P.I.N.A.「レッド・パージ!!!」歌詞の意味は?“赤狩り”がモチーフの難解ボカロ曲を徹底解釈!

P.I.N.A.「レッド・パージ!!!」歌詞の意味は?“赤狩り”がモチーフの難解ボカロ曲を徹底解釈!

P.I.N.A.「レッド・パージ!!!」歌
詞の意味は?“赤狩り”がモチーフの
難解ボカロ曲を徹底解釈!

幻想に憑かれたアカを撃て!

▲P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン-レッド・パージ!!!【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
落ち着いた曲調を得意とするボカロPのP.I.N.A.の自身初の殿堂入りボカロ曲『レッド・パージ!!!』は、小説家で中国文学者の高橋和巳の著書『散華』『邪宗門』『わが解体』をモチーフにしています。
そもそもレッド・パージとは、共産党員やその関係者を公職から追放することを指す言葉です。
1950年頃、当時日本を占領していた連合国最高司令官総司令部(GHQ)の総司令官ダグラス・マッカーサーの指示により、政府や企業が日本共産党員とその支持者の総計1万人以上に対して無法かつ不当な解雇を強制的に行ないました。
その背景には資本主義を代表するアメリカと共産主義を代表するソ連の対立があり、レッド・パージを行うことで共産主義陣営の工作を受けないようにする目的がありました。
そんな歴史をテーマにした神曲『レッド・パージ!!!』はどのような歌詞なのか、意味を考察していきましょう。
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
「アカ」は共産主義者や社会主義者を指す侮蔑的な表現で、レッド・パージは通称“赤狩り”とも呼ばれました。
「幻想に憑かれたアカを撃て!」という過激な表現から、この歌詞はレッド・パージを行った資本主義側の目線で綴られていると解釈できます。
「パラノイド」は被害妄想を持っていることを表すため、共産主義者を被害妄想的だと侮っている様子を感じさせます。
「桜」と言えば日本の国花で、花言葉は「精神美」です。
ちなみにソ連の国花はひまわりで花言葉は「憧れ」なので、理想を追う共産主義の考えとマッチしていると言えます。
精神美を謳っている日本も世迷言のような共産主義に飲み込まれていて、ソ連と「同じじゃないか」と嘆いているのかもしれません。
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
意思もなくただ共産主義を狂信する人々は、現実に反する中身のない論理を唱える異端者でしかない。
意気込んで誇らしげに主義を主張するものの、知識がないので周囲に流されやすく扇動に一喜一憂していて滑稽だと感じているようです。
資本主義の側からすれば、疑うこともせず幻想に向かって躊躇なく行進している姿がひどい愚行を犯しているようにしか思えません。
「前途昏くては、洋々たるものか」はどんなに理想を語っても未来が暗いと希望なんてないと彼らを馬鹿にしているフレーズのように感じられます。
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
1968年春にチェコスロヴァキアで民主化運動が進められた時期のことを“プラハの春”と呼びます。
桜は日本を象徴すると同時に、春に起きたこの出来事を表現してもいると解釈できそうです。
風が吹けば桜が散るように、この運動は周囲から影響を受ければ簡単に終わってしまう程度のものだと考え、民主化を謳う人たちを憐れんでいるのではないでしょうか。
君らに未来はない
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
「国有鉄道を転覆して喜んで」という歌詞は、1949年に相次いで起きた日本国有鉄道にまつわる三つの事件、通称“国鉄三大ミステリー事件”のことを表していると考察できます。
なかでも“松川事件”は何者かに故意にレールが外されて列車が脱線しており、確かに誰かが「国有鉄道を転覆して喜んで」いるという印象を受けます。
そしてこの曲の主人公はその犯人が共産主義者だと考えているのでしょう。
自分の考えではなく誰かが主張し始めた主義を笠に着て「大犯罪者」になるなんてとても悲しい末路だと嘆きます。
そしていくら平等を掲げて散華の精神を美化していても、彼らが嫌う資本主義の競争志向と変わりないじゃないかと言っているようにも思えます。
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
平等な理想社会を謳う共産主義は、幻想のような「安易な言葉、甘美な言葉」で猜疑心を奪っている。
その支持者たちを裏で操って笑っている人物がいるはずだとも考えているようです。
「Apoptosis」はあらかじめ予定されている細胞の死のことで、「細胞は阿呆か」と言っていることから共産主義を追い求める結果は破滅しかないのに抗おうとしないのはおかしいと訴えかけているのでしょう。
「Third-Internationally」は“第三インターナショナル”と言い換えると、1919年にロシア共産党を中心に結成された国際的な共産主義運動を指導する労働者組織・コミンテルンのことと理解できます。
主義を唱えることばかりを重視して、実際には実現するために行動を起こそうとしていないと問題提起しているように感じました。
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
この英語詞を訳して要約すると、「何かが美しく、私はそれらを虚勢を張った資産家たちが独占するのを発見した」「神はもう死んだ、身分階級は全て終わり、時代遅れだ。だから肥え過ぎた国会に火をつける」という歌詞だと解釈できます。
当時の状況を変えようとする強い意志を感じさせる言葉です。
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
ここでは、いつまでもその理想論を通そうとするのには無理があることに気づいているんだろうと彼らを諭しているような雰囲気です。
「大統領は女装が趣味」というフレーズは、ロシア革命の指導者のひとりであったアレクサンドル・ケレンスキーのことを思い起こさせます。
単なる趣味を引き合いに出してまで「君らに未来はない」と断言している点は強引にも思えますが、おそらく当時はこのような見方をする傾向が強かったのでしょう。
どんなに学歴が高かろうと掲げる理念が魅力的だろうと、周囲と違う考えを持つ少数派は淘汰されてしまうのです。
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
「無縁桜まで夏が来た!」というフレーズは、夏の始まりというよりも春の終わりを強調していると捉えられます。
プラハの春は8月にソ連・東欧軍の介入により弾圧されたため、彼らの儚い夢が潰えたことを象徴していると思われます。
誰彼構わず自分の理想を語っていた人々は、プラハの春の終わりとともに強制的に何も言えなくなりました。
まことこの世は解体せらるべきよ
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
「Government」は政府や支配を指す単語です。
「奸智」はよこしまな知恵のことを意味するため、これは主人公が自分は人々のよこしまな考えを見抜く者だと声高に宣言してレッド・パージによる支配を行っている場面だと考察しました。
しかし「表面を繕っている 薄氷の上に立っている」という表現から、自分の存在の危うさを感じているようにも思えます。
つまりこの曲ではレッド・パージを行った資本主義者が幻想を語る共産主義者を嘲笑う一方で、自分の行いこそ正義だと盲目的に信じている資本主義者への皮肉も込められているのではないでしょうか。
絶対的な正義はない、特定の主張を盲目的に信じることは危険だというメッセージが見えてきますね。
レッド・パージ!!! 歌詞 「P.I.N.A. feat. 鏡音リン,鏡音レン」
https://utaten.com/lyric/iz16082480
この歌詞はこれまでの主人公の考えとは異なる印象を受けるので、もしかしたらレッド・パージを受けた側の人の言葉なのかもしれません。
そのように考えると、自分たちの理想を薄っぺらいと嘲笑っている人たちのことを「薄ら冷えた世界」と表現していると解釈できます。
そしてレッド・パージという実力行使によって「美しき思い出たち」は潰されてしまったと嘆いているのでしょう。
「僕が間違っていた、転向したって言え」という命令は、実際に執拗な取り調べによって思想転向の強要が行われていたことを表していると思われます。
しかし「夢を見てはいけないよ、と捻ねたあなたがなぜここにいるの?」と言っていることから、かつて共産主義を否定していた人が自分と同じく排除された側にいることに気づいたようです。
毒を飲み込めばそこで終わりですが、薬という希望を持っている限り緩やかに堕ちていくだけです。
周囲に批判されようと自分の主張は曲げず、理想を追い求めている間はその結果がどんなに悪くても幸せということでしょうか。
また「まことこの世は解体せらるべきよ」のフレーズは、現代で言えば「この世は本当に解体されるべきだ」と言い換えられるでしょう。
自分の考えを認めない世の中なんて解体するべきだという平等の理念と矛盾した過激な思想が垣間見えます。
正反対の主張を持ってぶつかり合う両者の行き着く先が同じ思考であることは、正義と悪が表裏一体だということを示しているように思えます。
作り込まれたMVも要チェック!
P.I.N.A.の『レッド・パージ!!!』の歌詞を考察すると、史実を丁寧に取り上げ当時の人の気持ちを汲み取って描いた作品だと感じられました。
レッド・パージ自体は70年以上前の出来事ですが、自己顕示欲が強い現代の人々と通じるところがあり他人事とは思えませんね。
さらにMVにも史実と歌詞を結びつける要素が詰まっているので、ぜひ隅々までチェックしてみてください!

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