大阪フィルと共にメンデルスゾーン・
チクルスに挑む、音楽監督 尾高忠明
に、あんなコトやこんなコトを聞いて
みた!

大阪フィルハーモニー交響楽団が6月8日(木)より、音楽監督 尾高忠明の指揮で、メンデルスゾーンの交響曲全5曲を中心に、ヴァイオリンやピアノの協奏曲と序曲に集中的に取り組む『メンデルスゾーン・チクルス ~ メンデルスゾーンへの旅』を開催する。

尾高忠明は大阪フィルの音楽監督に就任以来、1年毎にベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキー、ドヴォルザークといった作曲家を採り上げ、昨年は個人ではなくフランス音楽全般をテーマにしたコンサートシリーズを企画してきた。
メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」や第4番「イタリア」は演奏会でプログラミングされる機会も多い曲だが、それ以外の3曲の交響曲は採り上げられる機会は少ない。このタイミングでメンデルスゾーンの作品に真っ向から取り組む意味を、尾高忠明に聞いてみた。
――今回、メンデルスゾーンをシリーズとして採り上げられたのは何故でしょうか。
大阪フィルの音楽監督に就任して5年が経過しました。この間ブルックナーやマーラー、エルガーなどを演奏して来ました。大阪フィルは音の大きいオーケストラというイメージを持たれていますが、その音のうねり、迫力などが高い評価をいただけて嬉しく思います。一方で大阪フィルがこの先、もう一つ上のステップに進むには、メンデルスゾーンに取り組む必要があると考えました。彼の音楽は純度が高く、音程や音色、アンサンブルにとても神経を使います。演奏するのは大変ですが、このシリーズが終わった時には、大阪フィルは一段上のステップに上がれると信じています。
音楽的に純度の高いメンデルスゾーンに取り組むことで、大阪フィルのレベルアップをはかります (c)飯島隆
――尾高さんはメンデルスゾーンの全ての交響曲を指揮されたことはあるのでしょうか。
第5番「宗教改革」以外はやったことがあります。やはり人気の高い順に、第4番「イタリア」と第3番「スコットランド」を採り上げる機会が多くなりますね。第4番はエポックメイキングな曲です。一切の無駄はありません。歌や踊りなどワクワクする要素が全部入っています。第3番はスコットランドの民謡風なところ、踊りのようなところがあって、オーケストラにとって難しい曲です。迸る音楽を感じます。

交響曲第5番「宗教改革」は今回初めて指揮します (c)飯島隆
――交響曲第2番「讃歌」だけは、オーケストラにソリストと合唱が加わります。
20歳の時にバッハ「マタイ受難曲」を蘇演しているメンデルスゾーンにとって、合唱と独唱付きの交響曲は、オラトリオ「聖パウロ」や「エリヤ」共々、大切なジャンルだったのではないでしょうか。
交響曲第2番「讃歌」に挑む大阪フィルハーモニー合唱団(ヴェルディ「レクイエム」より 23年4月 フェスティバルホール) (c)飯島隆

交響曲第2番「讃歌」のソリスト 吉田浩之(テノール) (c)Kyota Miyazono

交響曲第2番「讃歌」のソリスト 隠岐彩夏(ソプラノ)

交響曲第2番「讃歌」のソリスト 盛田麻央(ソプラノ) (c)FUKAYA Yoshinobu
――いくつかエピソードを披露いただけますか。 
実は、桐朋学園(高校)の実技はヴァイオリンで受験したのですが、試験ではメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(通称メンコン)を弾きました。その後、大阪フィルとはイツァーク・パールマンとメンコンを共演しましたが、素晴らしかった思い出があります。また、NHK交響楽団を初めて指揮したのが、桐朋学園で勉強したてのブラームス交響曲第2番と、メンデルスゾーンの序曲「フィンガルの洞窟」でした。メンデルスゾーンの曲にまつわる思い出は沢山あります。ヴォルフガング・サヴァリッシュ先生からは「イタリア」の第1楽章の出だしについて教わりました。この箇所がスムーズに出来るようになれば一人前だと言われ、何度も練習した事を覚えています。これはメンデルスゾーンのヴァイオリンコンチェルトや、モーツァルトの交響曲第40番などにも通じる部分です。「イタリア」といえば、スコティッシュ・チェンバー・オーケストラを指揮する機会があったのですが、日本のオーケストラとは全く違う音がして衝撃を受けました。純度が高い珠玉の音楽が忘れられず、小編成の紀尾井シンフォニエッタ東京(現在は紀尾井ホール室内管弦楽団)を作るキッカケになりました。
サヴァリッシュ先生からは多くの事を学びました (c)飯島隆

――とても興味深い話ですね。

ドイツの作曲家の多くはウィーンに行って成功するパターンが多いのですが、メンデルスゾーンはドイツにこだわり続け、ライプツィヒ音楽院を作り、自ら学院長に就任。ピアノ科と作曲科の教授にはシューマンを招聘しました。例えばオーストリアの作曲家​シューベルトの交響曲を、カール・ベームの指揮で聴くとして、ベルリン・フィルとウィーン・フィルの演奏では全然違うのが面白いです。また、同じくオーストリア出身のブルックナーを朝比奈隆​先生が指揮すると、ギュンター・ヴァントなどと同様にドイツっぽい演奏だと言われています。一方、私のブルックナーは、オーストリアっぽい演奏だと言われて来ました。
大阪フィルには朝比奈隆先生のDNAが生き続けています (c)飯島隆
――シリーズの1回目が6月に行われます。1回目の内容について、もう少し教えていただけますか。

第1回目は、人気のヴァイオリン協奏曲を、世界で活躍するヴァイオリニストのアラベラ・美歩・シュタインバッハーさんを招いてお届けします。序曲「静かな海と楽しい航海」は、ゲーテの2編の詩を音楽で表現した作品です。ふたりの年齢は60歳違いでしたが、親しく交流し、互いに影響を与えあったといいますからすごいですよね。交響曲第1番は、ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェン、ウェーバーなどの影響を受けて作曲されたことがよく分かる作品。15歳の頃に作曲された若書きの作品ですが、他と比べても遜色ない作品です。
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲のソリスト、アラベラ・美歩・シュタインバッハー (c)Peter Rigaud

――今回のメンデルスゾーンシリーズの聴きどころを教えてください。
メンデルスゾーンは僕にとって大事な作曲家でしたが、集客を考えると指揮する機会は多くなく、今回のように集中して指揮できるのはとても嬉しいです。オーケストラにとって大変勉強になりますし、ピュアな音楽体験の喜び、感動をお届けできればと思います。

メンデルスゾーン ピアノ協奏曲第1番のソリスト 務川慧悟 (c)Yuji Ueno

メンデルスゾーン ピアノ協奏曲第2番のソリスト 河村尚子 (c)Marco Borggreve
――最後にメッセージをお願いします。
交響曲全5曲を中心に、ヴァイオリン協奏曲と2曲のピアノ協奏曲に加え、「静かな海と楽しい航海」、「フィンガルの洞窟」、「ルイ・ブラス」という3曲の序曲を交えた形で1年近くかけて演奏できるのは、指揮者としてはたいへんありがたいことです。メンデルスゾーンが大好きな方はもちろん、あまり好きではないという方にも、新たな魅力をお伝えしたいと思っています。ぜひ、ザ・シンフォニーホールにメンデルスゾーンの音楽を聴きにお越しください。お待ちしています。

ザ・シンフォニーホールで、皆様のご来場をお待ちしています (c)飯島隆
取材・文・撮影=磯島浩彰

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着