た方が登場人物たちのようにキラキラして、日常生活のなかでワクワクした気持ちになって帰れる舞台だと思います。是非、ご覧ください……私は一生懸命セリフを覚えます(笑)。
小泉:そこは私もがんばります(笑)。
――ありがとうございました。
取材・文=高畠正人

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