SUIREN『Sui彩の景色』
- #18 抗体反応 -
2020年7月より活動を開始した“水彩画のように淡く儚い音を描くユニット”SUIRENのヴォーカルSuiが、ヴォーカリストSuiになるまでのエピソードを描くコラム連載。Suiを彩るエピソード、モノ、景色をフィルムカメラで切り取った写真に乗せてお届けします。
文・撮影:Sui
小堀…高校入学後に結成したバンドのベーシスト。かなりベースが巧い。
土田…同じ高校のドラマー。同じ中学出身だがドラムが叩ける事は当時知らなかった。
高校内でメンバーが見つからなかった為他校のバンドに加入し活動していたが、江崎の構想する新バンド結成の為にSuiと江崎を引き合わせる。
江崎…他校のバンドマン。他校のバンドでメインギターのパートを担当していたが自らがやりたい音楽性のバンドを構想しSui達と共に新バンド結成。
大野…中学時代文化祭で共にライブをしたバンドメンバー。別の高校に進学し現在は土田と共にバンドを組んでいる。
ある日の昼下がり。
集合団地の一角に生い茂る雑草地を眺めていると、そこに似つかわしくない花が咲いている事に気が付いた。
右往無象の草花の中に、一輪の桃色の薔薇が気高く背筋を伸ばしている。
「お前はどうして、そんな所にたった1人でポツンと咲いているんだい?」
桃色の薔薇は何も応えてくれない。
何も応えてはくれないが、その薔薇は真っ直ぐ僕を見つめ返している様な気がした。
何故かこの薔薇の境遇を他人事と思えず、フィルムカメラを手に取りシャッターを切る。
異質な物が紛れ込むと途端に何の変哲もない、何処にでもある景色が、その異物を中心として神秘的なものに観えてくる。
この世界は異物を嫌う。
異物が混入すればそれを排除しようと免疫機能が働くからだ。
それが自然の摂理なのだろう。
だからこそ、異物が異物としてそこに存在し続けているだけで美しく見えるのかもしれない。
拒絶されようとも。
そこに在る。
それはとても強く美しいことだ。
土田…同じ高校のドラマー。同じ中学出身だがドラムが叩ける事は当時知らなかった。
高校内でメンバーが見つからなかった為他校のバンドに加入し活動していたが、江崎の構想する新バンド結成の為にSuiと江崎を引き合わせる。
江崎…他校のバンドマン。他校のバンドでメインギターのパートを担当していたが自らがやりたい音楽性のバンドを構想しSui達と共に新バンド結成。
大野…中学時代文化祭で共にライブをしたバンドメンバー。別の高校に進学し現在は土田と共にバンドを組んでいる。
ある日の昼下がり。
集合団地の一角に生い茂る雑草地を眺めていると、そこに似つかわしくない花が咲いている事に気が付いた。
右往無象の草花の中に、一輪の桃色の薔薇が気高く背筋を伸ばしている。
「お前はどうして、そんな所にたった1人でポツンと咲いているんだい?」
桃色の薔薇は何も応えてくれない。
何も応えてはくれないが、その薔薇は真っ直ぐ僕を見つめ返している様な気がした。
何故かこの薔薇の境遇を他人事と思えず、フィルムカメラを手に取りシャッターを切る。
異質な物が紛れ込むと途端に何の変哲もない、何処にでもある景色が、その異物を中心として神秘的なものに観えてくる。
この世界は異物を嫌う。
異物が混入すればそれを排除しようと免疫機能が働くからだ。
それが自然の摂理なのだろう。
だからこそ、異物が異物としてそこに存在し続けているだけで美しく見えるのかもしれない。
拒絶されようとも。
そこに在る。
それはとても強く美しいことだ。
土田からの電話を受けてから1か月程経っただろうか。
僕らはとあるライブ会場にいた。
高校生バンド大会。
出場するのに年齢制限のある有名な大会が幾つかあり、その中の一つに僕達もエントリーする事になった。
深夜のテレビやラジオで高校生ミュージシャンを取り上げる番組もあり、名のある大会のファイナルに進出すると、大手レコード会社から声がかかって、その2〜3年後にはデビューしてしまうアーティストもいる程夢のある大会だった。
僕等が参加する大会は、音源審査の一次選考があり、各地方毎に行われるライブ審査の二次選考、そこを通過すると東京のスタジオに招かれ審査員の前で演奏するセミファイナルがあり、更に勝ち進むと2000〜3000人キャパのライブハウスで行われるファイナル(全国大会決勝)に進出出来るという内容で、僕らは一次選考の音源審査を無事通過して2次選考のライブ審査に進出する事になった。
今まさに、そのライブ審査の会場にいる。
この地域の2次選考の会場は地元にいくつかあるライブハウスの一つだった。
1次審査を通過した同世代のバンドマンが押し込められたさほど大きくない会場の中は機材と人でごった返しになっていた。
普段のライブとは違う独特な緊張感がフロア全体を覆っている。
当然楽屋には人や荷物も入りきらないので、フロアにバンド毎に固まって待機していた。
辺りを見渡すと何人か見知った顔もいる。
その中に中学時代にバンドを組んでいた大野を見つけて、なんだか少し嬉しくなった。
大野もこちらに気付いて声をかけてくれ、僕と同じように元バンドメンバーである江崎や土田もそこに加わった。
話していると会場の張り詰めた空気が少し和らいでいく気がした。
談笑しながら時間が過ぎるのを待っていると、進行役の大人がマイクを握り全体に向けて今日の進行手順を説明してくれた。
予め提示されていた出演順や演奏時間等が改めて説明され、東京のセミファイナルに進出出来るのはこの出演バンドの中からグランプリを受賞した1バンドのみである事も伝えられた。
この会場にいる全員が真剣な眼差しで説明を聞いている。
持ち時間は転換込みで10分程度の時間しか与えられない。
その為、前のバンドが演奏を終えたら直ぐにセッティングをしてサウンドチェックを始めなければならない。
そういった諸々の準備を考えると演奏出来るのはせいぜい1曲だろう。
時間も無いということで、説明や審査員の紹介挨拶等もそこそこに、早速1バンド目の名前が呼ばれてセッティングが始まった。
次のバンドも呼ばれ機材を持って袖で待機しているように伝えられる。
そして、あっという間に2次選考のライブ審査が幕を開けた。
転換込み10分のステージというのは本当に一瞬の出来事だ。
簡単なサウンドチェックをしながら司会進行がバンドの紹介文を読み上げ、準備が出来たら合図を送る。
実際の演奏時間は3〜4分程度。
そのたった数分で自分達の全てをステージに置いていかなければならない。
1バンド目の演奏を終え機材を片付けると直ぐに次のバンドが準備を始める。
先程の工程を繰り返して、2バンド目…3バンド目…と思い思いのパフォーマンスをぶつけ、着々と審査は進行していく。
超絶ギターソロを弾くハードロックバンドや今時の王道Jロックバンド、ガールズバンド。
全てのバンドにしっかりとした個性や強みがあって、一次選考を勝ち上がってきただけの説得力を感じさせる内容だった。
だが、不思議と落ち着いている自分がいた。
初めてライブをした日から今日までに沢山のライブをしてきた。
そして、今のバンドメンバー達とこの日の為に入念なリハーサルをして準備をしてきた。
むしろ、一次選考の音源審査の方が心配なくらいだった。
僕らはライブバンドだ。
その自負があった。
2つ前のバンドの演奏が終わると、呼び出され楽器や機材を持って袖に待機させられる。
前のバンドの演奏中にボードの中のエフェクターのツマミをある程度普段の設定通りにしておき、配線も綺麗に整えておく。
ギターのチューニングを済ませ、エレキギターのジャックにケーブルを予め挿し、エフェクターボードの1番右端に設置したBOSSのチューナーのインプットにケーブルの反対側の端子を挿しこんでおく。
コンプレッサー、歪み、イコライザーを経由してアウト側にもケーブルを挿しておき、後はアンプ
に繋ぐだけという状態でスタンバイした。
前のバンドが終わると直ぐにギターとボードをセッティングし、僕がよく使っていたアンプのJC-120にケーブルを突っ込んで、アンプのツマミも普段通りに一旦設定して音を鳴らした。
僕らはとあるライブ会場にいた。
高校生バンド大会。
出場するのに年齢制限のある有名な大会が幾つかあり、その中の一つに僕達もエントリーする事になった。
深夜のテレビやラジオで高校生ミュージシャンを取り上げる番組もあり、名のある大会のファイナルに進出すると、大手レコード会社から声がかかって、その2〜3年後にはデビューしてしまうアーティストもいる程夢のある大会だった。
僕等が参加する大会は、音源審査の一次選考があり、各地方毎に行われるライブ審査の二次選考、そこを通過すると東京のスタジオに招かれ審査員の前で演奏するセミファイナルがあり、更に勝ち進むと2000〜3000人キャパのライブハウスで行われるファイナル(全国大会決勝)に進出出来るという内容で、僕らは一次選考の音源審査を無事通過して2次選考のライブ審査に進出する事になった。
今まさに、そのライブ審査の会場にいる。
この地域の2次選考の会場は地元にいくつかあるライブハウスの一つだった。
1次審査を通過した同世代のバンドマンが押し込められたさほど大きくない会場の中は機材と人でごった返しになっていた。
普段のライブとは違う独特な緊張感がフロア全体を覆っている。
当然楽屋には人や荷物も入りきらないので、フロアにバンド毎に固まって待機していた。
辺りを見渡すと何人か見知った顔もいる。
その中に中学時代にバンドを組んでいた大野を見つけて、なんだか少し嬉しくなった。
大野もこちらに気付いて声をかけてくれ、僕と同じように元バンドメンバーである江崎や土田もそこに加わった。
話していると会場の張り詰めた空気が少し和らいでいく気がした。
談笑しながら時間が過ぎるのを待っていると、進行役の大人がマイクを握り全体に向けて今日の進行手順を説明してくれた。
予め提示されていた出演順や演奏時間等が改めて説明され、東京のセミファイナルに進出出来るのはこの出演バンドの中からグランプリを受賞した1バンドのみである事も伝えられた。
この会場にいる全員が真剣な眼差しで説明を聞いている。
持ち時間は転換込みで10分程度の時間しか与えられない。
その為、前のバンドが演奏を終えたら直ぐにセッティングをしてサウンドチェックを始めなければならない。
そういった諸々の準備を考えると演奏出来るのはせいぜい1曲だろう。
時間も無いということで、説明や審査員の紹介挨拶等もそこそこに、早速1バンド目の名前が呼ばれてセッティングが始まった。
次のバンドも呼ばれ機材を持って袖で待機しているように伝えられる。
そして、あっという間に2次選考のライブ審査が幕を開けた。
転換込み10分のステージというのは本当に一瞬の出来事だ。
簡単なサウンドチェックをしながら司会進行がバンドの紹介文を読み上げ、準備が出来たら合図を送る。
実際の演奏時間は3〜4分程度。
そのたった数分で自分達の全てをステージに置いていかなければならない。
1バンド目の演奏を終え機材を片付けると直ぐに次のバンドが準備を始める。
先程の工程を繰り返して、2バンド目…3バンド目…と思い思いのパフォーマンスをぶつけ、着々と審査は進行していく。
超絶ギターソロを弾くハードロックバンドや今時の王道Jロックバンド、ガールズバンド。
全てのバンドにしっかりとした個性や強みがあって、一次選考を勝ち上がってきただけの説得力を感じさせる内容だった。
だが、不思議と落ち着いている自分がいた。
初めてライブをした日から今日までに沢山のライブをしてきた。
そして、今のバンドメンバー達とこの日の為に入念なリハーサルをして準備をしてきた。
むしろ、一次選考の音源審査の方が心配なくらいだった。
僕らはライブバンドだ。
その自負があった。
2つ前のバンドの演奏が終わると、呼び出され楽器や機材を持って袖に待機させられる。
前のバンドの演奏中にボードの中のエフェクターのツマミをある程度普段の設定通りにしておき、配線も綺麗に整えておく。
ギターのチューニングを済ませ、エレキギターのジャックにケーブルを予め挿し、エフェクターボードの1番右端に設置したBOSSのチューナーのインプットにケーブルの反対側の端子を挿しこんでおく。
コンプレッサー、歪み、イコライザーを経由してアウト側にもケーブルを挿しておき、後はアンプ
に繋ぐだけという状態でスタンバイした。
前のバンドが終わると直ぐにギターとボードをセッティングし、僕がよく使っていたアンプのJC-120にケーブルを突っ込んで、アンプのツマミも普段通りに一旦設定して音を鳴らした。
基本的には大体ドラムの聞こえ方次第だ。
それによって少しバランスを変えるくらいで、
ドラムと自分の音が聴こえれば最悪なんとかなる。
この持ち時間では音作りはある程度妥協が必要な事は分かっていた。
全員が演奏に支障がないバランスを作れたら、それを僕に伝えるという手筈になっていた。
土田、小堀、江崎と順番に確認しOKが出た所で、進行役に手を挙げて合図を送る。
「準備が整ったようです!それでは始めて頂きましょう!」
バンド名を呼ばれ、一言二言で簡単な自己紹介をする。
そして、曲ふりからの土田のカウントで雪崩れ込むようにイントロのコードを掻き鳴らす。
江崎のギターリフが聴こえる。
この会場に蔓延った閉塞感を切り裂きたかった。
いや、もしかしたら自分自身の漠然とした未来への不安と恐れを切り裂きたかったのかもしれない。
僕は必死に叫んだ。
この三分数十秒の間に、持てる全てを出し尽くして、最後の一音まで絞り出すんだ。
僕達は音の波の中を駆け抜けた。
…。
「…第二次選考〇〇地方エリアの栄えあるグランプリは!エントリーナンバー……!」
僕達の番号。
僕達のバンドの名前がライブハウスに響き渡った。
メンバー全員がステージに呼ばれ、賞状を受け取る。
「〇〇地方エリアの代表として、ファイナル進出を賭けたセミファイナル!東京のスタジオ審査に駒を進めます…!」
照明の光と拍手の音。
嬉しくなかったといえば嘘になる。
でも、ここはまだ僕にとって通過点だった。
そこを無事通過できた事にホッとしていた。
次は47都道府県の代表が東京のスタジオに集まり審査され、ファイナルに勝ち進んだ十組程があの憧れのステージに立てる。
そこから見る景色は一体どんな風に見えるのだろうか。
数日経ったある日、窓口となっていた土田の家に、東京行きの新幹線指定席のチケットが送られてきたと連絡があった。
初めてのレコーディングの時と同じで、あの日が嘘みたいにいつもの日常が流れていた。
日本史の授業中、机に突っ伏して居眠りをしていると、先生に授業の後残るように言われた。
「お前らは居眠りばっかりしよって。これだから軽音部は…!」
小堀も土田も居眠りばかりしている事をこの時に知った。
「学生の本分は勉強だろうが!」
ご指摘はご尤もなのだが、学生の本分が勉強かどうかという点について僕はあまりピンときていなかった。
「サッカー部のあいつらを見習え!」
あいつらが貴方の前で良い子にしているのは、貴方がサッカー部の顧問だからですよ。
心の中でそう呟いた。
「文武両道。部活も勉強も頑張っているというのにお前らときたらどっちも中途半端で…!」
「俺は少なくとも授業で起きていられないくらい、毎日夜遅くまで曲を聴いて曲を書いて歌詞を書いてギターを弾いてます。」
先生はポカンとした表情で、だからなんだ?という顔で呆れていた。
「県大会を優勝してインターハイに出るなら、あいつらを見習いますけどね。」
そう、口にでかけて止めた。
そういう物差しの話ではないからだ。
そもそも一つの音楽の大会で勝ち上がる事と、スポーツ競技の県大会を優勝する事の意味合いは全く違う事を僕は理解していた。
音楽の勝敗というのはそういう所で決まるものじゃない。
まだ、僕は何にも勝ってない。
ただ、我が高校のサッカー部を見習おうと思えない事は事実だけど。
学生の本分とは学ぶ事にある。
そういう意味で僕は充分に学んでいるつもりだった。
この小さな社会の理不尽も、夢を追う苦しさも、現実も。
音楽というフィルターを通してではあるが、沢山沢山学んできた。
僕の人生において。
音楽は必要不可欠なものになっていた。
だから、最も優先順位の高いものが音楽だった。
それだけの話だ。
僕は愚か者なのかもしれない。
或いは異物だったのかもしれない。
先生の怒鳴り声は続いていた。
僕は背筋を伸ばして先生の頭部の向こう側、遠い何処か一点を見つめていた。
東京が待ち遠しかった。
P.S
そんな高校時代から時は過ぎ、2023年。
我々SUIREN初のアコースティック企画
Naked Note 01〜合縁奇縁〜
本当は2月開催だったところ延期となり、紆余曲折を経てとうとう先日の5/12に無事開催する事が出来ました。
本来2月に予定していた全く同じ会場とメンバーで実現できた今回のライブは、関係各所が動いて下さって実現できた奇跡のような1日でした。
あの日あの場所にいた全ての皆様。
本当にありがとうございました。
しかし、延期となった事で来れなくなってしまった方もいると思います。
改めて本当にごめんなさい。
でも、必ずまた会えます。
そして、会いに行きます。
だから、もう少し待っていて下さい。
2023.6.6 Rebirth
SUIRENはまたここから新しく生まれ変わります。
根幹は変わらないけどね。
だから、安心して楽しみにしていて下さい。
故に今回ライブに来れなかったという方も尚のこと、楽しみにしていて下さい。
そして、ライブの中でお知らせしましたが改めて
2023年7月12日(水)
Digital Single「夢中病 (feat. Lezel)」をリリースする事が決定しました!
久しぶりのfeatです。
パリピ孔明の歌の人と
キングダムの歌の人がコラボします。
お楽しみに。
写真はとある撮影の風景。
それによって少しバランスを変えるくらいで、
ドラムと自分の音が聴こえれば最悪なんとかなる。
この持ち時間では音作りはある程度妥協が必要な事は分かっていた。
全員が演奏に支障がないバランスを作れたら、それを僕に伝えるという手筈になっていた。
土田、小堀、江崎と順番に確認しOKが出た所で、進行役に手を挙げて合図を送る。
「準備が整ったようです!それでは始めて頂きましょう!」
バンド名を呼ばれ、一言二言で簡単な自己紹介をする。
そして、曲ふりからの土田のカウントで雪崩れ込むようにイントロのコードを掻き鳴らす。
江崎のギターリフが聴こえる。
この会場に蔓延った閉塞感を切り裂きたかった。
いや、もしかしたら自分自身の漠然とした未来への不安と恐れを切り裂きたかったのかもしれない。
僕は必死に叫んだ。
この三分数十秒の間に、持てる全てを出し尽くして、最後の一音まで絞り出すんだ。
僕達は音の波の中を駆け抜けた。
…。
「…第二次選考〇〇地方エリアの栄えあるグランプリは!エントリーナンバー……!」
僕達の番号。
僕達のバンドの名前がライブハウスに響き渡った。
メンバー全員がステージに呼ばれ、賞状を受け取る。
「〇〇地方エリアの代表として、ファイナル進出を賭けたセミファイナル!東京のスタジオ審査に駒を進めます…!」
照明の光と拍手の音。
嬉しくなかったといえば嘘になる。
でも、ここはまだ僕にとって通過点だった。
そこを無事通過できた事にホッとしていた。
次は47都道府県の代表が東京のスタジオに集まり審査され、ファイナルに勝ち進んだ十組程があの憧れのステージに立てる。
そこから見る景色は一体どんな風に見えるのだろうか。
数日経ったある日、窓口となっていた土田の家に、東京行きの新幹線指定席のチケットが送られてきたと連絡があった。
初めてのレコーディングの時と同じで、あの日が嘘みたいにいつもの日常が流れていた。
日本史の授業中、机に突っ伏して居眠りをしていると、先生に授業の後残るように言われた。
「お前らは居眠りばっかりしよって。これだから軽音部は…!」
小堀も土田も居眠りばかりしている事をこの時に知った。
「学生の本分は勉強だろうが!」
ご指摘はご尤もなのだが、学生の本分が勉強かどうかという点について僕はあまりピンときていなかった。
「サッカー部のあいつらを見習え!」
あいつらが貴方の前で良い子にしているのは、貴方がサッカー部の顧問だからですよ。
心の中でそう呟いた。
「文武両道。部活も勉強も頑張っているというのにお前らときたらどっちも中途半端で…!」
「俺は少なくとも授業で起きていられないくらい、毎日夜遅くまで曲を聴いて曲を書いて歌詞を書いてギターを弾いてます。」
先生はポカンとした表情で、だからなんだ?という顔で呆れていた。
「県大会を優勝してインターハイに出るなら、あいつらを見習いますけどね。」
そう、口にでかけて止めた。
そういう物差しの話ではないからだ。
そもそも一つの音楽の大会で勝ち上がる事と、スポーツ競技の県大会を優勝する事の意味合いは全く違う事を僕は理解していた。
音楽の勝敗というのはそういう所で決まるものじゃない。
まだ、僕は何にも勝ってない。
ただ、我が高校のサッカー部を見習おうと思えない事は事実だけど。
学生の本分とは学ぶ事にある。
そういう意味で僕は充分に学んでいるつもりだった。
この小さな社会の理不尽も、夢を追う苦しさも、現実も。
音楽というフィルターを通してではあるが、沢山沢山学んできた。
僕の人生において。
音楽は必要不可欠なものになっていた。
だから、最も優先順位の高いものが音楽だった。
それだけの話だ。
僕は愚か者なのかもしれない。
或いは異物だったのかもしれない。
先生の怒鳴り声は続いていた。
僕は背筋を伸ばして先生の頭部の向こう側、遠い何処か一点を見つめていた。
東京が待ち遠しかった。
P.S
そんな高校時代から時は過ぎ、2023年。
我々SUIREN初のアコースティック企画
Naked Note 01〜合縁奇縁〜
本当は2月開催だったところ延期となり、紆余曲折を経てとうとう先日の5/12に無事開催する事が出来ました。
本来2月に予定していた全く同じ会場とメンバーで実現できた今回のライブは、関係各所が動いて下さって実現できた奇跡のような1日でした。
あの日あの場所にいた全ての皆様。
本当にありがとうございました。
しかし、延期となった事で来れなくなってしまった方もいると思います。
改めて本当にごめんなさい。
でも、必ずまた会えます。
そして、会いに行きます。
だから、もう少し待っていて下さい。
2023.6.6 Rebirth
SUIRENはまたここから新しく生まれ変わります。
根幹は変わらないけどね。
だから、安心して楽しみにしていて下さい。
故に今回ライブに来れなかったという方も尚のこと、楽しみにしていて下さい。
そして、ライブの中でお知らせしましたが改めて
2023年7月12日(水)
Digital Single「夢中病 (feat. Lezel)」をリリースする事が決定しました!
久しぶりのfeatです。
パリピ孔明の歌の人と
キングダムの歌の人がコラボします。
お楽しみに。
写真はとある撮影の風景。
【連載】SUIREN / 『Sui彩の景色』一覧ページ
https://bit.ly/3s4CFC3
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