INTERVIEW / EASTA & NAOtheLAIZA出
会いは一本の電話から。世代を超えた
二人が刺激し合って生み出す、自由な
ヒップホップの形 出会いは一本の電
話から。世代を超えた二人が刺激し合
って生み出す、自由なヒップホップの

2021シーズンのABEMA『ラップスタア誕生』にて準優勝を果たし、その安定した高いラップ・スキルとユーモア溢れる性格で多くのヒップホップ・ファンの注目を集めた奈良出身のEASTA。放送後もKVGGLVとのユニット、SUMMER SNOWMANとしてYouTubeなどで積極的に活動を続け話題となり、その存在感を示し続けた。
そんな彼が、ジャパニーズマゲニーズやJAGGLAやEMI MARIA、NORIKIYO、般若など多くのアーティストを手がけるプロデューサー、NAOtheLAIZAと共に初めての作品「OSAKA LOVER」を発表したのが2022年11月。その組み合わせに驚いたリスナーも多いのではないだろうか。その後も2人はコンスタントにシングルをリリースし、今年3月にはShowyRENZOを客演に迎えた「笑って生きる」を発表。さらに同曲のリミックス・バージョンでは新たにFuji Taito、eydenも参加し、『ラップスタア誕生』ファンを大いに沸かせた。
今回は世代を超え、相性の良さと息の合ったコンビネーションをみせるEASTAとNAOtheLAIZAにインタビューを実施。2人の出会いから先述の「笑って生きる」やリミックスの制作背景、そして同楽曲も収録されたアルバム『T.U.R.N.』について語ってもらった。そこには制作意欲に溢れた2人のアーティストが互いの感性を刺激し、吸収し合うクリエイティブの姿があった。
Interview & Text by MINORI(https://www.instagram.com/minorigaga/)
Photo by Official
出会いは突然の連絡
――まず、おふたりの出会いについて教えて下さい。
NAOtheLAIZA:僕が世代の違う、若いラッパーとやりたいっていうのがずっとあって。それを考えたとき、『ラップスタア誕生』にEASTAっていうめちゃくちゃヤバいラッパー出てたよなっていうのが頭に浮かんで。大阪に先輩がいて、その先輩のジュエリー・ショップで働いてたのがEASTAの相方のKVGGLVだったので、その先輩に連絡してEASTAを繋いでもらって、自分から声をかけました。EASTAは自分の作品をセルフ・プロデュースで作っているので、僕らの作品は全部ダブル・ネームにしています。そこは住み分けをした方がいいかなというのがあって。
――EASTAさんにとっては突然連絡がきたということですか?
EASTA:そうです。NAOtheLAIZAさんの大阪の先輩からKVGGLV、俺、みたいな流れで連絡がきて。もちろんNAOtheLAIZAさんの存在は知ってたんで、マジかって。すごい嬉しかったっすね。ちょうどSUMMER SNOWMANのEP『サマスノ Everywhere』を作ってるときで、ソロは録りだめはしてたんですけどなかなか動けていなくて。ちょうどいい機会だと思って、すぐに取り掛かろうと思いました。
――NAOtheLAIZAさんは普段から『ラップスタア誕生』などで若手ラッパーをチェックされてるんですか?
NAOtheLAIZA:『ラップスタア誕生』は、実は1回目に関わってるんですよ。僕とDJ PMXさんとDJ WATARAIさん、I-DeAくんとかが一緒の回にビート提供で出演したので、そこからずっとチェックしてて。2021年シーズンはAKLOくんが審査員で出てて、僕はAKLOくんのライブDJもしてるので、それもあって特によくチェックしてた回でした。
――そのときに印象に残ったのがEASTAさんだったと。
NAOtheLAIZA:マジでおもろすぎて。今の若い子たちって2枚目はめっちゃいるじゃないですか。でも、彼は3枚目っていうか、そこにプラスして、サッカーで言ったらリフティング1000回できるタイプのラップの基礎体力があって。自分の作風としてもいろんなタイプの曲を作りたいと思っていたので、それに対応できるんちゃうかなって。
――最初からアルバムを作ろうとしていた?
EASTA:いや、違います(笑)。
NAOtheLAIZA:最初は4曲くらいパッと作って出そうと思ってたんですけど、作っていくうちにあれもこれも足りないな……みたいな。これだけ単発で出したときに、中途半端に見られそうやなっていうところもあって。それだったらアルバムにしようかっていう感じだったよね?
EASTA:そうっすね。そこはやっぱりNAOtheLAIZAさんのプロデューサーの目というか、俺のポテンシャルを見抜いてくれたんかな、みたいな(笑)。
一同:(笑)
――最初にできた曲はなんだったんですか?
EASTA:「OSAKA LOVER」ですね。確か俺が「アフロ・スウィングやりたい」って言ったんです。自分は元々レゲエをやってた時期もあって、アフロビーツもすごく好きだったんで、1曲目に作りました。それに、NAOtheLAIZAさんも大阪で活動されてた時期があって、自分も関西なので、大阪っぽさを出したいっていうのもあって。
――なるほど。レゲエもやられてたんですね。そこからはどうやって制作を進めていったんですか?
NAOtheLAIZA:最初に俺の中でEASTAに合うんじゃないかっていうストックを一応作って、大阪に行ったんだよね。
EASTA:そうですね。大阪の自分のスタジオに来てもらって。
NAOtheLAIZA:でもなんかハマりが悪かったんですよ(笑)。
EASTA:そのときめっちゃ声の調子が悪くて。あと結構硬くなってたかもしれないです。
NAOtheLAIZA:それもあるとは思うんだけど、なんか自分の見当違いだったかなと。自分の作ったビートにEASTAがあまりハマってなかったって感じですかね。それは全然EASTAがイケてないって意味じゃなくて、結構いぶし銀的なビートばかり用意してたんで。それ以降は2人で喋りながら一緒に作ったって感じですね。
EASTA:「OSAKA LOVER」を作ったときは、1回目に大阪で録ったときよりも自分の中でリラックスしてできた感じがあって。ちょっとずつNAOtheLAIZAさんに慣れてきたんで(笑)。だからよりいいのができたのかなと個人的には思いますね。
NAOtheLAIZA:(初対面のときも)そんなふうに全然見えなかったけどね。
EASTA:いやいや、初対面は結構緊張しましたね。緊張してても、やっぱり緊張を喋りで埋めてしまうタイプなんで。
ーーそれはいつ頃の話なんでしょうか。
NAOtheLAIZA:ちょうど1年前くらいなので、去年の4月ですね。そこから毎月1回は東京に来てもらって、5日から6日くらいスタジオに入るっていう感じで。アルバムはほぼ全曲東京で制作しました。
ビートから2人で作り上げた「笑って生きる」
――アルバムからの先行シングル「笑って生きる」についてもお聞きしたいのですが、まずこの曲のテーマはどのようにして決まったんですか?
EASTA:ビートを聴いて、自分的にフックが譜割り少なめな感じがよくて。それでいてキャッチーな一文がいいと思って色々考えた結果、《死ぬときまで笑って生きる》っていうラインが出てきて。あと、このテーマだったら結構みんな共感してくれるんじゃないかなと。
――ドープなビートにポジティブな内容のリリックだったのが新鮮に感じました。
EASTA:ありがとうございます。なんかドープにドープを乗せるとありきたりかなと個人的には思っていて。あと、あのビートは結構俺のわがままを詰め込んでもらったビートでもあって。
――ビートはEASTAさんの方からリクエストすることも多かったんですか?
NAOtheLAIZA:そうですね。特に「笑って生きる」に関しては2人で作ったっていう感覚があります。EASTAがスタジオに来たときに、その場で作ったんだよね。(EASTAが)別の曲のリリックを書いてるときに、シンプルでフロア・バンガーになるような曲を作りたいって話していて。それで一度ビートを組んで、その後にEASTAと「こうした方がおもろいんじゃないか?」って相談しながら調整していきました。
――EASTAさんは具体的にどんなリクエストをされるんですか?
NAOtheLAIZA:一番印象深いのは“音の抜き差し”ですかね。リミックスは後半俺が後で展開を作ったんですけど、オリジナルのときのヴァースの抜きとか、ハイハットの打ち方とか、そこら辺のアイディアがめっちゃおもろかったです。
EASTA:嬉しいっす。
NAOtheLAIZA:自分にはあまりない感覚というか。逆にそこで俺自身も成長できたかなって思う。それがこの制作のひとつの目的でもあったので、嬉しかったですね。客演も含め、まさに彼ら世代が聴いてきた音楽が反映された曲ですね。
EASTA:いや、逆にリミックスの後半では「やられた」って思いましたけどね。めっちゃカッコいい。やっぱりNAOtheLAIZAさん、ヤバいなって。
――オリジナルには客演としてShowyRENZOさんが参加しています。彼をフィーチャーするというアイディアはビートを聴いてすぐに浮かんだのでしょうか。
EASTA:ビートは“歪(いびつ)”だけど、それがむしろドープみたいな、いい意味で変な感じがして。そのビートに合いそうなのはRENZOくんだなって、すぐに思いつきましたね。自分と同世代のフレッシュなイケてるラッパーを呼びたかったし、同世代で今一番リスペクトしてるのがRENZOくんなんです。RENZOくんって完璧なんですよ。まずラップ上手いし、一緒にスタジオに入るとレコーディングの仕方とかすごく斬新で。歌詞を書かかずにフリースタイルで埋めていく、みたいな。それだけやったらまだしも、自分で1日3曲とかビートも作ってる。さらに男前でオシャレじゃないですか。ちょっとズルいっすよね(笑)。
――スタジオに一緒に入ってレコーディングされたのでしょうか。
NAOtheLAIZA:オリジナルは一緒に録りました。さっきも言っていたように、彼はフリースタイルを基に曲を構築していくスタイルなので、見ていてJay-Zかと思いました(笑)。最初はやっぱり作り方が斬新で、わけがわからないんですよ。「これで成り立つのか?」なみたいな。でも、最終的にめっちゃカッコよく仕上がって。彼の頭の中で描いてるものが徐々に構築されていく様子はすごく興味深かったですね。
EASTA:あとビートのアイディアもありましたよね。
NAOtheLAIZA:そうだね。ビートに関しては2人(EASTAとShowyRENZO)ともアイディアを出してくれて。フックのところでお金の「チャリーン」って音が入ってるんですけど、それはRENZOくんのアイディアで、素材まで持ってきてくれた(笑)。そういうおもしろいアイディアももらったし、それくらい気持ちも入っていたというか。
――先日リリースされた同曲のリミックスでは新たに『ラップスタア誕生』で共演したメンバーが参加されています。
EASTA:完成した曲を聴いた瞬間に、俺の中でリミックスに参加して欲しいメンバーがすぐ浮かんで。eydenとFuji Taitoに入ってもらったらおもしろいんじゃないかと思って、お願いしました。誘ってみたら意外とみんなOKしてくれて。ただ、その当時ルイ(CYBER RUI)だけ、うちのクルー(SUMMER SNOWMAN)のKVGGLVとNOTYPEが誘っていたのもあって、忙しくて呼べなかったんです。
――実際にリミックスを聴いてみていかがでしたか?
EASTA:単純にカッコいいと思ったのと、最近だとRed Bullの『RASEN』みたいな、勢いのあるマイクリレーってヒップポップの醍醐味のひとつだと思っていて。その中でも全員上手いし全員カッコいい、みたいなものってプレイヤー視点だと個人的にあまりないと思っていて。今回それが実現できたっていうのがヤバくて。みんな違う方面でカマしにいってるのが気持ちいいですね。
――EASTAさんにとって、『ラップスタア誕生』の同期はどのような存在ですか?
EASTA:普通に友達になれたっていうのと、みんなカッコいいので普段からすごく刺激される。特にeydenは同い年なんで、切磋琢磨というか、刺激を勝手にもらって頑張ろうって気持ちになるんですよね。
――特に『ラップスタア誕生』2021年シーズンの最終まで残ったメンバーは、各々の個性が違うところに向いてるというか、アベンジャーズ的な魅力がありますよね。
EASTA:誰がハルクや。
一同:(笑)。
――NAOtheLAIZAさんは彼らと一緒に制作して、いかがでしたか?
NAOtheLAIZA:EASTAと同じ感想になっちゃうけど、やっぱりシンプルに全員カッコいいっすね。同時に、世代によってラップやリリックに対しての考え方が本当に違うなと思いました。その中でもEASTAは一番ヒストリー的なラッパーっていうか。ブーンバップのやり方をしっかり吸収した上で、今のヒップホップに落とし込んでいるスタイルだなと感じました。習字で言ったらめっちゃ字綺麗みたいな感じですよね。今までの関西のスタイルも引き継ぎながら、今にアップデートしているような。
――先日、リミックス・バージョンのMVも公開されましたね。ダンサーの方もたくさん出てきましたが、あのアイディアはどうやって生まれたんですか?
EASTA:3Lightくんっていうディレクターが考えたんですよね。Cookie Plantっていうクルーのマネージャーをやりながら、映像ディレクターとしても活躍されている方で。RENZOくんとかみんなと一緒に北海道に行くタイミングがあって、そのときに出会ったんですけど、知り合いにダンサー界隈の友達が多くて、いっぱい呼んでくれました。カットなしの1テイクだったので、それがめっちゃ難しくて。でも、その分緊張感や迫力が出たと思います。
ターニング・ポイントとなるアルバム『T.U.R.N.』
――アルバムの話に移りたいのですが、制作は「OSAKA LOVER」を作り始めた1年ほど前から始まったんですよね。
EASTA:そうですね。でも本格的に動き始めたのは8月ぐらいですかね。
――制作はスムーズに進みましたか?
EASTA:それはもう、NAOtheLAIZAさんがケツを叩いてくれたので。
NAOtheLAIZA:聴いてくれたらわかると思うんですけど、その1年弱くらいの間に本人の中でいろんなことがあって。その生活や情景、考え方の変遷が強く反映されているので、思い入れのある作品ですね。
EASTA:アルバムのタイトルが『T.U.R.N.』っていうんですけど、自分の中でいろんなことが変わる時期だったんですよね。NAOtheLAIZAさんっていう尊敬するプロデューサーと一緒に作るっていうのもターニング・ポイントのひとつだし、自分の生活の中でもひとつ大きな転換点があって。それがアルバムを通してひとつのメタファーとして伝わればいいかなと。この『T.U.R.N.』にかけて、「こっから俺は痩せていくぞ!」っていうメッセージも伝わってほしいですね。
一同:(笑)。
――それがアルバムとしてのテーマになっているのでしょうか?
EASTA:テーマっていう感じではないんですけど、自然とそうなったっていう感じですね。意識して考えていたのは、いろんなサウンドに挑戦してみようっていうことですかね。
NAOtheLAIZA:そうそう。EASTAは何でもできるんで、それを強みにしたいっていうか。それは決して器用貧乏というわけではなくて、しっかりと個性もありつつ、幅広い表現方法を持っている。そうすると、こっちもいろんなビートが作れるじゃないですか。それが楽しくなってきて(笑)。すでにみんな知ってるとは思うんですけど、アルバムを通して「こいつ、めっちゃ上手いぞ」っていうのが伝わればいいなと。
EASTA:NAOtheLAIZAさんのディレクションもあって、自分でもいつも以上にスキルを見せられたかと思います。
――客演も幅広い世代の方が参加していますが、人選はどのように?
NAOtheLAIZA:JAGGLAとEMI MARIAは僕がオファーして、SIMONはEASTAが声をかけましたね。
EASTA:アルバムを作るちょっと前ぐらいに、それこそ『ラップスタア誕生』に出てたタイミングで、大阪でSIMONさんに会ったんです。その後、東京でも一度お会いできる機会があって、ぜひアルバムに参加してもらいたいと。SIMONさんは俺の中では青春というか、ガキの頃から超聴いていた方なんで。そういう人たちをお誘いするときに、やっぱりビートがNAOtheLAIZAさんだとお声がけしやすいんですよね。
EASTA:あと、JAGGLAさんもめちゃくちゃ憧れの存在で。NAOtheLAIZAさんはダブル・ネーム作品を発表するのが初めてらしいんですけど、俺の前に手がけたフルプロデュース作がJAGGLAさん(2016年発表の1stアルバム『蜃気楼』)だったらしいんです。そういう接点もあって、お誘いしました。
――JAGGLAさんが参加されている「Straight Up」にはNORIKIYOさんもフィーチャーされていますよね。
NAOtheLAIZA:これは奇跡的な出来事があって。あの曲のミックス段階で、自分のスタジオに別の曲のレコーディングでNORIKIYOくんが来てたんです。ちょうどそのとき、ミックスについてのLINEがJAGGLAから届いたので、合間に作業をしてたらNORIKIYOくんがそれを聴いて「これEASTAくんじゃないですか。僕、カッコいいなと思ってたアーティストのひとりなんですよ」って言ってくれて。「もしよかったら、フィーチャリングどうですか?」と言ってくれて。逆に「いいんですか?」って感じだったんだけど(笑)。それで急遽もう1ヴァース増えたっていう感じですね。
――すごい、それは本当に嬉しいことですね。EASTAさんは実際にNORIKIYOさんとお話したことはあるんですか?
EASTA:ないですね。今度初めてお会いする予定です。客演の件もNAOtheLAIZAさんからLINEでサラッと言われて、それを知った日、たぶん30分に1回くらい「……NORIKIYOはヤバい……」って呟いてましたね(笑)。画面上では何回も観てる人だし、本当に憧れのラッパーなので、めちゃくちゃ嬉しかったです。未だに信じられないです。
――アルバム制作において、NAOtheLAIZAさんがディレクションや指揮を取っていたのでしょうか?
NAOtheLAIZA:たぶん、フロウに関してはそこまで言わなかったですね。ただ、リリックについては結構口出したと思います。今回はダブル・ネーム作品なので、細かい部分も満足いくまで詰めたくて。
――リリックに関して、例えばどのようなことを伝えるのでしょう?
NAOtheLAIZA:自分的にフィールしないリリックってあるじゃないですか。内容というよりは表現の仕方。「これは共感できる」とか「ここは何言ってるかわからんから、もうちょっとわかりやすくしてほしい」とか。でも、こういう意見は逆にいい部分を消す可能性もあるので、慎重に詰めていきましたね。
EASTA:一回「いや、これはこのままでいかせてください」って言ったときもありましたよね。
NAOtheLAIZA:そう! そういった攻防を繰り広げていましたね。本当に対等な立場で作りました。
EASTA:NAOtheLAIZAさんは大先輩だけど、それでも自分のやりたいことは妥協したらあかんと思って、曲げれへんとこは言わせてもらいました。でも、そのリリックのディレクションとかも、自分の中で納得できないことがほとんどなくて。大抵は腑に落ちてしまうんですよね。なので、今回はめちゃくちゃ勉強させてもらったっていう感じです。
――NAOtheLAIZAさんは最初に若いラッパーと一緒に作りたかったとおっしゃっていましたが、そういった考えはこれまでも抱いてきたものなんですか?
NAOtheLAIZA:正直、今まではあんまりなかったんですよ。そこまで世代が違う子たちとやろうとは思わなかったんです。ただ、去年は自分の中でフラストレーションみたいなものが溜まっていて、何か新しいものを注入したいなっていう時期だったと思うんです。たぶん大阪の先輩に連絡したときも、酔っ払って電話したと思います(笑)。自分の中で表現したいものが溜まりに溜まった結果、EASTAとやりたいと考えた。結果、やっぱり1曲だけではどうしても表現しきれないと感じたので、アルバムを作ることになりました。
――実際にEASTAさんと共作して、新しいものを得ることができたという感覚はありますか?
NAOtheLAIZA:反省点もありますけど、得られたことは多かったですね。昨日も2人で音源を聴いて、とにかく内容が濃いなと思いました。
EASTA:個人的には思い出みたいなものが詰まってるんで、感慨深くもありますね。
NAOtheLAIZA:意外とお腹いっぱいになりましたね。テーマ的にも意味のある曲しかないと思いますし。
EASTAは長く続けるほど評価されるラッパー
――アルバムを作り終えた今、NAOtheLAIZAさんから見たEASTAさんの印象は変わりましたか?
NAOtheLAIZA:最初の印象とは全然違いますね。『ラップスタア誕生』だと本当に極一部分、表面的なところしか見えない。ただ、実際に本人と会って、言葉を交わしていくと、良くも悪くも全然違うなと感じる部分がいっぱいあって。でも、やっぱりラップがめちゃくちゃ上手いっていう根っこの部分はブレないですね。長く続ければ続けるほど評価されるラッパーだと思います。例えばあと10年経ったら、独自の立ち位置を確立してるんじゃないかなっていうのは思います。今後さらに色も出てくると思うので、純粋に楽しみですね。
――逆にEASTAさんはNAOtheLAIZAさんと一緒に制作をして、どういった印象を持ちましたか?
EASTA:俺、NAOtheLAIZAっていう名前は知ってたんすけど、顔とかは知らなかったんですよ。それで初めて会ったときに、意外と普通のおっちゃんなんやって(笑)。
NAOtheLAIZA:初めて聞いたわ(笑)。
EASTA:でも、普段関西のシーンで活動してると、NAOtheLAIZAさんがめちゃくちゃリスペクトされてて、偉大な人なんやなって思わされることが多くて。実際に共作してみて、プロフェッショナルやなっていう側面がたくさんあるし、自分はルーズなところがあるので見習いたいです。あとはやっぱり、シンプルに音がヤバいですね。NAOtheLAIZAさんにプロデュースやミックスをしてもらったら、もう他では満足できない体になってしまった(笑)。あと、常にいい作品を作りたいっていうマインドがあって、そこに関しては自分の意見を押し付けることもなく、懐深く受け入れてくれたので、アルバムも作っててすごい楽しかったです。
――最後に、おふたりの今後の展望を教えて下さい。
EASTA:アルバムをリリースして、そのプロモーションを頑張っていきたいですね。個人的にはツアーで全国を回りたいです。東京とかでもワンマンができたらいいですね。
――NAOtheLAIZAさんはアルバムをリリースして以降、また新しいことを始めたい気持ちなどはありますか?
NAOtheLAIZA:ちょうど今日ここに来る前に、「やっと終わった」っていう感じで一区切りついたんです。もちろんアルバムのプロモーションもがっつりやりたいし、EASTAの今後も応援します。新しいこととしては、それこそMASCHINE(Native Instruments)一台で作ってみたいなとか考えています。今回のアルバムはコード進行も凝ってたり、ビートのパターンもいっぱいあったりと本当に多彩なサウンドになったと思っていて。次は逆にパッドしか使わへんっていうのもアリなのかなと。元々MPCスタートなんで、もう一度そこに戻って、偶発的にカッコいいものが生まれる感覚というか、そういうことをまたやりたいと思いました。今回は自由に作れたから、次は敢えて制限を付けてみる。むしろそっちの方がヒップホップ的にはナチュラルなのかなとも思ったり。
EASTA:めちゃめちゃ渋いっすね。
NAOtheLAIZA:今回の制作でサンプリングの魅力みたいなものも再認識できたので、またフレッシュな作品を作れたら嬉しいですね。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://linkco.re/9pX9BsPm)
■NAOtheLAIZA: Twitter(https://twitter.com/naothelaiza) / Instagram(https://www.instagram.com/naothelaiza_jp/)
2021シーズンのABEMA『ラップスタア誕生』にて準優勝を果たし、その安定した高いラップ・スキルとユーモア溢れる性格で多くのヒップホップ・ファンの注目を集めた奈良出身のEASTA。放送後もKVGGLVとのユニット、SUMMER SNOWMANとしてYouTubeなどで積極的に活動を続け話題となり、その存在感を示し続けた。
そんな彼が、ジャパニーズマゲニーズやJAGGLAやEMI MARIA、NORIKIYO、般若など多くのアーティストを手がけるプロデューサー、NAOtheLAIZAと共に初めての作品「OSAKA LOVER」を発表したのが2022年11月。その組み合わせに驚いたリスナーも多いのではないだろうか。その後も2人はコンスタントにシングルをリリースし、今年3月にはShowyRENZOを客演に迎えた「笑って生きる」を発表。さらに同曲のリミックス・バージョンでは新たにFuji Taito、eydenも参加し、『ラップスタア誕生』ファンを大いに沸かせた。
今回は世代を超え、相性の良さと息の合ったコンビネーションをみせるEASTAとNAOtheLAIZAにインタビューを実施。2人の出会いから先述の「笑って生きる」やリミックスの制作背景、そして同楽曲も収録されたアルバム『T.U.R.N.』について語ってもらった。そこには制作意欲に溢れた2人のアーティストが互いの感性を刺激し、吸収し合うクリエイティブの姿があった。
Interview & Text by MINORI(https://www.instagram.com/minorigaga/)
Photo by Official
出会いは突然の連絡
――まず、おふたりの出会いについて教えて下さい。
NAOtheLAIZA:僕が世代の違う、若いラッパーとやりたいっていうのがずっとあって。それを考えたとき、『ラップスタア誕生』にEASTAっていうめちゃくちゃヤバいラッパー出てたよなっていうのが頭に浮かんで。大阪に先輩がいて、その先輩のジュエリー・ショップで働いてたのがEASTAの相方のKVGGLVだったので、その先輩に連絡してEASTAを繋いでもらって、自分から声をかけました。EASTAは自分の作品をセルフ・プロデュースで作っているので、僕らの作品は全部ダブル・ネームにしています。そこは住み分けをした方がいいかなというのがあって。
――EASTAさんにとっては突然連絡がきたということですか?
EASTA:そうです。NAOtheLAIZAさんの大阪の先輩からKVGGLV、俺、みたいな流れで連絡がきて。もちろんNAOtheLAIZAさんの存在は知ってたんで、マジかって。すごい嬉しかったっすね。ちょうどSUMMER SNOWMANのEP『サマスノ Everywhere』を作ってるときで、ソロは録りだめはしてたんですけどなかなか動けていなくて。ちょうどいい機会だと思って、すぐに取り掛かろうと思いました。
――NAOtheLAIZAさんは普段から『ラップスタア誕生』などで若手ラッパーをチェックされてるんですか?
NAOtheLAIZA:『ラップスタア誕生』は、実は1回目に関わってるんですよ。僕とDJ PMXさんとDJ WATARAIさん、I-DeAくんとかが一緒の回にビート提供で出演したので、そこからずっとチェックしてて。2021年シーズンはAKLOくんが審査員で出てて、僕はAKLOくんのライブDJもしてるので、それもあって特によくチェックしてた回でした。
――そのときに印象に残ったのがEASTAさんだったと。
NAOtheLAIZA:マジでおもろすぎて。今の若い子たちって2枚目はめっちゃいるじゃないですか。でも、彼は3枚目っていうか、そこにプラスして、サッカーで言ったらリフティング1000回できるタイプのラップの基礎体力があって。自分の作風としてもいろんなタイプの曲を作りたいと思っていたので、それに対応できるんちゃうかなって。
――最初からアルバムを作ろうとしていた?
EASTA:いや、違います(笑)。
NAOtheLAIZA:最初は4曲くらいパッと作って出そうと思ってたんですけど、作っていくうちにあれもこれも足りないな……みたいな。これだけ単発で出したときに、中途半端に見られそうやなっていうところもあって。それだったらアルバムにしようかっていう感じだったよね?
EASTA:そうっすね。そこはやっぱりNAOtheLAIZAさんのプロデューサーの目というか、俺のポテンシャルを見抜いてくれたんかな、みたいな(笑)。
一同:(笑)
――最初にできた曲はなんだったんですか?
EASTA:「OSAKA LOVER」ですね。確か俺が「アフロ・スウィングやりたい」って言ったんです。自分は元々レゲエをやってた時期もあって、アフロビーツもすごく好きだったんで、1曲目に作りました。それに、NAOtheLAIZAさんも大阪で活動されてた時期があって、自分も関西なので、大阪っぽさを出したいっていうのもあって。
――なるほど。レゲエもやられてたんですね。そこからはどうやって制作を進めていったんですか?
NAOtheLAIZA:最初に俺の中でEASTAに合うんじゃないかっていうストックを一応作って、大阪に行ったんだよね。
EASTA:そうですね。大阪の自分のスタジオに来てもらって。
NAOtheLAIZA:でもなんかハマりが悪かったんですよ(笑)。
EASTA:そのときめっちゃ声の調子が悪くて。あと結構硬くなってたかもしれないです。
NAOtheLAIZA:それもあるとは思うんだけど、なんか自分の見当違いだったかなと。自分の作ったビートにEASTAがあまりハマってなかったって感じですかね。それは全然EASTAがイケてないって意味じゃなくて、結構いぶし銀的なビートばかり用意してたんで。それ以降は2人で喋りながら一緒に作ったって感じですね。
EASTA:「OSAKA LOVER」を作ったときは、1回目に大阪で録ったときよりも自分の中でリラックスしてできた感じがあって。ちょっとずつNAOtheLAIZAさんに慣れてきたんで(笑)。だからよりいいのができたのかなと個人的には思いますね。
NAOtheLAIZA:(初対面のときも)そんなふうに全然見えなかったけどね。
EASTA:いやいや、初対面は結構緊張しましたね。緊張してても、やっぱり緊張を喋りで埋めてしまうタイプなんで。
ーーそれはいつ頃の話なんでしょうか。
NAOtheLAIZA:ちょうど1年前くらいなので、去年の4月ですね。そこから毎月1回は東京に来てもらって、5日から6日くらいスタジオに入るっていう感じで。アルバムはほぼ全曲東京で制作しました。
ビートから2人で作り上げた「笑って生きる」
――アルバムからの先行シングル「笑って生きる」についてもお聞きしたいのですが、まずこの曲のテーマはどのようにして決まったんですか?
EASTA:ビートを聴いて、自分的にフックが譜割り少なめな感じがよくて。それでいてキャッチーな一文がいいと思って色々考えた結果、《死ぬときまで笑って生きる》っていうラインが出てきて。あと、このテーマだったら結構みんな共感してくれるんじゃないかなと。
――ドープなビートにポジティブな内容のリリックだったのが新鮮に感じました。
EASTA:ありがとうございます。なんかドープにドープを乗せるとありきたりかなと個人的には思っていて。あと、あのビートは結構俺のわがままを詰め込んでもらったビートでもあって。
――ビートはEASTAさんの方からリクエストすることも多かったんですか?
NAOtheLAIZA:そうですね。特に「笑って生きる」に関しては2人で作ったっていう感覚があります。EASTAがスタジオに来たときに、その場で作ったんだよね。(EASTAが)別の曲のリリックを書いてるときに、シンプルでフロア・バンガーになるような曲を作りたいって話していて。それで一度ビートを組んで、その後にEASTAと「こうした方がおもろいんじゃないか?」って相談しながら調整していきました。
――EASTAさんは具体的にどんなリクエストをされるんですか?
NAOtheLAIZA:一番印象深いのは“音の抜き差し”ですかね。リミックスは後半俺が後で展開を作ったんですけど、オリジナルのときのヴァースの抜きとか、ハイハットの打ち方とか、そこら辺のアイディアがめっちゃおもろかったです。
EASTA:嬉しいっす。
NAOtheLAIZA:自分にはあまりない感覚というか。逆にそこで俺自身も成長できたかなって思う。それがこの制作のひとつの目的でもあったので、嬉しかったですね。客演も含め、まさに彼ら世代が聴いてきた音楽が反映された曲ですね。
EASTA:いや、逆にリミックスの後半では「やられた」って思いましたけどね。めっちゃカッコいい。やっぱりNAOtheLAIZAさん、ヤバいなって。
――オリジナルには客演としてShowyRENZOさんが参加しています。彼をフィーチャーするというアイディアはビートを聴いてすぐに浮かんだのでしょうか。
EASTA:ビートは“歪(いびつ)”だけど、それがむしろドープみたいな、いい意味で変な感じがして。そのビートに合いそうなのはRENZOくんだなって、すぐに思いつきましたね。自分と同世代のフレッシュなイケてるラッパーを呼びたかったし、同世代で今一番リスペクトしてるのがRENZOくんなんです。RENZOくんって完璧なんですよ。まずラップ上手いし、一緒にスタジオに入るとレコーディングの仕方とかすごく斬新で。歌詞を書かかずにフリースタイルで埋めていく、みたいな。それだけやったらまだしも、自分で1日3曲とかビートも作ってる。さらに男前でオシャレじゃないですか。ちょっとズルいっすよね(笑)。
――スタジオに一緒に入ってレコーディングされたのでしょうか。
NAOtheLAIZA:オリジナルは一緒に録りました。さっきも言っていたように、彼はフリースタイルを基に曲を構築していくスタイルなので、見ていてJay-Zかと思いました(笑)。最初はやっぱり作り方が斬新で、わけがわからないんですよ。「これで成り立つのか?」なみたいな。でも、最終的にめっちゃカッコよく仕上がって。彼の頭の中で描いてるものが徐々に構築されていく様子はすごく興味深かったですね。
EASTA:あとビートのアイディアもありましたよね。
NAOtheLAIZA:そうだね。ビートに関しては2人(EASTAとShowyRENZO)ともアイディアを出してくれて。フックのところでお金の「チャリーン」って音が入ってるんですけど、それはRENZOくんのアイディアで、素材まで持ってきてくれた(笑)。そういうおもしろいアイディアももらったし、それくらい気持ちも入っていたというか。
――先日リリースされた同曲のリミックスでは新たに『ラップスタア誕生』で共演したメンバーが参加されています。
EASTA:完成した曲を聴いた瞬間に、俺の中でリミックスに参加して欲しいメンバーがすぐ浮かんで。eydenとFuji Taitoに入ってもらったらおもしろいんじゃないかと思って、お願いしました。誘ってみたら意外とみんなOKしてくれて。ただ、その当時ルイ(CYBER RUI)だけ、うちのクルー(SUMMER SNOWMAN)のKVGGLVとNOTYPEが誘っていたのもあって、忙しくて呼べなかったんです。
――実際にリミックスを聴いてみていかがでしたか?
EASTA:単純にカッコいいと思ったのと、最近だとRed Bullの『RASEN』みたいな、勢いのあるマイクリレーってヒップポップの醍醐味のひとつだと思っていて。その中でも全員上手いし全員カッコいい、みたいなものってプレイヤー視点だと個人的にあまりないと思っていて。今回それが実現できたっていうのがヤバくて。みんな違う方面でカマしにいってるのが気持ちいいですね。
――EASTAさんにとって、『ラップスタア誕生』の同期はどのような存在ですか?
EASTA:普通に友達になれたっていうのと、みんなカッコいいので普段からすごく刺激される。特にeydenは同い年なんで、切磋琢磨というか、刺激を勝手にもらって頑張ろうって気持ちになるんですよね。
――特に『ラップスタア誕生』2021年シーズンの最終まで残ったメンバーは、各々の個性が違うところに向いてるというか、アベンジャーズ的な魅力がありますよね。
EASTA:誰がハルクや。
一同:(笑)。
――NAOtheLAIZAさんは彼らと一緒に制作して、いかがでしたか?
NAOtheLAIZA:EASTAと同じ感想になっちゃうけど、やっぱりシンプルに全員カッコいいっすね。同時に、世代によってラップやリリックに対しての考え方が本当に違うなと思いました。その中でもEASTAは一番ヒストリー的なラッパーっていうか。ブーンバップのやり方をしっかり吸収した上で、今のヒップホップに落とし込んでいるスタイルだなと感じました。習字で言ったらめっちゃ字綺麗みたいな感じですよね。今までの関西のスタイルも引き継ぎながら、今にアップデートしているような。
――先日、リミックス・バージョンのMVも公開されましたね。ダンサーの方もたくさん出てきましたが、あのアイディアはどうやって生まれたんですか?
EASTA:3Lightくんっていうディレクターが考えたんですよね。Cookie Plantっていうクルーのマネージャーをやりながら、映像ディレクターとしても活躍されている方で。RENZOくんとかみんなと一緒に北海道に行くタイミングがあって、そのときに出会ったんですけど、知り合いにダンサー界隈の友達が多くて、いっぱい呼んでくれました。カットなしの1テイクだったので、それがめっちゃ難しくて。でも、その分緊張感や迫力が出たと思います。
ターニング・ポイントとなるアルバム『T.U.R.N.』
――アルバムの話に移りたいのですが、制作は「OSAKA LOVER」を作り始めた1年ほど前から始まったんですよね。
EASTA:そうですね。でも本格的に動き始めたのは8月ぐらいですかね。
――制作はスムーズに進みましたか?
EASTA:それはもう、NAOtheLAIZAさんがケツを叩いてくれたので。
NAOtheLAIZA:聴いてくれたらわかると思うんですけど、その1年弱くらいの間に本人の中でいろんなことがあって。その生活や情景、考え方の変遷が強く反映されているので、思い入れのある作品ですね。
EASTA:アルバムのタイトルが『T.U.R.N.』っていうんですけど、自分の中でいろんなことが変わる時期だったんですよね。NAOtheLAIZAさんっていう尊敬するプロデューサーと一緒に作るっていうのもターニング・ポイントのひとつだし、自分の生活の中でもひとつ大きな転換点があって。それがアルバムを通してひとつのメタファーとして伝わればいいかなと。この『T.U.R.N.』にかけて、「こっから俺は痩せていくぞ!」っていうメッセージも伝わってほしいですね。
一同:(笑)。
――それがアルバムとしてのテーマになっているのでしょうか?
EASTA:テーマっていう感じではないんですけど、自然とそうなったっていう感じですね。意識して考えていたのは、いろんなサウンドに挑戦してみようっていうことですかね。
NAOtheLAIZA:そうそう。EASTAは何でもできるんで、それを強みにしたいっていうか。それは決して器用貧乏というわけではなくて、しっかりと個性もありつつ、幅広い表現方法を持っている。そうすると、こっちもいろんなビートが作れるじゃないですか。それが楽しくなってきて(笑)。すでにみんな知ってるとは思うんですけど、アルバムを通して「こいつ、めっちゃ上手いぞ」っていうのが伝わればいいなと。
EASTA:NAOtheLAIZAさんのディレクションもあって、自分でもいつも以上にスキルを見せられたかと思います。
――客演も幅広い世代の方が参加していますが、人選はどのように?
NAOtheLAIZA:JAGGLAとEMI MARIAは僕がオファーして、SIMONはEASTAが声をかけましたね。
EASTA:アルバムを作るちょっと前ぐらいに、それこそ『ラップスタア誕生』に出てたタイミングで、大阪でSIMONさんに会ったんです。その後、東京でも一度お会いできる機会があって、ぜひアルバムに参加してもらいたいと。SIMONさんは俺の中では青春というか、ガキの頃から超聴いていた方なんで。そういう人たちをお誘いするときに、やっぱりビートがNAOtheLAIZAさんだとお声がけしやすいんですよね。
EASTA:あと、JAGGLAさんもめちゃくちゃ憧れの存在で。NAOtheLAIZAさんはダブル・ネーム作品を発表するのが初めてらしいんですけど、俺の前に手がけたフルプロデュース作がJAGGLAさん(2016年発表の1stアルバム『蜃気楼』)だったらしいんです。そういう接点もあって、お誘いしました。
――JAGGLAさんが参加されている「Straight Up」にはNORIKIYOさんもフィーチャーされていますよね。
NAOtheLAIZA:これは奇跡的な出来事があって。あの曲のミックス段階で、自分のスタジオに別の曲のレコーディングでNORIKIYOくんが来てたんです。ちょうどそのとき、ミックスについてのLINEがJAGGLAから届いたので、合間に作業をしてたらNORIKIYOくんがそれを聴いて「これEASTAくんじゃないですか。僕、カッコいいなと思ってたアーティストのひとりなんですよ」って言ってくれて。「もしよかったら、フィーチャリングどうですか?」と言ってくれて。逆に「いいんですか?」って感じだったんだけど(笑)。それで急遽もう1ヴァース増えたっていう感じですね。
――すごい、それは本当に嬉しいことですね。EASTAさんは実際にNORIKIYOさんとお話したことはあるんですか?
EASTA:ないですね。今度初めてお会いする予定です。客演の件もNAOtheLAIZAさんからLINEでサラッと言われて、それを知った日、たぶん30分に1回くらい「……NORIKIYOはヤバい……」って呟いてましたね(笑)。画面上では何回も観てる人だし、本当に憧れのラッパーなので、めちゃくちゃ嬉しかったです。未だに信じられないです。
――アルバム制作において、NAOtheLAIZAさんがディレクションや指揮を取っていたのでしょうか?
NAOtheLAIZA:たぶん、フロウに関してはそこまで言わなかったですね。ただ、リリックについては結構口出したと思います。今回はダブル・ネーム作品なので、細かい部分も満足いくまで詰めたくて。
――リリックに関して、例えばどのようなことを伝えるのでしょう?
NAOtheLAIZA:自分的にフィールしないリリックってあるじゃないですか。内容というよりは表現の仕方。「これは共感できる」とか「ここは何言ってるかわからんから、もうちょっとわかりやすくしてほしい」とか。でも、こういう意見は逆にいい部分を消す可能性もあるので、慎重に詰めていきましたね。
EASTA:一回「いや、これはこのままでいかせてください」って言ったときもありましたよね。
NAOtheLAIZA:そう! そういった攻防を繰り広げていましたね。本当に対等な立場で作りました。
EASTA:NAOtheLAIZAさんは大先輩だけど、それでも自分のやりたいことは妥協したらあかんと思って、曲げれへんとこは言わせてもらいました。でも、そのリリックのディレクションとかも、自分の中で納得できないことがほとんどなくて。大抵は腑に落ちてしまうんですよね。なので、今回はめちゃくちゃ勉強させてもらったっていう感じです。
――NAOtheLAIZAさんは最初に若いラッパーと一緒に作りたかったとおっしゃっていましたが、そういった考えはこれまでも抱いてきたものなんですか?
NAOtheLAIZA:正直、今まではあんまりなかったんですよ。そこまで世代が違う子たちとやろうとは思わなかったんです。ただ、去年は自分の中でフラストレーションみたいなものが溜まっていて、何か新しいものを注入したいなっていう時期だったと思うんです。たぶん大阪の先輩に連絡したときも、酔っ払って電話したと思います(笑)。自分の中で表現したいものが溜まりに溜まった結果、EASTAとやりたいと考えた。結果、やっぱり1曲だけではどうしても表現しきれないと感じたので、アルバムを作ることになりました。
――実際にEASTAさんと共作して、新しいものを得ることができたという感覚はありますか?
NAOtheLAIZA:反省点もありますけど、得られたことは多かったですね。昨日も2人で音源を聴いて、とにかく内容が濃いなと思いました。
EASTA:個人的には思い出みたいなものが詰まってるんで、感慨深くもありますね。
NAOtheLAIZA:意外とお腹いっぱいになりましたね。テーマ的にも意味のある曲しかないと思いますし。
EASTAは長く続けるほど評価されるラッパー
――アルバムを作り終えた今、NAOtheLAIZAさんから見たEASTAさんの印象は変わりましたか?
NAOtheLAIZA:最初の印象とは全然違いますね。『ラップスタア誕生』だと本当に極一部分、表面的なところしか見えない。ただ、実際に本人と会って、言葉を交わしていくと、良くも悪くも全然違うなと感じる部分がいっぱいあって。でも、やっぱりラップがめちゃくちゃ上手いっていう根っこの部分はブレないですね。長く続ければ続けるほど評価されるラッパーだと思います。例えばあと10年経ったら、独自の立ち位置を確立してるんじゃないかなっていうのは思います。今後さらに色も出てくると思うので、純粋に楽しみですね。
――逆にEASTAさんはNAOtheLAIZAさんと一緒に制作をして、どういった印象を持ちましたか?
EASTA:俺、NAOtheLAIZAっていう名前は知ってたんすけど、顔とかは知らなかったんですよ。それで初めて会ったときに、意外と普通のおっちゃんなんやって(笑)。
NAOtheLAIZA:初めて聞いたわ(笑)。
EASTA:でも、普段関西のシーンで活動してると、NAOtheLAIZAさんがめちゃくちゃリスペクトされてて、偉大な人なんやなって思わされることが多くて。実際に共作してみて、プロフェッショナルやなっていう側面がたくさんあるし、自分はルーズなところがあるので見習いたいです。あとはやっぱり、シンプルに音がヤバいですね。NAOtheLAIZAさんにプロデュースやミックスをしてもらったら、もう他では満足できない体になってしまった(笑)。あと、常にいい作品を作りたいっていうマインドがあって、そこに関しては自分の意見を押し付けることもなく、懐深く受け入れてくれたので、アルバムも作っててすごい楽しかったです。
――最後に、おふたりの今後の展望を教えて下さい。
EASTA:アルバムをリリースして、そのプロモーションを頑張っていきたいですね。個人的にはツアーで全国を回りたいです。東京とかでもワンマンができたらいいですね。
――NAOtheLAIZAさんはアルバムをリリースして以降、また新しいことを始めたい気持ちなどはありますか?
NAOtheLAIZA:ちょうど今日ここに来る前に、「やっと終わった」っていう感じで一区切りついたんです。もちろんアルバムのプロモーションもがっつりやりたいし、EASTAの今後も応援します。新しいこととしては、それこそMASCHINE(Native Instruments)一台で作ってみたいなとか考えています。今回のアルバムはコード進行も凝ってたり、ビートのパターンもいっぱいあったりと本当に多彩なサウンドになったと思っていて。次は逆にパッドしか使わへんっていうのもアリなのかなと。元々MPCスタートなんで、もう一度そこに戻って、偶発的にカッコいいものが生まれる感覚というか、そういうことをまたやりたいと思いました。今回は自由に作れたから、次は敢えて制限を付けてみる。むしろそっちの方がヒップホップ的にはナチュラルなのかなとも思ったり。
EASTA:めちゃめちゃ渋いっすね。
NAOtheLAIZA:今回の制作でサンプリングの魅力みたいなものも再認識できたので、またフレッシュな作品を作れたら嬉しいですね。
【リリース情報】
■ 配信リンク(https://linkco.re/9pX9BsPm)

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