人生の輝きも苦悩も余さず描くーーG
alileo Galileiの始動を告げるニュー
アルバム『Bee and The Whales』イン
タビュー

他のどんなアウトプットでもなくGalileo Galileiでしか作り得なかった音楽が7年ぶりのオリジナルアルバム『Bee and The Whales』で鳴っている。はっきり言ってかなりとっ散らかったアルバムとも言えるし、キャリアを重ねてきた音楽家がまだこんなに自由でいられることに歓喜してしまう面もある。これまで海外の音楽を同時並行的に吸収・消化してきたスタンスとも違うし、既にそれは彼らの内部にも外部にも存在している、そんな感じなのだ。大袈裟ではなく、生きることと同じぐらいの悩ましさもパッションも詰め込まれた本作について、そしてリリースと同時スタートするツアーについて、尾崎雄貴と岩井郁人にじっくり話してもらった。
――前回のインタビューでは、Galileo Galilei始動の経緯を伺いましたが、実際の曲作りはいつ頃から始まったんですか?
尾崎雄貴:まず「4匹のくじら」っていう曲を作り始めたときに、「あ、これアルバム作れちゃうな」と思って、そこから作り始めたので、「4匹のくじら」が最初って考えると去年の夏頃ですね。
岩井郁人:「4匹のくじら」ができ、このメンバーで楽曲制作するのが楽しいとなって、そこからめちゃくちゃ作りました。結局デモを含めて20〜30曲くらい作ったんじゃないかな?
雄貴:うん。ちょっとしたアイディアも含めるとそうだね。
――どんどん出来てくるっていう感じはやっぱりこの4人ならではでした?
雄貴:そうですね。僕もBBHFとwarbearをやっていたり、人に曲を提供したり、他にも書き続けているんですけど、やっぱりこの今のメンバーがバランスもそうだし……まあバランスっていうほど危ういものでもないんですけど、本当にとても頼りがいのある絆っていうものがあって。その上で音楽を作って、みんなで顔合わせてセッションするだけで日々の疲れがぶっ飛ぶくらい楽しいっていう。逆にね、疲れないっていうのはすごいなと。
岩井:肩の力を入れずナチュラルに、ただみんなで雑談する感じで曲がどんどんできてくるので、ありのままになれる空間だったのがびっくりしました。そうなるとは正直思ってなかったので。
――といいますと?
岩井:さあやるぞ!みたいな、始動一発目のオリジナルアルバムを作るっていう中で、もっと緊張感を持ってやる感じになるのかなと思ったら、全然そんなことなかったっていう(笑)。
雄貴:いわゆる、“作業”みたいな雰囲気ではなかったっていう感じですね。岩井くんとBBHFで『BBHF1 -南下する青年-』っていう曲数が多いアルバムを作った時は、納期に終われながらホワイトボードに曲を書いて、どこまで曲を録ったかって管理をしていたんですけど、今回は全然やっていなくて。割とふわっとしてたよね?
岩井:うん。
――普段は、制作の進捗を書いて進めていくわけですよね。それを全然やらなかったんですか?
雄貴:そうですね。ほぼやらなかったです。
――すごい(笑)。
雄貴:例えばこのアートワークは、『Bee and The Whales』というタイトルをイメージしてメンバーそれぞれ油絵を描こうとなり、みんなで集まれる日をまるっと使って画材を買いに行って。「画材たけえ!」と言いながら(笑)、大きいキャンバスを買って、みんなで描いたものになるんです。むしろそういうことに時間も使ってたりして、音楽を作るっていうところ以外でみんなの世界観を共有したり、楽しむことっていうのに時間を使ったなぁって思います。
――絵はどれぐらいのタイミングで描いたんですか?
雄貴:アルバムが残りあと2曲ぐらいになって、「そろそろ描き始めるか」って描き始めました。
岩井:この絵を描いて、アートワークを作ってから曲の見え方とか聴こえ方も変わってきたりしたんです。それがすごく面白いなぁって。自分で作った曲の見え方が180度までいかないけど、45度、90度ぐらい変わるタイミングが何度かあって。
雄貴:だよね。描いた絵を学校の展示物みたいに、スタジオの壁に貼って写真撮って。みんなで作業に使ってるメインのMacの壁紙をそれに変えた瞬間に「わーっ!」ってなって。「これはこういうアルバムになるんだ」っていうことが言葉にしなくてもみんなの頭の中に生まれて。あの瞬間めちゃくちゃ楽しかったなぁ。
――これは誰がどれを描いたっていうのは明かさないんですか?
雄貴:明かさず。みんなに想像していただきたいなと思います。
――絵を描くこと以外にも何かやってました?
雄貴:前回の取材でもちょっと話したと思うんですけど、映画をお互い見て、僕が「いいんだよね」って言った映画をメンバーが移動中の飛行機で見るとかもあったし、あと先日東京でとあるアーティストとセッションしたんです。アレンジを一緒にやって、一緒に演奏して映像を撮ったんですけど、それもこのアルバム制作の間に行われたことだし、「THE FIRST TAKE」へ出演したこともそうだし。制作しながら、メンバーも旅をしていたような、そういうことがあって楽しかったなぁっていう。それは絵とかにも出てるだろうし、俺らの中にはストーリーが実はあるというか。
尾崎雄貴
――制作し始めてから4人で経験していることがあるっていうことですね。岩井さんはいかがでしたか?
岩井:8ヶ月ちょっとかけてアルバムを制作すること自体が、実はなかなか今までできてこなかったことだったなと思ってて。Galileo Galileiのデビュー当時はとにかくシングルを作って、それを含めたアルバムを発表するっていう感じで。だから、とにかく自由で、スタジオで作るときは外の世界と遮断されたメンバーだけの空間、誰のディレクションも入らず、メンバーだけの意見でここまで長い時間をかけて作って。しかも価値観が変わるような体験が3度ほどあってっていうアルバム制作期間を体験できたことは、なかなかこれからの音楽人生でもないことだろうなと思うんです。かといって「この経験を超えられないかも?」っていう不安もなく、多分これがずっと続いていくんだろうなっていう楽しさがあるんですよね。
――アルバム発売前は先行シングルがリリースされたり、タイアップ曲が収録されていたりすることが多いですが、今回のアルバムは言わばゼロイチというか。
雄貴:そうですね。僕らが音楽を聴き始めた時期に、地元の北海道稚内市ではCDショップが一軒しかなくて。しかもいわゆる大手とかじゃなくて個人商店みたいな。そこに買いに行くか、GEOのようなレンタルショップで借りるかっていう感じで。やっぱりお小遣いをはたいて買ったり借りるので、どうしてもアルバムからスタートするんですよ。で、そのアルバムを買ってMDにダビングして友達で貸しあったりして、いろいろ音楽を知ってきたんですね。僕らはアルバムから入っているので、僕らはアルバムを聴きたいし、アルバムを書きたいっていうのが先行しちゃうんです。今回そういうアルバムを作れたと思っているし、僕らがあの頃手にしたアルバムと同じワクワクを自分で感じることができるアルバムになったなと思っています。
――早い段階でアルバムのタイトルが決まっていたそうですけど、どんなイメージがあったのでしょう。
雄貴:「4匹のくじら」を書く前からアルバムタイトルは『Bee and The Whales』って思っていたんですよ。結構僕、なんでもそうなんですけど、これからそのプロジェクトを通してどういう景色を見ることができるのかな?っていうことを考えた時に、まず一回そのイメージを考えるんです。今回、その中で思い浮かんだのは、大きい巨大な海を漂うでっかいくじらで、人間からしたらくじらもめちゃくちゃでかいけど、海はさらにでかいわけじゃないですか。だから海にとってはくじらはちっぽけで。音楽っていう流れが大きな海だとしたら、その海で育ったものがくじらで……っていうのが僕にとっての音楽に対するイメージにぴったりだったんです。くじらって一回陸地に上がったけどもう一回海に戻ってて、それもGalileo Galileiの一度終了させてからまた始動するっていう生き方に近いなぁっていうのがあって。
――なるほど。じゃあ蜂はなんなんでしょうね。
雄貴:Galileo Galileiが終了した当時と今の新しいGalileo Galileiの違いは、当時は自分のことしか考えてないし、他に守るべきものはないというか、ただただバンドをやっていたのでバンドのことしか考えてなかったんだけど、今はそれぞれ家族もできたし、音楽以外でも守るものが存在してて。それがむしろ今のGalileo Galileiの強みでもありエネルギー源でもあるんです。それがすごく面白いなと思ったので、まず僕らにとって大事なものは?って思ったときに4匹のくじらが海にいて、僕はミツバチが好きなので、蜂をこう見上げている、そういうポスターとか絵本の表紙みたいなものが思い浮かんで。本当にただのイメージっていうか直感の話なんですけど、そういうものを言葉にしたっていう感じですね。
岩井:雄貴は、そういう旗を立てることをいつもやってくれるんです。名前が付くことによっていろいろ散り散りになったイメージが一個にパッとつながるタイミングがあったので、雄貴が『Bee and The Whales』ってどうかな?ってみんなに言った時に急に色づき始めたというか、自分たちがやるべきことが急に一本の筋になったような気がしていて。なので、改めてこういうふうに雄貴が名前をつけること、タイトルをつけることってすごく力があることなんだなと思いました。
――休止前のオリジナルアルバム『Sea and The Darkness』とは海に対する感覚が違いますね。
雄貴:僕にとって海が音楽だとしたら、音楽ってやっぱり畏怖すべきものでもあるので、「こんなにでっかいんだな、この中でどうすればいいんだろう」と思う時もあるし、それはずっと続いていて。ただ『Sea and The Darkness』の時は僕自身が真っ暗闇の中にいてもがいていたので、それが今は全然違う状態だなと。今はむしろまぶしい感じになっているというか、ギラギラギラって輝きがいっぱいあって。『Sea and The Darkness』が夜だとすると、『Bee and The Whales』は昼間の太陽の光の中で焼け焦がされてるような感じがあるなと。
――アルバムから何曲かピックアップして、作曲やアレンジ、歌詞の着想を聞かせていただければと思います。まず「ヘイヘイ」。一曲目から二日酔いでグロッキーで……という内容なのですが、どのようにできた曲ですか?
雄貴:今回のアルバムの曲って、メンバーそれぞれが持ってきたアイディアをみんなで相談しながらできたものもあれば、僕が弾き語りで持ってた曲もあったり。あと、みんなでゼロからセッションで作ったらいきなり一日でほぼほぼ完成しちゃったっていう曲もあって。「ヘイヘイ」がそれで。「あれ、これめっちゃ一曲目じゃん」って言いながら作ってましたね。そこにどういう思いでっていうのはなくて、今のGalileo Galileiでやってること、これから作っていくものに対して感じてる喜びもそうだし、焦りもそうだし、若干頭のおかしい狂気も含めてみんなで発散し合った結果、「ヘイヘイ」みたいな曲になったのかなって思ってます。
岩井:さっき話にあったセッションが終わって札幌に戻ってきてから、本当はアルバム10曲入りぐらいにしようみたいな話があったんですけど、雄貴が急に「やっぱ14曲にしよう」ってなって。
雄貴:意欲が湧いちゃいました。「ファーザー」も、思い切りそのセッションから影響を受けて。ただセッションしただけじゃなくて対談をしたり、その人のMac開いてみんなでわいわいやってた時も、僕らの博士かよ?っていうぐらいめちゃくちゃ知っていて。すごくこの日を待ち望んでたんだっていうところで感極まってその人も泣いちゃって、僕らもそのタイミングで胸を打たれすぎて。だから「ファーザー」は、聴く人のことをちょっと考えちゃった曲ですね。基本的にはそういうことはしないんですけど、この曲のサウンドはその人に向けた感じがあります。
岩井郁人
――そしてリードとして「色彩」があります。今どういうものがポップか?って言いづらいんですけど、これはすばらしいポップチューンですね。
雄貴:ありがとうございます。「色彩」もみんなでパって作った方向だよね?
岩井:冒頭のギターとボーカルのサビのメロディだけあったのかな。それがデモとして雄貴のMacのデスクトップにあったんですけど、それを聴いた時に感動しちゃって。
雄貴:僕は最初気に入ってなくて。
岩井:そうだよね。ボツろうとしてたよね。
雄貴:ボツろうと思っていたやつを岩井くんが聴いて、「これめちゃくちゃいいから進めたほうがいいかも」ってみんなに言ってくれて、「あ、そうなんだ」って。信頼してるので、「よし、じゃあやろう」と思ってみんなでやったらめちゃくちゃいい曲になったっていう(笑)。
――違う角度から見たら発展させられる場合があるってことですね。
雄貴:そういうちっちゃいアイディアって、ノートの落書きのようなものなので、それを書き足したりしないってなっちゃったら、僕の中でふっとさめちゃうんです。「色彩」もさめてたところを岩井くんがキャッチしてくれて。で、これができてからアルバムの骨がブンって通ったような感覚が僕はありましたね。
――それは曲なのか、歌詞なのかサウンドなのか、なんでしょうね。
雄貴:サウンドもそうなんですけど、何かのジャンルに属した感じの曲じゃなくて。今のGalileo Galileiでジャンル感も含めて何も考えずにいい曲ができたっていうのが、アルバムの方向性を今回決めたなと思ってて。この雰囲気のアルバムになったのはもしかしたら「色彩」を岩井くんが拾ってくれたからだと僕は思ってます。
――この楽曲が形になってなかったとしたら、もしかしたらアバンギャルドなアルバムになってたかもしれない。
雄貴:なってたかもしれないし、参照点のある「これってあれだよね」みたいなジャンル感のあるものになってたかもしれないですね。それも好きなんですけど、ただ今回そうじゃないのは「色彩」の力かなという気がします。
――それと歌詞の内容が人生とも言えるし、恋とも言えるけど、そのことに支配されてしまうと自分がなくなるという歌詞で。Galileo Galileiの歌詞には多いと思いますが「色彩」もそういう感じがします。
雄貴:そうですね。人生でも恋でもいいし、例えば僕らの場合、さっき話した方に会えた時とか、会う前のドキドキしてる時、会った後の景色の色が変わったり、彩度がすごく高く見えるのって結構いろんな人が経験していることだと思うんですけど、でもあれってその人にしか見えないじゃないですか。やっぱりそれは落差も激しくて、輝いてたものがいきなりトーンが落ちて見えることにがっかりすることもあるし。でもそれってその人の勝手な見え方というか。だから本当盲目だなと思ってて。でもそれぐらい自分に影響を与えて自分を盲目にさせることができる相手だったり、夢やものっていうのはなかなか出会えるもんじゃないと思ってるので、そういうことを描きたかった曲ですね。でも、だからどうだっていうのは僕の歌詞では書いてないんですけど。
――そして先ほども出た「ファーザー」。いただいた資料の中の制作メモに岡崎さんの名前があったのが面白かったのですが、どのあたりが岡崎さんなのかな?と。
雄貴:この曲だけ僕と岡崎くんと和樹で作ったというか、その日単純に岩井くんが来れなくて。さっきの「ヘイヘイ」と一緒で、一日でバーって形ができた曲なんです。岡崎くんってGalileo Galileiのメンバーの中で言うと一番客観性がある立場なんです。だけど、あまり感情を表に出すほうじゃないから、気持ちが分からない時もあるんですけど、「ファーザー」を作った後は「これは多分、岡崎くん感動してるんだな」っていう珍しい表情をしていて。みんなでよく父親との関係の話をするんですけど、僕たちメンバーは父親に対する思いってそれぞれ違って、色んな特別な感情をみんな持ってるんですよ。岡崎くんももちろんそうで。この曲が岡崎くんの父親像の部分に何か引っかかるものがあったのかなって思った時に、ファンに音楽が伝わったのと同じ喜びを感じたんです。
――岡崎さんとオリジナル曲を作るっていうことは、今回からですもんね。
雄貴:確かにそうですね。
――そして「汐」はwarbearのデモにもありましたが、これをGalileo Galileiでやることにしたのはなぜですか?
雄貴:元々Galileo Galileiとして「汐」をアルバムに入れるつもりで当時曲を書いてたので、入れざるを得なかったですね。
――ライブでも印象的だったんですよね。毎回泣いてしまう。
雄貴:それこそ今回、POP ETCのクリス・チューにカリフォルニアのスタジオで遠隔でミックスを何曲やってもらって。「汐」もクリスがミックスしたんですけど、「汐」でクリスが泣いちゃったらしくて。僕のバックボーンを知ってるし、すずめちゃんのことも知っているので、それもあったとは思うんですけど。それまで遠隔っていうのもあって、送られてきてミックスの音が「もうちょっとどうにかできないかな」とお互いになっていたんですよ。で、クリスも「見えてなかった」って言っていて。で、その後クリスとミーティングをするタイミングがあったんですけど、「汐」以降、お互いにすごくミックスの精度が上がったんです。「汐」で分からなかったものがストンと落ちて、そこからはもう僕は苦労してないって言ってて。音楽で繋がった瞬間だなと思うし、クリスにとっては「汐」がこのアルバムのサウンドプロデュースの軸になったっていうことは言ってましたね。
岩井:BBHFのサウンドの方向性とGalileo Galileiのサウンドの方向性の違いが、自分たちの中では「こうだよね」ってあったと思うけど、クリスもそれを「汐」のミックスの段階でより感じ、自分たちの中でも「あ、本当にこういうことなんだ」っていうのがより明確に出てきたんだろうなって。それはこのアルバムだけじゃなくて、これ以降もそうなってくるんだろうなっていうことを感じて、Galileo Galileiのサウンド作りでも大きな転換点ではあるのかなと思いました。
――そして「愛なき世界」。これはくるりの曲のタイトルにもありますが、同時にくるりファンとしてもいろんなオマージュを感じました。
雄貴:ありがとうございます。僕はくるりが大好きで、メンバー監修のスコアも全部持っているくらい。スコアって高いじゃないですか。なので、当時和樹と一緒に買って、くるりのカバーをたくさんやっていて。くるりの「愛なき世界」もめちゃくちゃ好きな曲だったんです。岸田さんが電車好きだから僕も電車の曲を書きたいなって思ったんですけど、岸田さんは電車にすっごく詳しいから解像度が違うじゃないですか。だから僕は電車の曲は書けないなと思って(笑)、電車をテーマにした曲にしようと思って書きました。
――この曲は岸田さんは聴いたんですか?
雄貴:聴いていないですね。というか、つい最近やっと岸田さんに僕がくるりを好きだってことが伝わったらしくて。kotoriに、僕が「マジでくるり好きなんです。本人に会ったら何も言えなくなるぐらい好きなんです」って言ってたらkotoriのボーカルの人が岸田さんにそれ伝えてくれたらしくて。「めちゃくちゃ嬉しいって言ってましたよ」ってLINEが来て、「伝わっちゃったやべえ!」と(笑)。
――(笑)。そしてアルバムのタイトルチューンはタイトルチューンとしてできたんですか? それともできた曲にこのタイトルがぴったりだなと?
雄貴:これはアルバム制作の中で一番最後にできた曲で。この曲は岩井くんと作りたいなと思っていたので、岩井くんにエレピのコードを弾いてもらって、それにメロディーを考えながら、歌詞もいつも通り同時に考えながらという感じで書いた曲なんです。結構雰囲気も規模も違いますけど、アデルとかテイラー(・スウィフト)とか、いわゆる歌姫と呼ばれる人たちってプロデューサーが弾いてる鍵盤に対してメロを考えてってしてるじゃないですか。それに近いやり方で作っていきました。
――なるほど。
雄貴:僕は岩井くんとそれをやったときに、なんかこう自分のホームに夕暮れ時に帰っていくような絵を思い浮かべて。安心する場所に帰ってるはずなんだけど、戻ってるわけじゃなくて、ホームに帰ることによって未知の場所に進んでしまっているみたいな……そういうものを感じて。それは岩井くんと二人でやったことによって生まれた感情だと思うんですけど、すごく特別な曲です。
――岩井さんにはコードを弾いてとだけ伝えたんですか?
雄貴:そうですね。最初、フランク・オーシャンのエレピで弾き語っているような感じのコード感で、それにメロをつけてみようかなっていう話をしていました。あと一番曲がワッと変わったのが、岩井くんがオルガンを入れたところで曲の方向性がもうちょっと大人な方向になったというか、70年代っぽくなった感じがあって。そこからドラムも入れてみたいな。
――オルガンになったことにもよるんでしょうし、メロディーもそうかもしれないですけど、これはGalileo Galileiのソウルだなと思います。
雄貴:ありがとうございます。
――で、日本人だって強みがすごく感じられるところがあって、フランク・オーシャンとユーミンが混ざることがあるんだ……っていう感じもしました(笑)。
岩井:あははは!
雄貴:それ面白いなぁ(笑)。
――あとクレジットがないので、誰が何をどう作ったのかわからなかったり。
雄貴:基本的に曲が曲になっていくこの過程を誰か一人が進めたという曲はないよね?
岩井:うん。
雄貴:だから書きたくなかったんですよね。誰が考えたアイディアかみたいなものは。でも、一応CDには“アイディア持ってきたお父ちゃん”っていう表記があります(笑)。
岩井:“ファーザー”っていう(笑)。
雄貴:あと、今回油絵をやってみてすごく音楽に近いなと思いました。僕らがやってる音楽の方法に近いなと思ったのは、油絵って乾いちゃえば上から塗れちゃうんで、塗り足し塗り足しを続けて、形作っていくみたいな。それに削ることができるので、彫刻的な部分もあったり。音楽も一緒で、メンバーが塗り足して誰かのことを覆い隠しちゃったっていいし、その結果生まれるコントラストもあるし。今回そういうのがあったな。だから「油絵やってみようか」ってなったのは必然的だし、面白いなぁって。
Galileo Galilei
――さまざまな必然が重なったアルバムなんですね。アルバムリリース日からツアーも始まります。始動のタイミングで、既にアルバムの世界観を投影した舞台装置にしたいという展望がありましたね。
雄貴:そうですね。アルバムは『Bee and The Whales』っていうタイトルではあるんですけど、このアルバムを持ってツアーまわりますっていうアルバムでもないなと思っていて。いわゆる売りたいとか、広めたいっていうよりは……ちょっと言い方難しいですけど、僕らにとってすごく大事で、それを大事に思ってくれるファンが存在してくれてたらそれでいいなって思っていて。だからこそツアー自体はこの『Bee and The Whales』も含めてGalileo Galileiっていうバンドを表現するものにしたいなと思ってるんです。ただ、この油絵を描いたようにキャンバスに自分の思いとかを投影していくっていう行為自体メンバーが今とっても好きだからこそ、そういう演出を今回やろうと思っていて。結構上を見上げたりメンバーを見たりっていう感じになると思います。首が痛い感じで(笑)。
――最近のwarbareやBBHFのライブは照明での表現が印象的だったので、またちょっと違ってきそうですね。
雄貴:そうですね。Galileo Galileiの照明も、もちろん僕たちが信頼を置いている人にしてもらうんですけど。いわゆる映像投影だけじゃなくて、照明でその物体をどう見せるか?みたいな、照明で色を塗っていくっていうことを今回やれるかどうかっていう話を今してますね。もうセットリストも確定してて、BBHFもwarbareも通して初の試みなんですけど……僕たちってセットリストをツアーで変えることってほぼなかったんです。でも、今回あまりにもやりたい曲が多すぎて、割とパターンをたくさん作って各公演ごとに違うセットリストで挑もうと思ってるんです。
――それは全公演観たくなりますね。岩井さんはツアー前のマインドセットとしてはいかがですか?
岩井:もうすでに終わってほしくないなっていうのが(笑)。
雄貴:始まってないのに。「始まってほしくない」か(笑)。
岩井:月並みな言い方ですけど、僕たちにとって4人で作る音楽と来てくれるリスナーがいれば本当に生きていけると思ってるので。喜びやいろんな感情を全力で共有したいし、これからもそうなっていくだろうっていうことを、来てくれる人には感じてもらえると思います。あとは僕らのライブは音楽のコアなファン、音楽がすごく好きな人じゃなくてもきっと楽しんでもらえるライブでもあると思うのでライトな感覚で遊びに来て欲しいですね。とにかく楽しみです。やっとリアルに繋がれる、すごく楽しみです。
雄貴:あと、僕たちなりに各地方に合わせたセットリストになってるので、それも贈り物として受け取ってほしいなぁと思っています。

取材・文=石角友香

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